あんな効果いいな。
そう考えたらオリスキルが来てしまいました。
あと、HFのソードスキルもここから使わせて。
2022年11月13日(日)11:00
アインクラッド第1層
層中央より少し北の渓谷
現在のレベルとスキル熟練度
シズク
レベル:10
スキル熟練度:
・両手槍[96]
・投剣[77]
・釣り[66]
育成傾向:
速さに寄ったパワーファイター
アベル
レベル:10
スキル熟練度:
・片手剣[88]
・盾[74]
・剛力[43]
育成傾向:
単騎で攻防を両立したタンク
あれから4日経った。
新たに拠点とした村周辺ではそこそこレベルの高いモンスターを相手にレベル上げは出来たものの、クエストそのものはホルンカの村と大差はなかった。なんならホルンカの村の方が経験値の入りが良かったまであるかも知れない。
ともかく私たちは早々にクエストでの経験値稼ぎは最小限に留め、モンスターを相手にレベルと熟練度を上げていったのだ。
そんな中で私は装備を新調した。
今まで使っていた『アイアンスピア』から新たに『ボアホーンランス』と言う生物由来の穂先を持った槍になった。
外見はランスと書いてある通り、円錐型の穂先が柄の先端についている。角ということで骨っぽい色合いを想像しがちだが、意外にもかなりメタリックなカラーに仕上がっている。理由は単純で、素材そのものの強度を上げるために金属と合成したそうだ。いったいどんな加工技術が使われたのかは想像がつかないが、ここが異世界ファンタジーな世界観で成り立っていることを考えると何でもありかと思うことにした。何にせよ強けりゃそれでいい。
説明欄には『巨大イノシシの角を穂先に加工した』とあり、『アイアンスピア』と比較してかなり大雑把な見た目をしている。一応両手槍のカテゴリーに入っているため、使用感に特に問題はなかったことを追記しておく。
前使ってた『アイアンスピア』とは違い、穂先が刃となってないので斬撃属性の攻撃は出来なくなったが、私の戦い方を振り返ってみるとそこま刃状の穂先で斬ってはいなかったことを思い出し、ならいっその事『今は突きだけでいいじゃない』と考え購入となった。精々振り下ろしスキルの『アクシオン』が打撃属性に変わったことくらいだろう。
性能については攻撃力は勿論高く、更に貫通属性攻撃に僅かな特攻ボーナスがかかるとても嬉しい特性を持っている。
長々と説明したが、ともかく私個人は武器の新調というイベントに非常に興奮してしまったのだ。これまで使っていた槍に不満があったわけではないがそれはそれ。
それにアベルが早々に強い武器を手に入れたのを見て羨ましく感じたのもあった。武器を変えるだけであんなに戦闘バランスが変わるなら、早く新しい武器が欲しくなるに決まってる。
そんな念願が叶って大喜びな私なのだった。
スキルについては特に変化は無い。ここにきて少々上がりにくくなっていることが悩みの種ではあるが、強いモンスターと戦い続ければまた一気に上昇することだろう。この手のMMORPGはだいたいこのパターンで行ける。尚、近くに釣り場が無かったため釣りスキルはそのままとなっている。決して飽きた訳ではない。
そんな私達が今何をしているかと言うと。
「ブルルルルル……」
それは鼻息の音だった。私たちがいる場所からは結構離れた位置に居るはずなのに、その荒れたような鼻を鳴らす音は私たちにまで聞こえてきた。
「ねぇアベル…もしかしてアレってフィールドボスってやつ?」
「もしかしなくてもそうだ。あの先に迷宮区の塔が見えるの分かるか?」
アベルに言われてフィールドボスの巨大イノシシの背面の景色をなんとか覗き見る。そこには薄っすらとだが、第2層の天盤に繋がる白亜の巨塔が見えた。
「アレが私達の目指す場所なのね」
「そしてそれをジャマするボスがアイツだ」
もう一度アベルは巨大イノシシを見やる。遠く離れた場所から見ているため、名前までは分からない。しかしここからでも頭上のHPバーが特殊な仕様になっていることは見て取れた。
「アレって、HPバーが二段あるの?」
「そうだな。このゲームのボスは、大体がHPバーが雑魚モンスターより多いのが特徴だ。理由までは知らないけどね」
「きっと何かを区別するためにそういう仕様にしたのかしらね」
「さーな」
遠くからでもその威圧感は感じられる。今の私達が向かったところで、まともに相手なんか出来るわけがないとも。
「他に道ってないの?」
「うーん…あるにはあるけど…いろいろ考えたらここしか道がないんだよなぁ…」
「この山って超えられないの?」
「これを山って言えるシズクがスゲえよ。こんなの崖だぜ、崖。落ちたら死ぬよ」
「ダメかぁ…」
確かに落ちた時のことは考えてなかった。このゲームには落下ダメージが存在するそうだし、迂闊な真似はしないほうが良いだろう。
「それで、どうして私達はここへ?」
「おれの方でも、ちょっと確かめたくてな。アルゴに頼めばしっかりとした情報をくれるとは思うけど、やっぱりおれは自分の目で見てみたいもんだからさ」
「ふーん。それで何を確かめたかったの?」
「俺たちでアイツに勝てるかどうか…だな。けどやっぱり無理だ、アイツに勝てる気がしない」
「そんなに強いの?」
「βテストでおれたちがどうやってこのゲームを攻略したか話したと思うけどさ、アイツも例外じゃなかったんだ」
「確か、ゾンビ戦法だったっけ?」
「そうそう」
ゾンビ戦法。デスペナルティなどお構いなしに蘇生したらそのまま突撃して立ち向かっていく戦法。βテスト時代は大勢のプレイヤーがその戦術(戦術?)で大半のボスを攻略したらしい。
「って事はあのイノシシも…」
「そう…あの時は攻略も何もあったもんじゃなかった…何ならおれたちはアイツの名前も分からない」
「あー…」
ともなくアレは私達にはどうしようも無いことが分かった。
「レベルを上げてどうにかならない?」
「それもムリだな。ボスと戦うっていうのは一人や二人でやるものじゃないよ…そろそろ行こう」
「うん」
アベルに従い、後ろ髪を引かれるような思いを胸にこの場を離れる。そもそもここへ寄ったのも村で受けたクエストの寄り道だ。
いつか、私達はアレに挑むことになるのだろうか?その時私はここで生きているのだろうか?
そんな事を考えている私はその心の奥底で別の感情が湧き、その正体に得体の知れない恐怖を感じていた。
──アレは私の獲物だ。
◆ ◆ ◆
同日12:00
同層
層中央部の沼地
「ここ…足場が本当に悪い…」
「ここの敵は厄介だから、できれば戦闘はしたくないんだよな」
「でも、これもβでは見かけなかったクエストなのよね?」
「ああ、どこにも情報がなかったからもしかしたらレア物が手に入るかも知れないな」
「だと良いわねぇ…」
ヌチャヌチャと私達は
切っ掛けとなったのは道具屋でのやり取り。
この先拠点を中心に活動をするほかに、遠征先で野営をする機会が増えてくるだろうと考え、その準備を早めに行っておこうと相談したことだった。
そのための物資を揃えようと道具屋に行ったところ、商品棚の中に一箇所だけ売り切れ表示の棚があったのだ。
まだ私達くらいしか拠点にしていないこの村で、どうして売り切れの棚があるのか気になった私は思い切って店員に聞いてみた。するとクエスト発生のマーカーがNPC店員の頭上で発生。
ざっくり要約すると『商品の素材を採ってきて。場所はここだよ。でも気をつけて』とのこと。
こうして私達はクエスト『村の特産品』を開始して今に至るのだった。
「にしても…なんだってこんな場所に…」
「さぁな〜。とにかくここは用心するぞ。できるだけ戦闘はしたくない」
「了解」
そうして私達はクエストマーカーの示す沼地の中央部を目指して進み続ける。時が経つに連れ足が慣れてきたのか、最初に沼地に入ったときと比べてスムーズに歩けるようになってきた。
遠目に見えるモンスターの索敵範囲に入らないように距離を取りつつ何度か回り道をし、探索開始から約1時間後にようやく目的ににたどり着いた。
が、そこに待っていたのは…
「グルルル…」
「ガウガウ!」
「見事に陣取っているわね…」
「できればアイツらとは戦いたくないんだよなぁ…」
私達の目的である果実が生る樹。しかしその周辺に3体のスワンプコボルドが陣取っていた。
内訳は真ん中にトラッパー、その左右に
スワンプコボルド・ラットハンターの使う武器は両手槍。私の使っているのに比べたら粗末なものだが、問題はソードスキルを使ってくるということ。
この先はソードスキルを使ってくるモンスターが多く出現することの証左だろうか。その威力は十分理解しているため、用心するに越したことはない。
しかし問題は真ん中にいるトラッパーだ。
スワンプコボルド・トラッパーの使う武器は大振りのダガーと先端に
手にしたダガーで短剣カテゴリーのソードスキルを使う他、反対の手にある鈎縄でこちらの武器を絡め取る行動を取る厄介な相手だ。
鈎縄攻撃を受けてしまった場合、私たちは強制的に武器を手放すこととなってしまう。そうなった場合その戦闘が終了するまで武器を持っていないと言う非常に危険な状態となってしまう。
対策としてはそもそも手に持つタイプではない武器を使うか、或いは別の攻撃手段を持つことが挙げられる。
アベル曰く『ソロプレイヤーが絶対に避けて通る敵』とのこと。ある意味このゲームがパーティープレイが前提となる一番の要因のモンスターなのかも知れない。
「と言うか、こっちに来ないな」
「威嚇してくるだけね。一旦離れて対策を練る?」
「いや、そもそもコイツ等のために色々準備してきたようなもんだ。このままやるぞ」
「了解」
各々の武器を手に敵陣へ駆け出す私たち。臨戦態勢だった沼コボルドたちはすぐに対応する。
最初に動いたのはトラッパーだった。左手に持った鈎縄を思いっきり私たちに向かって投げる。私たちは左右それぞれ跳躍しつつ散開。うまく鈎縄を避けるが、その先にはラットハンターが控えていた。
私の所にいたコボルドはソードスキル【プレオン】の構えを取っており、直ぐにそれは発動される。しかし私も空中でソードスキルの構えを取っており、コボルドが【プレオン】を発動したのと同時に私のソードスキルを発動。
「フッ!」
短い呼吸、それと共に穂先が青いライトエフェクトを纏ってほんの少しだけ時間を空けて二度の突きが繰り出される。
「ゥ゙ギャ!?」
最初の一撃でコボルドの【プレオン】を叩き落とし、コンマ数秒後に続く二撃目が怯んだコボルドの喉元に命中。頭上のHPバーが大幅に減少し、コボルドは決して小さいとは言えない声量で短い悲鳴を上げた。
両手槍ソードスキル2連突き技【オメガポイント】
両手槍スキルの熟練度を上げたことで習得できた連撃ソードスキルの一つ。
同じ2連撃である【ツインスラスト】と比べると若干威力は落ちるが、この技の利点は空中でも発動可能な点にある。そんな不安定な体勢で繰り出せるお陰か、空中発動時は構えの判定が地上よりかなり緩くなっている。それもあってか、回避の繋ぎとしてこの技はとても使いやすく、私は重宝している。技後硬直も着地した時点で解けるため次の行動に移りやすいのも私がこの技を気に入っている理由の一つだ。
更に私が気に入っている所が、2撃目はある程度自分の好きなところを狙える点だろう。つまるところコレは威力よりも命中精度に寄ったソードスキルということなのだろう。その特性のお陰でこうしてウィークポイントに攻撃を当てることができたのだから。
ふと横目にアベルの様子を見る。どうやら向こうはコボルドのソードスキルを盾で防ぎつつ『剛力』スキルの【チャージ】を発動。それで威力の上昇したアベルのソードスキルでコボルドを仕留めたらしい。
たった一度のソードスキルスキルでコボルドを倒したのを見て改めてアベルの強さに感心する。アベルからすれば『装備とスキルの相性がいいからだ』言いそうだが、それを自力でここまで引き出せすのは本人の才能によるものだと思う。それとここで培ってきた時間か。
私が見た時点だともう既に終わった出来事だったためこれらは全て推測でしかないが、凡そ間違いではないと思う。
一瞬アベルに向けていた目を正面に戻してソードスキルに怯んだコボルドに意識を向ける。残り僅かになったコボルドのHPを削るため、比較的装甲の薄い箇所に二度三度と突き攻撃を繰り出す。そうしてHPバーがゼロになったスワンプコボルド・ラットハンターは断末魔の叫びを上げて青い光となって四散した。
トラッパーの攻撃を避けてここまでが僅か8秒程。短期決戦のペースとしては順調そのものと言っていいだろう。
「グルルルグア!!」
どうやらトラッパーのタゲが向いたのは私の方みたいだ。左手の鈎縄を振り回し右手の短剣を突き出して真っ直ぐ向かってくる。その刃には紫色のライトエフェクトが輝きを放ち始めていた。
「避けろシズク!」
「っ!」
アベルの声に応じて咄嗟に横へ跳ぼうとする。しかし──
「っ!?しま──」
このタイミングに限って
結果として、私は沼地に倒れる。その際にトラッパーが放ったソードスキルが直前まで私の胴体があった場所を貫く。
回避できたことに安堵したのも束の間、倒れる私に追い縋るように放たれた二度目の突きが私の肩を浅く斬り裂く。
短剣ソードスキル突進2連撃【バイパーバイト】
「ッグ…!」
「シズク!」
「平気!だけど何これ…」
浅いとは言えそこはやはりソードスキル。満たんだったHPが1割近く減少している。更にHPバーのすぐ隣に見慣れないアイコンが表示されている。よく見れば傷口からも血色に混ざって紫色の光が微かに混ざっている。
紫色の泡。そして今この瞬間にジワジワと減少している私のHPバー。
「これ…毒!?」
「すぐになおせ!」
「無茶よ!?」
そうこうしている内にトラッパーの技後硬直が解けたようで、仰向けに倒れた私を見下ろしている。
一瞬ニヤリと嗤った直後、手にしたダガーを逆手に持って私に飛びかかろうとする。不安定な地面に上手く動けない私はなんとか避けようと
──ゴツっ!
「グル!?」
アベルのいる方角から石が飛んできた。と言うかアベルが石を投げていた。
「こっちだ犬っころ!」
──カーン!カーン!
驚いたトラッパーがアベルの方を向いた直後。アベルはアニールブレードで自分の盾を叩いく。それに合わせてアベルの盾が仄かに光を放ち始めた。
「グルルアアアア!!!!」
するとどうしたことか、トラッパーは突然文字通りの意味で目の色を変えてアベルの方へ猛突進し始めた。
盾スキル特殊挑発技【フレンジードラム】
◇ ◇ ◇
これは少し後にアベルから聞いた話になるが、彼が盾スキルを持つ大きな理由がこのスキルの存在があるからとのこと。
その効果は『効果範囲内のモンスターに狂乱状態と挑発の付与』。
狂乱状態とは、モンスターのみに付与可能なデバフらしく、付与直後に確定でソードスキルが使用され、そこからは
このデバフをただ付与するだけなら仲間を危険に晒すのと同じことだが、ある事をするとするとその攻撃パターンにある程度の指向性を持たせられる。それがタゲを引き受けることだ。
パーティーメンバーをモンスターから護る要となるスキルであり、一歩間違えれば多くのモンスターを引き寄せて自身を危険に晒す諸刃の剣となるスキル。
βテスト時代にアベルはこのスキルをそれこそ
どうしてそこまでするのかを聞いてみたが『ちょっと恥ずかしい』と言う何とも言えない回答をもらっている。
◇ ◇ ◇
手にした鈎縄を狂ったように振り回し短剣を突き出す様は、いつだったかテレビで見た警察の暴徒鎮圧訓練の暴徒役を思い出す。テレビ越しでさえ恐怖を感じるそれをアベルは落ち着いた様子で盾を構えて見ていた。
やがてアベルのもとにトラッパーが接近。私に使ったのと同じソードスキルをアベルにも使うが、アベルはそれを盾で受け流し、続く二撃目をアベルは【スラント】で弾き返した。
お互いにソードスキルを弾かれ一瞬の硬直。動けるようになったのはほぼ同時だった。
トラッパーは出鱈目に斬撃と刺突のラッシュを右手のダガーで次々に繰り出していく。
対してアベルは左手に持った盾で繰り出される攻撃を危なげなく捌いていき、僅かでも隙を見つければ右手のアニールブレードで即座に反撃して少しずつダメージを稼いでいく。
アベルたちが十数秒程このやり取りを繰り返していた頃。私は何とか立ち上がって態勢を整える。泥濘に手足が滑って起き上がるだけでもかなり時間を要してしまった。
大急ぎでメニュー開き解毒ポーションを選択、オブジェクト化を実行。手にした瓶の中身を一息に飲み干す。
視界左上のHPバーの横に表示されていた毒のアイコンが消え、スリップダメージも無くなった。しかしこれでHPが残り6割となり、予めオブジェクト化して腰のポーチに入れていた回復ポーションも使用。現実世界ならこれだけでお腹がタプタプになりそうなくらい飲み物を飲んだ事でようやく見かけ上は本調子に戻った。
この間にアベル達の方も動きがあったらしい。
先程までと同じように隙を見つけて反撃をしたところ、トラッパーが大きく後ろへ跳んだ。どうやら時間経過でかけられていたデバフが解けたらしい。それでも依然としてタゲはアベルに向いている。
アベルの間合いから離れたトラッパーは此処ぞとばかりに左手に持った鈎縄を振り回し、アベルに向かって投げつける。
──ヒュオン!
アベルやトラッパーからそれなりに離れた場所にいた私にも、その風圧が届くくらいの勢いで鈎縄が振るわれる。
泥濘に足を取られて思うように動けないアベルは防御を選んだらしいが、何を思ったのか左手の盾ではなく右手のアニールブレードを前に出す。
──ガン!キュルルルガッ!
凡そ縄と金属がぶつかったとは思えない程硬質な音が鳴りアニールブレードに鈎縄が絡みつく。トラッパーはニヤリと嗤って思いっきりそれを引っ張るが、なぜかその場から動けない。
明らかに戸惑っている様子のトラッパー。その視線の先にはトラッパーと似たようにニーッと笑うアベルの姿。
「綱引き勝負と行こうぜワンちゃん!」
本来トラッパーの鈎縄攻撃を受けると、持っている武器に絡み付いた後強制的に手元から落とされるはずだ。
しかしそこにあったのはそれとは異なる有り得ない光景。
その秘密がアベルの取った【剛力】スキル。
『武器を手放させる攻撃』全般にある程度抵抗できるようになる
ただし効果時間はそこまで長いものでは無い上にこの攻撃を振り解くことは出来ない。おまけに今のアベルはその場から動けないことに加えて、アニールブレードを落としたらアベルの装備品が左手のスモールシールドだけとなってしまう。
つまりアベルはここに全てを賭けたのだ。
「アベルありがとう!」
足で距離を詰めるのは時間がかかると判断。それなら突進型ソードスキルが一番距離を詰めやすい。狙いをつけるのも容易い。何せアベルとの綱引きでトラッパーはその場に釘付けになっている。
落ち着いて【ディラトン】の構えを取る。システムが反応して穂先にライトエフェクトが発生し始める。迷わず発動。システムが自動で体を動かし、身体が泥濘から浮かび上がる。その瞬間に自分の意志でシステムに沿った動きを取る。今度は足を取られなかった。
「はぁあああ!」
狙いは違わず弱点部位の首元に命中。アベルとの激しい攻防で消耗していたトラッパーのHPを一瞬で消滅させる。
「グルァアァアアア!?!?」
想定外の場所から飛んできた一撃に戸惑ったのか、トラッパーは僅かに困惑を感じさせる断末魔の叫びを上げて青い光となって四散した。
「お…おわった…の?」
「みたい…だな…」
トラッパーの撃破とともに絡み付いた鈎縄も消滅したらしく、アベルは背中の鞘にアニールブレードを納剣する。
「ふぁ〜…もうだめ…動けない〜」
「お疲れーシズク」
想定していたよりも精神的消耗が激しく、気が抜けた私は泥塗れになるのも構わず地面にへたり込んでしまう。アベルも疲労のためか、少しだけ肩で息をしている。
戦闘が始まってからそんなに時間は経っていないと思う。そしてこのコボルドたちはボスモンスターでも何でもないただの雑魚モンスター。
今回はクエスト優先で極力戦闘は避けてきたが、ここにはこの手のモンスターがそこら辺にいるらしい。流石にトラッパーの割合は少ない方だと信じたいが、ラットハンターは相当数いるだろう。何なら槍の他にも武器を持った個体もいそうに感じる。
そんなモンスターたちとたった1回の戦闘でこれだけの消耗。
フィールドボスはこれよりもさらに強いと聞く。
──このゲーム…本当にクリアできるの?
胸中にそんな疑問が湧いてしまったのも仕方がないことかもしれない。口にしなかっただけまだマシだと思いたい。
「あー…っとシズク?」
「え…なに?」
「今って…まだクエスト…途中だよな?」
「あ」
戦闘は熱が入りやすいなぁ