魅了っていいよね! 作:男の娘もいいよね!
ラブ・アローの描写を修正。(2025/12/2 0:53)
ボクは試合の準備をしつつ、作戦会議のことを思い出していた。
「…で、ボクを出すのはいいけど何故に交代が古道飼クン?ポジション的には忍原センパイの方が良いのでは?DF居なくなるよ?」
「確かに普通ならばそう。だけれど今回は違う。今回の作戦のカギになるのはブロック・ザ・キーマン……相手を数人がかりでマークするタクティクス。つまり5対5の今回のルールなら元より防御力なんてかなぐり捨てているんだ。ならば1人でも攻められる選手を増やして速攻を決めたほうがいいんだ。それはそれとして何かあったら古道飼くんには出てもらうけど。」
………つまり、雲明クン曰く今回は攻め攻めで行く、ということらしい…
…さて、笛の音と共についにキックオフ。少し後ろの木曽路にボールが渡され、攻め込んでいく。当然相手も止めようとしてくるが…
「分身フェイント!」
「なっ…!?」
「惑魅!」
木曽路は3人へと分身すると、相手が呆気にとられている間に自分だけでパス回しをしつつ相手の頭上を飛び越す。
そしてボールがボクの元へと渡った。
「…まあ、やってみるか………ラブ・アロー!」
「ふっ…!この程度か!しっかりやれよ!」
そう言ってボクは色の薄いハートの矢をシュートとして放つが、やはりと言ったところか、キーパーにあっさりキャッチされる。恐らく威力はゲームならリアルスキル程度なのだろう。そしてボールが、相手のリーダー
「必殺技を使えるとは大したもんだが…うおおおお!!」
「はっ…!ダメか!」
そして鋭いシュートが放たれると、そのシュートはキーパーである
『流石ですね。彼らは過去に本気でサッカーをやっていたようです。』
「想定内だよ。…皆!始めますよ!」
あ、ちなみに雲明クンの隣で喋ってるこのゆるキャラロボットは
「なっ…!?」
そうしてボクらは、桜咲センパイ以外の3人で柳生センパイを取り囲み始めた。すると柳生センパイに光の鎖のようなものが巻き付く。行動を制限されている証だ。
「さぁて、孤独を味わってもらうよ。クックック……」
「……来夏さん、ここからでも分かるくらい悪い顔になってる…」
「なんかこういうの、テンション上がるわ〜!」
「だけどこれ、絶対に敵にやられたくない戦術だよなぁ…」
………にしても悪い顔してる忍原センパイ可愛いな、と余計な思考を端に置いておく。…桜咲センパイがボールを奪われ、相手は柳生センパイにパスしようとするが…ボク含む3人が近くにおり、パスは物理的にできないだろう。
「アイツら、柳生を孤立させようってのか…!?」
「俺を封じるだと?笹波雲明、俺への当てつけのつもりか…!」
さてそれはそれとして、点は取らないとまずい。とりあえず雑なスライディングでボールを奪い…
「忍原センパイ!」
「おっけー…!」
「そっちか…!?」
忍原センパイにボールを渡すと、彼女は曲がるシュートを放つ。まっすぐ飛ぶと思っていた相手キーパーは瞬時にゴールの端へ飛び込むが…
「悪ぃな、それが狙いだ。」
「なっ!?」
とても怖い悪ーい顔をした桜咲センパイがボールの元へ走り込むと、ノーマルシュートによりシュートチェイン。シュートを方向を再びまっすぐへと矯正すると、相手キーパーは正面に戻ることもできず…そのままゴールネットが揺れる。これで1点取り返した。
「……すまん、柳生………」
「………クソッ!ふざけやがって…!俺はサッカーだって、野球だって、イケてるんだ…!」
柳生センパイは歯を食いしばりながら言う。さぁて、そろそろだろうか?試合は再開され、相手選手が木曽路を抜き去る。そして…
「……なんでもいい!!俺にパスを回せ!!」
柳生センパイは痺れを切らしたように叫ぶと、ボールを要求する。…が、無茶な話だ。確かに今木曽路は動けないが、忍原センパイとボクがしっかりマークしているのだ。
「無駄ですよ。僕らは柳生先輩を機能させない。例え他の選手に点を取られようとも!名付けてタクティクス「ブロック・ザ・キーマン」!1人つぶし!」
「てめぇ、そこまで根に持っているのか!」
柳生センパイは怒り心頭、といった感じか。しかし雲明は首を振りつつ、続ける。
「違います。野球部の常套戦術を潰したんですよ。野球部は全員、柳生先輩への接待プレイへ徹する。ソレが出来なくなったらどうなるでしょうか。」
「なんだと…卑怯な…!」
「卑怯ではありません。1人にボールを集めるのが戦術なら、集めさせないのも戦術です。」
柳生先輩の目は揺れている。得体のしれないものを見るかのように。
「笹波、お前…何が狙いだ…!?」
「一人の人間が…どれだけ無力かを思い知らす。」
ああそうだ、1人じゃ人間は生きられない、戦えない。寂しさに、孤独に押しつぶされ動けなくなる。……俺がそうだったように。
「何!?」
「柳生先輩だってもう気づいてるんじゃないですか。無条件にチャンスをもらえる者がどれだけ有利か。どれだけ実力以上の働きができるのか。チャンスをもらえなければ、先輩だって無力なんです。」
……柳生駿河、彼は親が大物の政治家だ。それ故接待、忖度と言えるようなプレイを続けられ、彼は嫌気が差し野球へと転向した。
……それでも親の呪いからは逃げられないと知らずに。
そして彼はチャンスが自分一人に集中する状況に強いプレッシャーを感じていた。…それを雲明クンは「拷問のようなスポーツ」と称する。そして雲明クンは、それまでとは一転、優しげな笑みを浮かべ、先ほどよりも高めの声で言う。
「…もう降りたら良いんじゃないですか?ガキ大将の役。」
……感情をせき止めきれなくなったのか、柳生先輩は涙を流す。
「お前に…何がわかるんだ…お前に…!」
「僕にはわかりません…だけど、羨ましいです。僕はチャンスどころか、こんな風に普通にサッカーをすることもできないから…だけど神様は、こんな僕にチャンスをくれた。ここにいる仲間たちと一緒にサッカーをやるチャンスを。」
そして、雲明くんは眉を吊り上げ、声を上げる。
「だから先輩には思い知ってもらいます。自分の無力さを!」
「………笹波雲明……………」
柳生先輩は、声を絞り出す。
「やらせろ…俺にサッカーを…!いや!誰が何と言おうと、俺はやる!うおおおお!!!」
そうして柳生センパイは走り出す。ボクらのマークを振り切って。そしてボールを持つ桜咲センパイと相対する。
「……!」
「…はい、やりましょう。」
2人は汗を流しながらぶつかり合う。ボールこそ途中で奪われるも、桜咲センパイは柳生センパイに張り付く。
「柳生!ここは通さねえぜ。」
「桜咲ィィィィ!!!」
「…っ!なんだと…!?」
「俺だって、サッカーをやりたかったんだ!!」
そうして柳生センパイは、桜咲センパイも、忍原センパイも、木曽路も、ボクも抜き去っていく。そしてボールを空中に蹴り上げる。しかしそこで…
「はぁぁぁ…!」
桜咲センパイがゴール前まで戻ってくる。そして桜咲センパイも飛び上がると、2人でボールを蹴り合う。ボールは弾かれ、木曽路に渡る。
「つっても、オレのシュートじゃとても…!…はっ!惑魅!」
「えっ…!?」
そこで、ボールが渡る。……そこで、ふと脳裏に声が響く。原作に介入しよう、と決めた時から見て見ぬふりをしていたものだ。
「はたしてボクに出来るのか?」…好きだった超次元サッカーの世界に来て、嬉しい気持ちもあった。けれど…果たしてボクに出来るだろうか?本来南雲原中サッカー部に、それどころかこの世界に
「怖気づいちゃいけない!」
「惑魅ィ!今打てるのはお前だけだ!」
「惑魅くん!」
「やっちゃえー!」
「頼んだ!」
「いけぇ!惑魅ー!」
……ああ、周りの人が、ボクを信用してくれている。俺の心が温まる。そして同時に、得も知れぬワクワク感に身を包まれる。頭が細かい思考をするな、楽しめと言ってくる。………そうだ。せっかく、サッカーをやっているんだ。
「楽しまないと…損だよなっ!!」
そうしてボクはかかとでボールを蹴り上げる。ボールはピンクのエフェクトが付着しながら、空中へと上げられると共にエフェクトはより濃くなっていく。そしてボクも飛び上がり、蹴りを叩き込めばボールは一瞬大きなハートへと姿を変え、ハートの先端からピンク色の光線として発射される…!
「ラブ・アロー!!」
「ぐっ…!?うおおおおお!!!」
しかし相手キーパーも根性を見せたのが、ボールを強く殴りつけると長い拮抗の末にボールを弾いてしまう。
…でも、今のボクは確信があった。
あの、ゲームで見た、俺と一緒に戦ってくれた南雲原のメンバーなら……
「決めてくれる!!」
「うおおおお!!」
桜咲センパイが高く弾かれたボールへと追いつくと、横に一回転で勢いをつけ、鋭い蹴りを叩き込むと、ボールは濃いめの赤の花弁と共に光線のようなシュート技、剛の一閃として放たれる!
「なっ…!?」
相手キーパーは反応すらできずに、そのままボールがゴールネットへと槍のように突き刺さる。
「ないっすぅ!!」
「…どうだぁ!!やっぱ気持ちいいぜ!!」
そしてそこで笛が鳴る。紛れもなく、ボク達の勝利が決まった瞬間だ。
……事前に雲明クンに言われていた。今回の試合の勝敗は正直どちらでも良い、今回の試合の目的は柳生センパイにサッカーの楽しさを思い出してもらうことだと。
…………そしてそれが成功したかどうかは……まあ、彼の表情を見れば言うまでもなかった。
「………楽しかったー…!!!」
見切り発車で細かい所を考えずに前回を出したので、実は色々後悔している