ビルから降下し、2階の窓を突き破って侵入する。人払いは済んでいるとのことで、派手にやってもいいとのお達しだ。
このビルは7階建て。リオの事前情報によると、1階は偽装用のペーパーカンパニー、2階は電気系と倉庫。3階から4階は物資保管庫になっており、5、6階は兵士宿舎。7階はお偉いさんがふんぞり返っているそう。
ガラスの破砕音を聞きつけてやってきた兵士だろうか。足音が聞こえる。警報は鳴らない。リオによってそういったシステムはハッキングされている。私の仕事は外部との接続がされていないがためにハッキングできなかったセキュリティの無力化だ。
「動く……な!?」
「遅いです」
急所に銃弾を叩き込んで怯ませCQCを仕掛ける。どうやらただの数合わせ。近接格闘は仕込まれていないようだ。難なく制圧し、こいつの体をどっかに隠せないか調べる。……トイレの個室でいいか。
通信機や銃などの装備を外し、体は引き摺って個室に押し込んで鍵を閉める。あとは鍵の出っ張りを使って上から出ればいい。
そしたら、変装だ。
「再使用。
先ほどの兵士の姿を真似る。柔らかかった肌は無骨な金属製に。さっき外しておいた武器を持って通信機を付ければ、変装は完璧だ。あとは端末でこいつの情報を見ておく。
トイレから出て脳内に植え付けたマップ通りに歩いていく。……よし。問題ない。
道中にはもちろん警備員が居る。無論、無駄に騒ぎは起こしたくない。ここは素知らぬ顔で手を振りながら近づくことにした。
「よお。巡回の交代はまだだったはずだが……」
「さっき、窓ガラスが割れてるのを見つけてな。多分イタズラだと思うが……警戒だけ頼めるか?」
そう答えれば、その見張りは少し驚いたような仕草をしてこちらを見た。
「あい分かった。だがもしそうだったら、警報が鳴るはずじゃねえのか?」
「さっきから通信も繋がらなくてな……俺のが壊れたと思って交換に行こうと思って」
「まじか。さっさと行ってこい。上に怒鳴られたくなけりゃな」
「あいあい。わーってるよ」
じゃーな、と別れの挨拶をしてさよならする。目指すは上へ向かうエレベーターではなく、電気室。そこを破壊し尽くして離脱すれば私の仕事は終わりだ。
「ここかい」
配電盤などが大量に置かれた一室。見るからに大事そうなのに随分と警備がザルだ。
「ま、丁度いいな」
強奪したアサルトライフルのトリガーを引き続ける。弾切れしたらまた弾を込め、マガジンが無くなれば狂ったように辺りに銃床で殴り続ける。フレームが歪んで銃が銃としての仕事を放棄した頃になってようやく、私は持ち込んだ方の通信機を点けた。
「こちら04
『……どちら様でしょうか?私の知る04
「ピーチクパーチクうるせぇなぁ……俺だよ、俺。現地で変装した。こちらの仕事は終了。しばらくしたら非常電源が点くだろう。それまでに仕事を終わらせろ。こちらは離脱して下で待つ。オーバー」
『ロジャー。04、これより突入を開始します。アウト』
不要になった装備類を脱ぎ捨て、能力を使用した。またトキと同じ姿に戻る。ドアの死角に身を潜め、突入してくる奴を待つ。
足音が二つ。来た。
「っ、こいつはひでえ……!」
「どこに行きやがった……!?」
「ここですよ」
口を開くとともに首へ一閃。大きくよろめいたその隙に首をガッチリとホールドし、盾にする。ロボット兵士の大きな躯体を利用して自身の身を隠しつつ盾にする。
「そこか!?」
頭に付けられているライトがこちらを照らす。私の姿は見えていないようで、お仲間に銃を構え続けている状態だ。
無力化した方は私が人質のようにこめかみへハンドガンを押し付け続けている。
「随分とお優しいのですね」
それを確認し、すぐに人質にしていた方を押し除けてもう1人を攻撃する。
倒れた仲間に気を向けていたそっちにワンマガジン撃ち込む。これで1人制圧。さっき人質にしていた方は適当に踏み潰して気を失わせておく。
あとは私が入ってきた窓から地上へ離脱する。それでいい。
そもそも上層に行ったトキに人員が暴れているのか、巡回は最初のやつとさっきの2人で終わりなようだった。
私の足音だけが響くフロアを走る。そうして着いたのは大穴が空いた窓。私が入ってきた場所だ。
「……結構高いですね。まあ、そう怖気付くものでもありませんが、ねっ!」
大きく跳び、衝撃吸収の姿勢をとる。五点接地。色々な場所で仕込まれてきた技術である。無論、無事に着地した。
「流石にメイド服は目立ちますか。そもそも人払いされてますし、別の番号を使った方がいいでしょうね。
その番号を唱えると同時に、身体が本来の自分のものに戻っていく。とはいえトキに影武者と称して着せられたやメイク、カラコンがあるので見た目は大して変わらないのだが……
少しばかり語ってしまった。この番号の真価はそこではない。というかここまでは使う番号を切り替えれば全ての場合でこうなる。
利用するのは陰。それを身に纏って喪に服す人間のように真っ黒な身体に自分を作り替えていく。服に編み込み、目に被せ、カツラににはコーティングする。
そうすれば、全身真っ黒の影人間の完成だ。
「……しばらく待ちますか」
数分後、上側の窓ガラスが破られてトキが落ちてきた。危なげなく抱き抱える形でキャッチし、全力でビルから離れていく。事前にリオから支持された合流ポイントへ到着し、そこで帰還に出されたヘリに乗り込んだ。
自動操縦でローターが回り始め、無事に離陸。ステルス性能が高いようで、特に何にも見つからずに撤退することができているようだ。
「ふぅ……もうこれ脱ぎますね。正直あなたの口調を真似するのがキツいです」
「ええ。どうぞご自由に。ここではリオ様と私しか見ておりませんので」
「ありがとうございます……では」
カラコンとカツラを取る。私の手から離れた瞬間に黒かったそれは正しい色を取り戻し、地面に落ちる。自分も番号を解除して本来のメイド服に戻る。
「ふう……疲れた」
「ええ。よい演技でした。たまに入れ替わって任務しませんか?ローテーション式で……」
「私の仕事量が増えるだけだからやだ。というか派手な番号を使えない私よりトキの方が強いんだからもっと頑張れ」
ヘリはミレニアム内縁へと戻っていく。中に居る私達は、束の間の雑談に興じた。
「事前に突入させた奴が居るっつー話だったが……こいつはまたすげえな……」
リオが違法組織の情報をすっぱ抜いたとかなんとかで、あたし、コールサイン
2階まで駆け上がる。電力供給の設備は破壊されているそうで無視していいらしい。廊下の破壊痕はほとんどなく、隠密をしたのか割れた窓が唯一の襲撃の痕のようだ。
「……こっちもまた、すげえな」
5、6階は大きな破壊痕と共に、兵士の残骸が大量に散らばっていた。
「下と同じ奴がやったとは思えねえな」
まだ機能が生きていた砲台を撃ち抜き、さらに歩を進める。兵舎だったらしいここは壁がぶち抜かれている場所が多数あり、個室として成り立っているものは少数だった。
「さて……ここだ」
7階。回収の依頼があった資料があるとされている場所。
「おーおー。ここまでお誂え向きに用意されると一周回ってガッカリだな」
最重要であろう金庫だけが破られて中身が持ち去られている。その付近には大量の箱、箱、箱……
今回の依頼内容はこの辺の資料の破壊。一つ残らず読めない状態にしろ、とのことだ。
「こういうのはあたしじゃなくてアカネの得意分野なんだがな……よっこらせ」
背負った爆弾を下ろして少し離れる。……ちょっとぐらいならいいか?
……いいか。
「フフフ……オラオラオラァ!」
そのまま引き金を引く。机、壁、箱、調度品。その全てに見境なく銃弾を撃ち込んでいく。
撃ち終わったマガジンを落として一つ息を吐いた。冷えた頭で、穴だらけになった壁を見つめる。
「帰るか」
景気よく大窓をぶち破って、そこから飛び降りた。落ちながら手元のリモコンを起動し、あのビルの最上階木っ端微塵に消し飛ばす。
あたしの心はどこか踊っていた。
この惨状を引き起こしたやつ……ここまでの被害の出し方の変わりようを考えると2人以上と考えるのが自然か。やはり、気になってくる……
「今度リオに聞いてみるか!」
自治区を歩いている。そろそろ奴が来る。
喧騒の中耳を澄ませ、気配を探る。一般の生徒達の中から、明らかにここを歩き慣れていない人物を探し、それに近づく。
「こんにちは。お急ぎですか?」
「いいえ、別に急いではいませんよ」
こちらから話しかける。彼は淀みなくそう答え、私と同じ方向に歩き出した。喫茶店に入る。2人とも席に座りコーヒーを注文する。そこまで大して時間はかからなかった。私も彼、黒服も慣れてしまったからだ。
「ま、身バレ防止しておきますか。
目元に影が入る。これは一種の認識阻害であり、番号使用前に私個人を認識した者以外の記憶に残らない。
「まさか、何があったのかと思いましたが……なるほど、やはりそうなりましたか」
「お陰様で、な。余った薬は返すよ。次の状態は、少しばかり条件があるからな」
「ふむ……やはり、私のあなたに対する推論は正しかったのでしょう。私の見込みも」
「12番かぁ……あれ、ちょっと使いにくいんだよなあ」
「その番号と能力についてもお聞きしたく」
少し上を向いて目を擦ってから話す。少しばかり、厄介なこと。
「お前の想像通り、この神秘は変化していく。そして変化した先は無論危険なものだ。何も知らないのならいいが……もし意識すれば、暴発しかねないんで」
「ほう……」
「具体的に言うと、火だるまになったり、自他の区別が曖昧になったり、反動で肉体がぶっ壊れたり……俺としてもそういうことは望んでない。番号ごとに振り分けて暴発を完全に封じたのを複数所持してるってところだな」
「その口調は?」
「あー……神秘の根っこに触れ始めるとこうなるなんだよ。番号も、一回は本質に潜って取りにいく必要があるからな。こう、粗暴になっちまうんだよ。普段は誤魔化せるんだがなあ……」
聞きたいことは聞けたようで、満足そうに数度頷いた。光が一層妖しく輝く。
「やはり。やはり!私の見立ても!推論も!間違ってはいなかった!あなたの本質は全てを灼き尽くす太陽!それでいて、あなたの神秘は変容する!一つの神秘でありながら三つに変化し、さらに74に変容していく……!ええ!ええ!」
「黒服、ここは営業中の喫茶店だ」
周囲から白い目で見られているのに気づいて、黒服は一つ咳払いをした。
「今更誤魔化せんぞ」
「ンンッ゙……失礼しました。ところで、ですが……そちらの能力の詳細については?」
「嫌だよ。旨味がないのになんで開示しなきゃならんのさ」
「……そうですか。では、私はこれで。あまり長居したくない空気感ですので」
「お前のせいだろ」
席を立ちながら黒服は伝票を持った。どうやら彼の奢りらしい。ひらひらと手を振って去っていく。
「またどこかで会いましょう。そうですね……」
頭だけ振り返って口を開く。
「白昼下のラー、なんて如何でしょうか?」
「なんでもいいから早く帰ってくれるか?」
「ククク……酷い言われようですね。まあ心当たりがありすぎますけど」
黒服はそのまま代金を払って出ていった。
「……さっさと仕事に戻ろう」
ぐいっとコーヒーを飲み干して部屋を出る。白昼下、ねえ……
「暁のホルスもそうだけど、ああいうとこ本当にあいつの悪い癖だよなあ」
「……スラ……じゃなかった、ライム。ネルにトキの存在が勘付かれたわ」
「先輩はなにをやっているんですか????」
自身を影と同化させる。自身が影の範囲内に居れば視認が困難になるが、光によりダメージを受けるようになる。
自身の目元にモブのような陰を入れ、周囲に認識阻害をかける。長期間使用した場合、自意識は希薄になる。
白昼下のラー
巡る。廻る。自分は誰か。自身は何処か。
讃歌を唱えろ。その番号は、力になり得る。
上廻スラの結末は
-
哀れな愚者に永遠の救済を
-
幸せな咎人に寛大な天罰を