月は堕ち、日は昇らない   作:ハイカスカス

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流転、その始まり

 

 

あー、頭が痛い…何があったんだっけ?なんか頭が生温い気がする……うんにゃ?手が動かん……

 

「んあー?セリカぁ?先輩をお持ち帰りして緊縛プレイとは、まさかそんな子だったなんて…」

「先輩起きたの!?大丈夫?痛みは?」

「いやーん初夜の後に身体の心配までしてくれるなんて…セリカちゃんったら中々紳士なのね」

「ふ!ざ!け!て!な!い!で!起きてるんだったらシャキッとしなさい!」

「うごぉっ!?」

 

腹に鋭い痛みが走り、一気に脳が覚醒する。ここはどこだ?何をしてたんだっけ?

 

「あー、駄目だ。頭痛が酷い。Heyセリカ、どういう状況?」

「良かった、正気に戻った…えーっと、カタカタヘルメット団から襲撃を受けて、先輩がFlak41改の砲撃に直撃して気絶。そのまま人質に取られちゃったから大人しく私は投降したわ」

 

あー……えー……あ、そうだ。元々セリカの誘拐阻止のために動いてたんじゃん。なんで私までまとめて捕まってるんだ。ミイラ取りがミイラじゃないか。やっぱりこういう大事なところで役に立たないな……

 

「……ごめんセリカ、迷惑をかけた」

「大丈夫。私1人でも結局同じことになってただろうし、幸いあまり酷いことはされてないから。ところで、なんだか夢見が悪そうだったけど大丈夫?」

「そう言ってくれて助かる。夢の方は…いや、そっちも大丈夫だよ。ところで、武器類と通信機器の類は?」

「私のも先輩のも、没収されて多分別のトラックに詰められてる。どちらにしろ手が縛られてるし、できることも無いと思うけど……」

 

あー、これ結構緩いな。駄目じゃないか、こんな杜撰な縛り方しちゃ。

 

「これで良し。セリカも向こう側向いて。解いてあげる」

 

私から外れた縄が落ちてトラックの荷台に乾いた音を響かせる。この程度の縄抜けならお茶の子さいさいだ。昔C &Cとかから仕込まれた技術を舐めてはいけない。

 

言った通りに身体の向きを変えるセリカに近づき、縄を解いてやる。手首は若干赤くなってしまっているが、逆に言えばそれだけのようだ。目立った外傷が無くて良かった。

 

「とりあえず、これで2人とも自由の身だ」

「ところで、先輩はどこで縄抜けを覚えたの?」

「こんなでも隠し芸を色々と仕込んであるのよ。どこで覚えたかは、秘密」

 

とりあえず、何か使える物は無いかと周りを見回しても今さっき解いたロープ2本しか使えそうな物が無い。これは、みんなが助けに来るまで待つしかないかな。もし来なかったら……セリカだけはどうにか逃がそう。

 

「……せんぱい、私達、どうなる、の?」

「大丈夫。なんとかなる。というかする。私の可愛い後輩をこんな場所でむざむざ死なせてなるものですかって」

 

体につけていたGPSも着弾の衝撃で壊れてしまっている。なんとかセリカを慰めながら待つしかないな。

 


 

「電話はしたんですか?」

「はい…でも、数時間前から電源が切れてるみたいで…」

「こっちも同じ。スラの携帯は切れてるし付けてたGPSも反応が消えてる」

 

セリカとスラが失踪したということで、対策委員会室には物々しい雰囲気が漂っている。

 

「大将に連絡してみたけど、スラ先輩はセリカを迎えに来てたみたい。でも、2人がホテルに泊まるなんてことはしないと思う」

「もしかして、ヘルメット団…でしょうか」

「ヘルメット団がセリカちゃんとスラちゃんを…ありえない話では、ないと思いますけど」

 

ガラガラと扉が開く。別の場所で2人の行方について調査していたホシノと先生が合流した。

 

「“ただいま”」

「おまたせ。成果はあったよ」

 

シロコが目を見開いて詰め寄る。

 

「2人は!?2人は無事なの!?」

「落ち着いて、シロコちゃん。まず、先生の権限を利用して連邦生徒会のセントラルネットワークにアクセスした」

「あのー、それ、大丈夫なんですか?」

「“バレたら大目玉を食らうだろうけど、この程度生徒のためなら安いものだよ”」

 

微笑みを浮かべて安心させるようにシロコの頭を撫でる先生。シロコは満更でもなさそうだ。

 

「調査の結果として、スラちゃんのGPSが途絶えたのは、ここ」

 

ホワイトボードに貼り付けられた地図に丸が記される。

 

「これは…柴関の近く?」

「そうだね。そして、2人の端末の反応が途絶えたのはここ」

 

もう一つ丸をつけられる。2つの位置は相当離れているが、車を使えば移動ができない距離ではない。

 

「砂漠化の進んでた市街地の端、ですか?ここには住民も居なくて不良がたむろしていたはず」

「“柴関近くから、わざわざこの市街地まで運んだのは理由があるはず”」

「そう。そこで、この市街地はどんな場所だったかな?」

「このエリア、この前危険要素の分析をした時にカタカタヘルメット団の主力が集まってるって分かった場所だ」

「じゃあ、やっぱりカタカタヘルメット団が…?」

 

ホシノがニヒルな笑みを浮かべる。

 

「大人しく人質を取られたからって、黙って身代金を渡すわけにはいかないよね。2人とも、大事なアビドスの仲間なんだから」

 

「“早速行こう、みんな!”」

 

 

 


 

トラックが止まった。幸いにも積み荷の確認に来る人員はおらず、息を潜めていれば良かった。セリカの体調だけが心配だが、時折抱きしめてやって不安を和らげてやっている。なんとか、平静を保ってくれているようだ。

 

「せんぱい…みんな…」

「大丈夫。大丈夫だ。私はここに居る。君は1人じゃない。大丈夫だよ」

 

おそらくここはまだ中継地点であり、あまりここに長く居ると発車してしまうだろうが…間に合うのか?

 

こうして暗い中に居ると、昔を思い出す。いやだなぁ。こうやって抱き合った子も、死んじゃって…いや、ダメだ。後輩の前だ。情けない姿も、私の、本当のことも、曝け出すわけにはいかない。

 

しばらくそうしていれば、急に周囲が騒がしくなった。爆発や銃撃、怒号が聞こえる。

 

「始まったか…セリカ、早速出るよ」

「出るって、どこに…」

 

トラックの荷台の扉を蹴破って護衛に居た2人を近接格闘でダウンさせる。即座にこちらに来るよう手招きして、気絶させた2人を引っ掴んで盾にして進む。

 

「もしかして、先輩達が?」

「多分、そう。アビドスでわざわざ抗争する必要は無いだろうし。私達の武器のトラックは?」

「えーっと…あれ!あれよ!あの中にみんな入れていってたわ!」

 

指されたトラックに向けて走り出す。首元を掴まれたヘルメット団にはかわいそうだが、引き摺っていく。

…足音。ホシノ先輩達の戦闘に合流しようとするヘルメット団がこちらに向かっているらしい。数は2つ。建物の陰に身を潜めて、近くに来るのを待つ。ちょうど近くに来たタイミングで、2人のヘルメット団の片方に向けて手に持っているヘルメット団を投げた。

 

「そぉい!」

「ガッ!?」

「おい、大丈夫か!?」

 

急に吹っ飛んでいったペアに目を向けた瞬間に、棒立ちになった方に向け走って距離を詰めて飛び膝蹴りを叩き込む。蹴り飛ばした衝撃でそちらは気絶したので、団子になってる方を蹴り潰して追撃する。

これでよし。

 

「さ、さすが先輩。容赦ない…」

「無手になったら何もできませんなんて恥ずかしいところ見せられないから。ほら、早く行こう」

 

これに関しては何も無くなってもシロコに一矢報いるためのものだが…あまりこういうことは言うものではないな。

 

目的地に到着したため、トラックの荷台を開く。私のグレネード散布機とリボルバー、セリカのシンシアリティが乱雑に放られていた。

 

「あ、あいつら…私の大事な銃を…!許せない!」

「ああ。ここまでコケにされちゃ頭に来るな。さて、反撃といこうか」

 

 


 

 

「さ〜て、そろそろお相手も打ち止めかな〜?」

「はい!何やら向こうも慌てていますし、早く終わらせちゃいましょ〜!」

 

ノノミの弾幕が次々と敵を薙ぎ払っていく。そうして前線がぐちゃぐちゃになったタイミングでホシノとシロコが中枢に噛み付いていく。それだけで相手の連携は崩れ切っていた。

 

『敵の反応、とまりました!』

「最後はあそこの対空砲だけ…ん?」

 

シロコの優れた視力が、対空砲の異常を捉えた。煙が見える。あれは…?

 

瞬間、対空砲が崩れた。一拍おいて耳が爆発音を捉える。

 

「“あれは!”」

『確認、できました!スラ先輩とセリカちゃんです!2人とも無事なようです!』

 

安堵にため息を吐く皆々。遠くに見える2人は、大きく手を振っている。とはいえセリカはスラにサポートされてこちらに歩いてきている。2人とも見るからに疲労が溜まっており、若干フラフラとした足取りだ。

しばし彼女達は、感動の再会を喜んだ。

 

「2人とも無事で良かったです〜」

「ん、みんなお疲れ様。怪我は無い?」

 

服が少しボロボロになっているが、2人ともあまり目立った傷は見えない。しかし、こちらに来るまでにセリカは眠ってしまった。

 

「寝かせてやってくれ。昨晩から不安で眠れてないんだ。死ぬほど疲れてる」

「まあ、Flak41の砲撃を食らってトラックに缶詰になってたら仕方ないよねぇ。スラちゃんもお疲れ様」

「いや、砲撃食らったのは私。油断してたとはいえ情けない姿を見せちゃったよね」

「えっ」

 

上廻スラは、アビドスに帰り次第ベッドに叩き込まれた。

 


 

 

先生達に救出された私は、安心感からか疲労からかすぐに倒れてしまったらしい。先輩は入れ替わりで眠ってしまったようで、隣のベッドで眠っていた。

 

「“お見舞いに来たよ”」

「先生、ね。私ならもう大丈夫よ。いつまでもこうして横になってるわけにもいかないし、アヤネちゃんにも迷惑かけちゃったし…だから、そう!大丈夫だから!」

「“それは良かった”」

 

それじゃあ落ち着いたら委員会室に来てね、と言いながら退室しようとする先生を呼び止める。振り返って不思議そうにこちらを見つめる先生。ゆっくりと口を開く。

 

「ちゃんとお礼を言ってなかったけど…その…ありがと。先輩と2人でずっと居たけど、それでも心細かったから。みんなが助けに来てくれて、嬉しかった。い、一応!今のところは信用してあげる!でもまた何かしたら今度こそ許さないんだから!」

 

それだけ捲し立てると、先生は満面の笑みを浮かべながら扉を閉め切った。なぜだか分からないけど、顔が熱い。それを誤魔化すように顔を振り、思考に沈む。考えるのは気を失っていた時、苦しそうに呻き声をあげていたスラ先輩のこと。

昔何があったのかは、多分みんなよく知らない。と言うより、みんなあんまり何があったのかは話したがらない。ホシノ先輩も、スラ先輩も。でも…きっと、辛いことがあったんだと思う。

ふと手を伸ばしてみる。二つのベッドの隙間が、今日に見た私達の実力の差を示しているようで。私の手が先輩の身体に触れられないことが、埋まらない距離を表しているようで。

 

…頭上の耳が、引き絞られる感覚がした。

 

 

 


 

 

「はぁ…やはり、生徒崩れのチンピラではあの程度、か。主力戦車も供与したのだがこのザマとはな…」

 

モニターが妖しく光る薄暗い部屋。そこで1人の大人が今後のことについて考えている。宛にしていたヘルメット団が大して役に立たないと分かった以上は、何かしら別の手段を考えねばなるまい。

 

そこで、あることを思い出した。以前ブラックマーケットに諸用でブラックマーケットに行った際に見かけている色褪せたチラシ…確か、便利屋だったか。

 

「ふむ…目には目を、歯には歯を。生徒には生徒を、といったところか。専門家と考えれば、悪くはない」

 

 


 

 

「ぐぅ…!」

「クソッ!なんだってんだ!」

「うわぁぁ!!?!?」

「だ、だれかたすけっ」

 

「こっち、終わったよー」

「社長、こっちも制圧完了した。これで大方片付いたかな」

 

誘拐は失敗したが、構成員のほとんどが無事に帰還したことで十分に賑わっていたカタカタヘルメット団本部。しかしその喧騒は、唐突な侵入者によって一気に騒然とした雰囲気に包まれた。

 

「な、なんだお前ら!アビドスの報復か!?」

「こんな不潔でカビ臭い場所がアジトだなんて、あなた達もかわいそうね。ちょうどいいわ。あなた達を、労働から解放してあげるわ」

「何を言って…!」

「要するに、あなた達ヘルメット団は…」

 

話をしながらも、侵入者はヘルメット団リーダーに銃口を向ける。ワインレッドとゴールドで美しく彩られたスナイパーライフルは、こんな状況でなければ見入ってしまいそうだ。

 

「“クビ”ってことよ」

 

そう告げて、目の前の団員に銃弾を撃ち込む。

 

「そうね…聞こえていないだろうけど、覚えておきなさい」

 

ひらりと身を翻し、背を向けて立派なファーコートを前面に見せる。

 

「私達は、便利屋68。金さえあればどんな依頼も熟す…何でも屋よ」

 

 

 





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上廻スラの結末は

  • 哀れな愚者に永遠の救済を
  • 幸せな咎人に寛大な天罰を
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