勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜   作:乾エルト

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第21話:奪われた者達

第21話:奪われた者達

 

 ───エキゾチックの情報を改めて思い返す。

 私を爆殺した男は、アウターリムの北東地区にいる...そこはスラムのような住宅地で、アウターリムの中でも閑散としているそうだ。

 

 ワイルドメナスは居ない...それもその筈、ここでは彼女達による()()退()()が行われたようで、"エクスターナー"や他の裏社会組織...そもそも中央政府ですら関与しない理由は不思議だった。

 

 

 私はある一つの家の前に着く。

 二階建て...窓にはバリケードが貼られていて、隙間からはあまり中の様子は見えなかった。

 

 エキゾチックの情報が正しいとは限らない...これが罠かもしれないが、今は信じる他ない。

 私はハンティングイーグル(アサルトライフル)や拳銃等の装備を改めて確認した後、暗視ゴーグルを下ろして中に突入した。

 

 

 行動開始した私は別の建物からその家の屋上へと渡る。

 バリケードの隙間からファイバースコープの管を入れ、内部を確認する。

 そしてブービートラップやアラームが無い事を確認した。

 

 ファイバースコープを引き抜き、私はホルスターからコンバットナイフを手に取る。

 木製のバリケードは脆い...だが、音を立てれば終わりだ。

 

 一呼吸置き...ナイフのセレーションを使って釘を外す。

 最後の板を押し抜く瞬間、胸の奥で微かに早くなる鼓動を感じた───。

 

 ...あの男がこの先にいるなら、ためらう理由はない。

 私は無言のまま、暗闇の中へ身を滑り込ませた。

 

 降りた先から発砲され、私はすぐさま壁に隠れた。

 

 少しだけ顔を出して発砲者の様子を見る。

 どうやら相手は無人砲台(セントリーガン)のようで...人ではないのなら、あの邪魔な制限も掛からなかった。

 

 フラッシュバンのピンを抜いては転がしてセントリーガンの視界を麻痺させた後、私は目眩しが終わる前に砲台へハンティングイーグル(アサルトライフル)を発砲して破壊した。

 

 そのまま周りを警戒しながら移動し...ブービートラップを解除しながら家の各所にあるセントリーガンを破壊していった。

 

 

 1、2階共々制圧し、私はここに奴が居ない事に対して苛立ちを覚えてしまう。

 そんな中...私はエキゾチック部隊の1人である、バイパーの言った事を思い出した。

 

『2階建のように見えるけど...これ地下があるんだよ? 確か───』

 

 ───リビングだ。

 私がリビングの絨毯を捲り上げると...そこには四角い蓋があり、番号を入力する電子機器が付いていた。

 

 これもバイパーから言われた通りの番号を打ち込む。

 すると、機器のモニターに『アンロック』と表示され、蓋が開いた。

 

 

 蓋が開いた先にある階段を降りて先に進むと...そこはパニックルームのようで、扉は施錠されていなかった。

 

 部屋に入ると...その中央には男が椅子に拘束されていて、肘掛け、前脚にそれぞれ結束バンドで手足を固定されていた。

 

 頭に被っていた袋を外すと───そこには私の復讐相手が目に映った。

 

「───私の事を、憶えているか?」

 

 しかし、男は何も知らない様にヘラヘラと笑う。

 

「...知る訳ないだろ、顔の同じ量産型なんざ」

 

 私はその言葉に怒りを感じて、膝にナイフを突き刺そうとするが...先端が肌に触れる直前である言葉と文字が頭の中で流れた。

 

『ニケは人間に危害を与えられません』

 

「くっ...」

 

 腕が途中で止まる。

 私の行動は駄目だと、くだらないシステムが止めた。

 

「あははっ! 

おいおい、ニケが人間サマに危害を加えられるとでも?」

 

「こっ、のおっ...!」

 

 再びナイフを振りかぶって刺そうとするが...。

 

『ニケは人間に危害を与えられません』

 

 ...再びあの警告をされて動きを止められてしまった。

 

 男は私の痴態に嗤う。

 苛立ちばかりが募る。

 殺してやりたい。

 殺してやりたい奴が目の前にいるのに...!

 

「(うるさい...うるさい...っ...黙れ───ッ!)」

 

 三度目の正直というべきか...男の脚にナイフを突き立て、刺す事が出来た。

 

 男は笑い声から一転して悲痛な叫びを出し始め、私を罵倒する。

 そんな奴の情けない抵抗に私は笑ってしまい、ナイフを深々と突き立てた。

 

「───やっと、やっとお前に復讐を果たせる。

今までこの時をずっと待ってた...私の人生を台無しにした罰を!」

 

 ...私は相手を痛ぶる事を楽しんでいた。

 

 まるでワイルドメナスや目の前の爆弾魔同様...もしアーク内だったらイレギュラーとして処分されていたかもしれなかった。

 

 

 ナイフで刺した所をわざと消毒した後...縫合して更なる痛みを与える。

 男が気絶しそうになったら痛みを与えて...ただ、こんな拷問じみた事をしている自分は何なのかともう一つの思いが浮かんだ。

 

 

 

 ───そもそもこの復讐に意味はあるのか?

 こんな事をして、元の人生に戻れるのか?

 それに...指揮官やフラワー、それに他の仲間達にどう顔向けすればいいのだろうか...?

 

 

 

 ───私の中で思いが錯綜する中...私の中の僅かな慈悲からか片脚を刺すだけに留め、拳銃を奴の額に向けた。

 

「...なぁ、やれよ。

やっと思い出したよ、間違えじゃなければな」

 

「なら言え」

 

「お前...あん時、拉致った女子高生(おんな)か。

父親が元指揮官のエリシオン技師、そして母親は小学校の教師。

弟も2人いるんだろ...?」

 

「ええ...よく憶えてて...!」

 

 私は引き金から指を外しては銃口を上に向け、殺す前の尋問として訊いた。

 

「何で私を拉致した!?

何が目的で!?」

 

「ふっ、はははっ...()()()()()()()()()()だよ。

お前の父親は少しでも地上で活躍して、それに家族もいる...そんな奴に嫉妬した同業者(しきかん)がオレに依頼したんだよ」

 

 ...奴の話を聞き、怒りが込み上げる。

 そんな嫉妬(こと)の為に私がこんな奴に拐われて、殺された。

 

 本当は依頼した指揮官も殺したかったが、そんな奴は後回しで良い...まずは最大の目的でもあったコイツからだ。

 

 

 改めて銃口を男の額に向け、引き金に指を掛ける。

 ...しかし、再びあの忌々しい声が響いた。

 

『ニケは人間に危害を与えられません』

 

 うるさい...再び引き金を引こうと試みた。

 

『ニケは人間に危害を与えられません』

 

 うるさい、黙れ。

 

『ニケは人間に危害を与えられません』

 

 うるさいうるさい黙れ───ッ!!

 

 

「イーグル!!」

 

 私が復讐を果たそうとした寸前で、()()()()の声で止められる。

 その声は聞き覚えがあり、聞こえた方向を振り向くと...そこには指揮官と、ファルの兄であったカーマイン刑事がいた。

 

「指揮官...?

何でここに...?」

 

「お前が心配で来た」

 

「ソルジャーE.G.───"セラ・ロズウェル"...もう止めろ、今なら"まだ"戻れる」

 

 セラ・ロズウェル───それは私が人間だった時の名前。

 カーマイン刑事が知っているのは恐らく指揮官との情報共有によるものだろう...だからと言って、私は()()戻れる筈が無かった。

 

「まだ...?

コイツは私に屈辱を与えた奴なんです!

邪魔しないでください!!」

 

 私の言葉に、指揮官は顔を俯かせる。

 何も言い返せないのかと思ったが、彼は口を開いた。

 

「確かに、そうかもしれない...。

だがお前が今ここでソイツを殺せば、今の仲間達(アイツ等)にはもう会えなくなるんだぞ...?」

 

 私はその言葉を聞き、銃を下げそうになる。

 仲間に会えなくなる...今の部隊は過去にいた部隊よりも居心地が良い。

 だが、いつかは消える...そうなるなら私は復讐をと、再び銃を構え直した。

 

「貴方達は何も分かってない...。

私がどれ程この時を待っていたかなんて...」

 

「いや、全て聞いた...お前がどんな事をされたのかを」

 

 指揮官は自分の得た情報を私に伝える。

 ファル経由で彼女の兄であるカーマイン刑事に私がニケになる要因となってしまった事件を調査してもらったようだ。

 

 

 

 私の父に対して嫉妬や劣等感を抱いた指揮官の1人が私を弄んだ爆弾魔に依頼し私を拐って屈辱を与えた挙句、見せしめに爆死させた。

 

 ───そこまでは共通しているが...その後、依頼主であった指揮官は()()()()()()()()()()されたようだった。

 

 爆弾魔はうまく逃げ仰せて、最終的にこの建物で生活していた様だが...何者かの手によって椅子に拘束された。

 ...正直、この舞台をセットした人物の正体は見当がついていた。

 

 

 ただ、そんな事を彼等が知ってたとしても、私の気持ちが晴れる訳ではなかった。

 

 

 

「───この男のせいで、私は何度も苦しんだ。

量産型の姿になり、今の部隊になるまでは何度も醜い光景ばかり見せられて───貴方達には解らないんですよ! 奪われた者の気持ちが...」

 

 なんでだろう、涙が溢れる。

 撃ちたい、撃てば終わる。

 またあの言葉が聴こえても、ナイフを刺す時は突破出来たのだから、また同じ方法で突破して、引き金を引けば良い...。

 その筈なのに───どうして?

 どうして自分の意思で撃つのを止めてしまうの...?

 

「確かにお前の気持ちを完璧に理解する事は出来ないが...俺達も、()()()()()だ」

 

カーマイン刑事(ファルのお兄さん)はそうですが...指揮官も...?」

 

「ああ...俺にそれを言う資格があるかは判らないが...」

 

 私は今の部隊に配属された時の記憶を思い出し始める。

 みんなそれぞれの場所で経験は重ねているけど、最初は些細な事で喧嘩したり、すぐに分かれたりして部隊としては不安しかなかった。

 

 でも、次第に仲良くなって、一時はまたみんなバラバラになりそうだったけど、また戻って...。

 

「うっ...何で...」

 

 ...涙が流れる。

 復讐したいのに、()()()()()()()に帰れなくなってしまうのが怖い。

 だからこそ、銃を下ろした。

 

 

 私が銃を下げると、男は嗤って私を煽った。

 

「あ───あはははっ!!

なっさけねぇな!!

結局あの時と同じ、怯えるだけのか弱い女の子だ!

お前をラブドール代わりにした時の表情も───」

 

 ───私への侮辱を止めるように、指揮官が奴の顔を強く殴る。

 私が銃を向ける前に指揮官は爆弾魔の顔を強く殴って意識を失わせ(黙らせ)た。

 

「指揮...官...?」

 

「イーグル、お前は気にしなくて良い。

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ...私は指揮官を抱きしめる。

 怖い、怖かった。

 

 なのに、この人は...一線を越えようとした私を受け入れてくれたのだと。

 復讐の女神から、勝利の女神として...私はこの指揮官を共にいようと誓った。

 

「───だから帰ろう、()()()()に」

 

「...はいっ」

 

 

 その後...私はカーマイン刑事が乗る車の後部座席へ指揮官と共に座り、彼の肩に身を寄せていた。

 

 あの男は後から駆け付けたA.C.P.U.により逮捕され、私が付けた傷を治療する為に病院へ運ばれるようだった。

 

 釈然としない結果となってしまったが...もしあの時、指揮官とカーマイン刑事が来てくれなければ私はイレギュラーとして処分されていたかもしれない。

 復讐を止める事が出来たのは指揮官、それに仲間達が居るおかげ。

 ただ私が...本当に部隊に戻って良いのか分からなかった。

 

 

「───指揮官」

 

「どうした?」

 

「...私は、本当にこれでよかったのでしょうか?」

 

「というと?」

 

「私は相手が凶悪犯とはいえ、ニケとしての規制を振り切って危害を加えました。

それに、指揮官には無断でこんな事をして...私は更生館に行くべきでは無いでしょうか?」

 

 そんな時、カーマイン刑事が指揮官の代わりに答えた。

 

「...今回の一件は、()()となる」

 

「えっ...?

でも私は...」

 

「この件に関しては、()()から直々に指示があった」

 

「A.C.P.U.の署長が...?」

 

「ああ。

事情は分からないが...僕からは()()()()()()()()()だ」

 

「そう、ですよね...やっぱり、私は拘束された方が...」

 

「そういう意味じゃないんだ。

何というか...やるせないというか。

市民を守る立場(法の番人)なのに、これじゃあ警察失格だ...」

 

 カーマイン刑事は自嘲気味にそう話す。

 彼から理由を聞いた訳では無いものの、言葉から察しはついた。

 

 

 アウターリムからアーク内に入り、車内が沈黙に包まれる中...指揮官が口を開いた。

 

「───イーグル、俺みたいになるな」

 

「えっ...?」

 

「復讐を果たしてスッキリするかもしれない...だが、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()を知ってる。

だから、お前もそうなって欲しくない...」

 

 アークの車道を走る中...オレンジ色の街灯が車内を明るくする度、私は隣にいる指揮官の顔を見る。

 その横顔は、まるで何処か物悲しい表情(かお)にも見えた───。

 

 

 その後、私は指揮官やオーシャンから適切なメンタルケアをして貰い...部隊に復帰できた。

 

 フラワーからも心配されてはファルのように可愛がられ、ファルも今回に関しては私に対して心配を見せていた。

 

 そして...地上への任務に向かう時だった。

 

 

 地上に向かうエレベーターに乗る前...私達はある部隊とすれ違う。

 他の部隊を見かけるのは珍しい事では無い...ただ、彼等の言葉が耳に入った。

 

「"ヘンリー"指揮官、もう無茶はしないでくださいよ」

 

「だって..."エリス"が危なかったし...」

 

「それは...嬉しいのだけど、指揮官は人間なんだからだーめ」

 

「分かったよ...」

 

「もーっ...」

 

 ───()()()()...?

 私は指揮官と量産型ニケの1人が話しているのを聞いて、足を止めた。

 

 私の部隊の指揮官と同じ軍服と軍帽、そして外套...量産型ニケと話している時に指揮官の横顔を見る。

 ...サングラスこそ掛けていて成長もしているが、私の弟であるヘンリーに似ていた。

 

「どうしたの〜?

まさかさっきの指揮官に惚れちゃった〜?」

 

「ち、違いますっ!」

 

 オウルの揶揄いを否定しつつも、私は先程の青年が気になった。

 

 もし、あの指揮官がヘンリーなら...私は真実を話すべきだろうか。




イーグル編終わりです。
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