メルトリリスは踊らない   作:もるげんれえて

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藤丸はかつて、メルトリリスが召喚されたときのことを思い出す。
その少女が、あの日々の、あの人と違うと知っていても。

C107で頒布予定の小説、「メルトリリスは踊らない」です。
頒布版では加筆修正、展開の相違などがある可能性がありますので承知ください。


メルトリリスは踊らない 第1章ー4話

 ふと思い出す。

 それは彼女と再び出会うことができたときのこと。

 

『快楽のアルターエゴ・メルトリリス』

 

 声を再び聴くことができた。姿をまた見ることができた。

 彼女にもう一度会うことができた。

 

『心底イヤだけど貴方と契約してあげる。光栄に思いなさい?』

 

 彼女の言葉にどう答えたっけ。それすらおぼつかない。

 再びの胸の高鳴りだけを今は覚えている。

 けれど、それは自分からの、一方的な感情だった。

 彼女はもう、自分の知っている彼女ではなかったのだから。

 

◇◇◇

 

 カルデアの廊下は消灯によって最低限の照明のみが点いていた。南極の極寒を無数の障壁が阻んでいるが、それでもこの時間の廊下はうすら寒い。

 

 人気のない廊下には自分の足音だけがうるさく響いている。かつん、かつんと脳に届くような音だ。疲れた頭にどうしても響く。

 マシュと一緒に業務を終えて、残すところは自分の部屋で休むだけだった。緊張がほどけて、疲れがどっとあふれてくる。

 そして、そのゆるみに乗じて考えまいとしていたことまでが湧いて出てくる。

 一人の少女の声が頭の中で響く。甘くて鋭い、蜜の毒の声。

 

 メルトリリスの態度を気にしまい気にしまいと努めてきたが、勝手に考えを始めてしまう。瞳の冷たさも、触れ得難い姿勢も。彼女という存在ならば至極当然のように思えた。

 

 本当に?

 

 メルトリリスの視線には、自分の後ろめたさを刺す鋭さが込められていた。その瞳を向けられるたびに、自分はまるで決闘の場面にいるかのように背筋が張り詰めてしまい、喉はきゅうと締めつけられる。

 その視線のわけも、それ自体がおそらく、自分が理由だということはなんとなしにわかっていた。

 

 分かっている。

 いくら否定しても、こればかりは肯定するしかない。

 自分がメルトリリスに恋をしていること。

 そして、そのメルトリリスは――。

 物思いはふと、視界に映る異物によって遮られた。

 

「……?」

 

 薄暗い廊下に影がある。

 最初は何か落とし物かと思った。けれど落とし物にしては大きすぎる。

 そもそも、その影は立っているのだ。

 その影は暗闇の中でなお一層、だんだんはっきりと見えてきた。

 成人の腰の丈くらいだろうか。のっぺりとした質感に、触手のような影を伸ばしていた。その輪郭と、目に当たるような個所に四つの光を灯している。

 

「――」

 

 ようやく、それが何なのか分かった。カルデアという場所だったから、気づくのが遅れた。

 シェイプシフター。セラフィックスの事件にて現れた敵性存在だった。




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