勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜   作:乾エルト

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第26話:光と闇

 銀髪の量産型ニケ...I-DOLL・ムーンを連れた指揮官は私達を見るや否や話しかけてきた。

 

「なぁ、アンタらアリーナは初めてか?

見かけない顔だが...」

 

「ああ、俺達もこのアリーナに出場する」

 

 指揮官がそう言うと、相手側のI-DOLL・ムーンは鼻で笑う。

 それは、私達を馬鹿にしているような嗤いだった。

 

「何がおかしい?」

 

「いえ...無謀な人達だと思って。

そうでしょ、指揮官?」

 

「ふっ...ああ。

お前達が何の目的で出場するのかは知らないが、()()()()じゃない事だけ言っておく」

 

 相手はどれだけ私達を馬鹿にしたいのか...だが、私よりも先に指揮官が危ない。

 彼の拳には血管(青筋)が浮き出ていて、私は指揮官を制止するように手を前に出した。

 

 そして...私は煽り返すように、ムーンに訊いた。

 

「...一つ訊きたい。

お前...()()()()()()()()()()()()()()のか?」

 

「───!?

お前っ...!」

 

「そうか...お前はよほど()()()()()()()()()()()()()()()()()ようだな」

 

「殺してやる...!」

 

 ムーンは憎しみの籠った目で殴り掛かろうとするが、彼女の指揮官は見かけによらず制止した。

 

「よせよせ...コイツはただムーン(お前)を煽りたいだけだ。

悪いなぁ、だがウチの"ムーン(ミスティ)"は近接戦闘のプロなんだ。

ま、痛め付けられてもせいぜい頑張る事だな」

 

 2人はその場から立ち去る。

 相手方の指揮官は余裕そうに言ったが、ムーン...いや、ここで"ミスティ"の名を聞くとは思わなかった。

 

「...サン、一体どうしてあんな言葉(こと)を?」

 

「ああ、すまない。

指揮官が殴る前に私が───」

 

「そうじゃない、あの煽りだ。

まるで...相手に心当たりでもあるみたいだった」

 

「ああ...もしかしたら私の知り合いだったかもしれないからな」

 

 ミスティ...幼馴染の名前。

 確かに養女と引き取られてからはそれぞれどんな暮らしをしていたか等分からなかった。

 

 そして試合が始まる。

 量産型の他にネームドニケもいたが、どうやら初戦で敗退してしまったようだ。

 量産型とは違うという慢心からか、それともその量産型が場数を踏んでいて強かったのか...どちらにせよ、油断できない状況だった。

 

 そして私の番となり...初戦は同じ量産型ニケ。

 私は相手の動きを見極めて無力化していく。

 徒手格闘は得意だったからこそ初戦に続き、2回戦目も突破できた。

 

 3回戦目...これが終われば準決勝と決勝。

 しかし、この時の私は2度の勝利に酔いしれていた事もあってか慢心してしまった。

 

 

 3回戦目が始まる。

 相手はミスティ...I-DOLL・ムーンだった。

 

 彼女は"フェイディングムーン"という名前でエントリーしたようだ。

 フェイディングムーン...I-DOLL・ムーンが使うショットガンの名前で、センスは私と同じレベル。

 相手にとって不足はない───私はいつもの心構えで挑んだつもりだった。

 

「まさかここまで来れるとはね...」

 

「フンっ...私の力を甘く見過ぎだな」

 

「でも、その減らず口もそこまで。

貴女をたっぷりと痛ぶ(可愛が)ってあげる」

 

 そんな会話を繰り広げる中、レフェリーから開始前の合図を聞き、私達は戦闘態勢をとった。

 

「エン...」

 

「カウンター...!」

 

 開始の合図と同時にミスティの蹴りが私の腹部に命中しかける。

 だがそれを何とか両手で抑え、それと同時に相手の足を掴む。

 そしてその足を捻るように力尽くで回して相手の態勢を崩す。

 ミスティの身体は宙に浮き、その隙に彼女の腹部へエルボーを打ち込もうとした。

 

 勝った───だが、その慢心こそ命取りだった。

 

 ミスティは私がエルボーを打ち込む寸前...私の接近と同時に左腹部を蹴り付けた。

 

「カハッ───!?」

 

 唾と液体触媒が混じっては口から吐血のように出てくる。

 アンダーアリーナでは、痛覚センサーはオフにするよう言われているが...威力の高い蹴りは思わずオフにしたくなる程の痛みだった。

 

 

 視界がよろけ、マットに膝を付く。

 揺れ動く視線の先ではミスティが歩いてきて、私の顎を足のつま先で強く蹴り上げた。

 

 蹴られた反動で脳震盪でも起きているのか...視界が揺らぎ、体が小刻みに痙攣した。

 

「ふふっ...どうしちゃったのかな?

さっきのが効き過ぎて、もう壊れちゃった?」

 

 ミスティは嘲るようにそう言うが、私は震える身体を何とか抑え再び彼女に飛び掛かった。

 

 

 相手と拳を交えるものの...まるでこちらの動きを分かっているように捌かれてしまう。

 最初は先程の痙攣でこちらの動きが鈍っているからだとは思ったが...何処か既視感のあるような疑念にようやく答えが出た。

 

 ミスティは私の左ストレートを避け、まっすぐ伸びた左腕を掴んでは強引に私の背中へと回す。

 勢いで強引に動かされた事もあってか、何かの線が腕の中で切れたような感覚を感じた。

 

 左手を背中に回され、右腕で首を絞められながら拘束されていた。

 

 

 息が苦しい。

 しかし、もがく度に左手を折られる感覚がしては抵抗する力もかき消されていた。

 

「やっとアンタに屈辱を与えられる。

あの指揮官の前で、痴態を晒しな」

 

 私はその言葉を聞きながら、意識を失っていく。

 私はここで負けるものか。

 ここで、負ける筈が...。

 

「そうだ、アンタに教えといてあげる。

ベルパーソン孤児院に立ち退き命令出したの...私達なの」

 

 ───その言葉を聞いて唖然とする。

 一緒に育った筈なのに、何故そんな事をしたのかと。

 

「な、ぜ...?」

 

「決まっているでしょ?

アンタを誘い込む為...そして絶望を味わせる」

 

「ゴッデスなら...そんな事しないだろ...!」

 

「ゴッデスぅ〜?

あははっ...あんなのは()()()()()()()

勝つ為...相手を苦しめるなら手段を選んじゃダメって事───!」

 

 意識が遠のく...もう返す言葉も出ない。

 ミスティは...私の幼馴染(親友)はゴッデスを否定する程になっていた。

 

 嫌だ、私はこんな奴に負けたくない。

 こんな、プライドを捨て外道に堕ちた奴に───。

 

 

「───うっ...うぅっ...」

 

 私はベッドの上で目覚める。

 そこには指揮官の他にオーシャンもいた。

 

「あっ!

指揮官、目覚めたわ」

 

「本当か!

良かった...大丈夫か?」

 

「私...なんで、ここに...」

 

 話を訊こうとしたが、すぐに状況を理解してしまう。

 私は、あの戦いに負けたんだ。

 

「───そうか...私は...」

 

「大丈夫...?」

 

 オーシャンがそう声を掛けるが...大丈夫な訳が無い。

 私は負けた...その事実が私に重くのしかかっていた。

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