バットを召喚してヴィランを殴ることができます!!!   作:ヴィラン・エネミー

1 / 4
バットは人を殴るものではない

個性。この世界の人間が持ちうる能力。これのおかげでこの世界の科学は100年先へと発展したともされる異能。時折、個性のない人物も生まれるが些細な問題だろう。別にこの世界は個性があろうとなかろうと生きていけるのだから。

 

 

個性:バット

バットを召喚できる。

 

このたった1行が私の個性。もっと厳密に言えば、この世に存在しない物質でできた壊れることも折れることもないバットなのだが、そんなことは些細な問題だ。

 

一見、野球選手を目指せばいい個性に見えるのだが、現代の野球なんて超次元野球でしかなくこんなバットを生み出せる程度じゃあマウンドにすら立てない。

 

つまり、どういうことかというと。こんな個性でできることといえば───────

 

 

 

──────ヴィランを殴ることだろう。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「た、助けてくれ!!!」

「やだ♡」

 

誰もいなくなり荒廃した路地裏。とある事件を契機に復活したオール・フォー・ワンによって全国の刑務所が機能停止し、数多くのヴィランが野に解き放たれて早数週間。

この成人男性もまた脱獄したヴィランであった。タルタロスほど厳重な刑務所ではないがそこそこ警備の厳しい刑務所を脱獄してきた彼は今度こそはと、新たな人生を夢見て旅立とうとしていた。それなのに、彼は今年端も行かない可憐な少女にその姿を追われることとなっていた。

 

「ヒーロー!!!誰でもいい!!助けてくれぇっ!!!!」

「安心してよ。私もヒーローなんだから、さっ!!」

 

成人男性の近くの壁にバットが叩きつけられる。それは大きな音を立ててコンクリートの壁を抉る。その様子に顔を青くした成人男性は脱兎の如く走り出す。少女はそれを見て面白そうに笑うとスキップするようについていく。

 

「どうして逃げるの〜!?貴方が求めてるヒーローが助けに来ましたよ〜!!」

「お前はヒーローじゃないだろ!!」

 

少女はバットをブンブンと振り回し、自分の居場所を誇示するように歩き回る。対して、成人男性はそのバットの先端が見えるや否や喉からか細い悲鳴を上げながら逃走を図る。これは今日の朝から現在時刻午後3時に至るまで何度も繰り返された光景だ。

 

「ん〜〜?どこかな〜!?困ってる人がこの辺にいるはずなのになぁ?!」

「なんで追ってくるんだよ!!この犯罪者がよ!!!」

「犯罪者〜!?誰のことを言ってるのかわかんにゃい!!!???」

 

少女はバットを3個ほど同時に召喚するとそれぞれ別の方向に射出する。それは、鉄筋コンクリート程度に負けるほどの性能をしていないため、最も容易く鉄筋コンクリートは粉々に砕かれる。そして、成人男性の逃げ道もどんどんと塞がれて行ってしまう。

 

「あ〜!!みぃ〜〜つ〜けたっ!!!!」

「ちっ!あぁっ!!!くそっ!!!」

 

到頭、血塗れのパンダのお面をつけた少女が成人男性を追い詰める。逆のように見えるかもしれないがこれが今の正しい配置だ。方や、脱獄かました凶悪個性犯罪者。方や、犯罪者絶許♡ヒーロー擬き。これを見ればどっちが悪いかなんてはっきりわかるよね。

 

「俺が何したっていうんだ!!!」

「んー。殺人19件、殺人未遂78件、強盗致死12件。現状脱獄してるし、あとは……あれあれあれあれ〜?いっぱい犯罪履歴があるようだけど〜?顔に見合わず派手だね」

「これからは真っ当に生きるんだよ!!!」

「無理だよ。現に脱獄中でしょ?さっさとお縄につけば?」

 

成人男性はキッと目を鋭くすると何かを決心したように拳を握る。

 

「ここで捕まったら今度は死刑だろうが!!!!」

「あらら。逆上?ま、いいや」

「死ねぇっ!!!」

「えっと、個性:毒針。体から猛毒の毒針を出すことができる、か。ま、殴れば関係ないよね」

 

ボコッ!!!!

小気味いい音と共にバットが振り抜かれる。それは、ヴィランの体から生えた毒針を殴り壊しながらヴィランの脳天へとぶつかる。決着は一瞬だった。脳天に到達したバットによってヴィランの意識は簡単に途切れる。

ヴィランが最後に見たのは狂気的な笑いを浮かべているパンダのお面の少女だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「さ〜て、綺麗に事件解決!!!今日も冴えてるね相()♡」

 

少女は同じく血に濡れたバットに頬擦りをする。

彼女にとってバットは心の友であり、唯一無二の関係性だ。

 

「さ〜てさてさて。もう悪さできないように両手両足砕いとこうか。よっしゃ、相()!!やっちゃおう!!」

 

空高くバットを振り上げる少女の耳にとある音が届く。風を切るような、そこそこ重量のある物体が急速に飛来するような、そんな音。

 

「あれれ〜?結構早いね!!MY,HERO!!!」

「やっぱり君だったか。猫熊さん」

「ん〜、猫熊汐梨(ねこぐましおり)。私の名前だね。でも今は、流離いのヒーロー。緑谷くんも、このお面の通りにメラノレウカと呼んでほしいなっ♡」

「どうして。こんなことを…」

「変な質問だにゃ〜。そんなのヒーローだからに決まってるじゃん。ヴィランをボッコボコにするのが仕事なんだよねぇ〜。まっ、お給料は出ないけどね」

 

汐梨と名乗った少女は自身のパンダのお面をとって緑谷出久と相対する。その瞳には何も映さない。ただ黒々と染まっている。

緑谷出久はその綺麗なヒーロースーツと共に靡くマフラーをギュッと握り声を上げる。

 

「猫熊さんのやってることは間違ってるよ!!僕が言える立場じゃないけど。それでも、そんなふうに人を痛めつけるなんて」

「ん〜?よくわかんないけど、ヴィランだしいいんじゃない?あ、コレどうにかしてくれるの?ありがとー!!」

「いや、ちがっ。ヴィランは引き取るけど。猫熊さんも一緒に来てよ」

「ん〜〜〜〜〜〜〜。無理っ♡ボクはまだまだやらないといけないことが満載だからね!!お茶子ちゃんたちにもよろしく伝えておいてね!!それじゃあ、バイバーイ!!」

「あ、まっ」

 

少女は少年に手を振り、ターンを決めると明るくスキップするかのように路地裏へと消えていく。後には、気絶したヴィランと緑谷出久だけが残される結果となった。少女を追いたいが、ここにいるヴィランも放置できない緑谷出久は泣く泣くヴィランを抱えて街の中へと戻っていくのであった。

少女の足取りは軽いものだった。

 

「久々に会えてよかったなぁ。みんな元気でやってるみたいでよかったよ〜〜!!」

 

少女はなんとなしにバットを取り出し地面に擦れるように持つ。カラカラカラとアスファルトとバットの擦れる音が路地裏に反響する。少女以外に存在する唯一の音を聞きながら少女はにっこりと笑顔をその顔に浮かべながら薄暗い路地裏を歩いていく。それは、獲物を探す肉食獣のように。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「う〜〜〜〜!!(ボク)のなんちゃってヴィランセンサー!!次の標的はどこにいるのかな〜〜!?困ってる人でもいいよ〜!!」

 

少女は、誰もいないビルの屋上でこめかみに指を当て念じるように街を見下ろす。なんの効果もないただのポーズでしかないこれも彼女にとっては最も信頼できる一つの方法。

 

「ん〜〜!!みっけ!!!それじゃあ、パンダヒーロー:メラノレウカ!!出勤だ〜〜!!!」

 

手元にバットを召喚し、目的地へと向ける。まるでホームラン予告のように彼女は予告する。

 

ヴィランはやっつけるし困ってる人は助ける。

 

何も持ち得ない、何も救えなかった少女にとっては幸せなひと時の再来である。

 

 

少女はビルから飛び出し、目的の大通りへと向かう。その手には一本のバットを握って。

 

 

 

 

元雄英高校ヒーロー科1年A組出席番号16番。

ヒーロー名、パンダヒーローメラノレウカ。ヴィラン名、バットガール。

本名、猫熊汐梨。

 

その一世一代の大舞台。御ゆっくりどうぞ。




1発ネタ。好評なら続くかも。

パンダヒーローはハチさんの楽曲『パンダヒーロー』の題名であって歌詞ではないのでガイドラインには接触しないと思われる。(運営からの通告があれば変えます)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。