あるゲヘナ生のどうでもいいモラトリアム   作:匿名ゲヘナ生

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沢山の高評価お気に入りありがとうございます。
概ね逆張り愚痴垂れ流しのつもりで書いているので、ここまで評価されるというのはなんだか逆に怖いことでもありますが。

リノもびっくりして表情が引きつっています。

【挿絵表示】


全身絵も多分そろそろ上がります。


救急医学部

 河川敷。雨上がりのひんやりとした空気と曇って和らいだ日差しを浴びて、濡れた芝生に身を預ける。

 車のエンジン音、人々の談笑、鳥の声、……銃声。

 

 今日は何もしないことにした。

 あらゆる価値や利益が根本を辿って無意味になるならば結局主観的な快楽こそが最大の価値であり、主観的に価値を見出す物事がないのならばすなわちあらゆることに価値はない。

 つまり今はサボりが最適解。いい感じのロケーションで昼寝する。

 

 実際のところ、多くの人間が時節を問わず全力で打ち込める物事を持っているとは考えにくい。

 にも関わらずそんなものが物語的に、あるいは自己啓発の題材として手垢がつくほどに使い込まれ尚も使われ続けているのは、現実に存在の希少さが広く感じられているものだからだ。

 では何故私は耐え難いほどの虚無を抱え、他の人間は明るく生きていられるのか、いや。実態がどうあれ弱ったところを公共に晒すわけないでしょ。今のナシで。

 

 さて、しかしながら社会的にまともな体裁を保つくらいのことはゲヘナ生はともかく多くの人間が出来ていることなわけだから、それを私が成し得ていない要因は何であるか、ということだ。

 いや、成し得ていないというのも少し違う。客観的に見れば私は万魔殿の議員というエリートであるかの棗イロハよりか劣る程度、不真面目かつ不安定であるもののしっかりと与えられた業務をこなす能力と責任を持っていると言っていいだろう。つまり私を"不足"と断ずるものは他ならぬ私自身である。元から他人の評価なんて気にしたことないし、常に現状に満足せず向上心を抱き続ける将来有望な若者と言えなくもないね。

 

 しかしそれはあくまでも理性の話。

 こう有れかしと自らを強く律する()がそう言っているからといって、本能的な欲求に従い行動に強く意味を与える()の考えが変わることはない。

 今朝から私が感じている通り、私の本能は今あらゆることに価値を見出さない。何もかもが平坦であり、白紙のキャンバスも誰もが絶賛する名画も等しくなんかを拭き取る用途にはごわごわしてて不便そう。

 

 別に今日に限った話じゃない。よくあること。

 積み上げた石を崩す鬼はやって来ないが、積み上がった石は積み上がった石でしかなくそこに何かを見出すことはない。

 どうしてこんなことになってしまったのか、と。それもまた何度も考えたことだ。気圧の変化、月の物、小さな不幸の連続、外的要因は列挙するに困らないが、それが頻繁に発生する事例ならば絶えず変化し続ける外部よりも変わらない内面に目を向けるべきだろう。

 まあその結果が、

 

 Q:何故退屈なのか?

 A:何も楽しくないから。

 

 みたいなクソ問答になるわけですが。

 実際理由や原理もなくそこにあるのが欲求や楽しみというものなのか、あるいは実体験のサンプルが貧弱すぎてまだ法則を割り出すに至っていないのか。どちらにせよ今はこれ以上前に進めることはできないって訳でね。

 

 しかし、完全に行き詰まっているわけでは──ない。誰もが当たり前のように大切にしていながら、えーと、私が……普通は──────。

 

 

 

 

 

 

 

 ─

 

 ──

 

 ───

 

 ────なあリノ、お願い! 勉強教えて!

 

 え、いや私もそんなに勉強出来るわけじゃないんだけど? そもそも物事を理解できることとそれを他人に教えられることはイコールじゃなくて──。

 

 ────頼む! 他に頼れる人いないんだよ!

 

 いやいやいるでしょ。ほら、棗さんとか火宮さんとか。

 

 ────いやだってほら、あの人はなんか取っつきにくいしし、チナツはそもそも下級生だし。

 

 取っつきにくいって……勇気出して話しかけてみれば? 交友関係は広いに越したことないでしょ。

 

 ────……その、リノって色んなこと知ってるだろ? だから私、リノのこと尊敬してるんだ! リノが教えてくれるなら安心できるんだよ!

 

 あー、あーあーもー分かったからそういう事デカい声で言うな。放課後そっち奢りね。

 

 

 

 

 

 

 ─

 

 ──

 

 ───

 

 ────ゴメン、もう一回お願い……。

 

 ……えーっと、どこが分からないとか判る? ……うん、OK。じゃあ最初から一つずつ行こうか。分からないところがあったらそこで止めてね。まずxに2を代入して……え? そこから? 嘘だろ……。……ふふっ、まあいいよ。閉店まで粘ってやろう。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「……うおっ!?」

 

 懐から引っ張られる感覚で、意識が急速に現実に引き戻される。えーと、さっきまで何考えてたかな? 寝てたんだろうけど、記憶が曖昧だな。なんか夢見てたような気もするけど。

 

「あー、スリ防止のあれだ。珍しいもんつけてんじゃん」

 

「大丈夫かなこれ、今ので起きてたりしないよな?」

 

「いいよこんなの切っちゃえば。誰かハサミ持ってない?」

 

 薄目で見てみれば一般的不良が三人、私の財布(ダミー)を持ってなにやらわめいている。

 うん、知ってた。こんなところで無防備に昼寝してたらそりゃあ格好の獲物でしょうよ。だから。

 

「どわっ!? ……ぐえっ」

 

 紐を思いっ切り引っ張り、倒れ込んできた不良にすかさず腹パン。その銃頂きますね。ショットガン、マガジン式? 変なの。はい、1、2。

 

「ぎゃっ!?」

 

「ごっ!!」

 

 メインウェポン使うより威力高いとかどうなってんのさ。あれ結構使い込んだんだけど。

 腹パン≧そのへんのショットガン>愛銃ってか? 個人差はあるにせよキヴォトス人の耐久性とはまこと不思議なことで。

 

「……ぐぅ、てめえ……!」

 

 一人まだ起きてた。

 直ぐ様マウントに移行し、ショットガンを口に突っ込む。

 

「がぼっ!? や、やえお……!」

 

「咥えたことある? 飲んだことは?」

 

「は!? い、いきありあいいっへ……」

 

「たわむれだよ」

 

 ばん。

 風紀委員2年目だが、そういう事例は見たことも聞いたこともないし、過去の記録を漁っても見当たらない。

 これほど手っ取り早いシゴトもないと思うんだが。

 まあまずロボ市民はついてるのか怪しいし、獣人もストライクゾーンが違ったりするのかもしれんね。

 

「もしもしヴァルキューレ?」

 

『えっ、いや救急医学部ですが』

 

「うん知ってる。こっち風紀委員だけど死体三つね。場所は●●地区の──」

 

 両手の親指だけ後ろ手に縛って、足はスニーカーだったのでそれで。一応こういう時のためにロープを持ち歩いてたりはする。

 

「お疲れ様です。……やはりリノさんでしたね。した……怪我人はこちらでよろしいでしょうか?」

 

 救急車をドリフト停車させて現れたのは救急医学部の部長、氷室セナ。冗談交じりにネクロフィリアなんて言われたりするが、他学校に出しても恥ずかしくない常識人(当校比)だと私は思ってる。

 

「あいよ、とりあえず減点だけ……ん〜、付くんかなこれ」

 

「別にいいと思いますよ、リノさんなら間違いもないでしょう」

 

「……はは、そりゃまた」

 

 買い被りじゃね?

 正直窃盗未遂くらいでブタ箱送りなんかしてたら牢屋がいくらあっても足りないので、どの辺から処罰ラインなのかよく分からんかったりするのだが。

 そもそも狙撃してる連中は特に正式処分とかしないでほったらかしだし。まあ、そっちは半分趣味なんで多少はね?

 

「……相変わらずこんなことを続けているんですね」

 

「んあ?」

 

「私も医療関係者ですから。捨鉢になっている人を見るのは、あまり気分の良いものではありませんよ」

 

「……そりゃあ……、難儀なことですね?」

 

 そういうのはなんて言うか、困るなぁ。

 いや、別に誰が悪いとかじゃないけどさ。ただの価値観の相違ってやつですよ。強いて言うならば少数派の価値観を持っていながらそこを明確にしないこちらに非があると言えますけど。

 そもそも別に私だって気分が良い時くらいありますし? 部屋の掃除とか買い出しとか、朝から登校したりとか出来るが?

 

「まあ大丈夫ですよ。こう見えてリスク管理とか、引き際とか、そう言う系のやつはちゃんとしてますんで」

 

「……そうですか。くれぐれもご自愛下さいね。では」

 

 行ったか。

 まあ、常識人や人格者であることと個人的に苦手であることはまた別の話でして。死体呼びや仕事ぶりに関してはむしろわりと面白いとも思うが、やたらこちらの輪郭を取ろうとしてくるというか、そんなに私を掘っても何も出ないぞというか。

 いやそれが普通なんだろうけど。うん、私、良い人って苦手だわ。

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