勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
───人質が捕縛していた犯人グループを撃った。
もう無力化してるのに、脅威とならない筈なのに...
先程まで生きていた子達は、今では残骸...。
私はその光景に対し、恐怖を感じた。
こんな事、いつも体験している筈なのに...慣れなかった。
人質の手で処分されたニケ達...彼女達は力無く横たわり、外見から見ても脳もコアも無事に済まない損傷具合だった。
私達が呆然と立ち尽くす中───サンはその光景に激昂した。
「───お前
激昂するサンの言葉に、銃を持った人質の1人は虚な目で言った。
「何って、
「処刑...だと?」
「ええ。
我々を人質にとってこんな事をして...それとも貴女達は
「私達は...!」
銃口が私達に向けられる。
戦闘慣れはしていないのだろうが...銃を持っている相手は5人だった。
いつ発砲されてもおかしくない状況...しかもニケは人に危害を加えられない制限もあってか、逃げる事は出来ても戦う事は難しかった。
だが、私達が窮地に立たされている中...「ねぇ」と上から声が掛かる。
イーグル達が降りてきた上階...私達が上を見るとそこにはプロダクト12がいた。
12は人質達の注目も浴び、フロア内に響くようメガホンで声を出した。
「あのー、そのニケ達は敵じゃありません。
早く銃を置いて建物から出てください」
12は気怠げな声で人質を出て行かせようとする。
だが...銃を持った人質は聞く耳を持たなかった。
「何だお前...ニケの癖に命令するのか!?」
12に銃口が向く。
彼女は呆れながらも舌打ちをし、声色を一切変えないまま言葉を返した。
「...これは命令じゃなくて、勧告ですよ?
それに...テロリストだけじゃ飽き足らず、私達まで撃つんですか?」
「ああ、お前等ニケは気に食わない...!」
「金に汚い
12は下階に
人質のみならず私達すら動揺する行動には思わず焦りを感じた。
「ま、待ってください!!
12、死ぬ気ですか!?」
「いや私こういうのが大っ嫌いで」
「おい、お前に撃てるのか?
「別に
「お前、一体...」
「
その通り...私達の
緊迫した雰囲気の中、12の無謀な行動に部隊の誰もが不安を感じていたその時───。
「A.C.P.U.だ!! 全員腹這いになって伏せろ!!」
運が良かったのか、A.C.P.U.が突入する。
現場で待機していた警官隊...何はともあれその場の窮地から脱する事が出来た。
だが...私達の苦難は続いた。
市民ホールから出た後...突拍子も無い事が起こる。
それは中継していたマスメディアが人質の1人に取材をした時だった。
その人質は銃を持っていた事に対し、
腹いせによる虚偽の報告...私達は向けられる視線の中、帰っていく。
野次馬の目は怖い...見ないで欲しかった。
私達は逃げる様に宿舎へ帰っていく。
指揮官も苛立ちを隠せず、言葉の節々に尖を見せている。
帰りの車内も、誰一人言葉を発せず...気まずい沈黙となってしまった。
宿舎に戻るものの...安息を得るのも束の間、作戦室で指揮官からの話を聞いた。
部隊が編成されてからの初任務により、人質救出には成功する。
だが、犯人グループのニケを処分しなかった事もあってか世論は怪しんでいた。
『あの犯人グループに情けをかけたのでは無いか』
『これは人権見直しのマッチポンプでは無いか』
...ソーシャルメディア上でも見たもので、匿名というものの強みが感じられる。
部隊解体のような最悪の事態にならなかったのは、指揮官の上官様が取り合ってくれたからであり、もし無理だったら今頃処分されていただろう。
夕食となり、私達は食事をとりながらも思い思いに話す。
だが、ほぼ愚痴に近く...ギスギスした空気が漂っていた。
「改めてありがとう、12。
貴女があの場に来なければ今頃...」
「...別にいいっすよ。
12の発言にサンが食事を止め、スプーンをテーブルに叩き置く。
フラワーが宥めようとするが、サンの
「お前...それ本気で言ってるのか?」
「サン、やめなよ...」
「じゃあ何? あの場で死にたかった?」
「私は市民を守る為にニケになったのだ!
なのにお前は...!」
「よくあんな事に遭遇してまだ"人類を"信じられるんすね。
まるで"メティス"の"
違う価値観や考え方のぶつかり合い。
ニケというのは全員が全員、完璧な性善を持っている訳ではない。
それに...人間からの扱いもあってか、私達ニケは人間との間に溝があった。
「お前...!
お前みたいな奴がいるから人間がニケに対して不信感を積もらせるんだぞ!?」
「...あ゛?」
...一触即発の事態。
そんな時、オーシャンが2人の間に割って入った。
「良い加減にして───!!」
オーシャンが怒りの声を上げる。
12やサンも体を使った喧嘩になりそうだったが、怒りの声には諍いを止めるほどだった。
「私は建物の中でどんな事があったか細かくは知らないけど、私達はチームじゃないの!?
ネットの情報とかメディアの情報を真に受けて喧嘩をするなんて...」
オーシャンの言葉は正論。
だが、今の12もサンも怒りの感情に支配されているせいかオーシャンに突っかかってしまった。
「...何が言いたいんだ?」
「私は...私は
「一理ありますね。
でも、オーシャンは解決できると?」
「そ、それは...」
オーシャンは口籠ってしまう。
彼女なら解決できるかもしれない...でも、それを私の口から言いたくても言えなかった。
オーシャンを庇いたい...なのに上手い言葉が浮かばない。
そんな時、オーシャンに助け船が入った。
「...オーシャンの言う通り、喧嘩して何とかなる話では無いと思います」
ファルがオーシャンに同調する。
そこにフラワーも入った。
「2人共、
それに...指揮官から懲罰喰らうかもよ?
それでも良いなら貴女達の勝手だけど...
フラワーの言葉が刺さったのか、2人は落ち着きを取り戻す。
だが、それでも憎しみは拭えないようで...お互いが憎しみの捨て台詞を吐いた。
「...私はコイツと組みたいと思えない」
「これだから"
「お前今何て───!」
「待って待って!! 落ち着いてよ...」
「くっ...」
また喧嘩になりそうな所をフラワーが止める。
喧嘩する事は無かったものの、12とサンはそれぞれ何処かへ行ってしまった。
...私達は、何も出来ないまま2人が居なくなるのをただ見る事しか出来なかった。
中断された夕食を再開する。
ニケに食事は不要かもしれないが、私達は元人間...自分が人間で無い事を認識し過ぎれば"思考転換"が起こる。
そんな事が起きないように人間と同じような習慣を変えないでいるが...今の部隊では自分をニケと認知している子が多いせいか思考転換は
指揮官はおろか、12やサンがいない夕食...私達は食べようにも、あの任務が頭にチラついていた。
テレビのニュースでは、私達の初任務が報道されていた。
だが事実は捻じ曲げられ、その場にいたA.C.P.U.の手柄となっていて...ニュースでそうなら明日の"
...悲しい事に、私達は嘲笑の的。
私達の編成されたリプレイス部隊は、本当の意味で"寄せ集めの鉄くず
テレビはイーグルが気を遣ってチャンネルを変える。
しかし、それでも私達の気が晴れる事は無かった。
「私達、大丈夫かな...」
「オウル...」
「だって、初任務がこれだよ?
確かにみんな何処かしらで戦っていたのは分かるけど、この部隊が編成されて最初からこれじゃ...」
...再び沈黙が始まる。
だが、この部隊は詳しい説明こそ無かったが、
沈黙の中、オーシャンはスプーンを置いた。
「...ごちそうさま」
オーシャンは席から立ち上がり、皿を台所のシンクに置いて部屋から出て行く。
...彼女の悲しみを帯びた姿は、私達の事を更なる陰へと落としていった。
皆が食事を終えた後...私は皿を洗っていた。
「ごめんね、23」
「大丈夫よ、私が出来るのはこれぐらいだから」
「またまた謙遜しちゃって〜。
...でも、そこが貴女の
「そうかな?」
「私はそうだと思うわ!
だって、23は気遣いの出来る優しい子だと思うし...もっと自信を持って」
気遣いの出来る優しい子...そんな事自分で思っても見なかった。
「ありがとう、フラワー。
自信を持てるようベストを尽くすわ」
嬉しい気持ちを心に秘め、私は皿洗いに精を出した。
皿洗いを終え...私は自分の部屋に戻ろうとすると、指揮官室の前で止まる。
扉の前にはオーシャンの手料理が床に置いたままで、もう冷め切っていた。
指揮官は何をしているのか...私は心配の気持ちと共に扉を叩いた。
『───誰だ?」
「プロダクト23です」
『...何の用だ』
「料理がここにありますが、食べないのですか?」
『事が済んだら食べる。
...それを言いに来ただけか?』
「別の事です。
仲間の事で」
『揉めたのか?』
「いえ、私は見ていただけです」
『その後はどうなった?』
「まだ解決してません」
『...そうか。
オーシャンがいるだろ? 彼女はどうした?』
「オーシャンは止めましたが、2人から責められて彼女も塞ぎ込んでしまい...」
『...残念だが、
お前達で何とか解決してくれ』
「それが出来ないから来ました」
...指揮官は無言になる。
初任務の失敗が余程来てるのか、数十秒ぐらいの沈黙を経てから声を出した。
『...悪いが、お前達で───』
「───何故、籠るのですか」
私は怒りを込める。
部隊がバラバラに欠けつつあるのに、指揮官はどうして部屋から出ないのか。
この現状を一目もしないのか...そんな彼に私は苛立ちを感じてしまった。
『...別に籠っていない』
「この部隊が正式投入されてから...ばったり出くわす以外、私達と関わらないじゃないですか」
「お前達と違って忙しいんだ」
「それでは何故そこから出ないのですか?
私達"ニケが嫌い"で仕方なく付き合ってるのなら───」
『もういい加減にしろ───!!』
───指揮官は扉越しに激昂する。
私は声だけの勢いに押されてしまい、彼は黙り込んでしまった。
「...ごめんなさい」
私は、自分が相手の気持ちを考えず追い詰めてしまった事に気付く。
私だって、同じ事にはなりたくない筈なのに...。
私が謝罪した後、指揮官は少しの沈黙を経た後に再び声を出した。
『───もう止めてくれ、どうして"お前達が兵器"なんだ...』
意味深な想いをぶつける指揮官だが、私にだって分からない...女の子だけがニケという兵器になるのなんて、最初に発案した人以外分からないのだから。
「...そんなの、私達にだって分かりませんよ。
話を変えますが...オーシャンの手料理を食べないのは、
『...いや、そういう訳では無い』
「なら、一口食べてみませんか?
私達が味覚や嗅覚センサーをONにしてしまう程ですよ」
私がそう言うと、扉が開く。
部屋からは指揮官が顔を出し、私は彼の食事を揃えた
指揮官の顔は何処か悲しく沈んでいる。
だが、その目は私を恨んでいるよりかは素直に従っているように感じた。
私達はLDKに入る。
2人だけの卓...長机の一番上で食事を始める指揮官と、彼の左前に座る私。
彼が食事をする光景を眺めているが...指揮官は私の方をチラチラ見ていた。
「...もし良ければこちらは見ないで欲しい」
「どうしてですか?」
「その...
慣れてないというのは恥ずかしいのだろう。
指揮官の意外な一面にほっこりしながらも、私は揶揄うように言った。
「私は貴方の監視役です、ちゃんと食べるかどうかの」
そう聞いた指揮官は呆れるように溜め息を吐く。
どんな
今日の料理は朝の物だが、トマト味の"パーフェクト"を煮込んで具材を混ぜたトマト煮のスープ。
パーフェクトは材料も何も分からないが、こうして全ての食料に対応できるからか困らなかった。
スプーンで掬われたひと匙のスープを口に運ぶ指揮官。
そして、彼は目を大きく開いた───。
「味はどう?」
「───美味い」
「そうでしょ?」
「...って、お前が作った訳じゃないだろ」
「ふふ、そうだったわ」
私達は笑いながらその時間を過ごす。
彼を見ていると、私は何故か懐かしい記憶を思い出していた───。
それから朝になり───指揮官も一緒に食卓を囲む。
私以外のみんなは最初こそ驚いていたが、すぐに慣れたようだ。
しかし、12とサンは来ていない。
まだあの喧嘩が続いているのだろうから当然ではあるものの、もし今日が任務だったら危なかった。
「オーシャン、2人に朝食は?」
「持っていきましたが...食べたかどうかは分かりません」
「昨日も食べてないもんね...指揮官もかもだけど」
「俺は食べたぞ」
「えっ、指揮官食べたの?」
フラワーが指揮官もオーシャンの手料理を食している事に驚くが問題はそこでは無い。
食卓に集まった私達は2人がどうすれば関係を戻せるか考える。
そして08は指揮官にある事を訊いた。
「指揮官、もし宜しければあの2人の資料を貰えませんか?」
「資料か...
「役に立つかどうかは読んで分かりますので」
朝食を食べ終え、私達7人は作戦室へと集まる。
08から言われた通りに指揮官は資料を部屋から取って来た。
指揮官が一冊のファイルをテーブルの上に置き、紙を捲る。
そこには私達9人分の経歴書が入っているが、
「えっ、これ何で...?」
「それは俺が知りたい...こんなので自分の部隊のニケを把握出来る訳ないだろって」
「これではもう...」
「だから一応全員分の
「えっ?」
唖然とする私達に、指揮官はメモの内容を話す。
経歴書がまともに見られないからか何とか初対面から初任務前までの印象や趣味趣向を予想でまとめていたようだ。
「...変な目で見るなよ」
「指揮官が悪用しなければ、ね」
意地悪そうな笑みを浮かべるフラワーからそう言われた指揮官は溜め息を吐いた。
メモ帳は08とオーシャンが読み、私達は2人の話を聞いてサンと12の人物像を改めて考察した。
サンは過去にいたとされるゴッデス部隊...それに憧れているからか強い英雄願望がある。
騎士の様に勇猛果敢な性格は恐らく人間時代の彼女がそうだったのかもしれない。
一方で12は自殺願望...というか、生に対しての執着がない様にも思える。
気怠げで捻くれた性格もサンとは真逆で、2人が相容れないのも頷けた。
「なんか...サンってロイヤルっぽく無いのよね」
「そうなのか?」
「うん...だって、あまりにも
「でもロイヤルが全員不順って訳でも無いような気がするが...」
「あの〜...話脱線しちゃってますよ?」
オウルからそう言われ、指揮官とフラワーはサンがロイヤルかについての話を止める。
優先するのは2人の仲を普通まで戻す事...そうしない限り、次の任務での障害にもなり得る可能性が高かった。
「指揮官が直接話してみてはどうですか?」
「俺が?」
08の提案を聞いた指揮官は「何で?」と言わんばかりに唖然とした。
「はい。
ニケが指揮官の命令に絶対なら、2人にもそれが通用すると思われます」
「だからって仲が戻る訳じゃ...」
「我々は"家族でも友達でも無く"部隊なので、仲がどうとかの問題じゃない筈です。
このままではチームワークに支障が出てしまい、今度こそ隊はお終いです。
...勿論、指揮官1人でとは言いません。
もし良ければ私も付いて行きます」
「...私も行くわ」
「オーシャン、無理しなくていいんだぞ?」
「私はこの部隊での衛生兵です。
身体や
オーシャンは真摯な眼差しで指揮官に言う。
彼女は責任を感じている..."何もしていない"私は焦りを感じた。
「...分かった。
なら、08は私と一緒に12を。
オーシャンはサンの方を───」
「待ってちょうだい、私も行くわ」
...私はこのままじっとしているのが不安になり、同行を志願した。
「えっ、それなら私も...」
私と同じ心境だったのか、イーグルも志願しようとする。
だが、フラワーは状況を判断しているのか彼女を止めた。
「待ってイーグル。
そんなに人が増えてもやれる事は無いから、今回は指揮官達に任せましょ?」
「でも...」
「そうそう。
イーグルってば私とファルにお姉ちゃんっぽく振る舞おうとして空回りしてるんだからやめた方が良いって〜」
「あっ、あれは...!」
オウルがイーグルを揶揄う間、ファルが私に声を掛けた。
「2人の事、よろしくお願いします」
「ええ、ベストを尽くすわ」
私達は12とサンの関係が"せめて"普通の状態に戻るよう、彼女達の部屋をそれぞれ訪ねた。
12の部屋には指揮官と08が、サンの部屋には私とオーシャンが訪れた。
「───サン、いる?」
オーシャンが部屋を叩いて声を掛けると、サンはすんなり部屋から出てきた。
「...私に何の用だ?」
彼女は髪こそ結んでいたが、スポーツウェアを着用している。
オーシャンは気まずそうにしつつも、サンにお願いをした。
「えっとね...12と仲を戻して欲しいの」
「何故私が?」
「そう思うかもしれないけど聞いて。
今あの子の方には指揮官さんと08が向かったわ」
「なら、向こうでも交渉中か...」
「そうよ。
別に12が嫌いなら嫌いで良いのだけど、貴女達の喧嘩が"任務に支障を与える"のではとみんな危惧してるわ」
「それは私では無くてアイツに言え!」
サンは素直に認めてはくれず、腹を立たせた。
「12には指揮官と08が話を付けてるわ」
「それならあっちが謝れば良いだろ!
どうしてあんな奴を庇───」
私が話している最中、オーシャンはサンの頬に平手打ちをする。
恐らく痛覚センサーはOFFにしているのだろうが...サンは予想できなかったのか呆然と自身の頬に触れていた。
「...私だって、別に仲良くしてなんて言わない。
でも私達はチームとして戦っている以上、普通の関係ではいて欲しいの」
オーシャンはサンに真摯な眼差しを向ける。
仲間を叩くという重さ...私はそれを見る事しか出来なかった。
サンの説得後、私は自室に戻る。
12については解決したのか分からないが...08曰く、とりあえずサンが突っかからなければ何も言わないそうだ。
結局、私は見ているだけだった。
私が何も出来ないのは、前も同じ。
同じような諍いは何度も見てきた。
戦闘中の喧嘩だけじゃない...。
感覚センサーをONにしている事を忘れて悲惨な事態になる子。
ラプチャーに侵食されたニケが他の
指揮官は優しい人も嫌な人も両方いたが...どんな人も死んでしまう。
ある指揮官は優しかったものの運命の残酷さか早死に、またある
───そして、いつも私だけが生き残る。
これ以上に生き恥を晒さなくてはならないのかと絶望してしまう程に。
リプレイス部隊..."替えが利く"
"寄せ集めの鉄くず