月は堕ち、日は昇らない   作:ハイカスカス

8 / 10

飼ってた猫が死にました。作者を曇らせてどうすんだよ…

何も関係ないけどスラって書くと頭の中でウォッチポイントをウォッチしてくる奴がちらつくのがいやです




爆発、その始まり

 

 

「これはこれは…お待ちしておりましたよ、暁の…いえ、ホシノさんでしたね。失礼しました。キヴォトスには未だ慣れていないものでして…では、こちらへどうぞ」

「黒服、今度は何の用なのさ」

 

アビドス自治区内、どこかにあるビル。ホシノは全身が黒い異形と相対していた。

 

「ここ最近で、色々と状況が変わりましてね…今度は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんに改めてご提案をしようと思いまして」

 

それを聞いたホシノは怒りのまま机に拳を叩きつける。

 

「提案…!?あれはもう」

「落ち着いてください。ちょうどいいお気に入りの映画のセリフがありましてね。今回はそちらを引用してみましょう」

 

一気に空気が張り詰める。堂々と構える黒服は、威圧を続けるホシノを意にも介さず言葉を発し続ける。

 

「あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴ください」

 

クックックという特徴的な笑い声が部屋に響いた。

 

 

 


 

 

 

憂鬱を隠しながら、砂漠を歩く。いや、隠せていないかもしれない。しかし、それすら覆い隠してしまいそうなのがこの砂漠という気候だ。暑さは顔の陰を誤魔化し、砂は表情を明るげに見せてくれる。

 

だから、私はここが嫌いにはなれないのだ。どんなに酷い顔をしていてもここならどうとでもしてしまえるから。

 

「ん…?」

 

見慣れない姿が見える。あれは…ああ、そうか。もうそろそろ、そういうことが起こる時期か…

 

「よっ、この前ぶりだな便利屋」

 

後ろから手を振りつつ近づく。向こうは肩を一瞬びくりとさせ、焦りを顕にさせながらすぐにこちらに振り返ってきた。アルは白目を剥き、ハルカはこいつ撃ちますかとビクビクしている。ムツキは…まあいいか。いつも通り楽しそうに笑っている。

カヨコは多少の動揺を見せながらも、話の主導権をあくまでこちらに渡さないよう口を開いてきた。

 

「…何の用?敵対中のそっちがわざわざ話しかけてくる理由は無いと思うんだけど」

「私がわざわざ戦闘に発展させる必要が無いからだ。このまま野放しにして何やられるか分からん状況で放っておくよりも互いに監視状態にさせてしまった方がいい。もし敵対するなら、全力でゲリラ戦をして不毛な時間を過ごさせることになるが…」

 

これに関しては事実だ。第一今の便利屋は柴関にラーメンを食べに行く道中だろうし、積極的に戦闘はしたくないはず。カヨコは後ろで白目から持ち直している社長を一瞥した。

 

「…分かった。そっちの言い分を信じる。ただし、何か下手をすれば…分かるよね」

「その程度は理解している。こっちも同じだ。そちらが害を加えなければ何もしない」

 

その会話を契機とし、互いに矛を収める。微妙な緊張感を保ったまま私達は柴関に向かった。

 

 

 

 

見慣れたと言うには少しばかり馴染みがない暖簾を潜る。ラーメンのいい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「大将!柴関ラーメン5つ!」

「あいよっ!テーブルで座って待っといてくれ!ほら、そっちのお友達も!」

「わ、私達も!?」

「私1人でラーメン五杯も食べられるわけがないだろ。奢りだ。早くこっち来い」

 

 

 


 

 

 

「おはようございまー…あれ?スラ先輩は?」

「スラだったら、今日は散歩してくるって…ほら」

 

少し息を荒くしながらやってきたセリカに、スラとのモモトーク画面を見せる。こうして、スラが連絡を入れて学校から離れることは別に珍しいことじゃない。自由登校日だったら尚更だ。

 

「…にしても、意外ですよね。シロコ先輩ならスラ先輩の行き先を知りたがりそうですけど」

「あら〜、1年生の頃はシロコちゃんも行き先を調べようとしてたんですよ〜?」

「ん、毎回後ろを尾けてたこともあった…その度、バレて拳骨されてた」

「その後に模擬戦をしていいようにやられるまでがワンセットでしたね〜。怪我の手当とかは、私がやってました」

 

話の通り、あの頃はそういうことをよくやっていた…ホシノ先輩には勝てないならって喧嘩を吹っ掛けたりもした。今やったのなら、負けるつもりはない。いい加減砂狼呼びを変えさせる。

 

「ところで、セリカはスラのこと気にしてるの?」

「あっ、それ私も気になります!この前の誘拐からなんだか距離感が近い気がしてて…」

 

わいわいがやがやとセリカの周りに人が集まっていく。ひとつ気になることがあればどんどんと騒がしくなっていくのが私達。セリカが不快に感じない程度の領域を探りながら、どんどん問い詰めていく。

 

「い、いや、別にそういう関係じゃ…私は!あーもう!特に変なこととか無かったから!」

 

だんだん赤くなっていくのを面白く感じながら揶揄っている途中に、アヤネの愛用している端末から警報が鳴った。

雰囲気が引き締まり、ここに居た皆がガンラックに手を伸ばす。

 

「前方半径10km内にて爆発…!?かなり近いです!」

「そっちの方向にその距離だと…まさか、市街地?爆撃の可能性も…」

 

そちらの方向ということで、一気に思考を回す。住民の避難は?建物の被害は?今外出してるホシノ先輩とスラは無事なのか?

 

「衝撃波の形状からすると、C4爆弾の連鎖反応と思われます。砲撃や爆撃ではなさそうですね…もう少し確認してみます!」

「分かった。ノノミ、セリカ、準備を」

 

必要な物を片っ端から詰め込んで、いつでも出掛けられるようにする。やっぱり、嫌な予感がする。

 

「爆発地点、出ました!位置は…」

『ようやく繋がった…こちら上廻スラ!時間が無いから完結に伝える!』

 

「『場所は柴関ラーメン!』」

 

割り込むように入ってきた通信の声とアヤネの声が重なる。

 

『私と柴大将は無事!ただし柴関ラーメンが全損!現在便利屋68と交戦中!とにかく遅滞戦術をとってるけど流石に街の被害が洒落にならなくなってきてる!早く応え――――』

 

「ッ、!」

 

他の意見を聞く前に部屋を飛び出した。2人も私の後ろについてきている。無事でいて、と、らしくないことを考えながら全力で走った。

 

 

 

 


 

 

 

 

あんのバカッ…!やっぱやりやがった…!

 

「けほっ、けほっ…あー、一応確認しておくけど、敵対の意思表示で、いいんだな?」

 

救助した大将に目配せして逃げろと言外に伝える。なんとか意思表示は伝わったのかすぐに走っていってしまった。

 

「くふふ…さっすがアルちゃん。お世話になったラーメン屋さんだけじゃなくて、奢ってくれた人も裏切った吹っ飛ばしちゃうなんて!まさに!血も涙も無い大悪党!そこらの木端の悪人には真似できない、悪人の中の悪人じゃーん!」

「へ?あ?……あ、あははは!!当然!当然でしょう!私達は、金さえもらえば何でもする血も涙も無い大悪党!便利屋68よ!」

 

「あー、そうか…まあ、そうだなあ…」

 

分かってはいたが、頭にくる。理解と共感は別なのだ。私だっていきつけの店を消し飛ばされれば、怒る。

 

「じゃ、やろうか」

 

リボルバーを5発撃ち切って牽制する。動揺がまだ続いているのか、ハルカは近づきながらショットガンを連射してくる。身を捩りながら、無事な塀の裏に身を隠した。排莢とリロードを済ませ、いつでも使えるようにグレネード投射機からスタングレネードをひとつ取り出す。

この後に風紀委員会との連戦が控えているので極力物資の消耗は避けたいが、便利屋相手に高望みはしない。全力で、それでいて慎重にこの場を切り抜ける。それが最善手だろう。

 

こちらの隠れている場所を覗き込んでくる銃口に向けて、スタングレネードを投げ込む。こちらの居場所を一番把握しているハルカの視界は一旦潰した。すぐに場所を変える。不毛な不毛なゲリラ戦の始まりだ。

 

カヨコは傭兵を呼ぶために一時離脱している。身の毛のよだつ銃声(パニックブリンガー)が来ないと分かっているのは幸いだ。あれでこちらの動きを一瞬止められるとそれだけで致命傷になりかねない。

適当なビルに逃げ込み、まずはアルの狙撃を封じる。住民とかは気にする必要は無い。だって住民もテナントも存在しないから。

向こうも、即座に爆弾を起爆してきた。ムツキお手製のものだろう。建物の基礎ごと抜かれたのか、床が斜めになってきている。窓をぶち抜いて、ビルからダッシュしようとする。

 

やはり、来た。狙撃だ。とても正確…私の急所を狙った、弾丸。だからこそ。

 

()()()()()

 

「ッ!?」

 

体を捻って、グレネード投射機を胴体に沿わせる。甲高い金属音を鳴らしながら銃弾は弾かれた。ぐるぐると受け身を取って隣家の屋根上に着地する。そのまま一度射線を切るように屋根から降りて民家の陰に入り込んだ。

そうすれば、向こうは一度こちらを見失わざるをえない。極力足音を殺しながら一旦その場から離れた。

 

私はあの時、ゲリラ戦を仕掛けると宣言している。だからこそ、極力何もしない。逃げる。気配を消す。そうすれば警戒により多少は精神を擦り減らす。

 

 

そう、そう思っていた。

 

便利屋が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その可能性に思い至った瞬間に、市街地にて一斉に爆発音が響く。街中に設置していた爆薬を一斉に起爆したのだろう。

お陰で身を隠せる遮蔽が無くなった。そもそも、多対一は私が一番苦手な分野だ。ホシノのように正面から突っ込むフィジカルは無いし、ノノミのミニガンやシロコのドローンのような広域殲滅が可能な武器は()()私には無い。

だからゲリラ戦に持ち込んだってのに…

 

「見つけました…!死んでください死んでください!」

「チィ…!」

 

横に跳んで弾を避ける。しかしショットガンのペレットが幾つか当たってしまった。衝撃を極力殺しながら瓦礫の山をごろごろと転がる。

 

そこからしばらくは、追いかけっこであった。ハルカが私を追い立て、遮蔽や足場をムツキの爆破が砕く。姿勢が崩れればすかさずアルが狙撃してくる。というか崩れてなくても当ててくる。そういうタイミングはまだ弾いてグレネード散布機で防ぐことができるが、防御する余裕が無い時は身体を捻って避けるしかない。

しばらく走って瓦礫の裏に隠れていると、こちらに近づいてくる足音が3つ。すわ敵かと思い、そちらを見遣る。

 

視線の先に居たのは、少し息を荒げながら走ってきていたシロコ達。先生…は、途中でバテたのかノノミに担がれている。

 

「スラ!?無事!?」

「五体満足至って健康。ちょっと面倒なことにはなったけど」

 

こちらの増援が到着したのと同時に、カヨコも傭兵達を連れて戻ってきた。あくまで私が苦手なのは多対一だ。多対多や、多対少であればわりかしどうにかなる。

 

…と、思っていたのだが。

 

どこかから、爆発音が聞こえる。なるほど、今回の行政官はお早い登場のようだな…!

 

「お前ら全員伏せろ!便利屋もそこの傭兵も!」

「な、何を言って…」

「黙って伏せろというのが分からんのか!」

 

さっさとしろという意思表示も込めて近くに居たシロコの首根っこをひっ捕えて伏せさせる。

周囲も、それに続いて伏せた。

 

 

 

瞬間、閃光と熱が私達を覆った。

 

 





黒服がスラに協力する理由はちゃんと存在します。開示はいつになりますかね。

あとアンケートが面白いことになってて笑ってます。こちらも是非ご協力の方を。

上廻スラの結末は

  • 哀れな愚者に永遠の救済を
  • 幸せな咎人に寛大な天罰を
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