カイチョーが秘密を開示してきた。
この度めでたく選挙権を手に入れました。これで私も大人の仲間入りですね。酒は飲めませんが。
「そういうわけだから、明日からセミナーの業務に参加してもらうわ」
「はぁ!?」
ピカピカの新品の端末を差し出しながらリオはそう言う。位置情報が探られないようにするために前の端末は起動できなくなったため、新しい物を用意してくれたのだ。
「待て、私の立場分かってるのか!?そっちから見た私の立ち位置も!さっきもそうだが、信用する要素がないだろ!?」
「それを考慮した上でよ。無駄に外部と接触させてトキなんかについての情報を漏らされる方がまずいし、近くに待機させられる戦力も欲しいわ」
「トキの仕事だろうそれは……!」
トキとCPUを交えてテレビゲームの
「偽名と学籍も用意しておいたわ。明日からはこの名前を使ってちょうだい」
そう言われて渡された学生証を見れば、
というか頭が痛い。なんか、前周のリオはもっと警戒心が強かった気がするんだが……
「あなたが償いをしたいと言うのなら、まずは私の信頼に応えなさい」
「……分かったよ。やれるだけやる。あんたの期待を裏切らないよう努めるさ」
そう言ってリオの腕を掴みながら立ち上がる。……訂正。立ちあがろうとした。
「何をしようとしているんですか。逃げないでください」
「
「あなたが仕掛けた勝負でしょう。逃げるんですか?」
「………………」
「スラ?」
「……やるぞ。やってやるぞ。リオ先輩、見ていてくれ!」
「いや仕事が」
「止めるなリオ先輩!漢には退いてはいけない時があるんだ……!」
「だから仕事が……」
トキの横に座り直し、コントローラーを持つ。
画面ではCPUが動ききり、私の番ということを示すダイスが表示されている。
そうして、賽を投げた。まあ、どうとでもなるなるだろう。
ちなみに1位はCOM2だった。
リオは仕事に遅れた。
私は……6は出なかった、とだけ言っておこう。
「一昨日から色々と話して、今日から正式にセミナーの手伝いをしてもらうことになったわ」
「上廻スラ改め、
少し遅れる形でセミナーに到着した私達は、そういった形で紹介された。無論、何も聞かされていないユウカとノアは目を見開いて驚いている。
私はまだ皺が無いセミナーの真っ黒なスーツに袖を通し、堂々と、それでいて少し背中を丸めながら立っていた。
「一応、会長の方でお部屋は用意していただけることになったのですが……流石にそれは忍びないので、こうしてお手伝いをすることになったんです」
「機密を含むものに触らせるつもりは無いから安心していいわ。近くに置いておけるから、ユウカとしても安心でしょう?」
「それは、そうですけど……」
ユウカは続く言葉が出ずに言い淀む。納得してもらえるように、言葉を続かせていく。ノアは、一度様子見に入ったようだ。
「大丈夫です。一度気持ちを纏めるために、何もしないよりも何かをやっていたいので……」
そう言ってしまえば、一度納得したように頷いてくれた。それでも肩に手を置いて、無理はしないでと言ってくれる。傷だらけの心にその言葉が沁みて、やけに傷んだ。
そういうことで、とりあえず応急的に用意された簡易的なデスクに座る。書類をいくつか抱えて、ユウカがこちらに来た。
「とりあえず各部活動の嘆願書を分けてもらっていいかしら?緊急性の高いものと低いもの、通す必要が無いもので分けてもらえると助かるわ」
「ユウカちゃん、まだなんの部活があって何をしているのか分からないのにそれはそれは少し無理がありませんか」
「あー、言われてみるとそうね。じゃあ、今日は一日各部活を見て回ってきてちょうだい。リストは……」
「こちらです。地図は端末の方に送っておきます。何かわからないことがあったらいつでも連絡してくださいね」
「あ……はい。わかりました。それでは失礼します」
そうして私は快く送り出された。しかしどこにどの部活があるか、何をしているかというのは、大まかに把握している。
……とはいえ、それも2年前の話だ。知識との擦り合わせという意味でも、悪くはないだろう。
アビドスとは正反対の近未来的な景色が私を迎え入れる。前日までもそうだったはずだが、そこまで余裕が無かったのか、と勝手に自分で納得する。
さて、どこから行こうか。……ヴェリタス以外だな。未公認でここに記載されていない部活動に行ったら怪しまれてしまう。
まずはエンジニア部だろうか。そう思い足を動かし始める。周りの生徒は見慣れない生徒ということで少し興味を持っているようだが、学生証とそれに貼り付けられている“Seminar”の文字を見ると、面倒は避けたいのかそそくさと離れていった。
「それじゃあ、行ってみますか」
「待ちなさい!」
エンジニア部の部室は向こうだったか。規模が大きいからか、結構大きいものが割り当てられていたはずだ。
「ですから待ちなさいって!!」
「うごぁ!?」
急に後ろから何かがぶつかってきた。痛い。べたりと地面にへたり込む。
「ど、どちら様で……」
「……この、天才清楚系病弱美少女ハッカーの鈴のような声を忘れてしまいましたか?」
腰をさすりながら立ち上がれば、純白の衣に身を包む、か細く、それでいて力強い少女が車椅子に鎮座している。
「ああ、お久しぶりですヒマリ先輩……イタタ……」
「ええ。お久しぶりですねスラさん。2年もどこをほっつき歩いていたのかと思えばノコノコと……」
「一応偽名を使っているので、今はこの名前でお願いします……」
差し出した学生証をまじまじと見つめ、眉をひそめるだけで不服の意を示すヒマリ先輩。
「それで?今になって戻ってきた理由は?」
「進学した学校に居にくくなって、ユウカさんを頼ったらなんかこうなりました」
その言葉を聞いて、もう一度学生証を睨みつけた。そこに記された“Seminar”の文字を見つけて顔が皺くちゃになる。皺の数だけ見れば、老婆のようであった。
「……あの女の差し金でしたか……!」
「あ、あはは……お世話になった恩があるのに何も返せていませんから……」
「そう気にすることではないと思いますが……まあ、あなたらしいですね。何か不満があれば、いつでもこちらに来ていただいて構いませんよ。チヒロにも言い含めておきますから」
「ありがとうございます。では、また会うことがあればどこかで」
車椅子を走らせて去っていった方をぼーっと見遣る。そうか、彼女は、知らないのか。私がどこまで醜悪な化け物になってしまったのか。
……やめよう。この罪悪感からは逃げられないのだから。この場で取り繕おうとしても無駄だ。
さっきよりも一段重くなった脚を叩いて校内を歩く。目指すはエンジニア部。その部室だ。
「すみませーん」
「うん……?」
金属製の大きい扉を潜って部室……というより工房だな。そう言えばこういう場所だった。そこに到着した。
今ここから見えるのは1人だけ。部長の白石ウタハだった。こちらに気づいた彼女はゴーグルを外しながら近づいてくる。油とススが染みついたグローブで顎をさすりながら首から提げた生徒証を見つめる。
「セミナー……?新しい役員かい?」
「はい。最近入ったばっかりで、各部活の請願書の振り分けをすることになったのですが……知らない部も多いので、各部活に顔を出しておこうと」
「なるほど。ところでそれは……随分珍しいものを使っているね。もしかして、ユウカが言っていたのが君か?」
次に目線が向いたのは左腕。私のグレネード散布機がある場所だ。なぜユウカが、という疑問に思考を巡らせると、一つ可能性が見えてきた。
「もしかしてシャーレのあの時のことですかね?」
「ああ、確かにそんなことを言っていたな」
合点がいった。こういう言い方をしている辺り、本名が伝わってないだけ良かった、と考えるべきだろうか。
「元々は他校の子だろう?私としてはそんな子がセミナーに入ったのかが気になるんだが……」
「元いた学校で色々とあってユウカさんを頼ったら、あれよあれよとこんなことに……」
苦笑いを浮かべる。あまりこういうことを匂わせるのは良くないのだけれど、この人は信用できる。一応納得はしたようで、話題を切り上げて急に後ろを見た。
「……ところで、うちの機械、触るかい?さっきから視線が向こう側を見ているからもしかしてと思ったんだが……」
「え……あー……」
言い淀む。とはいえ、ここでエンジニア部の機械が使えるのはありがたい。
「後日また伺うので、その時にでも……」
「いいさ、いつでも歓迎するよ。それを見れば工作が好きなのは分かるからね」
からからと気分がよさそうに笑って控えめに手を振ってくる。そんなことをしていると、向こうから声が聞こえてきた。
「っと……呼ばれてしまったね。それじゃあ、またどこかで」
「はい。これからよろしくお願いしますね」
早歩きで向こうに消えていく。私はお返しのように手を控えめに振りながら過去の憧れを背に歩き出した。
手を腰の後ろに回して歩く。さて、次はどこへ行こうか。
各部活の嘆願書が届きそうなところは一通り見て回った。どれも見たことがある顔ぶれだった。誰もがはじめましてと言ってくれた。
それにどこか悲しくなりながら、廊下を歩く。着慣れない服に苦心しながら、履き慣れた靴を鳴らして歩く。今向かっている場所が、行くべき最後の部活だ。
“GAME DEVELOPMENT DEPARTMENT”
ご立派なロゴマークを抱えて部室を賜っているこの部活は、今後のファクターとなる子達だ。挨拶しておくに越したことはない。
……騒がしい電子音が中から聞こえるのは無視しよう。
扉を叩いて声をかける。
「すみませーん」
……騒がしい電子音が中から聞こえなくなったのも無視しよう。
「なんでなんで!?まだ期限はきてないよね!?」
「落ち着いてお姉ちゃん。ユウカの声とは違うから、多分別の人だと思う。多分別件……とりあえず開けてくるね」
「ちょっと待ってー!?」
どたばたと騒がしい足音が止むと同時に、勢いよく扉が開かれる。ドアを開いた彼女と、その服を掴む彼女。ミドリとモモイ顔を出した。
「えーっと、はじめまして?」
「セミ……」
「ナー……?」
学生証に驚かれるのは今日だけで何度目だろうか。
「も、もしかして、廃部の通達を……?」
「え、なにそれ知らん……初耳……」
一応それらしく驚いて部活動のリストを開く。
……本当に書いてある。恐らくユウカがこの端末に送る前に急いで書き入れたのだろう。赤いペンで“甘やかさない!”と注意書きがされている。甘いのは君もだろうに。
「と、とにかく!まだ大丈夫なんだよね!?」
「ええ、まあ、はい。セミナーで業務を始めたばかりなので、色々な部活を見て回っているんです。知らない部活も多いので」
「よ、よかったぁ……」
……彼女達は本当に大丈夫なのだろうか。まあ、どうにかしてくれるだろう。
「万一また用事ができたらくるので、よろしくお願いします。それでは」
話を切り上げてセミナーに戻る。一通り見たい場所は回った。今日はこれでいいだろう。明日からは本格的に仕事が始まる。気合い、入れなきゃな。
上手く口調も変えて、他人に見えるようにしなければ。
「どういうつもりですか!?」
「……なんの話?」
「すっとぼけないでください!スラの話です!」
高層ビル最上階。黒と白の2つの少女が相対する。
「私は彼女の望む通りにしただけよ。そして、彼女を信じただけ」
「何を言って」
黒は、立ち上がり白に背を向ける。窓に反射しても変わらぬ鉄仮面と目を合わせることになった。
「知っておいた方がいいことと、知らなくてもいいことがあるのよ。少なくとも、スラに2年前に起きたことは……知るべきではない」
「……そうですか。偏屈なあなたらしいですね」
「それと訂正よ。今の彼女は上廻スラではなく、棟方ライム……彼女の、名前よ」
深い夜、2色の影が混ざり合う。一つの
棟方ライム
上廻スラの新しい名前。それは自分を表すものであり、自分だけを表すものだった。この世界に来て、初めてのものだった。それが、私には心地良かった。
明星ヒマリ
何も知らないし、何も知らされなかった。リオに利用されているように思ったため抗議に向かったものの、リオの言い方に違和感を覚え一旦引き下がった。しかし、違和感を覚える。どうしてあの女は、そこまで秘匿しようとするのだろうか。
いやな姑みたいな人だ、と思った。でもそれは一種のじゃれあいだと知った。可愛らしい、打てば響く人だった。頼ることも、教えを乞うこともあった。そして……何より、儚かった。
白石ウタハ
上廻スラ改め、棟方ライムの本心を見抜いた。彼女はどこまでいっても機械いじりが好きなのだ。そう、きっとそう。君の目と、君の武器と、握り込んだ君の手が、それを何よりも雄弁に語ってくれている。
昔の憧れだった。それはいつまでも。どこへ行っても。何度だってあなたの下に行って、あなたに教わった。そして、その度に死んでしまった。昔のあなたも、今のあなたも……変わることない、憧れなんだ。
本話の執筆に伴いルドーをプレイしました。あれはクソゲーでいいと思います。
実は閑話で掲示板形式をやる案もありました。誰かがどこかで希望すれば書きます。
上廻スラの結末は
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哀れな愚者に永遠の救済を
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幸せな咎人に寛大な天罰を