それらがあってもカルデアの生活は変わらない。
そんな藤丸たちの前に、ある少女が姿を現した。
C107で頒布予定の小説、「メルトリリスは踊らない」です。
頒布版では加筆修正、展開の相違などがある可能性がありますので承知ください。
電脳空間化についてはすぐに管制室に報告され、カルデア内の警戒度はさらに高まった。けれど、原因は未だに分からずにもいた。
仕方がなく、非戦闘員、戦闘員を含めて不要の外出は禁じられ、多くのサーヴァントがカルデア内のパトロールに駆り出された。特に数名の重要なスタッフには24時間誰かが付きっきりの護衛に当たることとなった。そのうちの一人が自分であった。
ただ、そもそもサーヴァントが自室にも勝手に潜り込むことがある自分としては、その対応は部屋から出ることが少し減ったくらいで、普段通りという意味であった。
◇◇◇
「今日もご苦労様でした、先輩」
「マシュもお疲れ様。こんな時でも戦闘訓練はあるんだね」
「こんな時だから、こそかもしれません」
まだ汗がじんわりと出て、インナーを湿らせる。戦闘に参加していないマシュに、汗のにおいがしないかが気になってしまう。
今日の護衛は先ほどまで一緒の訓練を受けたマシュで、特に護衛を引き受ける回数が多い。だが、力のほとんどが使えない彼女のために、霊体化している別のサーヴァントもついている。多くの場合、自分たちのことを思いやってかほとんど会話に参加することがない。
自室までの数分の道を雑談をしながら進む。食事のこと、サーヴァントのこと、日々のこと。他愛のないことを話しながら時間が過ぎていく。
そうして、ある踊り場に出たときだった。
「――」
「あれは」
自分とマシュは足を止めた。
目の前の踊り場に一人の少女がいた。
メルトリリス。彼女が踊っていたのだ。
「メルトリリス、さん?」
マシュが戸惑うのも無理はない。カルデアにいるメルトリリスは人前で踊ったりするような人ではない。どころか、おそらくマシュには彼女が踊るように戦うことも知らないだろう。
そして何より彼女の踊りの美しさを見れば、言葉は戸惑ってしまう。
静かな表情でメルトリリスは抱えるように構えた腕を、まるで水の中を動くようなしなやかさで中空へ伸ばす。小さく床を蹴り、ふわりと飛ぶ。
その手はまるで羽のように、柔らかく空を捉えて羽ばたく。水面を蹴るように力強く、けれど優雅に身を躍らせる。
ああ、今自分は白鳥を見ているのだ。あんなにも黒い彼女の服が、まるで純白のドレスに見える。指先はくちばしであり羽。足が飛べば羽ばたくように羽が舞う。
深夜の湖畔に現れた美しい白鳥が、星見の燭台の下で踊っている。
身を躍らせて、揺蕩わせ、屈ませて折り曲げる。胸を大きく反ると、白い腹が純白の羽毛に覆われたように光っていた。
再び飛び立つように、宙に踊る。回転にスカートが白鳥の大きな翼のごとく大きく広がる。
懐かしさを覚える。
指先の使い。つま先の鋭さ。優雅な身の運び。その全てを静かな表情で踊る、メルトリリス。
ああ、そうだ。これは――。
天に伸ばした手を、ゆっくりとおろす。
そうして、腕をたたんで、深い一礼。飛び疲れた白鳥が水面で休むように。
体を起こしたメルトリリスは、微笑んでいた。
「――」
その笑みを思い出した。胸が、痛いほどに溢れかえる。
薄い唇が淡い弧を描いて、瞳が濡れたようにすぼめられる。わずかに赤みを帯びた頬が、その白い肌に鮮やかだ。
メルトリリスの微笑みは一瞬に過ぎなかった。次の瞬間には彼女はどこかへと走り去っていった。
その優雅な姿と時間に、自分とマシュは追いかけることすらできなかった。
「今のは、メルトリリスさん、ですよね」
マシュが戸惑いながら問う。そうだろう。あんな風に踊れるのは、メルトリリスに他ならない。
けれど――
「違う、と思う」
あれは、彼女は、ここにいるメルトリリスではない。
そう確信した。
だって、自分は
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