あるゲヘナ生のどうでもいいモラトリアム 作:匿名ゲヘナ生
一発食らわせる。と、そうと決まればまずは戦力確保だな。
当然長年軍事訓練を受けたエリート集団に勝てるなんて思っちゃいない。
どっかにいるはずだ、結構近くだったはず……いた。
さあ寝ぼけてる時間はないぞ、まだギリギリSecond Trumpetって感じだから。お前の頑張り次第でThird入るかが決まるんだよあく起きろ+40ゲインでくれてやるから。
「っだあっ、何!? うるさっ! うわっ、どういう状況!?」
突然爆音のアラームを流され瓦礫から飛び起きたのは、……イオリ。ご多分に漏れず外傷だらけだが、私よりは元気そうだ。
「この曲……リノか! リノ! 何が起きた!?」
何か叫んでるけど聞こえねーよ私も爆音だから。
ヒナ委員長の方にも一応流してるけど、元々さっさと起きてたはずだからあんま意味はないかも。
とりあえずイオリにはアリウスの方角を指し示し、「トツゲキ」のハンドサインを出しておいた。
「『トツゲキ』……? うわっ、なんだあのガスマスク集団! お前らがこの状況の原因か!? 私が片付けてやる!」
おお、つよいつよい。
見ていてちょっと羨ましくなるくらいの無双ぶりで、イオリはアリウス兵たちをばったばったとなぎ倒している。さて、私もやることやらなあかんな。
アリウス軍団の先頭、ヒヨリはどうやら前線が保っている内にポイントを確保してイオリの排除を優先するようだ。2人護衛はつけているが、さっきよりは断然マシになった。勝ちの目も見えるというものだな。
さて、委員長は……起きてるな、じゃあSecondはもういいか? そしたらヒヨリとその護衛に……えーと、静オケ第三楽章とクソ胎児、+30。あと螺旋音バグとか何でも入れとけ。
瞬間、高いビープ音、不愉快な泣き声、低い機械音やら何やらが脳内に爆音で鳴り響く。いけそうならこれイオリの方にも飛ばして援護したかったが、無理だな。
バカでかい不協和音で頭が割れそうになるのを努めて──いやもう本当に死ぬほど頑張って無視し、銃を構えた。
「……っ何だっ、この音っ……うげっ」
「頭が、割れる……ぐっ」
平時なら普通にうるさい発砲音も、この爆音の中では自分ですら殆ど聞こえない。
私と同じ音を聴いてその場に崩れ落ちたアリウスモブ2人を、頭に複数発撃ち込んで落とした。
次いでヒヨリに射線を向ける。……地面に丸まって頭を庇い、じっとしている。カウンター、当てれば大体2、3発で方角割れて飛んでくるだろうな。あの馬鹿みてえな大口径じゃまずワンパンだろう。
まず銃を持った手に当てて弾き飛ばした。できるだけ遠くに飛ばせたほうが宜しいがそう上手くはいかんか。約3m。当て続ける。動きを止める。拾わせない。一本道。七面鳥だ。外すか? なわけ。
足か頭か? 迷っている暇はない。足。折れてもしょうがない。ネームドに撃ち込むのは初めてだが、よりによって戦闘職。1マガジンで足りると思わないほうがいいだろう。
体で銃身を抑え込み、スコープの向こうに意識を集中して命中優先で、ただし迅速に、片手でトリガーを引く。
排莢胸に当たってアチアチだけど気にするな。一発だって外せねえんだからとにかく死んでも上体動かすな。
左手も止めるな。リロードは早ければ早いほど良い。マガジンがどこにどんだけ残ってるか知らんが指先で分かれ。絶対落とすな。落としたらお前の指も落ちると思え。
全部やらなくちゃあならないってのが辛いところだな。
発砲の衝撃、暴れる銃口、無理やり吸収して狙いをつけ直す労苦、全身の痛み。
特に頭と胸だな。頭はバカでかい不協和音で今にも爆発しそうなくらいに痛み、胸は多分もう火傷してるくらいに熱く撃つたびに拳銃の至近弾くらいに痛む。
だがそのどれもさほど気にはならない。意識はただ、あの白い足があとどれだけ耐えるのか、どこを撃つのが最も効果的か。
──どうすればあの這いずりは止まってくれるのか。
私は自分でも聞こえなかったが、多分悪態をついた。
結局威力が足りないっていうのか。理不尽だ。指先から血の気が引くような無力感と虚脱感に染まる胸中に、それでも撃ちてし止まんとする中、視界の端に明るく爆炎が光る。
──イオリか。
増援か、包囲、擲弾銃の面制圧。相変わらず視野の狭いヤツ。
私が起こさなきゃ良かったよな、きっと。
などと、そう考えていたのはほんの一瞬。
だがその一瞬で、私は自分の敗北を確信した。
弾幕を張る手が僅かに緩み、ヒヨリはその隙を見逃さなかった。
執拗に狙われて紫に腫れ上がった足でそれでも駆け出し、焦って放たれた私の弾丸を置き去りにする。
転がりながらも銃を拾い上げ、一瞬でこちらにそれを構え、引き金を──
──えへへ……辛いですね、苦しいですね……──
やけにゆっくりに感じる時間の中で、一瞬のことだからそんなわけはないけど、そう口が動いているように見えた。
ふう……クソが。
痛みを感じる間もなく、私は昏倒した。
◆
空崎ヒナは、爆炎と瓦礫の上に佇む。
巡航ミサイルによって少なからず手傷を負えども、彼女の足取りに支障はない。
事態の把握とその背景に思考を巡らせていると、不意に頭の中に緊張感があるのかないのか良くわからない、やけにノリの良い音楽が大音量で鳴り響く。
(これは……リノね。どうやら無事みたい)
程なくして、音楽と入れ替わるように特徴的な、甲高く連続した銃声が響き始めた。
(戦闘が必要な状況……私が次に動くべきは……)
「……先生!」
キヴォトスに唯一人の人間の大人。銃弾の一つが致命傷になりかねないにも関わらず、生徒を助けるためにあちこち駆け回る変な大人。
自身と先生の配置、直前の連絡等の記憶を手繰り寄せ、周囲にその影を探して、ヒナは走り出した。
「──チームⅡ、報告を。────ああ、こちらも……」
『ち、チームⅢ! すみません、足止めを受けてしまって……ヒナさんは取り逃がしてしまいました、ごめんなさい! あと、今全然耳が聞こえません! 足も負傷していて、作戦行動は難しいです!』
一方、錠前サオリは作戦の第一段階が完了したことを確認し、次段階に向けて各班の報告を要求していた。
突然発されたあまりに大きすぎる声に、彼女は危うく無線を取り落としそうになったが、報告を咀嚼ししばし逡巡する。
「…………チームⅢを回収してからそちらに向かう。すまないが、時間稼ぎに徹してくれ」
作戦遂行のための、あくまでも冷静な判断。
少なくとも、サオリ本人はそう信じ切っていた。
『……了か……ウソでしょ、もうヒナが来てるんだけど?』
「ッ……すまない、なんとか持ち堪えてくれ」
多少のハプニングや反撃は想定していた。しかしそれでもサオリの内心は、仲間たちの窮状に掻き乱されている。
気まぐれに崩された、彼女たちの知る由もない、本来の流れは僅かに狂い始めていた。
「……サオリ姉さん、遅いよ。ツルギとヒナが同時に来てた。聖徒会の顕現がギリギリで間に合ったから何とか撤退できたけど、これ以上の成果は見込めないと思うな」
「……シャーレの先生は、マダムが最も危険視しているターゲットだ。追いかけないわけにはいかない。すまないがもう少し付き合ってもらうぞ」
戦略兵器と呼ばれる二人を相手にして、疲労の色濃く座り込むミサキを見ても、サオリは方針を変えない。
真っ直ぐに据えられたサオリとしばし視線を合わせると、溜息をついてミサキは立ち上がった。
「えへへ……ごめんなさい、私のせいで……あ、つ、続けるんですか?」
なお、一連のやり取りが一切聞こえていないヒヨリは帰る気しかなかったようだが。
「! ……しつ、こい……!」
追いついて攻撃を仕掛けるサオリ達を認めて、ヒナはうんざりした様子で吐き捨てる。
巡航ミサイルによるダメージに加え、無限に湧き出てくるユスティナ聖徒会との絶え間ない連戦で、いくらヒナと言えど限界は近づきつつあったが、それでも膝をつくことは彼女の矜持と責任感が許さない。
対するアリウススクワッドも、戦略兵器二人との交戦で疲弊したミサキ、足と耳を奪われたヒヨリ。万全なのはサオリしかおらず、彼女も現状の勝利に確信は持てなかった。
しかしそれでもやらねばならない。
「……その男を渡せ……!」
「邪魔……っ!」
スクワッドと無限のユスティナ聖徒会を相手に、弾丸一発で致命傷になる脆弱な大人を庇って尚、互角と言えるほどの戦闘を繰り広げる。
過酷な訓練を乗り越えてきたスクワッドをして一抹の恐怖を覚える恐るべき戦闘能力だが、それもあと一押しで崩れる、薄氷の均衡だった。横合いから見慣れた銃声が響き、ヒナの体勢を崩す。
「姫っ!?」
〈おまたせ〉
スクワッドの全員が揃い、ヒナの疲労は限界に達しつつある。サオリが勝利を確信した瞬間に、しかし轟音を響かせ、さらなる闖入者が現れた。
「こちらです、先生!」
「ッ、クソっ!!」
ゲヘナ救急医学部、氷室セナ。
ダイナミックにエントリーした救急車からすかさず先生に手を伸ばし、先生もまたそれに応えた。サオリ達がここまで追いかけてきたターゲットは今遠く離れようとしている。
「──あああぁぁぁっ!!!」
──しかし、結局のところ何も変わることはなかった。
サオリが絞り出すように放った弾丸は、最初からそうなることが決められていたと言わんばかりに、目標──先生の脇腹へと吸い込まれていった。
作者「EGO着せるなら何が似合うかなー孤独とか残香とかかなー?」
プロムン君「残香・孤独良秀出すやで〜」
作者「えっなにっなんだあっ」
色々考えた結果彼方の欠片とグラインダーMk4が一番似合ってると思います。あと畏敬軽蔑。