勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜   作:乾エルト

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第24話:生きる意味

 ───ニケになる前、私の人生は悲惨(クソ)だった。

 

 父はロイヤル(金持ち)で、結婚していた。

 だが、フォーマルの使用人と不倫して出来た子供が私だった。

 

 ロイヤルの父は私が産まれると知るや否や、母を解雇してすぐに捨てた...理由は分からないが、子供を作る気は無かったそうで、その時は彼女に「後で迎えに来るから」と嘘をついたようで、事前の慰謝料と言わんばかりに多額のクレジットを退職金に出したそうだ。

 

 多額のクレジットと認識チップがあるだけまだマシかもしれないが、それでも私達の生活に余裕は無かった。

 

 クレジットは生活費とロイヤルへの()()()に使われ、思い出作りなんて出来るような感じでは無い。

 母は最初こそ私を育て可愛がってくれたが、徐々に余裕が無くなっていき...泣く私を見ては叩くようになり、混血児(いみご)として蔑むようになった。

 

 どうやら私には父の面影があるようで、それも原因らしいが...最低限の良心からか学校には入学させてくれた。

 

 だが...授業参観に来る事も、卒業を見届ける事も無かった。

 

 

 そんな私にとって唯一の救いは、趣味に没頭する事。

 母からロイヤルの知識やマナーを叩き込まれたものの、ロイヤル(彼ら)娯楽(嗜み)は私も好きだった。

 

 音楽を聴いたり、絵画を観たり...そのせいか私にはロイヤル顔負けの知識を身に付ける事ができた。

 

 ...だからと言って、ロイヤルになれる訳がなかった。

 

 

 ある日の事───高校生になりたてだった私が学校から帰ってきた時、母は首を吊って自殺していて、遺書にはこう書いてあった。

 

『あなたなんてうまなきゃよかった』

 

 

 ───元々、私の人生は上手くいかなかった。

 

 友達もおらず、ただ1人。

 良い成績さえとっていれば、いつか母も余裕を持ってくれるだろうと...そう思っていた。

 

 ───私は何の為に生まれてきたのだろう?

 そう思いながらも私は...マンションのベランダから飛び降りた。

 

 それで死ねれば良かった、それで死ねれば良かったのに───。

 

 

 ───ある日の事、私は病院のベッドで目を覚ます。

 

 体は満身創痍...だが脳や脊髄は無事。

 看護師は無事を祝ってくれたが、私にとって最悪だった。

 

 

 今度は確実に死のうと思っていたその時───私の前にある男が現れた。

 

 その男は帽子にスーツ姿の男性で、外見を見るに老齢に近い。

 彼は私に"ヘッドハンター"と名乗り、勝利の女神(ニケ)にならないかと提案した。

 

 人類の希望になんて興味無い。

 私はその提案を断ろうと思ったが、見方を変えれば、死傷率の高い戦場でなら簡単に死ねる───私は提案に乗った。

 

 そしてニケになり...私はミシリスのプロダクト12となった。

 

 

 ニケになってから一通りの訓練を終え、私が所属した部隊には、同じような型のニケがいた。

 

「へぇ、キミも私と同じなんだ。

ふふ、奇遇だね」

 

 ...同型を見て、私は不愉快だった。

 量産型は双子よりもそっくり...謂わばクローンだった。

 

 中身は違くても外見(ガワ)は同じだから、大抵の量産型ニケは同型を嫌う。

 ...だが、彼女は違った。

 

 彼女は私の手を握って、満面の笑みを浮かべる。

 そんな彼女を最初は気味悪く思ったが...一緒にいる内に心を許していた。

 

 ───しかし、別れは突然起こるもの。

 そして、残酷だった。

 

 

 ある任務の時...不意を突かれた私達はラプチャーに囲まれてしまった。

 

 近くの建物に籠り、ラプチャーの猛攻を避ける。

 籠城戦したのは良いものの...持っているものは有限で、状況は最悪だった。

 

 一睡もせず、思考転換をして自らラプチャーの生贄になるニケ。

 自分だけ生き残ろうと仲間を押し出そうとし、2人揃って死んだニケ。

 猛攻に耐えられなくなった指揮官は発狂した挙句、自決。

 性格に難ありではあったが...クズでは無かった。

 

 

 籠城戦から生き延びる事が出来たのは、私ともう1人のプロダクト12だけ。

 私達は、その場からアークへ何とか帰還しようと歩いていた。

 

 歩く事数分...彼女は私に止まるよう頼んだ後、私に離れるよう言った。

 

 私はどうしたのかと訊けば、彼女はヘルメットを外して素顔を見せた。

 

 

 その瞳は赤く光っていた。

 

 まるで、ラプチャーのコアを連想させるように。

 

 

 私は彼女の状態に動揺してしまう。

 最初の頃は煙たがっていたのに、今では一緒にアークに帰りたいと思っている...その矢先にだった。

 

 彼女は私に「殺して」と言う。

 躊躇う私を安心させる為にいつもの笑顔を見せるが、それが無理矢理作っているのは容易に解った。

 

「私には、できない...」

 

 そう言うと、彼女は優しく微笑みながら責めずに「変わったね」と言うが...徐々にその声はエコーでも掛かったようにノイズが混じり始める。

 

「ここで私を殺さないと、キミにまで迷惑を掛ける事にナル。

何トカシナきゃ、何とか、何とか、何とか、何とか───」

 

「私には...できない...」

 

 私は弱音を吐くように呟いた。

 

 怖い。

 撃ちたくない。

 別れたくない。

 

 悩みを見せる中、彼女は私の名前を呼ぶ。

 そして、私が再び視界に捉えると...彼女は銃を構えていた。

 

 

 ───私は叫び声を上げて、MIMG-07(マシンガン)の引き金を引く。

 銃口からは火が噴き、彼女の身体へと無慈悲に連射してしまう。

 まるで砂の城が蹴られて崩されるように、その身体は液体触媒と部品を飛び散らしながら倒れていった。

 

 

 ───私は殺してしまった。

 

 殺した。

 私が殺した。

 コロしたのは、ワタシだ。

 

「...うっ、うぅ───」

 

 ───私は頭を抱えてその場に跪く。

 後悔や自責などで狂いそうだった。

 

 今考えてみると、私は思考転換する一歩手前だったのだろう...それに、無力化する選択をしなかった。

 

 殺してくれ...死なせてくれ。

 だが、こんな時に限ってだった。

 

 私は他の部隊に拾われたおかげで偶然にも命拾いする。

 だが、指揮官を守れなかった事で処分されるだろう...実際、その部隊のメンバーも私を助けるべきか迷っていた。

 

 

 アークに戻ると、思考転換の検査などが綿密に行われる。

 検査は終わったが結果は不明...そんな事してないでさっさと処分すれば良いものの、()()()が私に会いに来た。

 

 その男は私をニケとしての人生を提示したヘッドハンターでは無く、軍服を着た老齢の男。

 恐らく中央政府のお偉いさんだろうが...どうせ碌でも無いやつだろうと思い、雑な対応をした。

 

「...やるんならさっさと」

 

「...君の検査結果、それに経緯は拝見した。

君をここで処分させるには惜しい、これから()()()()()()()に来て貰う」

 

 ───私はその言葉に唖然としてしまう。

 状況が理解出来ず、空返事ではあるものの「はい」と言ってしまったのだ。

 

 そこからだった。

 私が今の部隊に配属されたのは。

 

 

 

「───ほう。

君とこの嬢ちゃんの事は分かった。

まぁ...君達も苦労してきたようだな」

 

 私は無言になるが、紅蓮と呼ばれるニケは沈黙を答えとして笑みを浮かべた。

 

「ふふ、それにしても君の相棒は甘えん坊さんなのかい?

私に懐くように寝て...」

 

 紅蓮は、自身の膝を枕にして寝ている23の頭を撫でる。

 ここで休む前...23は意識を取り戻しては状況を理解出来ずに混乱していたが、紅蓮が地上の食べ物を渡してからは落ち着きを取り戻し、彼女達はすぐに打ち解けた。

 

 ただ...23はいつもと違って幼く感じる。

 思考転換だとも思ったが、そうなったニケは攻撃的な性質になるという話を聞いていたからか、違うと思っていた。

 

「ふふ、可愛らしいものだね。

それにしても...君は()()()()()()()()()()のかい?」

 

 そんな問いに、私は沈黙を続けてしまった。

 

「...私にはそう思えないがな。

君は死にたがっているというより、()()()()()()()()()()()ように見える」

 

 その言葉に、私は不快感を表す。

 

「...アンタに何が解る?」

 

「私も()()()()()()()をしているからさ」

 

「...くだらない」

 

「くだらないと思うならそれで良い。

ただ、それでも君はこの子を連れて帰るのだろう?」

 

 私はその言葉にも黙り続ける。

 ...ただ、それが子供っぽくて嫌になり、私は少しの沈黙を経て口を開いた。

 

「───23の事を連れて帰る。

たとえ私が死んだとしても、彼女だけは生きて帰す」

 

「...いや、君()死なせない」

 

「どうしてそう言い切れる?」

 

「私が送るからさ」

 

 そう言って紅蓮は、盃の液体を口の中に入れた。

 

 

 翌朝、私と23は紅蓮と共に彼女の拠点から発つ。

 23は別れを惜しんでこそいたものの...子供っぽさは鳴りを潜め、普段の様子に戻っていた。

 

「紅蓮さんと別れるのは悲しいですが...私達を助けて頂き、ありがとうございました」

 

「ふ、礼なんていいさ。

それに、()()()()()()()()かもしれないぞ?」

 

「ふふっ...また無事に会えると良いですけどね」

 

 苦笑いをしながらそんな事を言う23に私は思わず「笑えないっすよ」と言ってしまった。

 

「あっ、ごめんなさい...!

私、縁起でもない事を...」

 

「ふふ、23は素直で可愛らしいのぅ。

さて、もう少しでエレベーターに着く」

 

 

 紅蓮の言う通り、話している内にエレベーターまであと少しの距離となる。

 23はまだ別れでもないのに急に感謝をし始めた。

 

「あの、短い間でしたがありがとうございます!」

 

「ふふ、良いさ」

 

「...どうも」

 

「君は相変わらず無愛想だねぇ...達者で...。

───!?」

 

 紅蓮がそう言いかける前に、私達は炸裂した音を聴くと同時に視界が暗転した───。

 

 

 身体が浮き、後頭部から地面にぶつかる。

 ヘルメットのおかげで軽減はされたものの、脳震盪でも起きたように視界がふらついて動けなかった。

 

「12っ...片脚が...」

 

 ...立ちあがろうにも、片脚が無い。

 私は今にでも叫んでしまいそうな23を落ち着かせようとするが、頭を強く打ってしまったからか、身体どころか口も思い通りに動かなかった。

 

 

 

 ───やっと死ねる。

 結末は酷いものだったが、死ねるんだ。

 

 ただ...何故だろう。

 何故か怖い。

 いつもは死にたいと思っていたのに、人間だった頃は飛び降りれたのに、ニケとして死線を潜り抜けて慣れたと思ったのに...死ぬのが怖かった。

 

 嫌だ、死にたくない。

 怖い、こんな所で死にたく───。

 

 

 

「くっ...!

嬢ちゃん達、しっかり私に掴まってておくれ───!」

 

 私の薄まった視界には、紅蓮は私を抱きかかえ、23は背負われているのか左肩から顔を出して私を心配そうに見ているのが判った。

 

 いくらニケであっても、こうして同じニケを2人も抱えて走る事なんて不可能かに思えたが...紅蓮は高速でエレベーターまで疾走する。

 ...まるで、ブーストパックを使っているかのように。

 

 

 エレベーター前に着いた後、紅蓮は私達を地面に降ろしては23に言った。

 

「手荒な真似をしてすまぬ。

エレベーターが開いたらすぐに12の嬢ちゃんを引き摺って一緒に中へ入ってくれ」

 

「紅蓮さんは...!?」

 

「私は、()()()に行けない身でな」

 

 私は意識朦朧の中、何とか目を凝らして周りの光景を見る。

 ラプチャーはセルフレス級やサーバント級ばかりのようで、私も23も先程の爆風で武器を破損させてしまった。

 

 1人で多数に太刀打ちできるとは到底思えない───そんな中でも紅蓮は横顔で笑みを見せた。

 

「ふ、また会えるとも。

またいつか───」

 

 紅蓮は私達にそう言った後、顔を正面に向き直しては多数のラプチャーと対峙した。

 

「───とくとご覧あれ。

天地万物を斬るとはこういう事だ───」

 

 

 ───その後の事は憶えていない。

 恐らく、途中で意識が飛んでしまったのだろう。

 意識を取り戻した時にはエレベーターの中にいて、傍には23が涙ながらに私を抱きしめていた。

 

 

 その後、私達は偶然その場に居合わせた部隊により、リペアセンターへと搬送された。

 

 リペアセンターに向かう途中で眠ってしまったのか...目が覚めた頃には病室のベッドにいた。

 

「あっ、おはよう!」

 

 隣にはフラワーが座っていて、私に微笑みを見せた。

 

「...他のみんなは?」

 

「面会には1人しか行けないからみんな宿舎にいるわ。

でも、みんな心配して探したりもしたのよ?」

 

「そう...。

...それで23は?」

 

「23は別の部屋で安静にしてるわ。

あの子ったら私の顔を見た瞬間、子供のように泣いちゃって。

2人には酷い事をしちゃったね...」

 

 フラワーは私を急に抱きしめる。

 そして背中や頭を優しく撫でられた。

 

「な、何ですか...」

 

「良かった...生きてて...。

ごめんね...すぐに見つけられなくて...」

 

 以前の私なら、フラワーの言葉に偽善を感じて不愉快だと口にしてしまうだろうが...今は違う。

 不意に涙が溢れてしまう。

 意図してないのに、涙が流れる。

 何故だろう、私は思考転換してしまったのだろうか?

 どうしてしまったのか、私には分からなかった。

 

 ───生きたい。

 何故か今はそう思えてしまった。




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