勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
第52リプレイス部隊配属直後の事───。
当時の私はこの部隊について何も知らず、指揮官以外の仲間は皆、私と同時に配属された。
最初はこの指揮官が無能なのか、それとも彼の部下だったニケ達が運悪く全滅したのかと思ったが...どっちにしろ、私にとってはどうでも良かった。
私以外の
I-DOLLシリーズはフラワーとオーシャンを見る限り社交的だが、サンタイプのニケはプライドが高いのか尊大な態度を取っている。
ソルジャーシリーズはE.G.タイプのニケがしっかりしてそうだが、F.A.タイプは私と同じく無表情、O.W.タイプは能天気なのかあくびをしていた。
一方でプロダクトシリーズは...。
何を考えているのか分からないが誰とも関わる気の無さそうな12と、人見知りなのか周りをキョロキョロしている挙動不審な23、そして私だった。
「あ、あの...」
23が声を掛ける。
仕方ない...私も応答しよう。
「...ミシリスの量産型ニケ、型番は08番です」
「あっ、奇遇...ですね。
私はミシリスの23番目のモデル...です」
「宜しくお願いします」
初対面だから当然ではあるものの、私は23の敬語にぎこちなさを感じた。
「あの、堅苦しくしなくても大丈夫ですよ」
「えっと...そうでしょうか...?」
23のつむじに生えている一本のしっかりした浮き毛が触覚のようにぴょこぴょこと揺れているように感じる。
それを見ると...何故か感情が芽生えそうになった。
「はい、私は構いません」
「えっと、それなら───改めて宜しくお願いするわ」
23はにこっと微笑む。
...やっぱり何処か不思議な感情が私に芽生えていた。
「あっ、えっと、そちらは...」
23は12にも目を配り、彼女にも話しかけた。
「私はミシリスの12番目のモデル...貴女達と同じ。
あぁ、別に私もタメ口で構いませんので」
「あっ、分かったわ。
えっと、宜しくね」
12はその頃から近寄り難い雰囲気を出しているが、今は僅かにだがその時よりも丸くなった気がする。
そこから部隊の仲間がある程度の関係になるまでに少し時間は掛かったが、最初に親しくなったのは12と23の2人だろう。
彼女らも私と同じく、"ヘッドハンター"に勧誘されてニケになったそうで...あの人もミシリス勤めなのにも関わらず、よくあの仕事を続けているものだ。
何の法則性で集められたのか分からないニケ、そして任命された指揮官。
編成時には指揮官の上官様が顔を出していたが、指揮官に階級など聞いた事が無かった。
共に訓練をし、最後の試験では地上に一週間滞在し、マスター級からセルフレス級までのラプチャーからの猛攻を耐え抜き...生還して私達は正式な部隊になった。
その後は初任務でのアクシデントこそあったものの、ファルの解決した出来事を皮切りに挽回していき、指揮官や同僚との関係も築いていった。
───だからこそなのだろうか。
23が撃たれた事が、私にとって深刻だった。
23が撃たれ、私は護衛対象を連れてホテルに戻る。
私は指揮官と共に護衛対象及びその両親に謝罪した。
「───申し訳ありませんっ!!」
頭を深々と下げ、声を張りながら謝罪の念を伝える。
しかし...依頼主であるジョンソン夫妻は私達の失敗に呆れているのか冷静だった。
「いや、いい...頭を上げてくれ。
君達も疲れただろう、帰るといい...」
「しっ、しかし───!」
引き下がらない私の肩に、指揮官が手を置く。
彼は目を閉じて首を横に振り、私にやめるよう促した。
───失意の中、私達は宿舎に戻る。
指揮官は私を労いながら「今日はもう休め」と気を遣ってくれたが、私にとって無理だった。
...眠る事ができない。
ニケだから
初めてか、それとも久々か。
絶望感に心を締め付けられた私は部屋から出て、事務室へ入った。
私の部隊ではいつ死ぬか分からないのに、こうしてクレジットを出し合って生活している。
事務室があるのは、収入や支出の管理をここでしているからだ。
事務室にはフラワーがいて、彼女が代わりに事務仕事をこなしていた。
「あっ、08」
私は静かに頭を下げるが、彼女は「畏まらなくていいよ」と笑いながら言った。
「23の事は残念ね...でも安心して。
あの子は死んだ訳じゃないから...すぐ戻って来るわ!」
「分かり、ました。
あ、あの、事務仕事代わります」
「えっ?
今日は私がやるからやらなくても良いよ!」
フラワーは笑いながらそう言うが、何故か彼女の笑顔が怖い。
私が何の為ここにいるのか分からなくなる...いつもならそんな事を考えない筈なのに。
「いえ、私がやりま───」
「今日は休んで?」
表情とは真逆に真剣な声色な彼女に対し、私は引き下がりそうになる。
だが引き下がろうにも私は気を休ませる事が出来ず、何とかお願いした。
「お願いします...私は、休めません...」
拳を握り締めながら言った私に、フラワーは溜め息を吐きながら席を立ち、私の肩に手を置いた。
「...無理しないで。
その言葉に私は無言で頷き、フラワーは引き継ぎを済ませた後...事務室から出て行った。
フラワーから事務処理を交代し、作業に取り掛かる。
だが...画面に映る表の項目に数値を打ち込んでいくだけの筈なのに集中できない、計算も出来なかった。
いつもの私なら、すぐ終わる筈なのに。
指が思い通りに動かない、頭が働かない。
私は、どうしてしまったのだろうか?
何もしない内にエターナルスカイは夜明けを迎え始める...そして運の悪い事に、事務室に来た指揮官が驚いていた。
「フラワーはどうした...?」
「あっ...」
指揮官はフラワーの部屋に行くと彼女を起こして、何故私が事務作業をしているのか問い詰めた。
「...フラワー、何で08に仕事をさせた?」
「これはフラワーではなく私が───!」
「ごめんなさいぃ...私眠かったから、ついやらせちゃってぇ...」
顔を塞いで謝るフラワーに対し、私は罪悪感を抱く。
しかし...指揮官は怒る訳でもなく、溜め息を吐いて、「次はするな」とフラワーや私に軽く注意するだけだった。
指揮官が事務室から出た後、フラワーは顔を塞ぐのをやめて私の方を見た。
「───これで分かったでしょ?」
「申し訳、ありません...」
「...貴女に謝らせるのが目的じゃないの。
私達は貴女に休んで欲しいの。
23が撃たれて辛い思いをしているのは皆んな同じとはいえ、貴女が
特に引き摺っていると指摘を受けたが、私は何もせず休んでいていいのか躊躇いがあった。
「でも、私は...」
「申し訳無いのだけど、貴女を
「えっ...?」
フラワーの言葉に唖然とする中、彼女は事務室に置いてある観葉植物から何かを取る。
それは小型のカメラで、フラワーは私の行動を見越していたように仕掛けていたようだった。
「まさか、私を信用出来ないのですか...?」
「ごめんなさい、辛い事を言ってしまうけど
だって、全然進んでないじゃない...。
「私は...私は───」
心が締め付けられる。
頭の中が真っ白で、視界が揺らぎ始める。
この感覚は───何?
私はフラワーの指摘を受けては事務室を後にし、屋上へ向かう。
私が部屋の次に落ち着ける場所...しかし、先客がいた。
屋上にいたのは12で、彼女は腕を組みながら壁にもたれていた。
「...奇遇ですね」
私がそう言うと、12はこちらを見ながら言葉を返した。
「そちらも...23の事が気掛かりで?」
「ええ、そうです...」
12はため息を吐きながら、私に対して現実を突き付けた。
「...あまり言いたくないですが、私達は所詮ニケ───
確かに撃たれた事は私にとっても辛い話ではありますが、
...私はその言葉に怒りを感じる。
替えなど幾らでもいる...?
脳を破壊されてない限り戻れる...?
私だって解っている筈なのに、私は憤りを覚えた。
「...何が言いたいのですか?
私に
「そこまでは言ってません」
「なら何ですか...?」
「貴女は少し甘えた方がいい」
私は12から出た言葉に動揺する。
しかし、私には休めなかった。
「私は...休めないです...」
「何故ですか?
それなら
「だから!!
私は休めないと───!」
声を荒げてしまった私に対し、彼女は目を逸らす。
怖がらせてしまったのか、それとも声を荒げた私に失望されてしまったのではないかと怖かった。
「───すみません、私は...休め、ないです。
休め...なくて...」
私はその場に座り込む。
この時...私の視界は潤うようにぼやけ始めていた。
「私は...私はどうすればいいのでしょうか...?
趣味も無く、何も無い...そんな中で貴女達や23を見つけたのに、私は...」
───泣き崩れてしまった。
情けないと思いながらも、止める事の出来ない涙が溢れてくる。
12は私が泣いても動揺せず、静かに手を差し伸べる。
「えっ...?」
12は言葉を発さずに手を掴むよう顎で指示し、私は素直に掴む。
すると彼女は無言で私を壁際に連れて行き、壁にもたれながら一緒に座った。
「...今日は雨が降らない。
だから、こうしていよう。
貴女の涙が枯れ、また元に戻るまで」
私は驚きを隠せずにいた。
12からの温かい言葉...それは今の私に突き刺さり、私の涙は再び流れた。
「...ありが、とう───」
...私は彼女の隣で泣き続ける。
こんなに泣いたのはいつ頃だろうか。
ニケになる前、私は泣いていたのだろうか。
心の中でずっと抑え付けられていた感情が今になって爆発したようだった。
───泣いてからどれぐらい経ったのだろうか。
私は知らない内に12の右肩に頭を乗せて眠っていて、彼女は表情変えず起きていた。
私と12を毛布が包み込んでいて、私は少し恥ずかしく感じてしまった。
「あっ───すみません...」
私が謝るものの、彼女は気にしていないのか、それとも興味が無いのか、無言で銀色のコップを渡す。
中には淹れたてのコーヒーが入っていた。
「あっ、ありがとうございます...」
「それ熱いから気をつけて飲んで」
「は、はい...」
コーヒーに息を吹きながら飲む。
───温かい。
まさか、12がコーヒーを淹れてくれるとは思わなかった。
「...美味しい。
美味しいです、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あの...今何時でしょうか?」
「5時ぐらいです」
「そこまで、私は寝ていたのですか...」
「相当、お疲れの様でしたね」
「...すみません」
「謝られても困ります」
そこから静寂の時を経た後、私は少し甘えてみようと思った。
「───あの」
「はい」
「もう一度...肩を借りても良いですか?」
「私で良ければどうぞ」
私は12の許可に感謝した後、寄り添うように彼女の肩に頭を傾ける。
夜明けは近い───例えこの空が偽りであっても、私達にとっては馴染みのある空だった。
23がまた戻ってくる事を祈って、私は12と共に夜明けを見届けた。
それから朝食時間になり...私は指揮官達の前に姿を現す。
みんなに迷惑を掛けた事を謝るが...彼等は気にしてない事と心配だったと話し、私の心には何か湧き上がるものがあった。
当たり前の事だとこなし続け、無感情だった私がここまで心を持つようになったのはこの部隊のおかげなのかもしれない。
そんなかけがえの無い事に感謝しながら、私は朝食を食べた。
その後、私は指揮官に呼び出される。
彼は私のコンディションが大丈夫な事を改めて確認した後、ある話をした。
「実は依頼主のジョンソンさんが会いたいと言ってるんだ。
お前を指定で...」
依頼主の考えが読み取れない中、私は指揮官と共に依頼主に会いに行った。
───それが、