勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
ニケになってからある日───エリシオンの
彼女は数多くいる量産型の一体でしかない私に対して謝罪する。
どうやらお父さんに契約を持ち込んだ職員達は独断でニケ化を進めていたようで、社長自身も私がニケになってから何日か経った後にその真実を知ったようだった。
最終的にその人達は厳重な処分を喰らわせ、こうして社長自身が望まぬニケ化をした私達に謝罪している様だった。
「───もしもでいいが、何か私に頼みたい事はあるか?
できる範囲でだが、尽力する」
...しかし、この時の私はもうどうでも良かった。
結局お金の為に私を売った父なんて、もう知らない。
夢も希望も、全てがどうでも良くなっていた。
「いえ、特にありません」
「そうか...だが、私はいつでも待っている。
何か思い付いたらいつでも話に来てくれ」
...そんな事を言われたものの、思い付くまでに生きているかなんて分からない。
それに、今更願いを叶えて貰えてもと諦めに近い感情があった。
───でも...もし願いが叶うのなら、あの頃の私に戻して欲しい。
夢に憧れていたあの時の私に...。
───私はお婆さんに頭を下げ、彼女の家から出て行く。
父の後悔が信じられない私だが、それでも思う所がある...そのせいか完全に未練を断ち切れなかった。
宿舎に戻り、私は帰って早々...オーシャンと出会ってしまった。
「あっ、オウル!
お帰りなさい」
「あっ、うん。
ただいま」
まだ私とオーシャン以外は誰も帰って来てないようで、私は彼女に誘われてリビングでお茶する事になった。
他愛のない会話をしながら、私は注がれた茶の液面を覗きながら言った。
「あの、オーシャン...」
「うんっ? どうかしたの?」
「...その、もし
───訊いてしまった。
先程のお婆さんと話していた一件もあってか、私の心の中は複雑に絡み合っていた。
「憧れていた人に...ね。
私はそういう経験まだしてないから予想でしか言えないけど───私だって立ち直れなくなると思うわ」
「そう、だよね...」
オーシャンの真面目な答えに対し、私は簡単な相槌を打つ事しか出来ない。
彼女は私の方をしっかり見ながら不思議そうに訊いた。
「因みにどうしてそんな事を訊くの?」
私はオーシャンからの問いに焦る。
ただ、誤魔化す為の言葉が思い付かなくて私は本当の事を言った。
「───私、実家に
おかしいな、涙が出てくる。
悔しい。
何故か悔しい。
私にもう夢なんてないのに。
希望なんて無いのに。
どうしてこんなに悔しいんだろう。
今はここから離れなきゃ、泣いている私をオーシャンに見せたくない。
「ごめんねオーシャン!
わ、私もう部屋に───」
「待って」
私の腕をオーシャンが掴む。
やめて、離して...。
「わ、私疲れてるから!」
「お願い───私に何があったか教えてくれない?」
「な、何も無いよ!」
「なら、どうして泣いてるの?」
「ふ、不具合だよ!
いいから───」
「誰かに話す事を、
...私はその言葉を聞いて、拳を握り締める。
オーシャンを殴りたい訳じゃなく、ズカズカと入り込もうとする彼女にイラっときてしまったからだ。
「余計なお世話だよ!!
オーシャンはいつもそうだよね!
自分が部隊の衛生兵だからってくだらない責任持って人の個人的な事情にまで入り込んできて...いい加減迷惑だったよ!!」
───私の言葉にオーシャンは驚愕した後、顔を俯かせて謝る。
...私の言葉でショックを受けてしまったように。
「ごめんなさい...私は、貴女の事を───」
私はオーシャンの手を振り解き、自室へと逃げて行く。
「待って」という声を無視しながら───。
部屋に閉じ籠り、扉の前で座り込む。
───どうしてあんな事をしてしまったのだろう...怒る必要はないのに。
私だって、諦めない事を強要してしまったのに。
下手な行動ばかりの自分が嫌いになりそうだった。
『オウル、いる?』
扉を優しくノックするオーシャンが声を掛けるが、私は無視していた。
『...さっきはごめんなさい。
ただ、貴女があんな質問をするなんて初めてだったから』
そういえばそうだった。
私は誰かに質問するにしても、無難な事しか訊かない。
今回のは完全に私絡みの話となってしまった。
私は沈黙を貫こうとすると、オーシャンはある出来事を持ち出した。
『あの時言ったよね。
「
「あっ、あれは!
───あっ」
...声を出してしまった。
また下手な動きをした私自身を恨みながらも、部屋の外にいるオーシャンに頼りない弁明をした。
「あれは、あのサイコパスのパーツになりたくなかったからであって...!」
『ふふっ、オウルだって
「当たり前だよ!」
...よく考えると、私は矛盾している。
夢も希望も無くて諦め切っているのに、死にたくないだなんて。
『...あのね、オウル。
貴女が何を思ってあんな問いをしたのか分からない。
でも、これだけは覚えておいて。
誰かに
確かに私が力になれるかどうか分からないし、干渉する権利も無いわ...でも、私はここに所属される前の部隊とかで、抱え込み過ぎて壊れてしまった子達や指揮官達を見てきたから』
───オーシャンの声は何処か悲しそうに聞こえる。
私はくだらない責任だと言ってしまったが、本当はオーシャンみたいなニケこそ、人間こそ必要だと思った。
悩みを話す事を躊躇わないで───私はその言葉を聞き、一呼吸置いてから扉を開ける。
ただ、扉を開いた瞬間───唇に柔らかいものが触れた。
───私は驚きを隠せなかった。
オーシャンは私と唇を重ねている...そう、キスしていた。
「───ありがとう、オウル」
唇を離したオーシャンは頬を赤らめていて、逆にこっちの方が恥ずかしいと言いたくなった。
「えっ、あっ...」
「あっ、ごめんなさい私ったら...」
何故か気まずそうにするオーシャンに対し、私は何とかフォローしようとした。
「えっ!? あっ、いいよ!
私も、オーシャンに諦めない事を強要しちゃったから...」
「お互い、あそこで解体されたくなかったでしょ?」
オーシャンはそう言って微笑み、私もその笑顔に釣られて顔が綻んだ。
私はオーシャンに悩みを打ち明けた後、彼女と一緒に様々な事をした。
まずはイングリッドさんに連絡し、父を騙したグループを探す様お願いし、
それから何日か経った後───スポンサーになると騙っていた詐欺グループはA.C.P.U.に逮捕され、奪ったお金は私含めて被害者達に返されていった。
被害者は私達以外にもいたようで、年数こそ浅いものの被害額はロイヤルを名乗れる程だった。
過去の蟠りが解決した後...任務の無い時間は手品の練習に当てる事にした。
オーシャンを始め、フラワーやイーグルなどにも見てもらって...お世辞かもしれないけど、良い評価をして貰えて嬉しかった。
それから数日後─── 私は公園で親子連れを相手に手品を披露していた。
「えっと...ご満足頂けましたか?」
私はニケだし、テレビのようなパフォーマンスができる訳では無いからどうなるか不安だったけど...。
「お、お姉ちゃん凄いよ!」
「えっ、どうやってやるの!?」
子供が私の手品に釘付けになってくれて、任務の無い日はこうして過ごしていた。
お父さん───私、諦めないから。
ニケになっても、一流の
オウル編終わりです。