月は堕ち、日は昇らない   作:ハイカスカス

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好き勝手やってる設定開示会




瓦解、その始まり

 

 

煙が引き、視界が晴れる。ただでさえさっきの爆破祭りで更地になっていたのにもうその瓦礫さえも砂粒になっている。

…何かがおかしい。そうだ、風紀委員会の砲撃でも、ここまでの火力はいくらなんでも無かったはずだ。一般的な生徒が使った砲撃にしてはさすがに火力が高すぎる。

 

『みなさん!無事ですか!?』

「“う、うん。なんとか守ってくれたよ。みんなは?”」

 

「…スラ、なんかいやな予感がする」

「同意だ砂狼。なんか…何かが、来る」

 

シロコの勘に同意する。風紀委員の足音は聞こえない。おかしい。もし動いているのがアコだったら、こんな分かりやすい隙を狙わないはずがない。

 

立ち上がっていたセリカがぐらついた。すぐに手を伸ばして肩を貸す。体調の異常、ではない。物理的なものだ。

 

地面が揺れている。地震でも、爆撃の揺れでもない。これは、まさか?

 

辛うじて道の体制を保っていた目の前のアスファルトに罅が入り、ばきりばきりと陥没する。地面の下から、一際巨大な円環が顔を見せる。

 

「便利屋と無事な傭兵!そこの亀裂から離れろ!余裕があれば伸びてる奴を担いでいけ!死人が出かねんぞ!」

 

怒号に対して本能的に反応したのか、指示の通りに逃げていく。ここは問題が無い。ある程度遠い。それでもじりじりと退いていく。

 

“死人が出かねない”

 

そう判断した。

 

純白の大蛇が、顔を出した。

 

「“巨大な…機械の蛇?鯨?”」

 

デカグラマトン、第三の預言者。その名を…

 

「ビナー…!」

 

アビドスでの騒乱をどうにかする中で、一番の頭痛の種だ。活動領域は不明。活動目的も不明。時折、こうしてアビドスのどこかに顔を出してくる。はっきり言って厄介というレベルではない。砂漠での遭遇は無くはないのだが、こうして市街地まで出てくるのは今までの経験でも本当に稀だ。

 

「ノノミ!ホシノ先輩に連絡は!?」

「一応繋いでます!いつ来るかは…分かりません!」

 

ホシノ先輩だったらなんとかしてくれるだろうが、言われた通り今は居ない。

 

「“どうするの!?”」

「先生、あれはやばい。とにかく逃げた方がいい」

『さっきの爆破騒ぎで付近の住民は避難していますが…まず、情報が足りていません!一度退くべきです!』

「退くって、どこに退くのよ!?このまま放っておいたら街が全部壊されちゃうわよ!?」

 

ビナーの口が開く。まずい。

 

「避けろッ!」

 

すぐに横っ飛びでその場を離れて熱線を避ける。他のメンバーも、なんとか避けられたみたいだ。先生もノノミに抱き寄せられて回避できている。

さっき居た場所はどろどろに溶けてしまっている。

 

「ど、どうするの、これ…!」

 

…この戦力で、この装備で。どう切り抜けるのか、考え続けろ。

 

太陽は、雲の陰に隠れている。

 

 


 

 

 

「あ、あわわ…!」

 

目の前で、途轍もないものが始まっている。今まで見たことのないような巨体の怪物がビームを撃ったと思えば、地面がチョコレートのように溶けてしまった。

 

「どうするの、アルちゃん。逃げる?」

「私達は社長の判断に従う。正直に言って、危険そうだしあんまり戦うのはおすすめできないけど」

 

私は社員の命を預かっている。その事を考えれば、今は退くのがいいのだろう。あのビームをマトモに食らえば、いくら私達でも無事では居られないだろう。

 

ぐちゃぐちゃな思考のまま、大蛇を見る。

 

「“ノノミは対空してできる限りミサイルを撃ち落とす!3人はなんとかあの大蛇の気を引いて!”」

 

あの大人には見た感じ、ヘイローが無い。噂によると、外から来た人.…先生らしい。そんな人が最前線で戦っている。銃弾1発で死ぬという体で、ミサイルが降り注ぐ戦場で戦っている。

 

…そんな状況で、逃げる?むざむざ?背中を見せて?

 

そんなことになったら笑い種よ。

 

「…動ける傭兵達は怪我人を連れて撤退なさい。便利屋68から、危険手当は出さないわよ。死にたいっていうなら止めはしないけど」

 

立ち上がり、なんとか形が残っていた遮蔽物から出る。

脚の震えを隠しながら堂々と立つ。

 

 

 

「さて。便利屋68、仕事を始めるわよ!」

 

 

 


 

 

「むぅ…!」

「“シロコ、回避!アヤネは補給を!”」

『分かりました!シロコ先輩、こっちです!』

 

あの大蛇…スラが言うには、ビナーだったか。さっきから逃げてばっかりにはなるがなんとか現状を維持している。さっきから逃げ回ってばかりでまともに攻撃を入れられていない。幸いにもあの巨体を全力で活かして攻撃をしてくるわけではないのであまり被害は広がっていない。

とはいえ、あのビームとミサイルだけでかなりの脅威となっている。

 

「ごめんなさいシロコちゃん!ミサイルが一個そっちに…!」

「っ…!」

 

補給を受け取り振り返る。すぐそこには、ミサイル。

横に跳ぶ?間に合いそうにない。

伏せられる?その頃には着弾しているだろう。

ドローンを間に噛ませる?ドローンごと潰されておしまいだろう。

 

思考の最中に、急に爆発した。何が起こっている?鳴り続ける心臓はそのままに周囲を見回す。

ノノミ。こちらを見たまま固まっている。

スラ。ビナーと見合ったままだ。

セリカ。先生の指示でリロードをしている。

先生。勿論武器なんて持っていない。

 

瓦礫から身を乗り出す、4人組。

 

「随分としけたツラしてるじゃない」

 

こちらに近づいてくる。不敵な笑みを浮かべながらこちらに背を向けた。

 

「…ほら、ちゃっちゃと立ちなさい。私達以外にあなた達を倒されちゃうと、クライアントとの契約違反になりかねないのよ」

「くふふ…さっすがアルちゃん。ま、そういうわけで一時急戦って感じかなー?」

 

 

マガジンを外し、リロードする。背筋を伸ばす。砂漠を這う大蛇の4つの目を睨んだ。

 

 


 

 

 

便利屋が協力してくれた。それはいい。非常に助かる。彼女達の集団戦闘力はキヴォトス内でもかなりのものだ。

しかし、しかし、だ。やはり決定力が足りない。

 

普段なら、ホシノ先輩に頼む。なんで不在のタイミングで…!

ホシノ先輩の見様見真似でグレネード散布機に神秘を込めてビームから身を守る。しかし単純なサイズ不足か私の神秘の質が悪いのか。殺しきれなかった熱が身体を灼いていく。

 

あつい。あつい。あつい。…でも、なれてる。

そうだ、あの時よりも、あの時よりも…

 

「スラちゃん!」

「ッ…!」

 

持っていかれそうになったが、声をかけられてなんとか意識を戻す。すぐに地面が溶けてしまった場所から退く。風で空気と擦れる肌が痛い。

 

「やるしかない…!先生!後の事は頼んだ!」

「“スラ!?何をするつもり!?”」

 

鞄から、黒服製の錠剤を取り出して飲み込む。多少の苦味とともに、喉の奥へ落ちていった。

 

瞬間、身体に異常が起こった。

 

 

 


 

 

 

体表にできた火傷よりも強い痛みが、熱が、身体の芯を燃やす。

円環が一層光を放つ。放たれた光が雲を切り裂き、太陽が顔を出す。

 

闇は晴らされた。

夜明けは訪れた。

 

故に、時は進んだ。

 

戴くは光の主人。示すは太陽。

 

其の名は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。

 

74の内の、本来の姿である。

 

 


 

端末に報せが届く。

 

「…おや、なるほど。使いましたか。であるのならば、本日の交渉はこの程度にしておきましょう」

「お前、何を言って…!」

「このままここに居るようでしたら、あなたの後輩がどうなるか分かりませんよ」

「…!?」

「これは親切心です。彼女をあのまま放っておけば、最悪死に至るでしょう」

「ちっ…余計な事はするなよ…!」

 

…ホシノさんもここから去った事で、部屋には嫌な静けさが残る。

 

「ビナーがあそこに現れたのは少々想定外でしたが、彼女の神秘を見れば納得ができます。あれが見た目通りに大蛇の比喩(メタファー)であるのならば、彼女があの場で力を使うためにあの薬剤を使うのも道理です。闇に抗うには、それ相応の光が必要なのですから」

 

 

「ええ、期待通りです。彼女ならば、暁のホルスの代替にもなり得るでしょう」

 

「棚から出た…いえ、これは暁光でした。ですので、私をあまりがっかりとさせないでくださいね」

 

そう呟いて、椅子にもう一度深く座った。

 

 

 


 

 

 

力が溢れる。そう、これが、黒服との契約で手に入れた力。

神秘の本質、その露出。反転ではない。ただあり得る可能性を引き出しきるだけ。

 

ああ黒服。注文通りだ。言った通りにしてくれた。これでも黒服の部下やってた周もあったんだ。ある程度の技術体系は理解できる。

これが、かなり力を入れた品であることも。

 

「…前に、出る!」

 

溢れる力そのままに地面を蹴りつけて近づく。こちらにミサイルが迫る。意にも介さずに歩く。爆風は無視。この程度の熱なら、効かない。

 

『スラ先輩大丈夫ですか!?さっきの光は!?』

「大丈夫…さあ、ちょっと頑張るか」

 

愛銃を向けて放つ。一般的なものより高い火力を持つ弾丸は、普段の数倍の衝撃をもってビナーの顔面を叩いた。そこに追撃でアルの狙撃がヒットする。小規模な爆発とともにビナーがよろけた。追撃にシロコのドローンが向かう。もう一回り大きな爆発が顔を覆っていった。

 

「ムツキちゃん!爆弾貸して!」

「くふふ…いーよー!さ、どんどんいこー!」

 

アスファルトすら踏み抜いてしまいそうな脚力で跳ぶ。投げられた鞄の持ち手をキャッチし、中身が爆発する前にビナーへと投げる。さらに追撃でグレネード散布機からありったけを投げ入れた。

眩い閃光。白い靄。空気を震わす爆音。圧による衝撃。そして、単純な大爆発。

 

そのままひたすらにビナーの気を引き続ける。走って、跳んで、撃って。幸い私の神秘とビナーは相性がいい。

ほら、目障りだろう?苛つくだろう?そうだ、それでいい。

 

「私を狙え!」

 

金属が擦れる音が咆哮のように鳴り響く。口内にエネルギーが収束している。

…だけど、ビナー。君は時間をかけすぎた。

 

「時間切れ、だよ」

 

ビナーの背中側が次々と爆発する。マトモな出力先を失ったビームが空に向けて放たれた。シロコのミサイルではなく、ムツキの爆弾でもない。

 

「今の爆発は何!?」

「まさか…やつらが…!?」

 

風紀委員会の爆撃。グレネードとはいえ、不意打ちであれば結構なダメージを与えられる。ダメージを嫌がったのか、ビナーは砂嵐を起こしながら地面を潜って撤退していった。

 

風紀委員会介入のタイミングとしては予想通り。恐らく恩を売っておこうってことだろうが…どうなるか。

 

「ふぅ…なんとかなったわね」

「社長、まだ終わってない。うちの風紀連中が来たよ」

「風紀委員会って…!?」

「ゲヘナの治安維持組織です。今までの学校公認の武力組織や便利屋のような部活とは違い、下手に敵対すれば学園間の問題になりかねません!」

 

ぞろぞろと歩兵達が突入してくるのが感覚でわかる。背中合わせになって死角を無くす。ナチュラルに便利屋を味方扱いしているが、まあいいだろう。

 

はっきり言って私はもうキツい。意識が飛びそうになっている。

 

「ホシノ先輩には繋がらないの?」

『すみません、まだ…いえ!繋がりました!』

『みんなっ!大丈夫!?』

「私は大丈夫」

「はい!私もまだまだいけますよ〜!」

「ごめん、私はもうだいぶ…」

「スラ先輩!?」

『そちらに座標を送ります!なるべく急いでください!』

『ありがとう、アヤネちゃん』

 

なんとかホシノ先輩が来るまで持ち堪えなきゃ…!

 

意識が朦朧とし始めている。まだ、まだこれからだ。この程度で倒れていられない。

 

『便利屋がゲヘナで何か問題を起こしたのかもしれませんが…それでも、他校の治安維持組織が戦術的行動をしたということは、政治的紛争を生じるということ。自治区の許可も無くこんな事を起こすことは許されることではありません』

「そうよ!これは立派な私達の権利の侵害だわ!あのデカいのと戦ってくれたのは助かったけど、柴関を壊された分はまだ償ってもらっていないんだから!」

 

風紀委員会の方へみんな向かっていってしまった。私も走ろうとしたが、すぐに足が縺れてしまう。

 

「“スラ、辛いなら無理しないで”」

「…ごめん、ちょっとその言葉に甘えさせてもらう」

 

ヘイローと、私の状態が元に戻る。時計の針が戻された。揺り戻しはきっと来る。もう少し保ってくれ私の身体…!

 

 

 

 


 

 

 

走る。走る。建物を跳び移ってとにかく早く。

もう失うわけにはいかないから。

 

銃のセーフティは外してある。盾はいつでも展開できる。

息が荒くなるのを感じる。先輩としての顔も無視して、とにかく進む。

 

廃墟街が見える。つい昨日まで私達の日常だった場所だ。大穴が空いているし、地面が焼け焦げている。それでも、昨日まで見慣れていた景色がそこにあったはずなのだ。

 

怒りのまま、戦闘中の場所に降りて盾を叩きつける。

 

「ホシノ先輩…!」

「みんな、お疲れ様。まあ、色々とあったみたいだけど…」

 

がちゃりと銃の部品が音を鳴らす。

 

「やろうか」

 

「風紀委員会!止まりなさい!」

 

そんな覚悟は、その大声で一気に霧散した。

 

 

 


 

 

 

 

急いで駆けつけてきたヒナの一言で戦闘は止まった。

 

さっきから意識がぼーっとする。向こうではヒナとホシノが何かを話しているが…よく聞こえない。

 

「先生と、スラさん…」

「“久しぶりだね、チナツ”」

「ええ、お二人、特に先生が居ると分かっていればどうにかして戦闘を止めたのですが」

「チ、ナツ…元気、してた?」

 

なんとか力を振り絞って挨拶をする。舌が回らない。チナツは…目を、見開いて…

 

「スラさん!?大丈夫ですか!?血が!」

「“えっ血!?”」

 

どすんと座らされた。ああ、確かに、鼻からツーっという感覚がする。

 

 

「鼻血が…熱は…ありますね。出血も多い。原因が分かりませんが何か疾患が?」

「いや、スラにはそういうのは無かったはず。至って健康だった」

「なるべく早く病院を受診させた方がいいのですが…この辺りからいちば………」

「ス…ちゃ…!?おき…!」

 

 

思考が途切れる。喧騒を聴きながら私の意識は落ちた。

 

 





本気状態のスラのヘイローイメージ図

【挿絵表示】



黒服がスラに協力していた理由は“スラの神秘はホシノの代わりにできるから”でした。ビナー君は誘導とかじゃなくて普通にお散歩してただけです。
あと注釈ですが、ビナーが弱いとか本気状態のスラが強いとかではなく本気状態のスラの神秘がビナーと非常に相性がいいというだけです。

上廻スラの結末は

  • 哀れな愚者に永遠の救済を
  • 幸せな咎人に寛大な天罰を
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