スラム生まれのスライム使い 作:スライム
転生先は大ハズレだった。
目が覚めたのはスラム街のゴミ山。
無事に生きていけるかも怪しい。
普通さ、異世界転生って言ったら貴族じゃないか。もしくは王族とかさ。
前世も貧乏だったし、高校も行かずに働いて事故死とかいう、しょうもない人生だった。
せっかく転生しても、俺に良いことはないらしい。
生まれてからすぐに捨てられたのだ。
この世界の言語はわからないけど、どうやら望まれて生まれたわけではないらしい。
ゴミの山に捨てられた俺は、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。
チート能力もチート魔法もない。いやあるのかもしれないけど、使い方なんてわからない。
おい神様、なんで俺を転生させたんだ。
勇者なんて憧れてない。ただ、普通に生きたいだけなのに……。
「〇〇〇〇〇!」
泣きつかれ、生きるのを諦めたころ。一人の女性が、ゴミ山から俺を抱き上げた。
「〇〇〇〇〇〇」
なにを言っているのかはわからないけど、優しい声音だった。
自分もやせ細り、ボロボロなのに……優しく、俺に笑いかけてくれた。
ああ、どうやら女神はいたようだ。
女神のような女性のおかげで、俺は生き延びることができた。
スラム街の女神ことレイニーさんのおかげで、俺は五歳になることができた。
「アレフ、私はお仕事に行ってくるからね」
「わかった。僕は水を汲んでくるね、レイニーさん」
アレフ。それが、レイニーさんが付けてくれた名前だ。
お母さんとは、呼んだことはない。レイニーさんと他人行儀に呼ぶたび、彼女が少し悲しそうな顔をするとわかっていても。
だって、レイニーさんは二十歳前後の少女なのだ。前世の俺とそう変わらない。
母と呼ぶなんて、なんか、むずがゆいだろ?
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
レイニーさんを見送ってから、俺も木桶を手に持つ。
彼女には感謝している。自分が生きるだけでも精一杯なこのスラムで、俺を五歳まで育ててくれたんだから。
「俺も早く稼げるようにならないとな」
今は、せいぜい水を汲みに行くくらいの手伝いしかできない。
五歳のガキにできることなんて、たかが知れている。
「……相変わらず、スラムは汚えな」
家を出てすぐ、つんと来る激臭に鼻をつまむ。
汚物の匂いや腐臭、なにかわからない匂い……とにかく、臭い。
トイレもなければ汚物を処理する習慣もない。臭くなるのも当然だ。
綺麗な水なんて、そうそう手に入るものではない。
一時間ほど歩くと川が流れているので、そこまで毎日汲みに行くのだ。その川も、町の下流にあるので恐ろしいほど汚いが。
現代日本に暮らしていた俺にとっては耐え難いが、もう慣れた。
「生きる。とにかく生きるんだ」
せっかく転生したのに死にたくない。……それに。
身を削って俺を救ってくれたレイニーさんに報いるためにも、俺は死ぬわけにはいかないんだ。
「出ろ、炎! 水! 風!」
歩きながら、闇雲に魔法を使おうとする。当然、出ない。
この世界には魔法がある。それは、レイニーさんから聞いた。
でも、使えるのは貴族など、才能のあるごく一部だけ……。普通は使えないし、スラムでも見たことはない。
でも俺は諦めない。
魔法が使えれば、金を稼いで、レイニーさんに恩返しができるかもしれないから。
彼女がなんの仕事をしているのかは知らない。
聞いてもはぐらかされる。
ロクな仕事のないこのスラムで、少女が金を稼ぐ……。悪い想像は尽きない。
「クソッ、俺にチート能力があれば……」
水を汲みながら、舌を噛む。
自分のことなんて、今更どうでもいい。一度死んだ身だ。
だが、レイニーさんのことは助けたい。
……余計なことを考えていたのが悪かったのだろう。
「え……?」
歩き出した拍子に、足元にいる存在に気付かなかった。
「スライム……ッ」
某RPGのように、序盤に倒す弱い魔物ではない。
スライムは、あらゆるものを溶かす魔物だ。
動きも遅く意思もないから、気を付けてさえいれば、大した脅威ではない。
だが、一度捕まれば……。
「まずい……」
踏み出した足が、スライムに飲み込まれていく。
「やめろ!!」
とっさに、俺はそう叫んだ。
その瞬間、地面に魔法陣が広がった。
「え……?」
スライムがぴくりと震え、するすると俺の足から離れていった。
次に、俺の手の甲に魔法陣が浮かび上がる。
「スライム……使役?」
手の甲の魔法陣には、そう書かれていた。
どうやら、俺にも魔法が使えたらしい。
チート能力と呼ぶには、少々地味だけれど。