勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜   作:乾エルト

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第18話: 蘇る過去の因縁

 私と指揮官は再び依頼人と会う。

 今度は彼等が泊まっている室内で会う事になった。

 

 

 依頼人の部屋に入り、畏まったように立つジョンソン夫妻。

 2人は私達の前で深く頭を下げ、謝罪した。

 

「本当に、申し訳なかった...!」

 

 謝罪する夫妻に対し、私達は困惑する。

 状況を理解しようと指揮官が訊くと、依頼人よりも前に護衛対象(息子さん)が事情を話した。

 

「ど、どういう事ですか...?」

 

「あ、あの...これは僕のせいで...」

 

 自分のせいだと話し始めた護衛対象は、震える手で絵を見せる。

 それはどこかの風景を模写しているようで、一見しても特に目立つ場所が無かった。

 

 しかし唯一気になるのは...この絵が完璧に模写されている訳ではなく、()()()()()()()()()事だ。

 

「特段気になる事も無いが...。

...08、何かこの絵に違和感はあるか?」

 

「この絵...()()()()()()()()()ね。

何かありましたか?」

 

 そう指摘すると、護衛対象は私に抱き付く。

 動揺する私をよそに、護衛対象は泣きながら話した。

 

「ぼ、ぼく、()()()()()...。

()()()()()()()()ニケが人を殺している場面"を」

 

 ───私はその言葉に絶句する。

 私に似たニケが人間を殺す───にわかにも信じられない事だが、私に似たニケが前の部隊にいた事は知っている。

 ...それなら、メッセンジャー(BlaBla)経由で送られてきたあのメッセージにも合点がいく。

 

「───教えて頂きありがとうございます。

どんな特徴だったか憶えていますか?」

 

「えっと、確か───」

 

 私は護衛対象から人間を殺したとされるプロダクト08の話を聞く。

 ...それは、私の予想と一致していた。

 

「やっぱり...まさか...」

 

「どうした?

心当たりでもあるのか?」

 

「はい、実は───」

 

 私は指揮官に、ある話をした。

 

 

 前の部隊にいた頃───その部隊には私ともう1人、プロダクト08がいた。

 

 その同型はプライドが高く、とても嫉妬し易い性格をしていて...同僚からも指揮官からも陰口を言われるようになっていった。

 

 任務中...私を撃とうとした話を聞いたが、私が嘘半分に聞いていた事もあり、気に留めなかった事で彼女の異常を放置してしまったかもしれない。

 侵食されているのか、それとも思考転換によるイレギュラー化か...恐らく、後者だろう。

 ラプチャーからの侵食であった場合、あそこまで単独且つ計画的には出来ない筈だ。

 

 

 携帯から着信音が鳴り、私は画面を見る。

 登録してない連絡先(非通知電話)のようだが、私にはもう誰なのか分かっていた。

 

「───もしもし」

 

『───久々だね〜?』

 

「...何のようですか?」

 

『ひっさびさの再会なのに、冷たいね〜?

そこの家族みんな殺してあげるけど、そんな態度で良いの?』

 

「...要件は」

 

『はぁ...この鉄屑が。

まぁいいや、私とケリ付けようよ』

 

「決着を?」

 

『そう!

そこの一家が死ぬか、貴女が死ぬか、私が死ぬか───。

どっちにせよ、勝負は決まってる』

 

「人質を取っているから?」

 

『黙れ。

お前はまた誰かを失う。

そうやって自分の能力を過信しているのも時間の問題だ。

そこの家族を皆殺しにした後、お前の仲間を1人ずつ...苦しめながら殺してやる。

絶対に───』

 

 ...長々と呪いの言葉を聞きながら、私はいつ本題に入ってくれるか苛立っていた。

 こうしてもどかしく感じてしまうのは、サンが頑なに指示を聞かなかった時以来だ。

 

 

 やっと本題に入り、相手はアークにある遊園地を指定するが...条件を出した。

 

 それは依頼主であり護衛対象であるジョンソン一家を観覧車を観覧車に乗せる事で、一家のいるゴンドラが12時の位置になった瞬間、彼女は引き金を引くそうだ。

 断っても良かったが...条件を飲めないなら私達の宿舎を爆破すると言った。

 

「宿舎の爆破...?」

 

『そう!

さっきは1人ずつ殺してやるとは言ったけど、やっぱりね〜逃げられると困るし、手間だから取り敢えず爆殺して貰おうかなってさ!』

 

 そう言うとメッセンジャー(BlaBla)にメッセージが送信される。

 それは動画で、小包を届ける人物の視点で映像が流れていて...フラワーが顔を出した。

 

 フラワーは私宛ての小包に対し、不思議そうな顔こそするものの...すんなりと受け取ってしまった。

 

 

 その小包が爆弾では無い事を祈ったが...無駄だった。

 

「どうしたフラワー!?

爆弾だと...!?」

 

 フラワーと電話していた指揮官が私の顔を見る。

 爆弾なのは本当のようで、宿舎で騒ぎが起こっているのは確実だ。

 

 それに...爆弾は時限式で、3時間タイマーだった。

 

 

 指揮官は私と共にどうするか考えるが...依頼主のジョンソン様が私達にどんな事情か訊く。

 私達が状況や同型の出した条件を説明すると、彼はある事を口にした。

 

「...その条件、飲んで下さい」

 

「待って下さい、それでは貴方達が命を落とす可能性も───」

 

「そんな事は解ってる!」

 

 考え直させようとする指揮官に対し、ジョンソン様は震える声を大にした。

 

「...すまない、声を荒げてしまって。

私だって怖い、それに家族を危険に晒したくない。

だが、だからと言って君達を生贄にして逃げたとしても奴は死ぬまで追って来る...そんな事、私は絶対に嫌だ」

 

「ジョンソンさん...」

 

 ジョンソン様は指揮官にそう言った後、自身の妻子にもそれでも良いか訊くと、2人も静かに頷いて承知した。

 

「そんな...こんな一介の量産型部隊の為に...」

 

「一介だなんて...君達を薦めてくれた()が浮かばれないよ」

 

「彼?」

 

 私は誰の事を言ってるのかと思ったが、詮索する時間は無い。

 時間は刻一刻と迫っている...トワイライトホテルから指定された遊園地に向かうだけで30分...しかも今日は休日という事から混んでいるだろう。

 

 限られた時間に私がすべき事───12時の位置になる前に、相手が引き金を引く前に撃つ。

 同じニケを撃つのは私でも気が引けるが...これも任務として、誰かを護る為には致し方ない事。

 それに、このくだらない因縁を終わらせたかった。

 

「───私が貴方を、貴方の家族を護ります」

 

「うん...信じてる」

 

 私は護衛対象の少年にそう話す。

 今度こそ、貴方を見捨てない...私はそう誓いながらも任務を開始した。

 

 

 そして私達は行動を始める。

 指揮官は宿舎に向かい、私とジョンソン一家は彼の呼んだ運転手の車に乗る事になった。

 

 トワイライトホテルの前に停車したのは黒いリムジン...運転席の窓が開くと、そこからは()()()()()()()()()()()()が顔を出した。

 

「あなた達が"ヴィンセント様"の仰っていた方々ですね、どうぞお乗り下さい」

 

 私達は自己紹介する暇も無くリムジンに乗った。

 

 

 リムジンに乗り、遊園地へと向かう。

 しかし...狙撃ポイントをまだ特定できてないままなせいで、心の中では焦りが芽生えていた。

 

「申し訳ありません、何処か遊園地から近い最寄りのビルはありませんか?」

 

「ありますよ。

というより、もう()()しておりますのでそこで08様を降ろします」

 

 運転手の一言に私は驚きを隠せず、私達の指揮官がどういった人物なのか謎が深まりつつあった。

 

 リムジンがビルの一角に停車し、私はトランクケースを持ってその建物へと入る。

 屋上へはエレベーターに乗って向かい、狙撃ポイントに着いた。

 

 

 トランクケースを開き、MISR-03を組み立て、その間に状況を振り返る。

 仲間は頼れず、時間はあと1時間半...狙撃ポイントからは遊園地の観覧車が見えた。

 

 

 ...銃の組み立てが終わり、私はスコープを覗いて遊園地の方を見る。

 観覧車には護衛対象達がゴンドラに乗ろうとしていた。

 

 時間は1時間...まるでゲームを始めるかのように私へ特定の通信が入った。

 

「...何です?」

 

『───ゲームスタート〜。

じゃあ早く私を見つけないと、あの家族が痛い目に遭うよ〜?」

 

 煽ってるつもりだろうが、私は生まれつきこういうのには慣れている。

 ...だが、また誰かが撃たれるのは見たくない。

 23のような悲劇はもう繰り返したくなかった。

 

 

 風向きを確かめ、相手が何処にいるか探す。

 観覧車は時計と同じく12個のゴンドラが付いており、ジョンソン一家の乗るゴンドラは今9時の位置に来た。

 

 ...焦る。

 いつもの私なら落ち着いて狙撃できる筈なのに、今はプレッシャーが大きい。

 相手はそんな私を嘲笑う為にこんな勝負を仕掛けたのかもしれないが、正しい判断だろう。

 

 10時と11時の間にゴンドラが来てしまい、後もう少しで狙撃されてしまう。

 私はそれまでに相手を捜さなくてはならなかった。

 

「(落ち着いて・・・落ち着いて・・・)」

 

 自分に言い聞かせながら集中して狙撃犯を探す。

 後もう少しで相手の狙撃ポイントになってしまう───その前に何とかしなくてはならなかった。

 

 だが、どうあがいても私の()()...相手は()()()()だろう───まさか同型の目的は私に勝ち誇る事だろうか?

 

『───あれ〜?

もう少し早く見つけると思っていたのに、結局見つけられないなんて〜。

やっぱり貴女は無能ねぇ?』

 

「───そう、ですね。

貴女の言う通り、私は無能です。

貴女を追いかけるのに必死で...仲間を1人、失いかけました」

 

『...それで?

それで何?』

 

「なので...私の負けです」

 

『───は。

ははははははははっ!!

あはははははははっ!!』

 

 相手は()()()()()()()()笑い出す。

 気が狂った様に笑い出す彼女の声を聴きながら、私は笑みをこぼしてしまった。

 

『あははははっ!!

これで私の───ッ!?』

 

 同型は狂ったような笑いと勝利宣言を止める。

 ...案の定、そうだった。

 

「どうしましたか?」

 

『クソっ!! お前私の事を嵌めたな!!』

 

「さぁ、どうでしょう。

どうやらゴンドラは1()2()()()()()()()()()()ようですね」

 

『くっ───!!

お前だけは絶対に殺してやる!!

お前の仲間も大事な物全て奪って───』

 

 通信を切り、ある建物の一角をスコープで覗く。

 屋上には身体を少しだけ出している人物がいて、彼女は私と違って髪を2本に束ているプロダクト08...しかも服はあの時の藍色のジャンバーで、MISR-03(スナイパーライフル)バイ()ポッド()を付けて使っていた。

 

 私への劣等感からずっと"勝ち負け"に拘り、今でもその因縁に囚われている...そして凶行を繰り返している様は哀れさを覚える。

 ...そう思いながら私は引き金に指を掛け、相手の頭部に照準を合わせた。

 

 スコープ内の右側にあるチャージメーターが100%となり、ロックオン状態となる。

 そして私は、この因縁を終わらせる為に引き金を引いた───。

 

 

 ───ワンショット。

 発砲してから着弾するまでにそう時間は掛からず、同型の頭から液体触媒を吹き出して倒れた。

 

 過去の因縁が終わりを迎え、風に吹かれながら余韻に浸る中...我に返った私は、指揮官に連絡した。

 

「お疲れ様です、指揮官。

そちらは大丈夫ですか?」

 

『───もしもし、こっちは大丈夫だ。

そっ───』

 

『もしもし08!? 大丈夫!?』

 

 指揮官から携帯を取り上げたのか、フラワーの声が聞こえる。

 彼女は自分達が命の危険に晒されていたのにも関わらず、私の事を焦るように心配していた。

 

「大丈夫ですよ、フラワー。

犯人も倒しました」

 

『よ、良かったぁ〜...無理しないで戻って来てね!』

 

 それを最後にフラワーは電話を切る。

 ...彼女が電話の最後に見せた反応に、私は何故か笑ってしまう。

 安心しているのか、それとも嬉しかったのか...私自身もこれがどんな感情なのか分からなかった。

 

 

 その後、狙撃犯であった同型...つまり昔の同僚は私に脳を撃ち抜かれた事により即死。

 どうか来世があるのなら、彼女が凶行を考えてしまうような道を歩ませないで欲しいと祈る。

 そう思ったのは、ファルの兄であるカーマイン刑事が見せてくれたファイルからだった。

 

 

 彼女は私が転属した後に酷いいじめに遭ったとされる記録が残っていた様で、そのストレスから思考転換...そしてイレギュラー化したとされる。

 

 その部隊は程なくして彼女と指揮官だけを残して全滅。

 しかしイレギュラーとなった彼女は、指揮官を呼び出した後に殺害...だが誤算もあった。

 

 それをスケッチ中の護衛対象に見られ、彼が偶然落とした携帯に自身の連絡先を追加...それが今回の事件に至った。

 

 嫉妬心や劣等感により、怪物となってしまった彼女を私は今まで理解出来ずにいた。

 

 でももし、立場が逆だったら...私だって同じ事をしていたかもしれない───そう感じるようになったのは、不謹慎ながらもこの事件が起因かもしれなかった。

 

 

 

 あの依頼から数日後───23が退院し、私達はジョンソン一家からの報酬金で退院祝いをした。

 

 ...途中、酔いの影響で私が泣いてしまった挙句、23に熱い抱擁をしてしまったのは自他共に記憶を消して欲しかった。

 

 

 それから次の日...宿舎のインターホンが鳴る。

 そして、来客の対応をしたフラワーが私を呼び出した。

 

 

 宿舎を訪れたのはジョンソン一家であり、どうやらあの子が私に"渡したい物"があるからこそ寄ったようだ。

 

「こ、これ...どうかな?」

 

 紙を見ると───そこにはライフルを持った私が描かれていて、まるで小学生とは思えないようなスケッチはまるで美術的な描写を彷彿とさせた。

 

 ...その絵を見て、私の顔には笑みと一粒の涙が零れ落ちた。

 

「───ありがとう、ございます」

 

「あっ、08泣いてる!」

 

 オウルが急に茶化し、指揮官や仲間が私に注目し始める。

 すぐに涙を拭き、いつもの無機質な表情をして平静を取り繕った。

 

「泣いてません」

 

「嘘だ〜」

 

「泣いてませんって」

 

 ただ、これだけは言える。

 私はこの部隊に入れて良かった。

 

 それは、今まで生きてきた中で初めて思えた感情だった。




08編終わりです。
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