このボスは完全にオリジナルボスとなります。
2022年11月25日(金)11:25
アインクラッド第1層
中央の渓谷
「「「あ〜…」」」
ボス討伐直後。私達はその場で倒れ込んでいた。
周囲でモンスターがポップする様子は無く、谷底を静かに風が吹き抜けていく。圏内ではなく、ましてや安全地帯というわけでもないのに、私達はどうしてかそんな状況に心地よさを感じていた。
「ハァ〜…いまだから言えるけどナ〜…ぶっちゃけ、勝てるとは思ってなかったヨ」
「おれも〜。って言うか何で勝てたんだろうなおれら?」
「もう〜みんなひどいわよ〜」
そんな言葉を交わしながら笑い合う私たち。
そうしている内に張り詰めていた物が少しずつ弛緩していくのを感じた。
「それでシズクっち。あの時は時間無くて聞けなかったけどヨ、ちょっと聞いても良いかナ?」
「なに?私に答えられることなら何でも聞いて」
「『なるべく壁際に寄せて、突進を誘発するように』ってオレっちとアベルに言ったロ?今思えばあれは何だったんダ?」
「あぁその話?」
それは私が戦闘終盤でアルゴ達に伝えたお願いだ。
「うーん…ちょっと確かめたいことがあったのよね」
「確かめたいこと?」
「今考えを整理するから待ってて〜」
私は目を瞑って思考する。
今までプレイしてきたゲームの常識とこの世界の常識を照らし合わせる。
モンスターの挙動からプレイヤーの動き。環境の変化と五感から得られるあらゆる情報。
それら全てを整理し終えて目を開けた。
「アルゴとアベルはこれ以外で似たようなオープンワールドMMORPGってプレイしたことはある?」
「おれはないな。そもそもネットゲームだってこれが初めてだし」
「オレっちはそこそこそこそこプレイした記憶があるナ」
「その時もこんなふうにボスと戦ったりした?」
「まぁナ」
「その時ボスって…と言うかモンスターってどんな動きをしていた?」
「どんな動キ?」
アルゴは「うーん」と何かを思い出そうと腕を組む。
「スマンシズクっち、さっきからオレっちは何を聞かれているのかさっぱり分からねエ。勿体ぶらずに答えを教えてくれないカ?」
「じゃあ結論から言うわね。あの大イノシシは
私がこのボス戦を通して辿り着いた結論がこれだ。しかしアルゴにはいまいちピンときていなかった様子で──
「そりゃ当たり前だロ。じゃなきゃどうやってオレっちを攻撃してるんダ?」
「──いや、そういう意味じゃないぞアルゴ。シズクの言いたいことがやっと分かってきた」
「なんだヨ揃いも揃って」
「アルゴはゲームをやってて『何でこの距離で気付かないんだよギャハハwww』って思いながら敵に張り付いたことはあるか?」
「お前さんは突然何を言い出すんダ…ってナルホドそう言うことカ」
「そう言う事なの」
このゲームを始めてから今回のボス戦で理解したこと。それはこのゲームのモンスターに索敵エリアのような物が存在せず、こちらを補足する手段のほぼ全てが視覚を含めた感覚器官によるものだと言うことだった。
より正確には、アクションゲーム等でよく見かける『何の前触れもなく突然こちらを捕捉して襲いかかってくる敵』や、ステルス系のゲームで見るような『条件を満たさない限りこちらを捕捉できない敵』がこの世界では存在せず、モンスター毎に何らかの手段でこちらを認識した上でこちらの行動次第で敵対して来ていた。
「この世界の敵って、よく私たちのことを見ているのよ」
「よく見ていると言うと?」
「私たちの武器の種類とその構えや、それらを含めた身体の動き。他にも色々あるけど、一番びっくりしたのは顔まで見ていることに気付いた時ね」
「嘘だろ?あいつらそんな細かいところまで見てたってのか…」
「それで今回のボス討伐ではそれがどう関係してくるんダ?」
私は一息おいて話し始める。
「ちょっと前置きが長くなったわね。
今回戦った『ワイルドボアロードオブザセンターバレー』はある意味とてもわかり易い敵だった。私達がこれまで戦った『フレンジーボア』と殆ど同じ行動パターンを持ち、体格も大きかったから弱点も狙いやすかった。
だけど体格が大きい分基礎ステータスはフレンジーボアとは比較にならないほど高く、巨体を活かしたダイナミックな攻撃を多用されたことで私達は嫌でも『今回は今までの戦闘とは違う』と言うことを意識せざるを得なかったと思う。
口元の牙を振り回す攻撃はフレンジーボアもやってたけど、あっちは威力射程速度の全てが途轍も無く大きかった。周囲を囲んで攻撃した時にはカウンターとして全方位跳躍回転攻撃を見舞われるなんてビックリだったわね。
極めつけはあの突進攻撃。
HPが減るにつれて出る速さと威力と速度が少しずつ速くなってた。特に怖かったのが蹂躙走行…あのフィールド内を走り回るあの攻撃ね。みんな同じだと思うけどあれが一番怖かった……っ!?」
一瞬脳裏を過ぎる死の感触。
痛み無くただ大きな衝撃に吹き飛ばされる不快感。視界の端で無慈悲に残量を減らすHPバー。
そうした無機質な死が私の全身を縛り付ける。
──息が出来ない。苦しい。苦しい!
そう感じるのはアバターの私なのか、それともリアルの私なのか。
「ハァ…!ハァ…!」
「シズク!おい落ち着け!」
「大丈夫ダ、ホラゆっくり深呼吸だヨ。まずは吸って〜、次に吐いて〜」
「スー…ハー…スー…ハー…」
二人はいつの間にか近くに居たらしい。アベルが声をかけ、アルゴが私の背中をさする。
「ハァ…ハァ…ご…ごめんなさい…話の…途中ぅ…だったわね…」
「…やっぱりコエーよな。おれだってそうだよ」
「アベルも…まだ…?」
「さっきはホントに夢中になってて気にならなかったけど、やっぱり怖いよ」
「…まだ引き返せるけど、どうする?」
「それはグモンと言うやつだぜシズク。ここまで来たらにはついでにフロアボスも倒すつもりで行こうじゃねえか」
「ははは…なんて頼もしい…話の続きをするわね」
「おう」「ヨロシク〜」
「えーっと…そうそう。蹂躙走行の話の途中だったわね。
最初にあの技を見た時に思ったのは、フィールド内を壁にぶつかる度にランダムで向きを変えて走り続ける攻撃だと思ってた。でもそれにしては少し様子がおかしかったの」
「様子がおかしいってどういうことだシズク?」
「…イヤ、何となくオレっちも思い出してきタ。確かにあの走り方は最初にシズクっちが想像していたものなラ
「何だよアルゴまで…もういいから答えを教えてくれシズク」
「そうね…簡単に言うと完全ランダムな動きに見せかけて、私たちを絶対に逃さないように、且つ一番ヘイトを買っていた私に集注して突進攻撃を行っていたの。
アイツは確実に私を仕留めるつもりだったのね…」
私の答えにアベルは納得した様子で「ああ!なるほど!」と頷いていた。そして「あ!」と何かに気が付いたようで私に質問をする。
「じゃあシズクがあそこで確かめたかったことってのは、あのすんごい突進攻撃を自分に向けさせようとしてたってことか?」
「時間がなかったから検証はできなかったけど、それでも確証は得たかった。結果だけ見たら大当たりだったわね」
「けどヨ、その話だけだとあの岩壁に激突させるって発想は浮かばないんじゃないカ?アイツいつも突進攻撃は壁にぶつかる前に止まってたゼ?」
「そう、一番見たかったのはそこだったのよ。そしてコレが今回前置きで話したことと繋がってくるの」
横になっていた身体を起こして私は話し始める。
「さっきも話した通り、この世界のモンスターは視覚を含めた様々な感覚器官を用いて周囲の状況を把握しているみたい。
突進攻撃が岩壁にぶつかる直前に止まる事が出来たのも、視覚情報として岩壁との距離と自身の突進攻撃の速度をきちんと把握していたからだと思う」
「ケドそれだけだとアイツ自身にそこで攻撃を止めるようにプログラムがかかっているだけかも知れないゼ?確信を持てたのはどうしてダ?」
「止まった時の岩壁との距離にかなりバラつきがあったからね。他にも壁と平行して走るときがあったけど、その時はいつもなら止まっていた岩壁との距離でも止まることがなかったのも大きいわね。アレは絶対に壁に当たらないと確信しないと出来ない動きだった」
「マジか…あの短時間でそこまで見ていたのかよ…」
「って事はだヨ?あの蹂躙走行はシズクっちにはこれまでの攻撃と違うものが見えてたわけだナ。
いつもは壁の手前で止まっていたのが、急激な方向転換がついた。その仕組みについてはどうだったんダ?」
「ビックリしたわよ〜、あの図体でチンチラみたいに壁を蹴って急ターンしてたんだから」
「イヤそれはおかしいだロ…」「マジありえねぇ…」
あの時は一瞬、大イノシシが何か別の生き物に見えていたような気がする。そういう意味ではこの世界は現実とはかけ離れた法則が働いているということなのだろうか。
「となるト、壁を蹴ってターンしてたってことはその分の加速も乗るわけダ。それが何度も何度も続くかラ…最後の方でシズクっちが対応できなくなるのも仕方がないカ」
「で、その攻略法が、滅茶苦茶速くなったアイツが岩壁にぶつかる前に目を潰すことだったってことだな?」
「そういう事〜。あぁは〜疲れた〜」
ある程度説明しきった私は再び大の字になって仰向けに倒れる。何と言うか今回の戦いはパズルのピースが綺麗にハマった感じだった。
NPC達の会話から得られた新鮮な情報。終盤におけるモンスターの挙動。私の考えに乗って即興で連係を取ってくれた2人のβテスター。
特にこのパーティーにアルゴとアベルが居てくれて良かったと強く実感する。この世界での戦いに慣れている2人だからこそ今回の作戦は成功したと言っても過言では無い。
私のほうが足を引っ張ってなかったか心配になるくらいだ。もしそうだったとしても2人は何も言わないだろうけど、それでも自身の力不足と経験不足を実感せずにはいられない。
「…もっと強くならなきゃ」
「けどもうこれ以上は無理だぜ?今日はもう帰らないか?」
「そうしたいんだがナァ…」
アルゴが指差す先を見る。
「「あー…」」
戦いの中盤で大イノシシの地団駄で発生した落石。戦いが終わったあともソレは渓谷の入口を塞いだままの姿でそこにあった。
「そういえばあれがあったわね…」
「けっこう高く積み上がってるよなー…登れそうか?」
「出来なくはないだろうガ…今のお前さん達は手や足を滑らせた場合落下ダメージで死ぬナ」
「ここまで来てそんな死に方はイヤね…」
「取り敢えずこれを使っとケ」
「良いの?」
「今のお前さん達のHPバーは見ているこっちも心臓に悪いからヨ。せめて赤帯から黄色には戻しておケ」
「そういうことなら遠慮なく」
「サンキューアルゴ!」
私とアベルはアルゴから受け取ったポーションでHPを回復させる。柑橘系のジュースに似た爽やかな酸味が喉を通る度に生きている実感を取り戻していく感じがした。
「さてと…どうしようかしらね?」
入り口を塞ぐ無数の落石を前に私たちは思案する。
「どうするも何も、そもそもこれってどうにかなるのか?」
「いやどうだろウ?まさかこのまま道を塞いだままにしておくわけには行かないだろうガ…」
「あー…私わかっちゃったかも…」
「何だシズク?」
「これって…殴ってどうにかなったりしない…かしら?」
「いっちょ試してみるカ」
そう言ってアルゴは適当な片手爪ソードスキルを落石に向かって叩き込む。すると──
「…落石の耐久ゲージが出たナ」
「…なあシズク?」
「言わないで。何も言わないで。分かってる。分かってるから。分かってるから何も言わないで」
「お、おう…まだ何も言ってないけどな」
──イノシシの突進攻撃はここに向かって誘導すればよかった。
その事を理解した私は羞恥に顔を覆う。
「オレっちだけだと武器が保たねェ。二人も手を貸してくレ」
「了解」「やるぜ!」
こうして各々の持つ武器で道を塞ぐ落石にソードスキルを叩き込む。
それから暫く時間が経った。
◇ ◇ ◇
同日12:00
同層
中央の渓谷入り口付近
「「「ぜ…全然減らない(イ)…」」」
約30分近く。私たちは休むことなくソードスキルを落石に放ち続けた。絶やさず手を止めず集注を切らさず。
にも関わらず減らせた落石の耐久力は全体の1割ほど。耐久力消滅というゴールは確かに存在するがそれがあまりに遠く感じられる。
時間をかければ確実にここからの脱出は叶うことだろう。しかしそれとは別の問題に私たちは直面していた。
「お…お腹すいた…」
「なぁ…他に何か食いもんはあるか?」
「さっきので最後だナ…」
今回、私たちはボス討伐を目的として必要最低限のアイテムしか持っていかなかった。
と言うのも、もしボス戦途中で不測の事態に陥った際にすぐに目当てのアイテムを探し出せるように持ち物を厳選する必要があったためである。予定ではボス戦後はすぐに拠点の村へ引き返す事になっていた所でこのアクシデントである。
「幸い、このゲームにスタミナや空腹ゲージみたいなものはねェ。この調子で続けていけば何とかなるとは思ウ。思う…けどヨ…」
「頭じゃ分かってはいるんだ…頭じゃ…ただ体が…」
「お…思うように動かない…」
「やべぇナ…ここまで来て空腹で全滅とか洒落になってねえゾ…」
この世界において空腹とは、この世界のシステムが脳に与える情報としての空腹感に過ぎない。言ってしまえばただお腹が空いていると感じるだけで、それが現実の肉体に影響を与えるわけではない。
しかし偽物と分かっていても自分が今お腹が空いているというふうに感じるのは本当な訳で…
「っ…ダメ…槍先がブレる」
「おれも…なんかいつもよりに剣が重い…」
「オメーら、もう口に出すんじゃねえゾ…口にする度に欲求が膨れ上がル…」
──ひょっとして空腹ってこの世界で一番危険な状態異常では?
明確な数値やアイコンとして出てくるものではないものの、それでも確実に発生する生理現象。この世界で発生する生理的欲求が食欲と睡眠欲だけで本当に良かったと思うことは多かったが、今ここで空腹のせいで普段のポテンシャルを発揮出来ないのはもとより、ここを切り抜けたとしても拠点への帰り道でこの状態のまま戦闘に入るのが一番まずい。
「取り敢えず仲間内にメッセージは送ってみたガ…ここに来るまでどれくらいかかることカ…」
「ナイスアルゴ!」
「それだけでも…希望が持てるわね!」
ほんの少しの希望を得ながら落石の掘削作業は続く。先ほどのボス戦よりもずっと大変な作業だと思いながらソードスキルを打ち込みながら暫く経った。
「あれ?この前来た時ここって塞がってたか?」
「確か酒場のNPCが崖が崩れやすくなってると言っていたと思う。もしかしたらそれと関係があるのかも知れないな」
落石の向こうで人の会話が聞こえる。
アルゴが呼んだのとは別口だろうがそれでも人がいることに一筋の希望を得た。
「っ!すみません!助けてください!閉じ込められてるんです!」
「その声はプレイヤーか!?確かそっちにはボスがいたと思うが無事か!?」
「全員生きてます!けど途中で閉じ込められちゃって、何とか出ようとしているところです!」
「俺たちは何をしたら良い?」
「とにかくこの岩を攻撃し続けて!そうすれば壊れる筈です!」
「分かった!聞いたなお前ら?俺たちもやるぞ!!」
「「「応!!」」」
反対側にいる見ず知らずのプレイヤー達の助力を得て掘削作業を進める。向こうに何人のプレイヤーが居たのかは知らないが、私たち三人よりもずっと速いペースで作業が進み、落石の耐久力も目に見える速度で減少していくのが分かった。
私たちはそこからさらに時間をかけて掘削作業を進め、落石の耐久力ゲージが残り1ドットくらいまで減った所で私たちは途中で相談した通りに作業の手を止めた。
「よし、向こうにいる君達!今から俺が最後の一撃を加える!何が起こるか分からないから、一旦離れてくれ!」
「了解!みんな行くわよ」
「ようやくでられる…」「……」
おそらく向こう側にいるパーティーのリーダーと思わしき人物(声から若い男性)の指示に従い、私たちは落石から距離を取る。
「十分距離は取ったな?では行くぞ!」
直後に岩向こうから『キーン』と言うソードスキル発動前に発生する特徴的な駆動音が聞こえてくる。
「でぇやああああああ!!」
──ゴゴーーン!!!
そうして男の放ったソードスキルを受けて、耐久力が0になった落石が盛大に音を立てて吹き飛んだ。
私たちは落石のかけらが一斉に青い光となったのを確認してから元いた場所へ急ぎ足で戻る。
落石のあった場所の向こう側には土煙で個人の判別はつかないが6人の男性プレイヤーがおり、その内のリーダーと思わしき男性がソードスキルを振り抜いた体勢で技後硬直の為に静止していた。
「これにて救出完了、かな?」
土煙が晴れるのと同時に、硬直が解けたリーダーと思わしき人物が姿勢を正して立ち上がる。
その男は端正な顔立ちと青色に染色した長髪の持ち主で、後髪だけを首元で一つに纏めた美丈夫だった。
現在のレベルとスキル熟練度
シズク
レベル:15
スキル熟練度:
・両手槍[140]
・投剣[100]
・釣り[96]
育成傾向:
速さに寄ったパワーファイター
アベル
レベル:15
スキル熟練度:
・片手剣[138]
・盾[109]
・剛力[77]
育成傾向:
単騎で攻防を両立したタンク
アルゴ
レベル:12
スキル熟練度:
・片手爪[100]
・両手爪[68]
・隠蔽[87]
育成傾向:
スピード特化の斥候