メルトリリスは踊らない   作:もるげんれえて

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安全だと思われたカルデアに突如として現れた敵。
藤丸は窮地に立たされる。

C107で頒布予定の小説、「メルトリリスは踊らない」です。
頒布版では加筆修正、展開の相違などがある可能性がありますので承知ください。


メルトリリスは踊らない 第2章ー1話

「え……」

 

 あまりの衝撃に自分は動けないでいた。

 なぜ敵であるシェイプシフターが目の前にいるのか?それも、このカルデアで。

 これは誰かのいたずらではないか。それこそBBなどはやりかねない。

 周りを見てみる。物陰もなく、誰かがこっそりとみていればす分かるほどに見通しがいい。そして、誰もいないことはすぐに分かった。

 視線は再び目の前のシェイプシフターに注がれる。触手を揺らめかせて、それはゆっくりとこちらに近づいてきている。

 

 逃げるべきか。

 

 自問する声に、しかし、これを放っておいていいのだろうかという疑問が重ねられた。

 思考する余裕は敵との距離の間があったから生まれたものだった。

 だから、シェイプシフターがその触手をどれほど伸ばせるか、それを失念していた。

 空中を漂う触手が、動きを止めた。

 え、と思う瞬間には触手が自分に向かって射出されていた。

 

「――」

 

 油断した体は咄嗟の事態に反応できず、ただ無防備をさらしていた。しまったと思った時には凶器となった触手が眼前まで迫っていた。

 やられる、そう確信した。

 しかし、自分に届くはずだった触手は何かに弾かれた。

 礼装が起動したのかと思ったが、それは違った。なぜなら、触手は断ち切られ地面に落ちていたからだ。

 黒の触手を切断したのは、銀の円弧。

 シェイプシフターと自分との間に、青と黒の人影が割って入った。

 

「メルトリリス!」

 

 彼女が自分を助けたのだった。彼女は自分の声に横眼を送る。

 

「無事なようですね」

 

 ただ事務的、というそっけない返事が返ってきた。彼女は敵に向き直る。

 瞬間、メルトリリスは風になった。

 カルデアの廊下を氷上のように滑走する。シェイプシフターまで一瞬で肉薄した。

 敵も対応して触手を射出する。

 だが、触手はすべて空を切り、壁に傷を残すだけだった。

 それよりも早くメルトリリスはシェイプシフターの背後に回り込んでいた。

 一呼吸を置く。シェイプシフターは動きを止めていた。いや、すでに活動を停止していた。

 うっすらと線が入り、敵はばらばらと崩れ落ちた。背後に回るその瞬間にメルトリリスは斬撃を放っていたのだった。

 あっという間であった。そして終わりはあっけなかった。

 

「敵はこれですべてでしょうか」

 

 メルトリリスが帰ってくる。その声でようやく我に戻ることができた。

 

「あ、ああ。たぶん。というか、なんでカルデアに敵がいるんだ」

 

「さあ、それは私の仕事ではありません」

 

 ただ無表情に彼女は告げる。本当に興味がないと言いたげだった。

 

「ともかく助かったよ」

 

「サーヴァントとしての務めを果たしたまでです」

 

「それでも、だよ」

 

 メルトリリスの態度のかたくなさは相変わらずだった。けれど、自分が自然と笑っていることに気づいた。なんだか懐かしい感覚を思い出したからだった。

 

「……何がおかしいのですか」

 

 だが、メルトリリスにとっては違うようだった。目を細め、声は冷たく張り詰めていた。その一言で胃が痙攣する。目の前にいるのが誰なのか、忘れていた。

 

「いや、大したことじゃないんだ。とにかくありがとう」

 

 矢継ぎ早に答えていた。けれど、彼女の視線は変わらない。

 

「あなたは」

 

 目線は無関心ではなかった。無関心よりも恐ろしく、凍えそうな鋭さを持っていた。

 

「あなたはだれを見ているのですか」

 

「――」

 

 血液の動きが止まる。喉がこんなにも渇いていた。

 

 彼女はそれだけを言うと、踵を返した。

 

「私はただのサーヴァント。この瞬間の気まぐれで契約した依り代です。けれど、誰かの身代わりではありません。私は私。今この瞬間に、確かに存在しているのです」

 

 水面を打つような言葉に、自分はただ黙り込むしかなかった。

 




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