WARNING!WARNING!
本話以降の展開は今までの話との雰囲気の変化が大きく、それが不快に感じる方が居るかもしれません。
具体的には上廻スラ(棟方ライム)の戦闘スタイルの大きな変化が起こります。非常に、それはもう非常に大きな変化が起きます。かなりファンタジーかつ独自解釈及び独自設定強めです。かなり好き勝手やってます。苦手な方は注意して読み進めてください。
ふわふわと、体が浮いている。ぴちゃぴちゃ、水が周りを浮いている。シャボン玉のようでおもしろくって、指でツンツンとつついてみたら向こうへと飛んでいってしまった。
すぐ近く、手を伸ばしてしまえば太陽に手が届いてしまえそうだ。
悪夢ではない。どこか心地いい、不思議な場所だ。
太陽の熱に包まれて、瞳を閉じる。
虫の羽音が聞こえた気がした。
「……むぅ?」
カーテンが、半開きになっている。そういえば、昨日閉め忘れたっけ。
にしても、珍しく夢見が良かった。
セミナーでの仕事が始まって数日。昔の勝手もかなり思い出してきて、現状であれば結構な量の仕事を捌けていると思う。
今日も今日とて、書類仕事だ。リオから指定された自室で身体を起こす。ベッドの横のカーテンを完全に開き、あらためて日光を浴びる。今日はいい天気だ。
うんうんと首肯し、自宅に居た時と同じようにスマホに手を伸ばす。かつり、と木製の棚に爪がぶつかった。……そういえば、アビドスのみんなはどうしているだろうか。
心配、してくれているだろうか。
……いけない。今の私はミレニアムの棟方ライムだ。忘れるな。上廻スラである必要は、無いんだ。
新しい端末を持ち、洗面台に向かう。
何故だろうか。今日は体が軽い。風が吹けば、それに乗ってそのまま飛んでいけてしまえそうなほどだ。
まさか……いや、まさかな。そう思い、愛銃のシリンダーを回す。やはり、何かが違う。まさか、進んだのか?
見ることができないがヘイローも変わっているだろう。具体的に言うとビナーと戦ったあの時のものだ。
こういうことはゲマトリアに頼むのが一番なのだが……まあ、いいか。他にも検証する方法はある。もし違ったら私が恥をかくだけだ。
セミナーに身体の異常により休暇、と一報を入れて今度はトキに連絡を入れる。あいつのことだ。有事に備えて待機してるだろ。
『もしもし。朝っぱらからなんでしょうかスラ……いえ、ライム』
「すまん、訓練場とかあるか?色々と試したいことができた」
『了解しました。位置情報をそちらに送るので来てください。私の睡眠を邪魔したツケは高くつきますよ』
「そいつは悪かったな……じゃ、また後で」
ぷつりという音がして通話が切れる。さて、行こうか。
身だしなみを整えて部屋の扉を開く。暖かな朝日が私を出迎えていた。
私服に身を包んだまま彼女はやって来ました。初めて会った日とも、その後の仕事着とも違うもの。私としては初めて見るものでもありました。
上廻スラと名乗る彼女は、急にリオ様が連れてきた昔馴染みの後輩……らしいです。あまり私は信用していませんが、リオ様の判断ならと受け入れました。6が出ないことに憤慨し発狂する彼女は面白さ超えて憐れみすら感じましたが……
「ちょうど良かったです。鬱憤晴らしついでにあなたの実力、見せていただきましょうか」
「あいよ。まあ曲芸代わりに見てってくれや」
巨大な訓練場。リオ様が個人的に所有しているもので、今までは私の訓練用に使われてきたものです。表向きには存在しないC&Cのコールサイン04として、公的に登録されている場所を使うわけにはいきませんから。
彼女は私から50メートル程離れた位置に。あの時持っていた盾のようなものはなく、拳銃一丁でリラックスして立っています。互いに障害物の位置は確認済み。双方いつでも下がって隠れることができます。
張り詰めた空気感の中でそうしてしばらく、演習開始の電子音が鳴る。
お互いに一番近い障害物の裏へ駆け出す。牽制しようと弾丸を撃ったが、それが当たることはなかった。
「“
高らかにそう宣言されたのが聞こえてくる。なんの号令かと思い、構える。その後響く銃声。警戒のため遮蔽から顔を出した。
何が起きる?
前方、ない。後方、ありえない。ならば、上?
「なっ!?」
そこにはありえないことが起こっていた。水でできた槍のようなものが、こちらに迫っている。あれは……魚?
迎撃のため銃弾を撃ち込むもすり抜けるだけで意味は無く。岩を避けるように迂回して迫ってくるそれを、転がることで間一髪避ける。水とはいえ、あの速度でぶつかってこられたら無事では済まない。水でできた魚は地面にぶつかることで水溜まりを作り出した。
「次!“
「ッ!」
またくる!
このまま隠れ続けても不利を背負うだけと直感し、その場の遮蔽を捨てて距離を詰め始める。遮蔽から上半身を出してリボルバーのシリンダーを回すライムに向けて射撃を行う。
それを嫌がったのか、彼女は距離を取るように後ろへ下がる。
彼女はシリンダーを回し続けている。
そして、ニヤリと笑った。
リボルバーのシリンダーは回り続けている。……回り続けている?ありえない。そして、その状態でこちらを撃つことなんてできないはずだ。
しかし、脳内の勘は離れろと言っている。
「トキ、一つ言っておこう」
いっそう口角を上げて、ライムは言う。
「今日の私は、常識を捨てた!」
トリガーが引かれる。嫌な予感に従って、弾かれるように横に跳んだ。けたたましい轟音が、さっきまで私がいた場所を襲っている。その音は、こちらに近づいてきている。
それはまるで、ガトリング砲を思わせるようなものだった。なぜハンドガンからそんな音が出るのか。
気にしている場合ではない。近づいてあれをやめさせなければ。リロードをしながらジグザグに走る。時折流れ弾のように跳んでくる弾に顔を顰めながら、近づく。
しかし見ればすぐに分かる。照準はブレブレ。マトモに反動制御もできていない。立ち位置なんかずっと後ろに下がり続けている。私から言わせてみれば、穴だらけだ。
「ここまで近づけば、それも使いにくいでしょう!」
目測10メートルほどの距離。私なら詰めようと思えば簡単に詰められる距離だ。射撃が止む。近距離では不得手だと判断したらしい。
そしてそのまま私は距離を詰める。
CQCは、私の得意分野だ。
そのまま近接格闘戦に持ち込む。
未だにまごついている右手をひっとらえて銃床で殴りつける。そのまま首元も掴んで地面に叩きつけた。
「チィ……“
追撃はごろりと移動されたことでかわされる。そのまま銃の使えないクロスレンジでの格闘戦に持ち込み続ける。右、左。時折足。狙いを変えながら。
そして、撃ち込まれる拳にカウンターを入れようとした瞬間。受け流そうと出した左腕が、大きく吹き飛んだ。掠っただけで。体もそれに追従するように後ろへ流れる。
それに怯んで距離を取る。
追撃は来ず、悠々と構えたままでいる。
「こんなのはどうかな!“
次がくる。銃、変化なし。環境、変化なし。本人に変化……あり!
「ほんと、なんでもありですね!」
「「そいつぁどうも!!」」
2人に増えている。分身か。今この瞬間は常識を捨てろ!何があっても驚くな!
左で射撃をしてくる方を銃で迎撃しつつ、右から近接を仕掛けにきている方には回し蹴りを叩き込む。しっかりといなされたものの、牽制にはなったようで硬直する。リボルバーは総じてリロードが長い。取れるだけ距離を取るべきか?
……いや違う。まず判断すべきなのは『どちらが本物なのか』。おそらく分身なら番号は使えないだろう。そう考える。予兆を見逃すな!感覚を鋭敏にしろ!
「“
左のライムが叫ぶ。そっちが本体か!
それが耳に入った直後、強い衝撃を受ける。しくじった。右は弾薬を使っていない。この妨害は、確実に、予想できた——!
その隙を逃さず左が突っ込んでくる。しかし様子がおかしい。銃を構えるでもない。拳を構えるでもない。
その体が赤く赤熱する。そして、ありえないことが起きた。
急に真っ赤な炎を吹き出したのだ。
ありえない。しかし、起きている。
本能のまま炎から抜け出す。
「“
それは、近くではない遠方からのものだった。号令とともに炎に包まれていたライムの体が掻き消える。なんだ!?何が起こって
鋭くなった感覚が巨大な、とにかく巨大な音を捉えた。
あたまが、ゆれ、て……
そこで私の意識は途切れた。最後に見た景色は、火の海から私を掬い上げる彼女の姿だった。
気を失ったトキを運び出し、ベンチに寝かせてやる。全身が痛いが、この確証を得るためなら致し方ない犠牲だろう。
確信したことは、やはり神秘が変質しているということだ。まあ、十分に有り得る期間か……
それと、神秘に引っ張られて若干自分の言動が変わっている。あー、ちきしょう。また矯正しなきゃな。
「まあ、なんとかなるか」
一つそう口に出して、そのままに“
ぱんぱかぱーん、と気の抜けたファンファーレが部屋に響いた。ほんの少しの賞賛の意を込めて。
能力の使い方にも随分と慣れた。何周した頃からかは忘れたが……こういった手品はゲマトリアに居た時に作ったものだ。
「それで、どういうことか説明をしてもらいましょうか?」
「おはようさん、リオ先輩。仕事はいいのか?」
「あんな連絡の仕方をされれば何があったのかは気にするわ。2人から許可は取ってあるからそこは気にしないでちょうだい」
それで、と続けながらモニターに先ほどの戦闘映像が映し出される。急にあらわれた割に準備がいい。いや、そもそもここは彼女の城であるのだから当然か。
「この怪現象ともとれることについて説明してもらえるかしら?」
「んまあいいですけど……まず、これらは全て神秘に由来するもの……です。神秘の出力、のような概念は知って……ご存知ですか?」
「知らないわね。悪いけど、オカルト方面には疎いの。それと、無理に口調は直さなくていいわ」
「口調の方は、ありがとうございます。ヘイローの異常に引っ張られてて……仕事の時にはなんとか戻します」
こうした技術を持つ組織もあるにはあるが、門外不出であったりそもそもコンタクトを取れないことが多い。ゲマトリアなどその筆頭であろう。
「言ってしまえば、私達生徒の本質を少しばかり借りるんです。ご存知ですか?キヴォトスには、常人とは大きく異なる特性を持つ生徒が存在するんですよ。
明らかに動揺が見える。こうしてこちらの知識をちらつかせて“知っているぞ”と脅しをかける。少なくともコユキに関しては良い牽制になるだろう。
それはさておき……
「私の神秘は以前の状態から変化しました。自分の中に敷かれている法が変わったんです。私はそのルールに従って能力を使っていました」
「なるほど……続けてちょうだい」
「ただし、私のコレはその、使い勝手が物凄く悪いので出力を絞っているんです。全部フルで使うと私が死にます。なのでそれぞれダウンサイジングして番号を振って、生徒の身体でも使えるよう調整してるんです」
「……トキにも使えるのかしら」
「トキはそういうタイプじゃありませんから。神秘なんて小手先に頼らずに純粋に技量を磨くのがいいと思いますよ」
ここに居る2人ともがモニターを見る。そのまま流れ続ける演習の映像を見続けた。
「……使い方を教える気はないのね」
「碌なものじゃありませんよ、こんなもの」
これは、紛れもない事実だ。
ゲマトリアで、何度私の分身が死んだことか。自分と同じ顔などあまり見ていて気持ちのいいものではない。それが自分が世界で一番嫌いなものであれば尚更。
「それじゃあ、今回使ったものの詳細を教えてもらおうかしら」
「了解。一個ずつ見ていきますか」
「ええ、早速いきましょう」
下の方から声がする。
「……起きてたのか」
「いくらパーフェクトなメイドといえど、あそこまで初見殺しをされて拗ねてしまいました。しばらくここから離れません」
「じゃあこのままやろっか」
「まずは10番。これね」
「見た感じ水の弾、でしょうか。魚のようなディテールがありますね。魔法みたいです」
「トキの言う通り、水でできた魚の弾だな。対象に誘導してくれるが、所詮水。相当な速度を出さないとほぼノーダメだが速度を上げすぎると誘導が死ぬ。顔面に当てて怯ませたり牽制に放つのがメインだな」
「絶妙に使いにくいですね」
「次は……これね。43番」
「これ弾ブレッブレでしたよ。誰が当たるんですか」
「こいつはリボルバーのシリンダー部をミニガンのバレルに見立ててエネルギー弾を撃つ。手でリボルバーを何度か回して回転速度を確保しないといけないし、いかんせんこのちっこいハンドガンからミニガンの反動がくるから精度が終わる」
「絶妙に使いにくいわね」
「69番。コレはなんなんですか?」
「筋力増強馬鹿力。ただ使うだけでアホみたいな筋肉痛がくる。正直今も全身痛い」
「絶妙に使うのを躊躇する嫌がらせですね……」
「58番。見た通り分身です」
「なんでトキが解説をしてるんだ……これの長所は分身が“なんの番号も使ってない状態”としてカウントされるからもう一個番号を使えるのがいい点だな。ただし分身中は常に体に負荷がかかるし、戻った時分身側が負っていたダメージは2倍になって帰ってくる」
「理論上は無限に分身できるのね」
「負荷も倍々でくるから戻った時に悲惨なことになるけどな」
「強いんですけど制約も結構強いですね」
「52番……私としてはこれが一番気になるわね」
「体から炎が出ます。本当にそれだけです。長く使ってると普通に火傷します」
「さっき分身に使わせて引っ込めたのは……」
「そういうこった。正直全身がヒリヒリしている」
「これ生身だったらどう使うのかしら……」
「最後は11番ね」
「リボルバーの銃声を滅茶苦茶大きくする。無論覚悟してないと私の鼓膜も死ぬ」
「なんでさっきからわざわざ自傷するのかしら」
「仕方なかったんだよ。完全に安全にすると制御不能にするか戦闘に使えないレベルの出力しか出ないんだ」
「ところでこの部屋に入る前にラッパの音が聞こえたのだけど、あれは何?私はそんな機能をつけていないのだけど」
「それは65番だ。ファンファーレを鳴らす」
「……それだけなのですか?」
「うん。それだけ。安全すぎてなんの代償も無い」
もう一度、ぱんぱかぱーん、と気の抜けた音が鳴った。
新たな姿
大量の能力に加え、身体が軽くなった。ビナーと戦っていた時のあの時の姿と同じ。ヘイローも。あの時は黒服の薬剤で無理矢理変化したため神秘が安定しておらず能力が使えなかった。
今は万全。実は大量の能力にリソースの大部分を割いているので神秘由来の身体能力は前までより少しいい程度。ビナーでの無双は本当に相性が良かったから。
熱耐性がある(オマケ程度)
ヘイロー
【挿絵表示】
能力
番号と能力を1対1で結びつけ、使用する能力の番号を宣言することで使用することができる。生徒の身でも自壊しない程度の出力に抑えてある。
言ってしまえば本文中で挙げた生徒の特殊な能力を制御可能にした代わりに効果の大きさを絞りデメリットを大きくしたもの。そのためうまく使わないと器用貧乏になる。
複数の同時使用は不可能であり、別の能力を宣言した場合直前までに利用していた能力は解除され、新しく宣言した能力を一回以上使わないと変更できない。
いっぱい出てくるがその都度描写で何が起こってるか書くので覚える必要はない。本当に無い。本当に、だ。私は読者に負担を強いるのは嫌いなのである。というか書かないと私が覚えていられない。番号にはルビを振る予定。
魚のディテールの水製ファンネルミサイル。速度を出さないと威力が水風船だが速度を上げると追尾する前に障害物にぶつかる。
銃声がバカデカくなる。カヨコのEXスキルが一番近い。
ハンドガンをミニガンみたいに使えるようになる。反動がヤバい。
体から炎が出る。普通に燃えるし火傷する。熱耐性貫通。お手軽焼身自殺。封印安定。
自身の分身を作り出す。分身を出している間は負荷が与えられ続ける。また、戻った際に分身の負荷と負傷を2倍で受ける。
分身は本体とは別の存在であるため番号を新しく使うことが可能。理論上は無限に増やせるが戻った時の負荷がヤバい。
ファンファーレを鳴らす。本当にそれだけ。低確率で紙吹雪が出る。
筋力が高まる。雑に強いが筋肉痛が確定する。
Q.なんでこんな能力が生えたの?
A.神秘の関係で生やすべきだった。
Q.なんでこんな大盤振る舞いでもクロコを倒せないの?
A.「ん、そんな小細工私には効かない。もっと真剣勝負するべき」
次回からパヴァーヌ編に入ります。書き溜め作りのため投稿が遅れます。ご容赦ください。
上廻スラの結末は
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哀れな愚者に永遠の救済を
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幸せな咎人に寛大な天罰を