麗しき夢   作:六原

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霊夢が紫と出逢う物語。


七つ下がりの

 

紫はいつも怪しい。

誰だってそう思うだろう。

 

初めて出会った日のことを思い出す。

あの日々がもう随分遠くに感じる。

 

私は結局おんなじことをしているのだけれど。

 

 

 

 

▼20xx年8月

 

 

私は畦道をただひたすら走っていた。

 

憎たらしい日差し。

 

ぬかるみも、日差しも、鳥の鳴き声も、全てを振り捨てて走った。

 

そして駅で電車に乗った。

 

ここでは誰もが私を知っているから。

誰も私のことを知らない所まで行きたかった。

だから、ここから1本で行ける1番遠い場所まで電車に乗った。

本当はずっと走りたかったのだけれど疲れてしまったので仕方ない。

 

 

 

歩道を走る。

三東国(あの場所)より交通量が何倍もある。

 

 

人が沢山いるけれど、誰も私のことなど気にかけない。

皆は傘をさしている。私がこの街に来た途端、雨が降り始めた。

 

やがて目の前の横断歩道が青になる。

渡りながら、立ちどまって空を見あげた。

 

立ちどまっているのに、誰にもぶつからない。

というか、誰も渡っていない。

 

おかしい、と辺りを見回す。

 

ビルしか見えないと思っていたのに、目の前に人がいた。

 

 

「始めまして。零無。私からしたら始めましてじゃないのだけれどね。」

 

初対面のはずなのに名前を知っているし、私からしたらとか訳わかんないこと言ってるし、何にせよ怪しい。

 

「あんた誰?」と言いながらにらみつける。

 

 

けれど目の前の人は笑いながら私の睨みを軽くいなす。

 

 

「私は八雲紫。しがないただの妖怪ですわ。」

 

妖怪な時点でただのではない気がするけれど。

 

「私、妖怪と関わるのはもうこりごりなの。あんた、ずっと見てきたんでしょう?」

 

「ええ勿論。1つ、貴女に頼み事があるの。でも、何もなしに押し付けてはいけないでしょうから貴女の頼みをきいてあげる。」

 

一方的に話を進めてくる。

怪しい。

信じてはいけないオーラしかない。

でも…

 

「私をここから連れ出してくれるなら、考えてあげてもいいけど。」

 

 

私を虐げるこんな世界から。

たった1つの居場所を失った私に行く場所などない。

望みを叶えてくれるのなら、誰だっていい。

 

 

「貴女がお望みなら何処へでも連れて行って差し上げますわ。未来でも過去でも、海外でも。私の得意分野ですもの。」

 

「じゃあ今すぐにでも連れて行って。私、こんな世界にいたくないの。」

 

「わかったわ。じゃあ、連れて行ってあげる。」

 

信じられないけれど、私にはこうするしかない。賭けてみるしかない。

 

朝にはこんなことが起きるとは思っていなかった。

 

予想外の展開に天を仰ぐ。

 

この世界の星空はこんなにも綺麗だっただろうか。

 

紫から離れ、空を見上げる。

 

「あら、この世界から離れるのが寂しいの?」

 

「最後だから。せっかくなら見ておこうと思ったの。」

 

この世界は嫌いだけれど、星空だけはどの世界よりも勝るだろう。

 

「それで、貴女はどこに行きたいのかしら?」

 

「未来がいいわ。だって、過去に行ったってつまらなそうだし。」

 

本当は私が知っている人に会いたくないからなのだけれど。

未来ならいない確率が高いだろうから。

 

 

「ねえ、どうして私なの?」

不意に思い、聞いてみる。

 

「それは勿論、貴女が零無(まっさらでからっぽ)だからですわ。」

私がそれをきくことが分かっていたように、考えるそぶりを見せずに答える。

 

 

「それじゃあ連れて行ってあげるわ。これから長い付き合いになるだろうからよろしくね、零無。」

 

「こちらこそ…まああんまり長くはなりたくないけれどね。」

 

「私の事は気軽に紫と呼んでくれてかまわないわ。」

 

「じゃあ、紫。連れて行ってくれる?」

ええ、もちろん。と、紫が紫色のものをだす。

 

 

「これはスキマ。私はこれを自由自在に操ることができますわ。」と解説する。

 

「さあ、飛び込んでみて頂戴。」

 

奥が見えないけれど飛び込めるのだろうか…それに禍々しいし。

 

さあ、と促される。

私は決意を固めて飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

それからは色々とあった。

2回も未来に行くとは思わなかった。

そして、幻想郷(ここ)に来るとも思っていなかった。

 

神社の境内で思い返す。

紫とは数十年の付き合いがあるということになるが、紫に対する印象は変わっていない。

 

「はぁ、まったく。いっつも面倒事を引っさげてくるんだから。」と溜息をつく。

 

「おや、もしかして私の話ですか?」と神社に来ていた文が言う。

 

「まあ、あんたも胡散臭いけど。違うわよ。あいつ…紫の事。」

 

「ああ、あの人は昔からあんな感じですよ。」と笑う。

 

「昔の知り合いなの?」

紫を含めて誰からも、そんな話、聞いたことがない。

 

「私は紫さんがまだ妖怪として下っ端な頃から知っているんですよ。」

 

「へえ…。あいつにも下っ端の時期があったのね。」

 

「そりゃあ勿論。私にだってありましたよ。霊夢さんにだってあったでしょう?」

 

「なかったわよ。だって私は、」

博麗の巫女として生きてきたから。

 

過去など何もない。

あの頃の『加々見零無』でも『中谷玲夢』でもない。

私は、『博麗霊夢』なのだから。




タイトルは雨の別名を調べているときに、夕方4時くらいからふる雨を『七つ下がりの雨』と言うことを知って付けました。なので昼ぐらいに電車に乗って、夕方5時ぐらいに着いて、という感じです。そこからしばらくたって紫と出逢ったので、すっかり辺りは夜になってしまっていました。

零無と書いて『まっさらでからっぽ』と読ませるのは、凋叶棕様の『少女飛翔曲~Everlasting Longing』からとっています。曲の内容とこの話は全然違います。
この話では、まっさらでからっぽだからこそ、紫が自分好みにできる的な意味が込められています。

そして三東国はてきとーにつけたので実際の地名であったとしても関係はございません。

零無がなぜこの世界が嫌なのか、妖怪と何があったのかは後日書こうかと思います。


加々見霊夢が一つ前の作品での名前、中谷玲夢は今作で向かった先の世界での名前です。
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