バットを召喚してヴィランを殴ることができます!!!   作:ヴィラン・エネミー

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2話目です。


いまでも夢を覚えていますか?

1.睡眠中に、あたかも現実の経験であるかのように感じる一連の観念や心像。

2.将来実現させたいと思っている事柄。

3. 現実からはなれた空想や楽しい考え。

4. 心の迷い。

5. はかないこと。たよりにならないこと。

(出典:コトバンク)

 

 

これは誰にでもよくある思い出。

 

「みんなの夢は何かな!?」

「はいはーい!!プロヒーロー!!」

「お金持ち!!」

「お姫様になる!!」

 

「それじゃあ、汐梨ちゃんの夢は?」

 

「ん〜〜〜。私の夢は────────」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あれあれあれ〜〜〜???な〜んでこんなところに脱獄犯がいるのかな〜〜!?」

「あ゙?なんだ、ガキ?」

「あ〜!!その左目、見覚えある〜!!マスキュラーだっけ!?」

「なんだ、俺のこと知ってんのか。で、なんの用だ?殺すぞ」

 

マスキュラーと呼ばれたヴィランは少女のことなどお構いなしにあたりの家から集めたであろう携帯食料や缶詰の中身を貪る。時折、飲み物を用いて口の中の食べ物を胃の中に流し込んでおり、早急に栄養を摂る必要があるのだろう。

少女はパンダのお面の奥でクツクツと笑いながらマスキュラーの食事風景を興味深そうに眺める。

 

「えっと〜〜、殺人32件に傷害145件、ヒーローの殺害2件、あと現在進行形で脱獄。さっさと捕まった方が身のためじゃない?」

「あ゙?…死にてぇんだったらそう言えよ!!」

「貴方だってこんなところにいるなんて捕まえてほしいってことでしょ〜!?仕方ないなぁ、私がこのバットで捕まえてあげるよ!!」

 

少女は生み出したバットを向ける。対してマスキュラーはその肉体の筋繊維を肥大化させて獰猛に笑みを向ける。たった今ここで、人知れず戦闘が始まる。

 

「おらぁっ!!!」

 

マスキュラーは手始めと言わんばかりに拳を振り上げ少女に接近する。しかし、その拳は彼女の振るうバットに阻まれる。ガギンという鳴筈のない音を奏で、2人は見つめ合う。

「えいっ!!」という軽い声が聞こえるとマスキュラーの米神を撃ち抜く鈍い音がする。全く警戒していなかったためしっかりと当たってしまったマスキュラーは飛んできた物体を視認する。それはバットであった。普通の金属とは異なるバットは全身を筋繊維で覆っているマスキュラーにすらも届いてしまう威力を誇る。

 

「ちっ!!生み出せるだけじゃねぇのか!!」

「あれあれ〜!?どうしたの〜!!!ほらほらいくよ!!!」

「やってやらぁ!!」

 

少女は手に一本のバットを持ち、少女の周りを漂うようにバットが2本浮かぶ。少女の個性、否、そのバットの性能によって、少女は十数mと短いが空中であっても触れることなく操作が可能となっている。射程は少女を中心に十数mと短いが遠距離攻撃として使用することができる。

バット2本が全く異なる方向に飛び、正面からは少女がマスキュラーへと接近する。少女の大雑把ながら素早い振りはいつもなら殆どのヴィランにダメージを与えていただろう。しかし、マスキュラーには届くことなくその手前で止められる。

 

「あ゙?なんだ?簡単に掴めるじゃねぇか」

「そりゃあ、可憐な少女だもの!!」

「お前、さてはそこまで力ねぇなァァァァ!!クハハッ!!」

 

マスキュラーへと殴りかかる少女であったが、そのバットは難なくマスキュラーに掴まれてしまう。筋肉増強の個性と一般的なものを生み出す個性。力加減なんぞ簡単にわかるだろう。さらには成人男性と二次性徴を迎えたばかりの少女。勝てるわけがないのだ。

 

「じゃあ、死ねッ!!!」

「嫌に決まってるじゃん!!」

 

少女はすぐにバットを手放し距離を取る。空中に飛ばしていたバットも効果が見込まれないため自身の近くに戻す。少女はマスキュラーが取ったバットを消し去ると自身の手元にもう一度召喚する。それに対してマスキュラーはビルをも破壊してみせる拳を振り抜く。咄嗟にバット2本を自分の前でクロスさせて防御を試みるのも虚しく少女はそのまま後方の廃墟に吹っ飛ぶ。ガラガラと音を立てながら瓦礫が崩れ、少女の体には幾つもの傷がつく。

 

「痛いなぁ!!もう酷いよ。ヴィランなんだからさっさと捕まりなよ!!」

「嫌だ!!俺はなぁ!!もっともっと遊び甲斐があるやつと遊びテェんだよ!!テメェみたいな雑魚はごめんだぜ!!」

「無理だよ♡」

「はぁ?」

「321、はいドーン!!!」

 

少女がポケットからスイッチを取り出すと問答無用に押す。すると突如マスキュラーの近くのビルの根本が吹き飛ぶ。ビルは支えを失ってそのままマスキュラーを押しつぶすように倒れ込む。地震を錯覚させるような地響きが辺りを包み込み、土煙が視界を遮る。少女は立ち上がると服についた埃をポンポンとはたき落とす。バットを取り出し、どうせ生きているであろうビルの下のマスキュラーに思いを馳せる。案の定、ビルの瓦礫が盛り上がるとその中心部からほとんど無傷に近いマスキュラーが現れる。その額は血管が浮き出て、怒りを浮かべていることが容易に想像がつくだろう。

 

「やってくれたナァ!!雑魚のくせに生きがんなよ!!!」

「あらら。生きてたんだ〜!!じゃあもう1発!!!」

「は?やらせねェよ」

 

少女がもう一つボタンを取り出そうとするが、マスキュラーはその仕草を見て即座に地面を蹴り少女に肉薄する。「じゃあ死ね」と短く言葉を吐き、拳を振り上げる。しかし、少女はそれを見るとお面の下で蠱惑的な笑みを浮かべると取り出そうとしていたアイテムをマスキュラーに見せつけるように取り出す。それはスイッチとは似ても似つかないアイテムだ。

 

「ざんね〜ん♡」

 

ピカッ!!!

 

少女のポケットから取り出されたのは一つの閃光手榴弾。ピンがすでに抜かれていたそれは2人の中央で目を焼くほどの光量を放つ。少女はお面とその下で目を瞑ることで被害を最小限にしたがマスキュラーはそれを直に受ける。しかし、その拳が止まることはない。マスキュラーは閃光手榴弾を直に受けたにも関わらず拳を引くこともなければ呻き声を上げることもなかった。ただ、マスキュラーの拳は正面の少女を殺すためだけに振り抜かれる。

 

「死ね!!」

「え、まじ!?」

 

ここで初めて少女から驚きの声が漏れる。少女は本能からか自身とマスキュラーの間にバットを召喚する。マスキュラーの拳はバットにぶつかるもその威力を抑えることはできず、少女は最も容易く風船のように吹き飛ばされる。少女の体は何棟ものビルを突き抜け民家にぶつかる。少女のお面はもはや原型を止める方が難しいほどにボロボロになり、少し触るだけで粉々に砕けてしまうだろう。

 

「あ〜、くっそ〜!!いったいな、もぉ」

「まだ生きてんのか。案外しぶといなァ!!!」

「まぁね。……そういえば、なんでヴィランなんてやってんの?」

「あ゙?なんだ、お喋りかァ?時間稼ぎでもしてんのか?」

 

少女は先ほどまでの狂ったような言葉遣いをピタリと止め、そう問いかける。全身ボロボロでもう立ち上がることすらできないであろう少女を前にマスキュラーは怪訝な表情をする。

 

「ううん、ただの好奇心。最期に知りたいなぁって、ね」

「そうか。なら教えてやるよ。楽しいからだ!!強いやつと戦うそれでしか俺は生を実感できないんだよ!!!わかるだろ?もっと強いやつと戦いたい!!殺し合いをしたい!!俺はただそれだけのために生きている!!お前を殺したら次は雄英かァ?緑谷もいるだろ、あそこならなァ!!」

「そう、」

 

夢、夢、夢。

走馬灯が走る。少女の夢はなんだったのだろうか。時間がスローモーションな世界で少女は考える。

小学校の頃、参観日で両親の前で夢を発表する機会があった。もはや覚えてすらいない少女の夢。荒唐無稽で、それでいて非常に現実的なその夢は決して小学生の口から出るものではない。今やバットを握るしかできない少女にとってこの夢は非常に大切なものだった。野球選手などという不可能な夢じゃあない。

 

「ん〜〜〜。私の夢は────────」

「正義の味方として悪いやつをぶっ飛ばす!!」

 

少女のバットが折れないのは正義の味方の心が折れることはないから。少女のバットが強いのは正義の味方は強くあるべきだから。少女のバットが空を舞うのは正義の味方は空を飛んでやってくるから。少女のバットは少女の心そのものだった。少女の心がバットを作り出し、今現在に至るまで少女のメインウェポンとして少女を守っている。

なら、それならば────────

 

「なら、それなら。生かしちゃおけない」

「あ゙?なんで立つんだ?今から死ぬのによォ!!」

「私は正義の味方。あなたみたいな敵をぶっ倒すためにある」

「そう、私の心がこのバットを作ってた。それなら!!」

「──────このバットが折れない限り!!私の心が、私の体が折れることはない!!!」

 

少女の目には闘志が燃えていた。目の前の悪を倒すという根源的なその思いが燃えている。ご都合主義のようなこの光景。しかし、そのご都合主義はまさしく少女を後押しする風のように吹いている。

正義のヒーローには挫折と再生、そして新たな武器を手に入れる。どんなヒーロー物にもそんなご都合主義な展開が必要だろう?

 

「そうかァァ!!!まだ立ち上がるなら俺が全力で叩き潰してやるよ!!!そして、テメェの頭を緑谷への手土産にでもしてやろうか!!」

「このバットは私の心そのもの。それなら、心が変化すればバットも変化する。なんで、こんな単純なことにも気づかなかったのかな」

「うだうだうるせェェ!!!本気で殺し合おうぜ!!!」

 

少女はゆっくりと自分のバットを見つめる。マスキュラーの拳が少女の眼前に迫る。しかし少女が慌てることはない。慣れた手つきでバットを持ち上げるといつものように振り抜く。

 

「吹き抜けろ、私の思い!!」

 

バットは少女の心に応じてその姿を変化させる。バットなのはバットだ。しかし、マスキュラーの拳に対して振り抜く際に噴射口のようなものが増設される。噴射口からが勢いよく炎が吹き荒れ、推進力をバカみたいに上げる。先ほどは押し負けたバットだが、今回は全くの逆だ。推進力を得て勢いが増したバットがマスキュラーの拳を精密に捉え打ち砕く。マスキュラーの拳の筋繊維は最も容易く砕け、本来の肉体にまでダメージを与える。

拳とバット2つの力がぶつかることによって生まれた風によって少女のパンダのお面はボロボロと崩れる。しかし、少女はそれを気にすることなくマスキュラーを見据える。マスキュラーにも見えることだろう。少女の瞳で燃えている悪への怒りを、悪を打ち砕くという意志を。

 

「はァァ!?なんだよテメェ!!こんな隠し球があったのかァ!!最高じゃねェか!!もっと見せてくれよォォ!!!」

「飛んできて!!そしてフルスイング!!!」

 

少女がそう叫ぶと、空中に3本のバットが召喚され、ロケットエンジンのような同じく搭載された噴射口から炎を吐き出して亜音速でマスキュラーの元へと飛び立つ。少女も合わせて飛び出し、マスキュラーへとバットを振り抜く。もう一度増設された噴射口はさっきよりも大きくなり、噴き出る炎もさらに大きく燃え上がる。

 

「こいよォォ!!!これが、俺の最高最強の一撃だァァァァ!!!!」

 

マスキュラーはさらに筋肉繊維を増やす。千切れは増強し、千切れは増強しを繰り返せば普段の数倍にまで筋肉が膨れ上がり、もはやマスキュラーの存在が筋繊維に覆い尽くされてしまうほどであった。それを拳一点に集中させてマスキュラーは今現状できる最大の威力を誇るパンチを繰り出す。それは以前に緑谷出久に使ったもののさらに上をいくものになるだろう。それほどまでにマスキュラーは興奮していた。

 

片や、自身の肉体の数倍は超えるであろう筋繊維によって威力を増幅させた拳。片や、自身の肉体を大きく超える噴射口によりこれまでとは一線を画すほどの速度を手に入れたバット。それらはぶつかり合い、空間を歪ませ、音すら置き去りにする。

 

「…ちいっ。負けた、か」

 

そのどちらが勝ってもおかしくない交戦は、少女が少しばかり上回ったことにより終了を迎えた。全身の筋繊維が解け、元の肉体になったマスキュラーは膝をつき正面に倒れ込む。

 

「勝っ、たぁ」

 

バットを握る握力も残っておらず、振り抜いたバットを取り落とした少女はそう短く呟く。少女も立っていることができずに膝をつく。全身が筋肉痛で悲鳴をあげ、ここから一歩も動けないことが容易にわかってしまう。ここからさっさと逃げなければ雄英の誰かに捕えられてしまうことだろう。

そんな考えが頭をよぎるが、疲労と臨死体験によって疲れ果てた少女はゆっくりとその意識を闇に落とす。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

名前:猫熊汐梨

ヴィラン名:バッドガール

罪状:殺人、死体損壊

 詳細:ヴィラン2名を鈍器により容姿の判別が不可能になるまで殴打し殺害

 

両親2名と姉1名の4人家族。姉は彼女と同じく雄英高校に通っていた。

(以下略)

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