そんな彼の前に現れたのは、あの尼僧であった。
C107で頒布予定の小説、「メルトリリスは踊らない」です。
頒布版では加筆修正、展開の相違などがある可能性がありますので承知ください。
あてどなくなくカルデアを歩き回る。様々なサーヴァント、職員が仕事をしたり、休んでいたり、めいめいに過ごしているから暇をつぶすには困らない。適当にぶらつき、話をしているとだんだんといつもの自分が返ってくる。動揺は姿を消し、自然な笑みが浮かんでくる。それじゃあ、また、とあいさつを繰り返す。
昼まではまだ時間があった。溜まっているレポートでも消化しようかと自室へと戻ることにした。
「あら」
その向こうから一人の女性が歩いてきていた。頭襟に僧衣を纏う禁欲的な姿なはずなのに、その体格が惜しみなく表れており、スリットからは生々しい白い脚が覗いている。
「殺生院、さん」
はい、と尼僧は微笑んだ。目を細め、紅色の唇を柔らかく歪ませる。
殺生院キアラ。メルトやBBたちと同時にこのカルデアに現れた、セラフィックス事変の首謀者その人。あの事件からまだ日はそれほど経っていないからか、彼女の姿にどうしても体が強張ってしまう。
そんな自分の有様を殺生院はすぐに見抜き、ふう、と片手を頬にあてる。
「たしかにセラフィックスの件は私が引き起こしたようなものです。ですが、今はマスターに使える一人のサーヴァントです。そのような反応をされてしまいますと、私めもいささか傷つくというものです」
「それは、すみません」
彼女自身はセラフィックスでのことは覚えていない。しかし、カルデアのデータサーバーには事件のあらましが他の特異点同様、自由に閲覧できる状態で保存されている。別の召喚された自分がどんなことをしたかは、多くのサーヴァントが気になることのようで、特異点の記録の閲覧は人気のコンテンツでもあった。
殺生院もその記録を読んだのだと考えるのが自然なことだ。
「構いません。むしろかつて特異点の元凶となった私を、マスターの口添えもありカルデアに置いていただける。それだけで十分でございます」
「まあ、それは」
彼女が召喚されたとき、先んじてカルデアに来ていたBBからは「この女は絶対に碌なことにならない。さっさと追い出すべきだ」という言葉をもらった。BBの危惧も分からないでもないが、現状彼女の霊基がビーストではないこと、令呪なども有効なことからカルデアとの契約は継続している。まあ、彼女以上に危ないサーヴァントも複数名いるが。パラケルススとか、パラケルススとか。あと、モリアーティとか。
BBは不承不承に納得した。そして「いざとなったらアンデルセンさんをぶつけてください」というアドバイスをもらった。よく分からないが殺生院と何かしらの縁があるのだろうか。
「殺生院さんは」
「キアラ、とお呼びください」
「ええと、キアラ、さんは」
さん付けもいらない、と殺生院は言う。年長者なのでつけさせてくださいと言うと押し黙った。ちょっと不服そうなのが意外だ。
「カルデアの生活はいかがですか。何か困りごとなどは」
「ええ。よくしていただいております。非常に快適ですよ」
「よかった。何かあったら教えてくださいね」
では、と自室へと向かって歩き始めた。
その背中に殺生院は投げかける。
「一つ、ご忠告を」
振り返ると微笑みを浮かべた彼女が立っている。それは穏やかだが、どこか、何かを狙うかのような目つきでもあった。
「我々アルターエゴは他のサーヴァントと異なります」
「というと」
「アルターエゴとはある一つの自我の現れ。本来総体である心の一部を歪にも取り出し、一個体としての精神に仕立て上げている
ものでございます。故に、その心は人のそれとは違うのですよ」
どういう意味かと眉根を顰める。殺生院は続けて言う。
「お気を付けください。アルターエゴとは、勝手なものですから」
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