あるゲヘナ生のどうでもいいモラトリアム 作:匿名ゲヘナ生
……38.1。
うむ。昨日から鼻の調子は悪かったし、今朝はやけにぼーっとするからもしやと思ったら案の定である。
そうと決まれば色々と買い出しせねばならんな。
ネギ、生姜、ニンニク……はチューブがあるけど……薄切りしたいから買う。大根はいいけど切るの面倒だしなぁ。豚コマでいいか。そしてパックのうどん。水に晒してすぐ使えるやつ。あと蜂蜜、お茶、ゼリー飲料、冷えピタ……って使ったことないな。直接冷やして効果あるのか? まあうなされるほどであれば使うべきか。いらん。
しかしまあ、何処から貰ってきたのやら。特定は極めて難しいであろう。
というのも、キヴォトスでは基本的にマスク着けてるやつ=スケバンみたいなイメージが強いのか、感染予防で着けてるやつは殆ど見ないのだ。セナ部長も愚痴っていた覚えがある。
まあ華のJKは真冬でもミニスカートでお洒落するものと相場が決まってる故、全体的に理性の希薄なキヴォトスでは尚更か。実際地球でもそうだったんだろうか、分からん。
あとメタな話、マスク差分とか作るの手間かかるだけで実入りないからな。ネルパイとかは似合いそうだしチュルギいいんちょとかは忍殺って感じ。あ、あとアリスクはヒヨリ以外マスク差分あったね。
ま、周りがどうあれ私はしますけど。防疫効果、飛沫ブロックに加えて鼻腔や喉の保湿効果もあるから乾燥に悩む人は寝るときでも着けとくといいよ。
さて、ネギは丸々一本斜め切り、生姜は1/3くらい……まあみじん切りでええか。ニンニクは四片も入れちゃいます(粛清)! と肉を適当にえーっと、麺つゆ? 醤油? 味噌? 顆粒だし……うーん、味の素で調整してヨシ!!
で、あらかじめ戻しておいたうどん二玉を入れて適当に煮込む。
その間に残った生姜の半分おろして残りは薄切り。
おろしは蜂蜜と湯に溶かして魔法瓶。薄切りもタッパーで蜂蜜かけて軽く和えたら冷蔵庫。明日には漬かってるかな。
多分そろそろ煮えたので七味振っていただきます。洗うのめんどいので鍋のまま。
……うーん、鼻詰まっててイマイチ分からん。
まあ、不味くはない。食える。そもそも美味いってなんだろな。コンビニとかで売ってるものなんかは基本美味いだろうしレストランでお出しされるものなら言わずもがな。
自炊にしても食材や調味料に殆どハズレはなく、まともに作ってりゃ大体美味くなる。
だったら現代社会で口に入るもの大体美味いじゃないですか。そこら中に溢れかえっているものを取り立てて特別な形容をする必要ってないんじゃね。
はい、麺がなくなったので終わり。残りの汁は雑炊にして、夜食に回すか。
……暇だ。熱あんのにこんな事考えてんのもアレだけど。ゲームは今やっても下手くそなだけだし、私刑も同様。むしろようやく「死体撃ち」が恐れられてきたところで、舐められるような真似するのは悪手でしかない。予習も前世知識で補える範囲で特に要らんし……。いや、常ながら私本当に普段何もしてないんだな。こんなに何も思いつかないことある? 正直びっくりだよ。
…………寝るか、まだ夕方だけど。
押し入れからもう一枚、なんか微妙に湿気た布団を重ねる。
慣れたベッドに慣れない重み、鼻水すすり過ぎてガサガサの喉、鼻づまりに靄のかかった頭。
まあ愉快なはずもない。げほ。
………………。
……静かだ。
時計はアナログ派ゆえに秒針の音、クーラーの駆動音、遠く木々の風に揺れる音、時折聞こえる車のエンジン音、鼻詰まりで調子の狂った呼吸音、そして咳をして、鼻をすすっては噎せ返る音。
4分33秒とはジョン・ケージを代表するとんちじみた曲であり、私が今も流している曲だが、問題はこれが4時間33分でもきかないということなんですよね。下手すりゃ33時間4分*1ってくらいでしょ。
無論、野蛮人共の喧騒を恋しく思うことなどあり得ないし、静寂に飽きたのならセルフSpotifyのバリエーションは幾らでもある。
んで、起きてたってやることなんぞ無いというのに寝てるとどうにも落ち着かんのよな。寝れないし。それでSNSと掲示板を往復してはアホらしくなって寝ようとしてみる、やっぱ無理だからまたスマホ見てる。無限ループ!!
…………。
訪れる気配のない眠気、熱に浮かされバラバラになってまとまらない思考。
何で私はこんなことしてるんだ? いや何もしてないだろ、風邪引いてるからだよ。風邪を治すためにつまらなくて重たい空気に沈み込んでいる。無為に時間を浪費することに今さら焦燥を覚え、果たされるべき目的に向かうこともせずただ空転している。
笑えるな、寝ていようが起きていようがどうせ何も変わりはないと痛感しているだろうに、未だ改善の余地を諦められずにいるらしい。
快癒しようが拗らせようが、どちらも大差無い。
いや、流石に鼻水、せき、喉の痛みは不愉快なので治すに越したことはないか。でも、これを取り除くだけなら治すのも──死ぬのも、大して変わらないんじゃないか?
なぜ生きることが是とされ死ぬことは容認されないのか、結局は他人事だろうに、なぜ死に向かう人間は引き留められるのか、なんて分かってます。現世のあらゆる価値が生きていることを前提に成り立っている以上、その基盤を文字通り根本からひっくり返すコインの表裏的価値観が許されるわけがない。公的利益や生存本能という名の倫理の観点からも。
ある個人の価値を正確に測ることができるのは本人だけである故に、自死のハードルは他殺のそれに比べ有意に低いと言える。しかしその価値を他人へ明確に証明することができない以上、他人が未知数の価値を持つ他人の自死を止めようとするのも当然のこと。
だから自死を遂行するならば誰にも知られることがあってはならない。そもそも他人の価値や利益を著しく損なう大変な迷惑行為であるということはさて置いて。
まあでも風邪拗らせて死ぬのは嫌だな、めちゃくちゃ手間かかるしキツそう。そんなに積極的に死にたいわけでもないしな、もしそうならとっくに風紀委員辞めて中退届出して終わってるよ。
ただ、何の展望も欲求も無くただ苦痛に向かって殺風景な道を歩き続けることなど誰ができるのかと。
あんたらは何も悪くない、ただ自己実現のためにやりたいことへ一辺倒なだけだ。やりたいことがあって、毎日忙しくって、こんな変なことを考えている暇なんてない。
これこそ尊敬されるに値する模範的な人間の姿じゃないか、ただ私がこの世界に不適格なだけ。
……とかぐるぐるしてたらもう日も暮れている。
真っ暗な部屋にはいつもと変わらず、私一人だけ。
喉の渇きを覚え、枕元のペットボトルに手を伸ばす。
「……あ」
横着して布団の中から取ろうとしたら、ペットボトルは机から転がり落ちていった。中身がどくどくと流れ出し、カーペットに大きく染みを作っていく。
「料理がド下手クソね」
は? クソうるさいんだが。
部屋の出口にヒナが仁王立ちしている。このままだと普通にぶっ殺されるのでとりあえず窓から逃げることにした。
窓枠に左手をかけて体を持ち上げようとしたが、重くて全然持ち上がらない。右手がかかれば何とかなるだろうけど、タイミングが重要だ。けどもう左手が限界だ。あと10秒。9、8……。
「──……アホちゃいますのん?」
目を開けると、布団の中で変な体勢になっていた。
枕元を見れば、しっかりキャップの閉まったペットボトルが鎮座している。そりゃそうよ、なんで開けたまま放置しとんねん。
つかヒナちゃんのあのトゲトゲヘイロー久々に見たな。いや見るのは初めてか。やっぱあれだけ派手なヘイローだとそれ前提のデザインになるのかね、あった方が断然締まりが良いというかトンカツにキャベツというか。
喉を潤し、時計を見れば22:04。熱の方は大分良さそうだが、この中途半端な時間よ。また寝付けるのは大体2:00前後なんよな、経験上。地獄か? かと言って起きてもやること無いわけで────
◆
「あら……。おはようございます、リノさん。今日はちゃんと出席されたんですね?」
翌日。天羽アコ、何やら機嫌悪そうです。
理由など枚挙に暇はございませんが、もう少しアンガー・マネジメントというものを学んでもよいのでは?
まあ私が無断欠勤多いのは事実だし何も言わんけど。
「おはよっす。えーっと、今日の仕事は──ッ、ゲホッゲホッ! ……オ゛エッ、ヴヴン゛!」
「ちょっ、ちょっと……大丈夫ですか? 熱があるのなら帰って休んでいいんですよ?」
「いや、大丈夫すよ。熱もう下がってるんで」
「……はい?」
個人差はあるかもだけど、咳って風邪治りかけの時が一番出るよね。痰が絡んでウザったいのなんのって。
「まあ万が一とかあるし〜、普通にいい気もしないでしょうし。今日は端っこの方で書類でもしばいてますよ。ほな」
「な……」
何やら言いたげな様子だが、まあ放っといてええやろ。
キヴォトスの秩序側組織のご多分に漏れず、書類はいくら処理してもし足りないんだから、さっさと取り掛からねばな。万魔殿の嫌がらせが半分くらい占めてる気がしないでもないが。
「何なんですか、もう!?」
なんか言ってんな。
やはり何か気に障ることでもあったのだろう、逃げるに限る。
レイドお疲れ様でした。
気温の振れ幅の大きい時期ですので、皆様も体調にはお気をつけて。