月は堕ち、日は昇らない   作:ハイカスカス

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早く最終編に入りたいので原作と大して変わらん場所はガンガンカットしていきますが、その関係で便利屋達の影が薄いです。前回あんな気合い入れて登場したのに。
便利屋68経営顧問の皆さん許して。



強盗、その始まり

 

 

「それでは今回の議題は、学校の負債をどう返済するか、です。何か意見はありますか?」

 

いつもの面子に先生が加わった、ある意味では“いつもの面子”。座って頬杖を突きながら話を聞いている。一応安静を言い渡されたが、まあもう元気よ。身体は元気ビンビン。

 

内容としては、セリカは詐欺商品を。ホシノは他校生徒の拉致を。シロコは銀行強盗を。ノノミはアイドル活動を。

 

「い…いいわけ!ないじゃないですか!」

「“うわぁ!?”」

 

無論、アヤネはキレた。ちゃぶ台返しによって、机の上にあった鉛筆やらペンやらが私に向かって降り注ぐ。別に避けるものでもなかったので受けておいた。

 

「銀行強盗やマルチやアイドルや…いつもふざけてばっかじゃないですか!というか、スラ先輩は何か無いんですか!?」

「うーん、そうだなぁ…」

 

少し驚いたが、大真面目に考えてみる。

 

「アビドスの砂を利用した建材…かな。とはいえ外部からの資金協力が必須だし、出資者にはそれに見合ったリターンを提示しなきゃいけない。理論は私がある程度作れるとはいえ、流石に現実味が無さすぎる。だから没だ」

「……な、なんというか」

「思ってたより、ちゃんとしてる…?」

「ひどい、私そんなちゃらんぽらんな人に思われてたの?」

 

……その後、アヤネは柴関ラーメンを食べてなんとか機嫌を直した。便利屋との邂逅もあったが、やはりいい食べっぷりだなぁと、そう思った。

 

便利屋には奮戦もしておいた。あの子達ちょっと強すぎない?連携を取る前提だと完成されすぎている気がするんだけど。

 


 

 

仕事で敵対した便利屋と戦ったり、借金の返済日が来たり…色々とあって、私達はブラックマーケットに来ている。犯罪の温床、そういう場所だ。

 

「あー、ここかぁ…帰っていい?」

「ん、逃がさない。今日は私達に付き合ってもらう」

 

…別に、ここでこれから起こる銀行強盗に躊躇しているわけじゃない。ここは、単純に知人とエンカウントする可能性があるから嫌なのだ。

それも、結構後ろ暗いやつ。具体的に言うと、私の薬を調達してくれる薬師さん。違法なブツとか、合法でも量が決まってるやつとか、そういうのをダバダバ入れた特製の薬を毎度ご用意してくれる。どんな時でもとりあえずで頼るのはあの人かもしれない。

 

「というか、スラは随分と知った風に言ってるけど、来たことあるの?」

「表だと出回らない物も多いからなぁ。そういうのが欲しい時は使ってるよ。とはいえ、あんまりガッツリ入り浸っていることは無いかな。調達してるのは兵器類じゃないし、今回の戦車の供与元とかは知らない」

「うへー、おじさんも自治区から出ることはあんまり無いからねぇ…こういう場所は曖昧なんだよねぇ。案内、頼んでもいい?」

「できる場所はするつもりだよ。とはいえ、詳しいわけじゃないからなぁ」

 

…銃声がする。まあそれ自体はいつものことだが、こちらに向かってきている。すわ敵襲かとなり身構えるが、気の抜ける雰囲気の言葉が聞こえてくる。

 

「う、うわああ!まずいです!!だれかあ!助けてくださああい!!」

「待てッ!トリニティだ!!お前トリニティだろう!? なあ、トリニティだろお前!身柄置いてけ!! なあ!!!」

 

我らがペロキチ、ファウス…間違えた。阿慈谷ヒフミのご登場である。

 

『あの制服は…』

「うわわ!?すみませんそこどいてくださーい!」

「わぷっ」

 

避けきれず、彼女はシロコの胸に飛び込んだ。

 

「ご、ごめんなさい!お怪我はありませんか!?」

「ん、私は大丈夫。そっちは…って、追われてるし聞くまでもないか」

 

追ってきたスケバンに目を向ける。2人で追いかけてもヒフミがここまで逃げられたのはスケバンが悪いんじゃなくてヒフミがやばいんだと思う。

 

「んだぁ、お前ら?あたしらはそこのそいつに用があるんだ。とっとと渡してもらえりゃあ楽なんだが」

「あ、あのー、私の方は特に用事は無いというか…」

 

この状況でその言葉を出せるのすごいよ。やっぱり君どこの世界でも普通じゃないね。

 

「はぁ、はぁ、うぇっほ、げほ…お、お前なんか逃げるの手慣れてねえか!?おかしいだろなんでここらをナワバリにしてる私らより、げほっ、速いんだよ!うぇほっ、げほっ…」

 

遅れてきたスケバンちゃん、それには全面的に同意する。やっぱこの子生粋のアウトローだよ。

 

『そうです!思い出しました!その制服、三大校の内の一つ…トリニティ総合学園の制服です!』

「そう!そしてトリニティといえば三大校で一番金を持ってる学校さ!」

「うぇほっ、うぇほっ…こ、こいつを拉致って人質にして交渉!ごほっ、中々に冴えた財テク…げほっげほっ」

「“大丈夫?お水持ってる?”」

「ご、ご心配なく。しばらくすれば治りますんで」

 

問いかけてしまう先生の気持ちも分かる。なんというか、哀れだ。

 

「……こんな空気で言うのもなんだが、協力してくれるってんなら分け前を用意しても…」

 

ノノミとシロコがスタスタと近づいていく。表情にはあまり出ていないが、怒り心頭という感じだ。私ももしもに備えて腰のリボルバーに手を伸ばしておく。

 

2人のパンチがスケバンの顔面に突き刺さる。勢いのまま2人はダウン。私の警戒は普通に杞憂で終わった。

 

「悪、即、斬」

「はい!悪い子にはお仕置きが必要ですから!」

 

とりあえず一息ついたということで、ヒフミは明らかに安堵している。なんでこの子は息切れをしてないんだ。やはり未来のファウストか…

 

「それで、えーあー、名前は?」

「阿慈谷ヒフミ、です!トリニティ総合学園二年生です!」

「ん、よろしくヒフミ。ところで、なんでブラックマーケットに?」

「えーっと、これを探しに!」

 

おもむろにバッグを漁って取り出したのは、口にアイスが突っ込まれた目がイっちゃってる鳥。所謂、ペロロ様、である。ノノミはそのキャラクターに親しみがあるようで、きらきらと目を輝かせている。

 

「わあ!モモフレンズですね!私も大好きなんです!ペロロちゃんかわいいですよね!私はミスター・ニコライが好きです!」

「わかります!いいですよね!!ニコライさんも哲学者的なところがかっこよくって…」

 

女三人寄れば囲炉裏の灰飛ぶ、とは言うが、あそこは2人で盛り上がってしまっている。いやはや、好きな物があるというのは素晴らしいことだな。

 

「うへー、おじさんにはついていけないや。スラちゃん何言ってるか分かる?」

「いんやぁもうさっぱりだよ。私ああいう若い子の流行りには疎いからなぁ…」

「2人とも女子高生じゃなくておっさんの会話なんだけど…」

『あ、あはは…あっ、敵が近づいてきてますよ!気をつけてください!』

 

 

 


 

 

あの後不良を撃退し、ヒフミの案内の下ブラックマーケット巡りを開始した。古今東西津々浦々、色々と店を見て回ったがそれらしき物は見つからなかった。普段ならドンパチやって聞き出そうとすることもできなくもないが、マーケットガードに目をつけられるのは面倒だ。何より一度目をつけられると薬を買うのがかなり困難になる。そういう意味でもここで戦闘を起こすのは避けたかった。

 

…まあ、その後の流れはご存知の通りである。アビドスに借金を回収しに来た現金輸送車がブラックマーケットの闇銀行に入って行くのを見たため、書類等の回収を目的に銀行強盗の流れに。私達は目出し帽を、ヒフミはたい焼きの紙袋を被って銀行強盗となった。

 

アヤネが電気系統をハッキングしたことで真っ暗になった銀行に、足音を気にすることもなく走って飛び込む。その流れのままグレネード散布機からスモークグレネードをいくつか飛ばし、電気が復旧しても視界を塞いだままにしておく。

 

そのまま銃弾を撃ち込み、狼狽えている銀行の警備員を制圧する。この程度の視界の悪さはよくあることなので1発も外すことなく命中させた。

しばらくして施設の換気システムが起動して靄は晴れ、銀行内は明るい照明に包まれる。

 

そこに立つのは、1〜6、それぞれの数字が書き込まれた色とりどりの覆面を被る少女達、というか、私達。

 

「全員持っている武器は捨て、その場に伏せて!」

「言うこと聞かないと、痛い目に遭いますよ!」

「あはは…怪我をしたくなかったら、言う通りにしていてくださいねー!」

 

銀行職員が狼狽えた様子で外部に応援を要請しようとする、が、繋がらない。

 

「な、どうして…!?」

「無駄無駄。外部に繋がる警備システムの電源は落としてあるからね〜」

「ひぃ!?」

 

未だに状況が把握できていないのか突っ立ったままのヤツにはセリカが銃口を向けてさっさと反抗ができない体勢にさせる。

 

「伏せなさい!言う通りにしないと命の保障は無いわよ!」

 

怯えたまま伏せていくのを横目で確認しながら、私は既に伏せているヤツに目を向ける。今回の役割は見張り。客や従業員が下手なことを起こさないかの監視である。

 

「うへー、ここまでは計画通り!リーダーのファウストさん、指示をお願い」

「えっ!?ふぁ、ファウストって私ですか!?私がリーダーなんですか!?」

 

シロコが目的の物をガジりに言ったのを確認する。瞬間、みじろき。その手には連絡用端末。

 

「そこッ!死にたくなければ動くなッ!」

 

銃を1発放って、持っている手ごと端末を砕く。見せしめとでも言わんばかりに足蹴にして痛めつける。抵抗の意思が無くなったことを確認してようやく足を離してやった。

 

「ファウスト様。この者は如何しましょうか」

「えっ、い、いやー、とりあえずこれ以上怪我人を出さないようにお願いしますね」

「はっ、申し訳ございません」

 

演技も兼ねて命拾いしたなと吐き捨てて監視に戻る。幸い他の連中はこの一連の流れで萎縮してしまったようで抵抗する様子は見られない。

 

しばらくそうしていれば、シロコは目的の物を受け取ったようで帰ってきた。これからちょっとやんちゃするよー、という意思を込めて隅っこで何やら話し合っている便利屋に視線を向ける。一応気づいたようで、一気に警戒を始めた。

 

「来たわねシロ…じゃなかった。ブルー先輩!とっととずらかるわよ!」

「あ、う、うん。目的の物は確保した」

「それじゃあ逃げるよ〜!たいさーん!」

「アディオ〜ス!」

「では、私達はここらで退かせていただく!」

 

最後に銀行を出て、追って来られないようにグレネード投射機からフラッシュバンをいくつか銀行に放り込んでおいた。

 

しばらくすれば道路封鎖が起こり、マーケットガード達が出張ってくる。それまでにしばらく離れておきたいが…

 

「来ました!マーケットガードです!」

「ん、予想通り」

「正面突破だ!さっさと踏み越えて追跡を振り切るぞ!」

 

まあ、こうなるな。だが大して問題はない。マーケットガードといえど、カイザーの傭兵共と実力は大して変わりない。

 

装甲がひしゃげる音を鳴らしながら私達はどんどん目的地へ近づいていった。

 

 

 

 

 

『追跡、振り切りました!』

「封鎖地帯も突破した…私達の勝ち、だね」

 

一応逃げ切ったということで、一気に空気が弛緩する。やはり銀行強盗は何度やってもスリルがあって楽しい。いやこれ感覚が麻痺してるだけだわ。

 

そうして覆面を外したシロコがバッグの口を開く。そこにあったのは集金記録の書類と、大量の札束。

 

「おーおー、これまた大量に稼いできたな砂狼」

「いや、これは書類だけ入れてもらおうとしたらお金も入れてきただけで…」

「本当に5分で1億稼げちゃったね…どうするのこれ」

「これは決まりね!早速持って帰るわよ!」

 

シロコはバッグから書類をひらりと取り出し、残りはどさりと地面に置いた。

 

『ちょっと待ってください!本当にそのお金を使うつもりですか!?』

「なんで!?私達は借金を返さなきゃいけないのに…」

『そんなことをしたら、本当に私達も犯罪者になっちゃいますよ!?』

「犯罪だから何!?そもそもこのお金は私達が汗水流して稼いだお金なんだよ!?それがあそこに流れていっただけで…」

 

先程までの弛緩した雰囲気が嘘だったかのように段々と空気が張り詰めていく。

 

「それに、私達が使わなかったら兵器とか、違法なことに使われてたかもしれない!そんな悪人の金を盗んで何が悪いの!?」

「私はセリカちゃんに賛成です。犯罪者の資金ですし、私達がしっかりと正しい使い方をした方がいいと思います」

「ほら!これで学校の借金をだいぶ減らせるんだよよ!?」

 

議論が白熱している。実際難しい問題ではあるだろう。

 

 

「んー、そこまで言うならどうしよっか。シロコちゃんはどうする?」

「言うまでもない。ホシノ先輩が反対するだろうから」

「流石はシロコちゃん、おじさんのことよく分かってるねぇ」

 

 

「今私達に必要なのは書類だけ。お金じゃない。今回は犯罪者の資金だから良いとしても、次はどうするの?その次、その次、その次は?」

「…」

「一度こんな方法に手を出して慣れちゃえば、きっと平気で同じことをするようになるよ。そしたら、この先同じようにピンチになった時に“それしかないから”、“仕方がないから”って言って、やっちゃいけないことに手を出すと思う。かわいい後輩がそうなちゃうのは、おじさんとしては嫌だなぁ。ね、スラちゃん」

 

急に話が飛んできたので、しっかりと話を繋いでいく。

 

「そうだね。一度そういうことをやってしまえば、選択肢としてどんどん上に入ってくる。そうなってしまえば、もう人としておしまい。そういう事しかしない人になる。知人でも友人でも誰でも…そうなっちゃうのは悲しいから」

 

そう言って俯く。その後の話や、こちらに来る便利屋。土地の権利など…そういう話も耳に入らなくなってしまった。理由は、今私が居る場所にある。帰ってきた我が家。その、埃が若干積もっている部屋。

 

“上廻スラ”の、自室である。私の趣味に合わない装飾が施されたその部屋には、中学生時代の教科書やノート、日記帳がそのままに残っている。

 

中学生らしい年相応の少女の部屋が、当時の姿のままそこにあった。

 

日記帳を開く。書かれているのは、よくある日常。今日の授業難しかったとか、友達の様子がこうだったとか、そういう、日常が綴られた1ページ。読み進めていくと、急に白紙が広がる。

 

…上廻スラの足跡が、途絶えた。

 

考えていないだけだ。気にしていないだけだ。忘れていたいだけだ。

 

だが、そこにあるのはどこまで行っても逃れられない事実だ。私は今、何も知らない無辜の少女を足蹴にして生きている。

明日に希望を持ったただの少女を、だ。

 

あなたは、本当に上廻スラですか?

黒服から言われた言葉が脳内で主張する。そうだ、私は上廻スラじゃない。ただの悪霊だ。

 

一度こんな方法に手を出して慣れちゃえば、きっと平気で同じことをするようになるよ。

ホシノがあの時言った言葉が心臓を締め付ける。もう何度だってやってきた。ただの少女を殺して成り代わってきた。私はもう、慣れてしまった側の人間だ。

 

 

「誰か、誰か。止めてよ。ねえ。誰か…」

 

 

ここには1人だ。こう言って誰かが来るわけじゃない。だから、言ってしまう。

 

 

「私を、救けて(殺して)よ」

 

 

涙が出そうだった。堪えた。この部屋を、私が穢すわけにはいかなかった。

黒い穴からこちらに手を伸ばす死神を幻視した。空は、今日も青い。

 





上廻スラ(中学生)
至って普通な中学3年生。志望校はアビドス高等学校。志望理由は昔行ったお祭りをもう一度やってみたかったから。丁寧な物腰で同級生からの信頼も篤く、人気も高かった。ある日突然別世界の上廻スラに体を乗っ取られた。

明日に夢を持ち、未来に希望を見て、無限の可能性に身を委ねるただの少女だった。ある日突然、彼女の全ては理不尽にも奪われた。夢も、希望も、可能性も、青春も。身勝手な復讐の名の下に。


Q.アンケートの選択肢ってそれぞれどういうルート分岐を起こすの?
A.平たく言えば救済の方が上廻スラ死亡ルート、天罰の方が上廻スラ生存ルートです。

上廻スラの結末は

  • 哀れな愚者に永遠の救済を
  • 幸せな咎人に寛大な天罰を
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