メルトリリスは踊らない   作:もるげんれえて

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とある昼休み、藤丸はメルトと会うが彼女の態度は冷たい。
去っていったメルトリリスを追う影がひとつ。

C107で頒布予定の小説、「メルトリリスは踊らない」です。
頒布版では加筆修正、展開の相違などがある可能性がありますので承知ください。


メルトリリスは踊らない 第1章ー3話

 昼食時。カルデアの食堂は大変に混雑する。休憩に入った職員はもとより食事を取りたいがために現界したり、キッチンを切り盛りするエミヤをはじめとするサーヴァントたちでもごった返しているからだ。

 その一角で自分はマシュと昼食のために落ち合った。キッチンから本日の定食プレートを受け取り、腰を掛ける。キャット特性ハンバーグ丼からは甘い濃厚なデミグラスの匂いが漂ってきていた。あまりに魅惑的な匂いに腹がぐるりと唸る。マシュの方もワクワクといった面持ちで座った。

 さあ食べよう、と箸を持った時だった。

 自分たちの隣を青い風が吹き抜けた。

 

「あ、メルトリリスさん」

 

 マシュの呼んだ名前に箸を取りこぼしそうになった。

 

「あら、マシュ」

 

 ちらと見やる。黒のスカート。白い腹。青い髪の向こうにメルトリリスはいた。彼女の視線がマシュを見て、そして次に自分を見た。

 

「それに、マスターも」

 

「……やあ」

 

 正直に言えば珍しい。彼女がこんなところにいるのは。別に彼女がどこにいても自由だけれど、カルデアに来てからの彼女はあまり他のサーヴァントと一緒にいたり、人の多いところに現れることはなかったのだから。

 急に喉が渇いてきた。

 

「昼食中でしたか。お邪魔しました」

 

 さっとメルトリリスは一礼をした。このままではいってしまう。

 

「メ、メルト」

 半ば突いて出るように彼女の名前を口にした。

 振り向く彼女の瞳は青い。

 

「どうかしましたか、マスター」

 

「えと、一緒にお昼、どうかな」

 

 正直な誘いだった。このカルデアに来てから彼女とまっとうに話をしていない。マシュもいるが、今はそれがありがたい。二人きりになるのはどうもしんどいから。幸いにもマシュの方はいいですねと乗り気であった。

 だが、彼女の言葉はにべもなかった。

 

「申し訳ありません。今日は別用があります」

 

「あ、うん。わかった。大丈夫だよ」

 

 声のトーンが一つ落ちたのを自分でも感じた。こんなにも自分が動揺するとは。

 メルトリリスは再び一礼すると、そのままどこかへ行ってしまった。

 

「残念でしたね、先輩。私もメルトリリスさんとお話をしたかったのですが」

 

「……うん」

 

 蜜の匂いは、デミグラスの香りに押し返されていた。

 

◇◇◇

 

「メルト~~」

 

 私の名前を呼んだのはあまりにもよく知っていて、嫌いな声だった。思わずげえ、としかめてしまった。

 

「BB」

 

「はあい、かわいいデビル系後輩のBBちゃんです」

 

 にっこりと意地悪く笑って近づいてきたのは、私によく似た顔をしたサーヴァントだった。この種の笑顔を振りまいているときのBBはたいてい碌なことがない。ただでさえあまり顔を合わせたくない相手だ。

 

「何の用でしょうか」

 

「自分が生んだアルターエゴの様子を見に来るのに理由が必要ですか」

 

「そもそも様子を見る必要がありません」

 

 しかめ面をしまい、再び歩き出す。食堂を出た廊下での人の流れは私の進む向きと逆だった。

 私はそのまま進むけれど、BBはあきらめずに私の後ろを追いかけ、ひょこっとこちらを伺いみるように顔を出す。

 

「まあまあ、カルデアでうまくやっているかなってフォローしているんですよ」

 

「私には必要ないわ」

 

「マスターのお誘いを断るのも、ですか」

 

 ぴたりと足が止まる。また何かを言い出す前に視線だけでBBを射抜く。しかし彼女はそんなことなど意に介さず、えーこわいーとおどけていた。その姿に私はちりちりと胸がイラつくのを感じた。

 

「それも、必要ないことです」

 

「そうですか。いちサーヴァントとして、マスターや他の人たちと交流を深めるのも大切ではないですか」

 

「チームワークが必要なら、ね。あいにく私の戦闘スタイルは単体で完結しているの」

 

 かつての月の海ではそれこそオールドレインによる反則技(チート)によってBBでも倒されないほどの戦闘力を誇っていた。もちろんこちらに来て幾分かの弱体化はある。が、オールドレインを含めてすべてのスキルは基本的には保持したままだ。その気になれば、周囲の雑魚敵を喰らい、圧倒的な力を得ることもできる。そうなれば他の味方などオールドレインの被害にあうかもしれない障害でしかない。

 それこそ、先日の新宿のように。マスターひとりであればコントロールはできるが、もう複数のサーヴァントが近くにいたら、巻き込んでいたかもしれない。

 

 そもそも私は孤高のプリマ。誰かとのセッションは不要だ。

 

「馴れ合う必要は私にはないもの」

 

 私という性能を知っているBBは、こちらの意図を理解してもなお、はあとため息をついた。

 

「そりゃそうですけど、ここではまた事情が違います。そういう社会不適合な態度を取っていたら、要らぬ疑いをかけられたり不和の原因になったりするんですよ」

 

 人を引きこもりか何かだと勘違いしているのだろうか、このお母さま(BB)は。

 

「社会不適合ではなく、不必要な交流をしないだけです」

 

「リップでさえ、もう馴染み始めているのに、うちのメルトときたら」

 

「あの子はいろんな人と交わる方がいいのです」

 

「おや、リップのことはよくわかっているようで」

 

 いつもこっそりとリップの様子を覗っていた、とは言えない。ただ彼女が、あの性格をもつ少女がこのカルデアでうまくやっていけているかは心配だった。でも、それも杞憂に終わりそうだ。タマモキャットにガウェインなどのサーヴァントたちがよく見ているようだから。

 

 それに、とBBは続けた。

 

「どうも、あなたはマスターだけには特にあたりが厳しくないですか」

 

「……どうかしら」

 

「とぼけてもBBちゃんアイはごまかせませんからね」

 

 その目はふざけていたが、しかし、じっと私を見つめてきた。

 彼の視線を思い出す。私を見る目が、いつだって何かを見ていた。

 私以外の、何かを私を通して見ている。

 それが何か、何故かはわからない。けれど、それが無性に腹が立つことであり、失礼なことで、そして私には関係のないことであった。

 

「私は」

 

 その視線を振り払いながら、私は言った。

 

「ただのサーヴァント。ここにあるのは棘として。兵器として。あるいは毒としてよ。それ以外の何かを期待するなら、それは何かの間違いでなくて」

 

 そのまま私は歩いて行った。後ろからBBのあきれ混じりな声が流れてくる。

 

「それは、ちょっと極端すぎではないですか」

 

 だとしても、極端というものこそがアルターエゴなのだから。

 快楽を司る存在。それが、私だ。




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