勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
本編の勝利の女神:NIKKEとはまた違う世界なので、同じ用語でも本編とは違うかもしれません。
アンチヘイトとはタグ付けてませんが皆様に嫌われるような描写が多いと思われますので、ご了承ください。
第1話:押し付けられた責任
───ある日、私は夢を見た。
その夢は私と同じ姿のニケが山の様に積み重なっている夢。
...私はその上に立っていた。
弾創や切創の出来た者。
頭部の原型を留めていない者。
身体の一部が欠損している者。
バイザーが割れ、虚な目を覗かせる者。
───どれも私であって私では無かった。
その山の頂上で膝を落とした私は、バイザーを外す。
そして持っている
そして自分の額に銃口を当て...引き金を引いた───。
───銃声と
呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が治らない...汗が私の身体をじんわりと冷やし始める。
私は"ニケ"なのに...そんな事を忘れてしまう程だった。
今の時間は5時23分...まだ誰も起きてないだろう。
シャワーを浴びよう...でも今の私は下着。
その格好で指揮官や他の仲間とバッタリ出会うのは恥ずかしいから、バスローブを着てから自室を出た。
バスルームへと向かう。
階段を下り、そして廊下を歩く。
...まさかこんなに大きな宿舎に住めるとは思わなかった。
でも、私や仲間はニケで指揮官は人間...最終試験では運良く生き残れたかもしれないが、それでも死ぬ時は死ぬ...幾らこの部隊に"中央政府の高官"が携わったとはいえ、ここまでの間取りは要らなかったのではと思った。
シャワーを浴び、心を落ち着かせる。
ニケになってからは体臭も無いし不要な行為とされているが...元が人間だったせいか、私は面倒くさくならなければ毎日
───これがオアシスのように感じる。
ただ、こうしてシャワーを浴びていると...
降り注ぐシャワーの水滴を雨のように感じてしまっているのか...私は一通り浴び終え、
タオルで髪を拭き、ドライヤーと櫛で乾かしながら梳かす。
そんな中、私は鏡に映る自分と目を合わせた。
そして、澄んでそうで濁っていそうな青い瞳。
この姿になってからどれぐらい経つのだろうか...もうかつての私など思い出せない。
思い出したとしても、一体何の意味があるのか...そんな事を自嘲気味に思いつつ、私は自分の髪を梳かしていた。
...髪の癖は抜けない。
このモデルになればみんなそうなのか...私は鏡と睨めっこしていた。
髪を梳かし、歯磨きを済ませた後...服を着替え、装備を身に付ける。
そしてバイザーを装着し、長い髪を後ろで一本に束ねた。
───そう、これが私。
ミシリスでラインナップされた23番目のモデル..."プロダクト23"。
この姿になってからどれぐらい経つのだろうか...そんな事憶えても無かった。
私は宿舎の屋上に出る。
"
...そんな空を見ながら、私は物思いに耽っていた。
───人類が地上から追放され、
偽りの空とはいえ、地上と何ら変わりはない...よくここまで作り上げたものだと感心する程に、エターナルスカイというのは偽りの空とはいえ重要だ。
もしこの空を消そうものなら...恐らくアークは大パニックになるだろう。
そもそも、アークの維持はどうやっているのか...私は考えられなかった。
「───貴女も起きていたのですね」
私が物思いに耽っていると、後ろから声が聞こえた。
振り向くとそこには同僚である"プロダクト08"が彼女はヘルメットを脇に抱えていた。
「あっ、おはよう。
奇遇ね、08」
「ですね。
もう少し眠っていたいですが、早起きの習慣が身に付いてしまいまして」
「ふふっ、同感よ」
私は口下手で、誰かとうまく話す事が出来ない。
いや...話が長続きしないと言うべきか。
だが、私含め部隊にいるプロダクトシリーズは皆そんな感じだが、08はそんな私を気遣ってくれる。
夜が明け───新たな1日が始まる。
リビングとダイニング、そしてキッチンを兼用しているLDKで、同じ部隊に所属している子達と一緒に朝食を食べていた。
私に08、そして"プロダクト12"といった"ミシリス"の所属。
"
ソルジャー"
アークで御三家のような三大企業の量産型ニケ達が一堂に会する。
だが、ここに
訓練と最終試験時もあまり口数が少なかったが...実は私達の事が嫌いなのだろうか?
だが、それにしても私達へのタメ口は許容していたから...結局分からずじまいだった。
朝食を食べ、それぞれが思い思いに過ごしていると...スピーカーから放送が流れる。
スピーカーから流れるのは、男の声だった。
『───至急、作戦室に集まってほしい。
繰り返す、至急───』
宿舎の作戦室に呼ばれた私はその部屋向かう。
部屋に着くと、もう他のメンバーは集まっていて...私達は彼に挨拶した。
私達9
「みんなおはよう、早速だが
「えっ、
「フラワー...この部隊が編成されてからもう
「あっ、そっか。
そうよね...」
指揮官の言う通り、この部隊が編成されてから1ヶ月は経っている。
編成初日から"シミュレーションルーム"や"トライブタワー"での訓練...それに地上での最終試験を経て、今いる
「...だが、今回はアークでの任務だ」
私達の戦いは地上だけで無く、アークの中でも発生する。
今回は部隊が編成されてから
指揮官は、自身に任務を与える"上官"様からの内容を私達に伝えた。
───任務は犯人グループの制圧と人質の救出。
今日の午前中、アークに点在する一つの多目的ホールが襲撃された。
その建物は"
「
オウルが軽口を叩くようにそう言うが、そんな事は重要では無く...問題なのは
市民ホールを占拠したのは"エンターヘブン"とは違うテロリスト...それも人間では無く
私達は驚く。
ニケは人間に危害を加えられない...その筈なのに、まるでリミッターが解除されたかの如く今回のテロ行為をしている。
私達がそれぞれ反応を見せる中、腕を組んでいたサンが質問した。
「奴等は何と言ってるんだ?」
「身代金の要求...そして
ニケの人権見直し...それは私達も望んでいるが、武力で素直に見直されるとは思わない。
指揮官はどちらの事を指しているのか、小声で「馬鹿共が...」と言う。
憎そうな表情を浮かべる指揮官だったが、フラワーの言葉で我に返った。
「それは...
中央政府が無理なら、"A.C.P.U."はこの件について何と?」
「あぁ、
「それなら何故私達に...?」
イーグルの疑問は私達にも通じる。
そもそも私達は地上でラプチャーと戦い、資源回収や拠点の奪還。
治安維持もするにはするが、そんなの弾除けか市民の受け皿がザラだ。
「気になったか、イーグル。
...正直、この
責任───結局は起きた事に対して誰も責任は取りたくないと言う。
この出来事がそう...自分達の動きで人質に被害が及べば世間からのバッシングを受ける。
そうならないようにしたいからこそ、指揮官の上官様にこの案件を振り...私達が手を汚す事になったのだろう。
「それで私達に...理不尽です」
「まぁ、そんなもんだ...今から作戦を言うから皆頭に叩き込んでおけ。途中で忘れたら地獄を見ると思え」
指揮官は私達に作戦を説明する。
多目的ホールへ潜入するメンバーと外で待機するメンバーに分かれる事となった。
占拠された建物に入るのは───私をはじめ
外では08、12、フラワー、オーシャンが指揮官と共にそれぞれ待機する。
08は外から建物の監視及び狙撃を担当し、建物外で何か不審な動きが無いか警戒する事も兼ねてフラワーが彼女に同伴する
オーシャンは指揮官と共に野次馬が怪しい動きをしないか対応し、12は
「───内容は以上だ。
今回が初めての任務となる。
各自装備を整え次第、車両に乗り込め」
私達は指揮官の話が終わり、装備を整える。
膝や肘を守るプロテクターや硬質な素材で出来たコンバットアーマーを装着し、本当の意味で私は
ただ、今回の相手はニケ───その時点で私達と同じだが、もしかしたら"同型の子を相手にする可能性"もあった。
私達は装備を整えた後、それぞれ車に乗り込む。
指揮官は自分で使う5人乗りのセダン車にフラワー、イーグル、ファル、オウルを同乗させ、サンは配属前から持っていたスーパースポーツタイプのバイクに乗る。
...残りの私達はSUVに乗り込んだ。
SUVの車内...08が運転し、12が助手席。
私とオーシャンが後部座席に座っていた。
車の中は沈黙が続く...指揮官達の方ならフラワーがいるからまだ賑やかだろう。
「...私達、大丈夫かな」
オーシャンが口を開く。
彼女は沈黙に耐えられなかったのだろう。
「どうなのかしら...」
正直、私は不安からか緊張している。
怖い...もし同じここで死んだら?
やり方がどうであれ、その子達の正義を踏み躙るように制圧したら?
それに...この制圧が失敗したら。
だが、そんな事を考えた所で意味は無い...私はオーシャンが自分のような性格じゃないと思いながら答えた。
「...きっと大丈夫よ。
結果がどうであれ、私達なりにベストを尽くしましょ」
「うん...そうだよね。
ありがとう、23」
...アークでの乗車率は低い。
公共交通機関か徒歩か...車を使わない市民はそんな感じで、渋滞が起こるのは横断歩道を渡る人が多過ぎるか、運悪く一箇所に車が集中するか、それかこの通りで事故が起きるか。
だからか、車は
08の運転も上手いからか、私達は窓から見える光景を眺めながら待った。
窓の向こうには、街並みと歩く人々。
そして並走する車や信号の前で止まるバイクなど...地上が"ラプチャー"に支配されて無ければこんな風景だったのだろうと思う。
地上を支配した機械生命体───ラプチャーとの戦い以前に、アーク内での諍いや人間と
私達は目的地に到着する。
目的の多目的ホールには人集りが出来ていて、野次馬の前には"A.C.P.U."の警官隊が止めていてパトカーが建物を包囲している。
しかもそんな光景を映している"テトラコネクト"のヘリが回っていた。
08が多目的ホールから少し離れた所にある駐車場に車を駐め、私達は降りる。
指揮官達やサンも同じ駐車場に駐めて降りた。
「よし、みんな集まったな。
これから任務を開始するが...」
指揮官はズボンのポケットから携帯を取り出すと誰かと連絡する。
そして連絡が済むと再び私達の方を向き、フラワーが疑問を口にした。
「えっ、誰から?」
「ああ、"オペレーター"からでな。
犯人グループは
「...中央政府は?」
「反応は決まってる..."徹底抗戦"だ」
「クソっ...馬鹿どもめ...」
サンが苛立つ。
それもその筈、人質が殺されかねない状況なのにも関わらずまだ見栄を張る気なのかと。
「...とにかく。
みんなそれぞれ位置について作戦を開始しろ。
内部に潜入するメンバーに関してはオペレーターが犯人グループの無線をジャミングしているから各個の無力化は
絶対に油断するなよ」
そして任務は始まり───私達は二手に分かれる。
私とファルコンは下水道を通って地下駐車場から。
イーグル、オウル、サンは警備が手薄だとされる建物の左側から突入した。
下水道に入る前、テトラコネクトの報道ヘリは早急に帰っていく。
誰かがテトラへ手を回したのだろうか...だが、突入する私達にとっては好都合だった。
犯人グループのニケは10名...当然だが相手は全員量産型であり、何名かは同型の子もいる。
仲間と誤認しないように認識は出来るものの...後味は悪そうだ。
下水道を通ってマンホールを上げる。
マンホールを少し上げて周りを確認すると...ここが地下駐車場だと確信した。
だが、私はそこで量産型ニケが横断するのを見かける。
2名...だが、彼女達は私達が入ってきた事に気付いていない。
私はマンホールを慎重に開けて地上へと出て、ファルを引き上げてはマンホールをゆっくりと下げて閉めた。
少しの音でも反応されないように私達はその場から離れ、一台の車を遮蔽物にする。
ファルは私の背後を取られないよう盾を構え、私は彼女と背中合わせで拘束用の銃を構えた。
ミシリス製のボーラピストル...まだ試作だと言われているが"ニケ用"の捕縛用装備であり、同じ対応の鎮圧弾と違って傷付けるものでは無い。
そしてあとは高電圧のスタンガン...どれもニケ用として無力化できるものだった。
2人の内、1人の気を逸らす為...私は持ってきた空薬莢を適度な距離へと投げる。
軽い金属音を立てながら地面に転がり落ちる空薬莢...その音に1人が反応した。
「何の音...?」
「さぁ...爆発音は聴こえなかったし突入された訳でも無いだろうけど...」
「私見てくる」
1人のニケが歩き出す。
私はその隙を突いてボーラピストルの引き金を引いた。
「きゃっ───!?」
量産型ニケの1人はボーラピストルから放たれたワイヤーにより上半身を縛られ、銃を落とす。
目の前での状況に動揺するもう1人にも撃って縛り上げた。
「このっ...!」
私は縛られている子達をスタンガンを当てて意識を失わせる。
その後はダクトテープを使って、彼女達が身動きを取れないよう背中合わせにがっちりと縛り上げた。
「こちら23、地下駐車場の制圧に成功したわ」
『───こちらイーグル、
私は他2人と共に物置部屋から侵入し、2階の敵を3人無力化しました』
「
私達は1階から先行するから、上から援護を頼める?」
『
その時にオウルが1階にスモークグレネードを投げるので、その隙に突入をお願いします』
「
私は通信を切る。
そしてファルにも内容を伝えた後、私達は地下駐車場から出て行った。
1階の大広間前には犯人グループのニケが1人だけ警備している。
その子を誘導した後にスタンガンを喰らわせ、縛り上げる為に近くの物置部屋へと運んだ。
事が済み、私達はホールの扉前で配置に付く。
残り4人...私はファルと共に両扉の左右に構えた。
「...こちら23。
私達は配置に付いた、
『───こちらイーグル。
了解しました、3カウント後にオウルがスモークを焚くので2人は突入の準備を』
イーグルは3カウントを始める。
3、2、1───。
『───な、何っ!?』
『煙幕よ! 外の奴等が───』
私達は扉を開き、ファルが盾を構えながら突入する。
私はその後ろに付き、煙幕の中に入った。
バイザーの視界をサーモグラフィーに切り替える。
残りの4人は狼狽えているが、イーグルやオウルの放つ鎮圧弾や、勇猛に飛び降りて来たサンの回し蹴りや肘打ちにより倒されていった。
煙が晴れると、そこには倒れた犯人グループの子達と、部屋の中央に集められている人質。
ほぼサンの
人質は解放される。
そして、無力化された子達は大広間の中央に集められた。
イーグルとオウルが降りてきた後、犯人グループの子達をダクトテープでぐるぐる巻きに縛り上げる。
意識を取り戻した1人は解こうともがきはするものの、がっちり縛り上げているせいか脅威では無かった。
サンが指揮官へ報告し、オウルとファルコンが人質を誘導していく。
私はイーグルと"ある話"をした。
「あの...23。
彼女達の武器...
「どういう事かしら...?」
「その...彼女達の武器、"ニケ用"では無いんです」
「ニケ用の武器じゃない...?」
「何というか...もしかしたら単純にラプチャー対応してない
...何ら不思議な事では無い。
犯人グループの子達がどんな武器を使おうが私達には関係無い。
ラプチャーとの戦いでは無い以上、人間を人質に取りたいならラプチャー用では過剰過ぎるから対ラプチャー用の装備では無いのだろう。
だが...これが最悪な
人質はオウルとファルの誘導で建物から出て行こうとするが...彼等は足を止めた。
「皆さんこちらへ...ってどうしましたか?」
人質の一部がオウルの声を無視した挙句、何人かが銃を拾う。
ラプチャーと戦う為の銃では無い...その武器を難なく手に持った人々は、不慣れな構え方で拘束されたニケ達に向けた。
「んんっ!? んんっ!!」
先程まで意識を取り戻して抗おうとしていた1人のニケが塞がれた口をモゴモゴとさせながら首を横に振る。
...しかし、人質は止める気など無い。
私達が止めようと行動に移す前には既に終わっていた。
───私達の方を向き、涙を流しながら懇願する表情を最期。
彼女達は抵抗もできないまま撃ち壊され、そこには凄惨な状態の残骸だけが存在していた。
...私達は、その光景をただ見ている事しか出来なかった。