勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
私の父は実業家で、ロイヤルの令嬢だった母と結婚...そして私達姉妹が産まれた。
でも、
比較され...劣っていたら貶され、罰され───とうとう私は彼らから子供として見られてないと思い始め、敬語で話すようになってしまった。
認められたい───そんな一心で努力しても家族が見るのは私の悪い所だけ。
それでも諦めきれなかった私はニケになろうとまで考えた。
そんな時だった...。
「F、I、G、H、T!
ファイトーッ!」
私は姉と一緒のアークの名門校に入る。
優等生ばかりの学校で、そこではロイヤルもフォーマルも関係無かった。
私はアークでも上位...若しくは最上位に位置するチアリーディングチームに入り、チアガールとして応援する。
そしてチームで評価を上げていき...3年生になった頃にはチアリーダーになっていた。
ポンポンを両手にパフォーマンスしながら自分の学校を応援する...私の見た目でなのか将来有望な
だって私には、大切な人が居るのだから───。
「お待たせ! 待った...?」
「ううん、待ってないよ」
私は学校の屋上に着き、ある人と出会う。
彼は私の友達で...恋人だった。
キッカケは些細なもの...校庭内で私が他のカースト上位とつるんでいた時───彼を見つけた。
ベンチに座り、本を読む。
彼の姿を一目見た時───私の時は止まりそうになる。
まだ話してもいないのに、肩を組むジョックから胸を揉まれそうになるのも止められずに、私はその人に釘付けだった。
私がその人と初めて話したのは、ある日の事...前夜に家族からの
その事ばかり考えていたせいか、前を見てなかったが───それが逆に功を奏した。
「───いったぁ...!」
誰かとぶつかってしまい、尻餅をつく。
私はぶつかった相手一目見ようと前を向くと...。
「ごめんね!?
...大丈夫?」
───彼だった。
私は彼の顔をしっかりと見てしまう...まさしく白馬の王子様みたいだった。
「えっと...クレアさん?」
「───あっ。
えっとぉ...うん、大丈夫よ!
ごめんなさい、私も手伝うから...!」
私は散らかってしまった彼の本や筆記用具を拾う。
物を拾う中...ふと、お互いの手が重なる。
そして再び顔を見合わせてしまった。
お互い恥ずかしがりながら手を離し、謝り合う。
でも...何だか嬉しかった。
それ以降、私は彼と一緒にランチをしたり、一緒に行動する事もあった。
グループのジョックからもぶつかった件について問われるが、いつものように軽くあしらった。
「優しい奴には裏がある!
どうせそういう奴だぞ!」
ジョックは負け惜しみのようにそんな事を言った。
...だが、私はその言葉で不安になった。
もし...私が好きになった彼が、私の血筋目当てだとしたら?
お金の事しか見ていなかったら?
...それが怖くて不安だった。
2人で学校の屋上にいた時...私は彼にある事を聞いた。
「ねぇ...どうしてぶつかったあの時、私の名前がすぐ分かったの?」
「だって、学校の有名なチアリーダーじゃないか」
「そっか...そうよね」
何故私は当たり前の事を訊いているのだろうと思い、話題を変えようとしたが...彼は話を続けた。
「でも、勘違いしないで。
僕が君に近付いたのは、チアリーダーだからでもロイヤルだからでも無いから」
「それって、どういう...?」
「えっと、その...君の
彼は恥ずかしそうにそう言い、私は照れながら感謝する。
───お互いが恥じらいながら沈黙する中、私は頭の中で話題を探す。
そして...思い付いたのはこうだった。
「えっと...もし、だけど。
願いが叶うなら、何を願う?」
「願い...?
うーん...」
彼は不思議そうにしながらも考える。
...私はどうしてこんな馬鹿な事を訊いてしまったのだろうと自分を恨みたくなった。
「...大事な人
...意外な答えだった。
「...大事な人、達?」
私が更に訊くと、彼は顔を赤くしながら顔を逸らした。
「えっと...お父さんとお母さんと、1人は"義理の姉"で...もう1人は───」
───彼は再び私の方を見る。
「大好きっ...大好き───!」
私は彼を抱きしめる。
彼は狼狽えこそしていたが、抱き返してくれた。
「───えっと...ふふ、喜んでくれて嬉しいよ。
...クレア、やっぱり君の笑顔は
───それ以降、私達は恋人となった。
家族の愚痴を話し、相談できる唯一の存在。
そして私を暖かく迎えてくれる居場所...何より、私をロイヤルでも学校のマドンナとしてでも無く1人の人間として認めてくれた。
勿論、彼の相談にも乗ろうとした。
でもそれは不要なようで、唯一心配な事と言えば...
仲良く話してはいるものの、帰路は一緒に出来なくて楽しむ事は出来ない。
...何故なら私には門限があるから。
門限を守らない者は人に在らず。
...つまり私は、本格的に家族から認められなくなる。
だからこれを破る事は出来なかった。
そんな時...彼は提案をした。
その内容はチアリーディングを引退した後の休みにデートする事───私もそれを承諾し家族には嘘をついて、彼とデートする事にした。
大学の名門校への受験より、こちらの方が私にとって重要...本当の意味での青春を謳歌出来ると思った。
そして休みの日───お気に入りの私服に着替えてはすぐに目的地に向かう。
目的地は遊園地...家族に連れて来て貰った事は無いから楽しみだった。
遊園地の前に辿り着いたものの...彼は来ない。
寝坊なのか、それとも忘れているだけなのか...
私は事故に遭ったのではと考えを過らせたが、そんな事は考えないように彼との遊園地でのひと時を想像しながら待った。
───3時間も待ち、全くと言って良い程来ない。
もう昼になっていて、私は待ちぼうけを喰らっていた。
電話してみるが、連絡は来ない。
...確認のしようが無かった。
───夕方になるまで待っても来ず、私は諦めて帰路につく。
...学校で会えたら改めて事情を聞こうと思いながら。
家に帰ると...いつものように父が
...だが、そのニュースを見た時に私の心は固まった。
『続いてのニュースです。
今日午前8時頃、大通りで車両の爆発が起きました。
爆発したのは黒いバンであり、車両のそばを歩いていた方を中心に死傷者が10人となりました。
A.C.P.U.はこれをテロだと見て捜査を進めており───』
───まさかと思いながらも私は、たった一つの可能性に戦慄する。
もし...もしも遊園地に向かう途中で爆発に巻き込まれてしまったのなら、と。
次の日───学校に彼の姿は無い。
それどころか...朝礼で先生からの話で私の不安は確信へと変わってしまった。
「えっ───?」
...朝礼が終わり、私はトイレで何度も空嘔吐《嗚咽》した。
吐く事は無いのに、何度も同じ事をする。
涙が溢れ出し、トイレの水面は何度も私の顔を歪ませるように波紋した。
───彼は死んだ。
私にはそれが信じられなくて、居場所を失ったと実感した。
それ以降、私は気が抜けたようになった。
幸いにもチアリーディング部は引退したから醜態を晒す事は無かったが、彼が亡くなってからは大学受験もままならなくなった。
家に帰れば罵られ、学校に行けば揶揄っているのかと思う程に気遣われ...私は徐々に人間不信になっていった。
下校する中───私は一枚のポスターに目を通す。
それは"ニケ募集"のポスターであり、私が認められる為の最終手段として持っていたものだ。
ニケになる人は指揮官同様年々減ってはいるらしいが、それでも誇り高い
───学校を中退し、私はテトラでニケにしてもらう。
もう私には何も無い...それなら勝利の女神になるまでだと思いながら。
「───ただいま!」
...私はニケになった。
残念ながら量産型になったものの、記憶消去や自我喪失の副作用はあまり無い。
それに、私が
だからと言ってニケの姿になった私を見て...両親が認めてくれる筈が無かった。
両手で自身の口を抑える母。
そして...目を大きく見開いて驚いた後に、怒りを感じたように青筋を見せる父がいた。
「この───馬鹿があっ!!」
投げられたスチルのコップが私の額に当たる。
痛覚センサーはオフにしていたから痛みこそ感じなかったが、その行為に関しては心に激しい痛みを感じた。
「おとう───お父さま...?」
「その名前で呼ぶな...金なら幾らでもやる───だからもう...二度と、私達に関わるな」
───なんで?
どうしてそんな酷い事を言うの?
私は、あなた達に認められる為にここまでしたのに...どうして?
...私は涙を流しながらその場を後にする。
拒絶された苦しみが今でも続いているのに、私はそれを精算しようと再び戻ってきてしまった。
「なぁ、私はお前に言った筈だ...金なら幾らでもやるって。
それなのに何だその態度は?
お前の指揮官に連絡させて貰うぞ」
私から携帯を奪おうとする父に「それは駄目!」と言ったが...ニケが人間に危害を加えるのは御法度だった。
「おいおい、知ってるか?
ニケは危害を加えてはいけないんだぞ?
そんな悪い子には───お前の
父は私の長い髪を引っ張りながらテーブルに私の顔を叩きつける。
そして再び私の顔を自分の方に向けると、彼は私の頬に平手打ちをした。
「───ッ!」
「どうした? ニケには痛覚センサーというものがあるのだろう? 私にそうまでして認められたいか?」
逃げたい。
押し除けたい。
でも相手は人間でロイヤル───私が抵抗してしまえば、指揮官が...部隊の仲間達が危険に晒されてしまう。
でも、辛い。
物理的な痛みは無くても、心が痛い。
ごめんなさい。
ごめん...なさいっ───。
───突然、父の制裁が止まる。
私は恐る恐る目を開けると...その隣には黒いレインコートを着て、フードとハーフマスクで素顔を隠した人物がいた。
...その人物は、私が一瞬だけ見えた人物にそっくりだった。
「何だお前...? 不法侵入だぞ!?」
「知ってる...そのニケを離せ」
黒ずくめの人物は私を叩こうとしている父の腕を掴む。
顔を隠しているが...声といい、その瞳は何処か見覚えがあった。
「お前、ロイヤルの私に指図する気か...!」
「そいつ、あんたの娘なんだろ?
良い加減認めてやったらどうだ?」
「何を───ッ!」
父は黒ずくめの人物を殴ろうとするが、その拳を掌で受け流す。
そして、謎の人物は父の腕を折り曲げようとしていた。
「うがっ...!」
黒ずくめの人物は父を殴ろうとしたが、私は咄嗟に「やめて!」と叫んでしまう。
その人物は手を止めるが、同時に隙を作る事となってしまい...父は相手を振り解くと同時に殴った。
...殴られたその人物は跪くが、まだ諦めてないように父を見上げて睨み付けた。
「───
「まだ減らず口を...!」
相手の言葉に父は苛立ち、もう一撃喰らわせようとするが...私はこの争いを見てられずに叫んだ。
「やめて───!!」
───私の声で、2人は争いを止めてこちらを見る。
黒ずくめの人物が何者なのか分からないが、少なくとも、
...だからこそ、これ以上傷付くのを見てられなかった。
「私、もういいよ...これからは二度と関わらないから。
だから、もう...だからもう、やめて───」
───私はその場から走り去る。
何の為に、何をしたくて私は家に帰って来たのか分からなくなってしまった。
どこまで走ったのだろう───最初は小雨だったものの、勢いが強まる大雨へと変わる。
まるで、アークが私の気分に応じるかのように天気を荒らしていた。
雨に当たりながら私は泣き叫ぶ。
そんな時にある人物が後ろから呼んだ。
「───
私は呼ばれて後ろを振り向くと、そこには家に現れた謎の人物がいた。
私は行き場の無い怒りや悲しみを、突然現れたその人物にぶつけてしまった。
「あなたは何なの!?
私の邪魔をして...ストーカーなの!?
ニケフィリアってそうだよねー...私達を愛玩動物としか見てないし、さっきもありがた迷惑だったわ!」
私がヒステリックを起こしていると、その人物はフードを外しハーフマスクを下げて素顔を晒す。
───私はその素顔に愕然とした。
「な、何で...?」
...相手の正体は私の指揮官。
彼は雨に動じる事無く話し始めた。
「───
...アイツはお前の事を心配してたぞ」
私はその言葉を聞いて、ある事を思い出す。
それは、私がいつものようにATMからお金を引き出して宿舎に帰った時...ファルと出会った時だった。
ファルは私の様子がおかしいと思い、私は勘繰られないよう部屋に行こうとした時もあの子は何が言おうとしていた。
...私はなんて事をしたんだろうと思った。
でももしお金が仕送られないと知られたら、私には価値など無くなる...そう思うとほっといて欲しくなった。
「...余計なお世話よ! どうせみんな私のお金ばかりに頼るしかないから心配してるのよ!!
どうせ貴方だって───」
───私が言いかけている途中で指揮官は駆け寄って私を抱きしめる。
私は突然の行動に対して困惑した。
「な、何してるの...!?」
「───お前のクレジットを頼ってるのは事実だ。
でも、お前がたったそれだけの為に必要とされてるとでも?」
「えっ...?」
「ファルは兄が現実を受け入れられず拒絶された時、相談に乗って貰ったと言ってた。
23も、取り柄の無い私を褒めてくれたと。
イーグルだって、ラプチャーとの戦いで右腕を失っておかしくなりそうだった私を抱きしめて守ってくれたと...」
「あ、あれは...!
私がただ認められたくて...」
「認められたいのは俺だってそう...。
認められたい気持ちもありながら自分を見失い、最終的には大事な人が離れていったと気付いた。
だから...お前にまでそうなって欲しくない」
「そんなの...貴方の独り善がりよ」
「確かにそうかもな...。
...でも、
フラワー、お前には助けられてる。
クレジットだけじゃない...お前が明るくて社交的だからみんなが繋がった。
それが偽りの性格でも...俺や他のメンバーにとっては事実だ」
その言葉を聞き、何故か私は泣いてしまう。
嗚呼...何でこんな薄っぺらい言葉なのに、彼に身を委ねそうになるんだろう───。
...私は雨の中、指揮官と一緒に抱き合いながら泣き続けた。
気が済むまで、この心が晴れるまで───。
───雨が止み、私の涙も止む。
ただ、私も指揮官も濡れた状態になってしまった。
「ごめんなさい...私...」
「良いんだよ...フラワー、もう気は晴れたか?」
「ええ...勿論」
指揮官の顔を見ると、彼は穏やかそうな表情をしていた。
その表情はいつもと違い、優しい顔付き。
まるで、かつての恋人を思い出すような雰囲気だった。
「俺───いや...
でも...キミが誇りに思える指揮官になれるようベストを尽くす」
指揮官は一人称を変えながら私に話す。
もしかしたら本心はこちらなのかもしれない...そう思うと何だか嬉しくて、幸せだった。
「あははっ...僕だなんて指揮官らしくないわ」
「そ、そうかな...?
でも良かった...やっぱり、
「えっ───?
...ふふっ、ありがとう」
私は指揮官に改めて抱き付く。
彼の部隊に入れて良かったと、心からそう思えた瞬間だった。
───雨が止み、夜が明け始める。
私が指揮官の顔を再び見ると、何処か"彼"の面影を重ねた。
『"
フラワー編終わりです。