星を目指して   作:白蜜8901

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 想像するのは楽しい。だけど想像を埋めるのはなかなか難しい。
 ホロウ・フラグメントのスキルをここから多少取り入れていきたいと考えます。
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次の目標

 2022年11月9日(水)10:00

 アインクラッド第1層

 ホルンカの村入り口

 

 現在のレベルとスキル熟練度

 

 シズク

 レベル:7

 スキル熟練度:

 ・両手槍[77]

 ・投剣[53]

 ・釣り[66]

 育成傾向:

 速さに寄ったパワーファイター

 

 アベル

 レベル:7

 スキル熟練度:

 ・片手剣[56]

 ・盾[69]

 ・剛力[36]

 育成傾向:

 単騎で攻防を両立したタンク

 

 アルゴと出会った翌日。私たちは村周辺の森でひたすらモンスターを狩り続けた。

 目的はレベル上げと熟練度の上昇。

 レベルはクエストを熟せば経験値が入って上昇はするものの武器スキルはそうもいかない。よって村に来た当初の予定通り『リトルネペント』など、森に潜むモンスターを中心に私たちはスキルを磨き続けた。おかげで村周辺では、運悪くフィールドボスなどに出くわさなければその他の敵には問題なく対処できるくらいには強くなれたと思う。

 

 スキル熟練度も上昇して新たなソードスキルも獲得。これで戦術の幅が広がった。内容に関してはいずれ披露する機会があると思うのでここでは割愛する。

 この他にアベルも新しくスキルを習得。

【剛力】スキルは主に攻撃力と防御力にボーナスを与える常時発動(パッシブ)スキルがメインとなるスキルだ。初期の熟練度でも『チャージ』と言う能動的に発動するスキルが使え、その効果は『次回発動するソードスキルの効果量増量』と言うかなり破格なもの。ただし一度発動した後はかなり長めの待機時間(リキャストタイム)が設定されているため、ここぞというタイミングでしか使用できないとのこと。更にこの先で登場すると言う『武器を手放させる』スキルを持った敵に対してもほんの少し抵抗ができるそうだ。

 私のスキルに関しては据え置きだ。次の習得にはこの先のレベルアップで枠が増えるのを待つしかない。それまでは手持ちのスキルを成長させることに注力する。

 尚、その過程で【釣り】スキルが本当に趣味枠だったことを私はようやく思い知るのだった。無論、後悔はしていない。現実で時間を取れなかった私が、このゲームに囚われて初めて趣味らしい趣味を見つけられたのは皮肉な話ではあるが。

 

 武器と防具については残念ながら昨日以上のものに更新することは現状だと不可能として断念。理由は単純で、そもそも現在装備している以上の性能の武具が店に売られていないことにある。これに関しては次の村や街に期待をするしかない。幸いにも蓄えは十分あるので、これについてはそこまで遠い未来の話ではなさそうだ。

 

「さぁて、準備はいいかシズク?」

「バッチリよ。そっちは?」

「おれも問題なし!」

「じゃあ行こっか」

 

 一通りの確認を終えた私たちはいよいよホルンカの村を出発して次の村へと進む。まだ後続組が追いついていないところを見るに、暫くはそこを拠点に活動ができそうだ。

 一昨日アルゴから届いた情報を見るにはじまりの街の近場はあまり拠点として使わないほうが良さそうだと判断したのもある。

 今のアベルに彼らの姿を見せるのは、彼の心に非常に良くない影響を与える。アベルには伝えていないが、そういった感情を抜きにしても次の村に拠点を移すことに彼は賛成してくれた。

 

「そう言えば、聞きそびれていたことがあるんだけど良いかしら?」

「なんだ?」

()()とか()()って何のことなの?」

「ああ、それはな──」

 

 次の村へ向かうまでの道中、アベルから改めて説明を受ける。

 正式名称を『犯罪防止(アンチクリミナル)コード有効圏内』。アベルたちはこれを略して()()と呼ぶらしい。これが適用されている領域、例えば街や村の中などではプレイヤーは意図的に自身のHPを減らすことなどができないとのこと。状態異常もここに入った時点で無効となるらしい。

 逆にそこから出たら我々は途端に無防備になるそうだ。そこが所謂()()と呼ばれる領域になるそう。

 

「ま、ようするに街や村の中はある程度は安全って話だ。……表向きは」

「表向き?」

「……正直な話、今はありえねぇとは思うが……一応こんなことがβテストで起こった、ってことを話すぜ」

「な、何よ…急になんか怖くなったんだけど…」

「まぁ…怖い話だからな…」

 

 そんな前置きをして一息つくアベル。話を頭の中でまとめているのか、辺りを気にしながらウンウン唸っている。

 やがて整理がついたのか歩きながら私に視線を向けて話し始めた。

 

「まず先に話す大事な話として、このゲームにはプレイヤー同士の決闘システムが存在する。歩きながらでもできるから、メニューを開いてほしい」

「えっと…あ、これのこと?」

 

 メニュー画面を開くとアベルの言っていたであろう項目が目にはいる。『デュエル』とそう書いてあった。

 

「昔からあるMMORPGにはプレイヤー同士のバトルが出来る場合が多い。このゲームも例外じゃなくな」

「それってどんなのがあるの?」

「基本的には1対1の決闘形式。それをベースに3つのモードがある。1つ目はお互いに最初の一撃がクリーンヒットした場合はそれで試合終了の『初撃決着モード』。2つ目は一方のHPを半分まで減らせたら勝てる『半減決着モード』。これは『初撃』モードでお互いがミスった場合でもこの形式に変わる」

 

 最後の3つ目を言う前にアベルが少し深呼吸をする。なんとなく私もこの先の話が見えてきた。アベルが続きを話す。

 

「3つ目が『完全決着モード』。これはβテストでは大いに盛り上がったヤツだな。何なら攻略そっちのけでPvP(プレイヤー対プレイヤー)スキルを磨くヤツも結構いたよ。けど今は…」

「ここだと…本物の殺し合い…ってことよね?」

「そう…本当に死ぬならそうなっちゃう」

「………っ」

 

 ──何なのだ…このゲームは…何のために…

 

「ってちょっと待って、このゲームにもそういう遊び方?があるのは分かったわ。でもそれが圏内の話とどう関係してくるの?」

「この『デュエル』は圏内でも使える。つまり街中でもHPが減らせる」

「っ!?」

 

 息が苦しい。ここが仮想世界で呼吸もそのようにプログラムされたものであっても苦しいと感じてしまう。そんな事あるわけ無い。プレイヤー同士の殺し合いがこんな状況で起こるはずがない。頭がそうと否定したい。

 

「この話はこれから話す上で大前提の知識だ。その上で始まるのがβテストで起こった怖い話だよ」

 

 そうしてアベルから語られる話は、βテスト基準では笑い話になっていたかも知れないものの、本サービス基準となると途轍もなく恐ろしい話だった。

 

 曰く、フィールド上で半減決着モードによるデュエルで最後の一撃をオーバーキルがあった。

 曰く、広場で寝落ちしていたところを勝手にアバターを操作されての一方的なデュエルPK(プレイヤーキル)があった。

 曰く、曰く、曰く……

 

「おれが知っているだけでもこんなにある。特に怖かったのは【鍵開け】スキルを持ったプレイヤーが宿の部屋の鍵を開けてのデュエルPKだ。どうしてかは分からないけど、これについては発覚してすぐに運営から修整が入ったよ。具体的には【鍵開け】スキルの対象が『鍵のついたもの全て』から『鍵や罠のついた宝箱』に変わったことだな」

「ど…どうしてそんなにPKにこだわる人が多いの…」

「一番の理由は倒されたプレイヤーの周辺には、その時点で身につけていた武具が落ちる事にある。βテストではそれでレア装備を持ったプレイヤーがよく狙われた。強い奴ってのはとにかく情報が出るのが早くてさ〜、おれも何度かやられたものさ」

「アベルもそんな事があったのねぇ。それでその時の結果は?」

「もちろんみんな返り討ち!って言いたいところだけど…正直な話、撃退できた数はそう多くないんだよなぁ…なんであいつらあんなにに強いんだよ」

「へぇ〜なんか意外。アベルって私の中では結構つよいイメージがあったんだけどなぁ」

「おれはシズクがイメージするほど自分が強いなんて思ってないぜ?それにβテスト期間後半なんてそんなにログインできたわけじゃないし」

「あら、リアルの都合?」

「そうそう。遊びすぎだって父さん母さんに怒られた。どうせ遊ぶなら外で体を動かしてこいってね」

「ご両親の気持ちはわかる気がするわねぇ」

 

 育ち盛りの小学生男子が現実の体を動かさずにこんなゲームに熱中していると知ったら、私が両親の立場でも心配になりそうだ。

 自分の子供は丈夫に育って欲しいという親心なのだろう。

 

「ところで、プレイヤーが倒されたらその周辺に装備が落ちるのはわかったわ。他にはなにか無いの?」

「……無い。本当にそれしか無い」

「じゃあ、現状だと本当にプレイヤーを殺して得られるメリットなんて無いのね」

「ああ…ただ…」

 

 言葉を区切ってアベルが立ち止まる。私もそれに習って話の続きを待つ。

 

「…ただ…なんだろうね…どうしてなのかは分からないけど…この世界でなら…おれは…いや、やっぱりいいや。この話は忘れてくれ」

「あらら、いいところで切られちゃった」

「おれもホントによく分かってないからさ。とにかく話をまとめると、他のプレイヤーとかち合うことになったら気をつけようなって話さ」

「なーんか無理矢理纏められた感じねぇ。まぁいいわ」

「悪いな、分かったらその時に聞かせてやるよ」

 

 こうして私たちは再び歩を進める。次の村まではまだ遠いが、特に道中に対する不安はない。

 アベルと一緒だからだろうか。元βテスターとしての他に、心の底から信頼できる仲間がこうして早い段階から得られたからだろうか。

 そう考えると、この先の未来がほんの少し明るくなった気がする。先は長いが、アベルト一緒ならきっとこのゲームもクリアできる気がする。

 そんな根拠のない自信を胸に私たちは森を抜けるのだった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 同日11:30

 同層

 層北部中央付近の平原

 

「シズク!一体そっち行った!」

「わかった!」

 

 現在3体のダイアウルフと交戦中。その内2匹のタゲをアベルが取り、私が残りの1体を仕留める流れで戦っていた。はじまりの街周辺に出現するのよりも若干レベルが高く設定されているせいか、ある程度成長した私たちでも倒すのに少し時間を要している。

 戦いが長引いてしまったためか、アベルが受け持っていた内の1体がタゲを外れ私の方に向かってくる。

 接敵前に私は目の前のダイアウルフをソードスキルではない普通の突き攻撃で仕留める。目の前で光と共に四散した直後に横から飛び掛ってくるダイアウルフ。ギリギリで噛み付き攻撃は躱すが、爪が引っ掛かったために僅かではあるがHPが減少。特に問題はないと判断し、迎撃態勢に移行。

 飛び掛かってきたダイアウルフが方向転換して再びこちらに迫ってくる。奴の攻撃に合わせて、私は構えていたソードスキルを発動。

 白いライトエフェクトが空中に稲光に似た二筋の細長い直線を描き出す。瞬きの間に繰り出された2回の突きがダイアウルフの体に穴を空けた。

 

 両手槍ソードスキル2連突き技【ツインスラスト】

 

 両手槍スキル熟練度が一定値に達した事で初めて獲得出来た連撃ソードスキルの一つ。一撃の威力は単発技に僅かに劣るものの、発動が早いのに加え硬直時間が短めなので私は気に入っている。おまけにライトエフェクトがまだ奥の方に続いているのを見るに、このスキルは範囲攻撃としても機能しそうだ。今後も使う機会は多そうである。

 地上でしか発動はできないが、もともと私はアベルから教わった待ちの戦法が得意な為特に気になるところはない。なんなら他にも空中発動可能な連撃ソードスキルがあるおかげでいい差別化もできている。

 クリーンヒットした事で軽めのノックバックも発動した。ダイアウルフの頭上のHPバーがガクッと減少する。しかし討伐には至らない。そこへアベルが追撃のバーチカルをお見舞いする。僅かに残ったHPバーが全てなくなり、ダイアウルフは青い光となって四散した。

 

「ふぅ〜…いまので最後かしら?」

「ああ、そうみたいだ」

「私たち昨日より強くなったと思ったのに、ちょっと先に進むとまだこんな感じなのね〜」

「おれはソードアート・オンラインしか知らないけど、この手のMMORPGではよくあることなんじゃないのか?」

「うーん、物によるわね。少なくとも某闇の魂的な理不尽な要素はこのゲームにはなさそうかしら?」

「なんだそれ?」

「ぁあ、いえいえ、いいのいいの…うん…私も年を取るのね…」

「…なんかスマン」

 

 ──これが…ジェンダーギャップ。いや、リメイクもあるしまだまだ希望はあるわよ。うん。

 

「しかし戦いぶりを見ていつも思うんだが、本当にシズクはすごいな」

「え、すごいってどこが?」

「一度憶えたソードスキルを正確なタイミングでしっかり発動できることだよ。ここまで来ると天才と言うより、リアルで何かやっていた方がなんかしっくりくるな」

「うーん…一応中学高校で新体操をやっていたけど、それだけよ?」

「へえ、どんな事をするんだ?」

 

 そう聞かれてほんの少し記憶を掘り起こす。その過程で少しだけしょうもない事を思い出してしまってクスリと笑ってしまった。

 

「なんだ?なんか面白いことでも思い出したのか?」

「アハハ、まぁそれもあるわね。本当にいろいろやったけど、ここで活かされているのは『自分の動きを客観視する』って事ね」

「ん?それってどういう事だ?」

「部活中は自分の振付けを動画で撮影して、そこから粗を探し出して修整する、って事をずっと繰り返してたわね。綺麗に決まった時はそれはもう嬉しかったものよ」

「へー…あ、もしかして」

「うん、ソードスキルのマニュアルって構えとその後の動きが映像として見られるようになってるじゃない?それを細かいところまで見て動きを再現するのは私が学生の頃に何度もやっていたことと似ているの」

「だからここまで簡単そうにソードスキルを使えてたわけかー。もしかして戦いながら振り付けを考える感覚でソードスキルを使ってたり?」

 

 私はその問いに対して胸を張ってこう言った。

 

「ザッツライ!」

「すっげーなー!おれにも教えてくれよそう言うの!」

「うーん…教えるのはいいけど、このゲームって映像を録画するための道具ってあるの?」

「あるぞ」

「え!?あるの!?」

「何なら写真という名のスクリーンショットを撮る道具だってある」

「お、教えて!どこにあるの!?」

「お、おう…少し落ち着けシズク」

 

 少し前のめりになってしまったせいか、アベルが若干引き気味だ。

 

「えーっと確か…モンスターからのドロップが多かったと思う。店売りもあるのかもしれないけど、βテストでは見なかったはず…」

「それってどんなモンスター!?」

「ホントに落ち着け、な?確か──」

 

 アベルの説明によると、そのモンスターは石造りの人形のようなものだったと言う。ただ、当時のアベルが名前を読めなかったのとスペルを憶えていないため、場所とそいつの強さしか分からないとのことだった。

 

「石造りの人形…ゴーレムみたいな?」

「うーん…そんな名前じゃなかったんだよなぁ…あぁ言い忘れてたけど、今の俺たちのレベルではそこへ行くのは無理だぞ」

「どうして?もうそれなりに強くなったんじゃないの?」

「問題の場所が洞窟型のダンジョンなんだよ。行って直ぐに帰るって事が今までみたいに行かないし、そこのモンスターも結構強い。それにさっきもここのモンスターには苦戦してたから、このまま行くのはやっぱり危険だと思うんだ」

「うーん…アベルが言うならしょうがないかぁ…」

「どっちにしろ次の村で俺たち二人がレベルを上げができる時間は少ないと思う。だからそこでやれるだけやってからダンジョンへ向かうとしようぜ」

「うん、それもそうね」

 

 次の目標が出来た。

 この世界に来て、先の見えない未来に恐怖しながらも『このために生きてやる』って思えるものを持ちながら私は先へ進む。

 そうでもしないと不安に押し潰されそうだから。本当なら立っているだけでも限界なのにそれでも進まなくちゃいけないから。

 だから次へ、また次へと新たな目標を立てて生きていく。そうする事でまた明日も頑張れると自分に言い聞かせながら。

 でも…

 

 ──でも、これっていつまで続けられるんだろう?

 

「……」

「シズク?どうかした?」

「あ、ううんなんでもないの」

 

 少しぼーっとしてたらしい。ここが気を抜いたら危険な場所だと、頭では分かっているつもりではある。

 しかしどうしても実感が湧かないのだ。この世界がもう一つの現実だとしても、視界にちらつくHPバーやデジタル時計の表示、更に頭上のマーカーがここがゲームの世界だと私に教えてくる。

 唯一感じられる現実感はこのアバターだけ。けれど最近はリアルが忙しく休日も禄に体を動かすことがなかった私が、ここでは大振りな両手槍を振るってモンスターと戦っている。リアルでは法的にも膂力(りょりょく)的にも不可能なことだ。

 そんな客観的に見ても現実離れした光景が、余計に私がこの世界で()()()()()実感を薄れさせていく。

 

「……」

「シズク?」

「ここって…現実、なのよね?」

「…?おれはそう思ってるけど」

「そう…よね…」

 

 進むアベルの後を追う。地に足がついている実感は確かにあるのに、心が宙に浮いている感じがする。

 このゲームが始まってまだ3日。私はまだ、この状況を心から受け入れることが出来ないでいる。




 アベルはゲームの話になると頭の回転が速いです。
 シズクはこれからもそれに助けられることでしょう。
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