虐殺姫は可愛くありたい 作:クロプトケープ
公開処刑というのは娯楽であり、儀式であり、そして権力の誇示でもある。
そして何より、帝都の貴族や民衆が、帝国の勝利を実感するための場だと私は思う。
いわば、平和な都の真ん中に持ち込まれた、疑似的な戦場である。
普段は戦場に立つことのない人々も、打ち負かした敵が目の前で処刑される様子を見れば、勝利というものを実感できる。戦争に勝ったのだという喜びを、皆で分かち合えるわけだ。
そう、だからこそ今回の凱旋式にも、ちょっとしたサプライズとして組み込んでみたのだけど…………。
どうも、受けが悪い。
大公国では、こうした公開処刑はもう少し盛り上がったものだった。歓声が上がり、私の名前を呼ぶ声が響き、時には広場全体が熱狂に包まれることさえあった。
ところが、帝都では一人目の処刑が終わった途端、すっかり静まり返ってしまった。
何とも残念なことである。
まあ、仕方がないのかもしれない。
大公国では、私は生まれ育った国の姫であり、それなりに人望もあった。何かやらかしても、ちょっとお転婆な姫という程度で収まっていたのだろう。だからこそ、私の一挙手一投足を好意的に受け取ってもらえた。
一方、帝都での私の第一印象は、あまりよろしくない。
なにしろ、つい最近まで殺し合っていた間柄なのだ。
それを考えれば、公開処刑という素晴らしい催しであっても、私が執り行うというだけで素直に喜べない人がいるのは、自然なことなのかもしれない。
私もいろいろと工夫しているつもりなのだが、こうしたところはまだまだ実力不足なのだろう。
少し反省しなければ。
それはそれとして、真っ白なドレスに散った赤い染みは、なかなか美しいものだった。
戦場では泥や埃にまみれることも珍しくない。それに比べれば、敵国の姫君の血というのは、何とも高貴な汚れではないか。
もっとも、慣れないメイスは思いのほか扱いにくい。剣ならばもう少し上手に扱えるのだけれど、今回は古式に則った儀式なのだから仕方がない。なんで潰すのかは分からないけど、儀式とはそういうものだった。
幸い、相手は固定されているし、聞き出すべき情報もない。できるだけ無様に命乞いをしてくれれば十分。その意味では余計なことを考えずに済むのはありがたかった。
それにしても、不思議なものである。
敵の姫君が命を乞い、その願いが聞き入れられない。
これほど分かりやすく勝利を示す光景も、そうそうないだろう。
敵の王は死に、軍勢は滅び、かつて誇り高く振る舞っていた王族の娘たちも、今では帝国の前に何の力も持たない。
まさしく完全な勝利だろう。
それなのに、観衆はなかなか盛り上がってくれない。
ひょっとすると、演出を間違えたのだろうか。
そういえば、準備の際に儀礼官へ尋ねても、そんな儀式は知らないという者ばかりだった。古い習わしだから、細かな作法が伝わっていないのだろうと思っていたのだけれど。
凱旋の日も迫っていたので、結局、私が以前読んだ文献の記憶を頼りに進めてしまった。人数は十三人で間違いなかったはずだし、勝利への感謝を込めて神前に捧げるという趣旨も合っていると思う。あとはほかの儀式からのものをくっつけただけだし…………
こういうものは、意味が同じなら何でもいいというわけにはいかないのだろう。せっかく帝国の習わしを尊重したつもりだったのに、作法を知らない田舎の姫だと思われていたら困る。
まあ、今度その文献を読み直そう。
あの族長の一族を全員帝都まで連れてきて、市中を引き回すという方法もあった。民衆にも参加してもらえば、もっと勝利を身近に感じてもらえたかもしれない。
でも、今回の凱旋式は、あくまで帝国軍の勝利を祝うことが目的なのだ。あまり長々と続けても、皆が飽きてしまうだろう。
あるいは、帝国と大公国では、そもそも戦争に対する感覚が違うのかもしれない。
大公国では、一つの戦争が終わっても、すぐに次の戦争が始まることなど珍しくなかった。だからこそ、敵を完全に打ち負かしたという事実には、特別な意味があった。
一方、帝国ではそうした切迫感が薄いのだろう。なるほど。そう考えると、少し納得できる。やはり、土地が違えば人々の好みも違うものかもしれない。
「やはり、帝都の人々にはまだ受け入れられていないのかしら」
傍らに控えていたヨアヒムにそう尋ねると、何とも言えない顔をした。
「……姫様。そもそも、大公国でも皆が喜んでいたわけではありませんが…………」
「いやいや、そんなことはないはず………… 公都のみんなからは親しまれているお姫様だった自負はあるのだけど…………」
少なくとも、街に出れば皆が笑顔で挨拶してくれたし、手を振れば喜んで振り返してくれた。子供たちが駆け寄ってくることだって珍しくなかった。
それなりに人気のあるお姫様だったと思うのだが。
「それは、姫様が凱旋式でロクリス伯爵の一族を一人残らず城壁から投げ落とした時に、最期の一粒が失われました」
「ああ、あれ?」
「ロクリス伯は前大公様の次男。つまり姫様の大叔父なわけで、その一族をまとめて処刑したんですから。しかも、まだ三歳だった伯爵の孫娘まで楽しそうに城壁から投げ落として……。あの時、公都の人々がどんな顔をしていたか、覚えてませんか?」
言われてみれば、そんなこともあった気がする。
確かに、あの時は広場が妙に静かだった。もっとも、あれだけ大勢の人が集まっていたのだから、後ろの方まではよく見えなかったけれど。
「でも、あれは仕方がなかったでしょう。先にこちらの使者を城壁から投げ落としたのは向こうなのよ?」
「それはそうですが……」
「戦場で討ち死にしたのならともかく、交渉に赴いた部下を一方的に殺されたのよ。しかも、わざわざ城壁から投げ落として。そんなことをされたら、同じ目に遭わせてやらないと示しがつかないでしょう」
そもそも、使者というものは、敵味方の区別なく安全を保障されるべき存在である。
それを平然と殺してしまうような相手には、相応の報いを与えなければならない。そうでなければ、今後の交渉にも差し障るし、何より命懸けで私の命令に従ってくれた部下たちに申し訳が立たない。
「いや、報復すること自体に文句があるわけじゃないんですよ。問題は、そのやり方です。何も一族全員を、それも姫様が自分で投げ落とす必要はなかったでしょう」
「あら、でも、せっかくの凱旋式だったのよ? どうせ処刑するなら、皆の前でやった方がいいじゃない。それに、あちらが城壁から投げ落としたのだから、こちらも同じようにするのが筋というものでしょう」
「……だから、三歳の子供まで嬉しそうに投げ落としたのが問題なんですよ」
「別に、子供だからといって特別扱いする理由もないでしょう。伯爵の血を引いていることに変わりはないのだし。それに、あの子だけ残しても、後々面倒なことになりかねないわ」
実際、幼い子供を生かしておいたばかりに、何年も経ってから復讐を企てられるというのは珍しい話ではない。わざわざ将来の禍根を残す必要もないだろう。
「……そういう話をしているんじゃないんですがね」
ヨアヒムは呆れたようにため息をついた。
どうにも納得がいかないらしい。もっとも、私としても、あの時のことを何から何まで正しかったと言い張るつもりはない。
「まあ、でも、あの頃は若かったわ」
「……二年前ですよ、あれ」
「二年もあれば、人は成長するものよ」
今にして思えば、少々張り切りすぎたところもあったかもしれない。
あの頃はまだ戦勝の祝賀行事にも慣れていなかったし、民衆の反応を見ながら演出を調整するという発想も足りていなかった。今回の帝都での凱旋式も、そういう意味ではよい勉強になったと言えるだろう。
「なるほど。つまり、大公国でも最初から皆が喜んでいたわけではなかったのね」
「……ええ、まあ、そうですね。というか、最後のほうもそんなに喜んでは…………」
「それなら、帝都でももう少し時間をかけるべきだったのかしら。いきなり大勢を処刑するのではなく、もう少し段階を踏んで慣れてもらうとか。次からは気をつけるわ」
「…………」
ヨアヒムは何か言いたげに口を開いたが、結局、何も言わなかった。
まったく、民衆の心というものは難しい。
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