勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜   作:乾エルト

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第27話: ニケとしての矜持

 私達は、ベルパーソン孤児院で育った。

 

 親は居ない...捨てられたのか死んだのかも分からない。

 だが私は院長に、先生...それに友達(とも)がいて、その中でも志を共にする幼馴染(ミスティ)がいた。

 

 私は明るい子と呼ばれ、逆に幼馴染のミスティは自信のない子。

 だが、対になる私達には唯一の共通点があった。

 

 勝利の女神───私達はゴッデスに憧れていて、そうなりたい気持ちは一緒だった。

 

 その筈、なのに───。

 

 

 

 アンダーアリーナでの敗北以来、私は自室へ籠るようになっていた。

 

 私のプライドが折れてしまった事もあれば、ミスティがどうして憧れを捨てたのか。

 性格の違いはあったものの、目指すものは同じ...そうだった筈なのに。

 

 量産型になったのがいけなかったのか?

 それとも、私が居たせいなのか?

 

「ひっく...うぅっ...」

 

 こんな形で戦う事となり、屈辱を味わせたいなどと憎しみの目を向けられるとは思っていなかった。

 

 血は繋がっていないものの、姉妹のような関係...確かに彼女は特化型になりたかったのだろうが、量産型になったからと言って全てを憎むようになったのだろうか。

 

 

 ───部屋に籠ってどれぐらい経ったのだろうか。

 食事の置かれる音や、指揮官や仲間の声が外から聴こえるものの...私は自室から出れずにいた。

 

 このまま何処かへ行こうか。

 私がこの部隊にいた所で、醜態を晒すだけなのだろう...。

 皆が寝静まった頃に、私は居なくなろうと決意した。

 

 

 ガレージに行き、バイクに乗る。

 バイクの手入れをしていなかったからか、金色の塗装は輝きを失っていた。

 

 ガレージの扉を開いては閉め...音で起こさないようバイクを押しながら宿舎との距離を離す。

 そしてイグニッションにキーを差し込み、エンジンを始動させ...私はバイクに乗って宿舎を後にした。

 

 

 寝静まった街を背景に、私は途方も無く走らせる。

 スピードを限界まで出せば、A.C.P.U.が私を捕まえてくれるだろう。

 ...なのに、それが出来なかった。

 

 どうして出来なかったのかは分からない。

 たとえ自暴自棄になっても、部隊の事を考えてしまうからだろうか?

 でも、私は...私にはもう、あの部隊にいる資格など無いんだ。

 

 

 バイクを走らせてからしばらく経ち...私は何処かの公園にいた。

 

 ベンチに座っていると、雨が降り始める。

 私の冷め切った心を更に冷たくするように雨は当たり続けた。

 

 

「そのI-DOLL・サン(正義バカ)

 

 私が呆然と雨に当たっていると、聞き覚えのある声がする。

 その声に反応して顔を上げると...誰かがこちらに近付いて来た。

 

 見た目こそプロダクト12だが...私に正義馬鹿というプロダクト12はただ1人...仲間の12だとすぐに気付いた。

 

「12...何でここに...」

 

「...アンタの様子を見に」

 

 12が素直では無く嫌味と皮肉が多いのもあるが...今の私にとってどんな言葉でも嫌な受け止め方をするようになっていた。

 

「...私を嗤いに来たのか。

笑いたいなら笑え...もう戻る気もない...」

 

「そう...だったらそうしててください。

アンタが何処かで野垂れ死のうと、私はそれを報告するだけなので」

 

 ...こんな時にでも癇に障る奴だ。

 無気力で、捻くれてるような奴。

 ニケになった理由はあっても、目的なんて無い。

 ...だが、私のように目的があったとしても無意味だ。

 

「勝手にしろ...もうどうだって良い...」

 

 私は背中を見せて歩き出す12にそう呟く。

 すると、彼女は歩みを止めてから私の方を振り返り...近付くと同時に私の左頬を強く殴った。

 

 ニケの腕力というべきか、殴られた私の口端から液体触媒が流れる。

 殴られた私は、突然の行動に驚きながらも怒りを感じて12を殴った。

 

 12も反撃するものの、彼女は近接戦闘が苦手なようで、すぐに見切れる。

 雨の中で殴り、蹴り合う状況は...どちらが倒れるかまで続いた。

 

 12は自身の拳や蹴りを避けられて私に反撃されても立ち上がる。

 無駄な抵抗...それにも関わらず立ち上がってくる底知れなさに動揺しつつも、私は攻撃の手を緩めなかった。

 

 だが、私は彼女をサンドバッグのようにしている。

 仲間なのに...自分は暴力に身を任せて殴っている...そんな自分に迷いがあった。

 

 だが迷っている隙を突かれてしまい...私は頬に拳を喰らった。

 

 強い...それに不意打ちのような感覚は脳への振動を起こし、私は転ぶように倒れた。

 

 

 空からは雨が降り続ける。

 ここが地上とは違うにも関わらず、その雨は降り止まなかった。

 

 真上を見る私の視界には、12が私を見下ろしていた。

 

「...どうして追い討ちをかけない?

油断していると、私が起き上がるぞ?」

 

 私は息を切らしながらもそう言うが...彼女は呆れるように首を横に振った。

 

「...アンタはいつまで不貞腐れてるつもりですか?

私はアンタを()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 12の声には苛立ちを感じる。

 そして、その言葉は何処か...私への信頼があるようだった。

 

「何が言いたい...?」

 

「...()()()()()()()()、まだ捨てた訳じゃないでしょ?」

 

 ───12からの言葉で、思わず私は目を丸くする。

 ニケとしての矜持...それは私が守ろうとしていたもの。

 自分が正義の味方として、人類の希望として心に決めていたもの。

 ...そんな事を思い返すと目頭がじんわりと熱を帯びた。

 

「すまないっ...私はっ...」

 

「...泣いてないで行きますよ。

()()()()()()()()()()()()()()ですし」

 

 12は泣きながら謝る私に手を差し伸べる。

 だがやっぱり素直になれないのか...12は顔を逸らしている。

 ただ、それでも手を差し伸べているのは彼女なりの優しさなのだろう。

 

 差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。

 勝負はまだ決まっていない...そのチャンスは絶対に逃せないものであった。

 

 

 私は12と一緒に宿舎へ戻る。

 12は指揮官の車を借りてここまで来たようで、彼女がそこまでするとは思いもしなかった。

 

 宿舎に戻り、指揮官や仲間から出迎えられた。

 

「サン!」

 

「みんな...すまなかった」

 

「ああ...心配したんだぞ」

 

「すまない...本当に...」

 

「サン、貴女が居なきゃ始まらないんだから」

 

「フラワー...」

 

 私は泣きそうになるが、12が咳払いしてくれたおかげで我に返る。

 そう...何故勝負が決まってないのか理由が分からなかったからだ。

 

 

 12は調べた情報を私に話す。

 どうやらアンダーアリーナでは敗退したニケや諸事情による棄権者のリベンジ...つまり敗者復活戦があるようで、ミスティも準々決勝辺りで負けたからか出場するようだった。

 

 今回は負けられない...だが、汚い手を使う訳では無いにしろ、私は()()()()()()()()だろう。

 そしてミスティ───フェイディングムーンを打ち倒す。

 私は堕ちた幼馴染を正すべく...そして私の、ニケとしての矜持を見せる為に。

 

 

 そして当日───私はみんなに見送られながら宿舎を後にし...アンダーアリーナ会場に着いた。

 

 受付を済ませて控え室で待っていると、指揮官が遅れて入って来る。

 しかし、彼は喧嘩でもしてきたように傷付いている。

 口端に血と痣を付けていて、軍服にも汚れ...雨も降っていたからか、濡れていた。

 

「大丈夫か!?」

 

 私は心配するもののの、指揮官は詮索されたくないのか手のひらを見せた。

 

「こっちは何とか...気にしないでくれ」

 

「気にしないでくれって...まぁ分かった。

無事で何よりだ」

 

「ああ...ありがとう。

それより、もう少しで試合だろ?

大丈夫か?」

 

「ふっ、任せてくれ。

今度こそ...倒す」

 

「ふっ、気が済むまでぶちかましてやれ」

 

 指揮官とお互いに笑みを浮かべ、フィストバンプをする。

 私は勇気を貰い、控え室から出て行った。

 

 

 控え室から出て、私はリングに上がる。

 向こう側にはフェイディングムーンがいて、彼女は馬鹿にするような笑みで腕を組んでいた。

 

「...はぁ。

無謀な勝負だと解っているのに、貴女はまたここに来たの?」

 

「かつての()()()を正す為に、な」

 

 幼馴染という言葉を聞いてか、彼女は不機嫌そうな表情になった。

 

「アンタ...減らず口もそこまでにしなよ」

 

「減らず口...自分勝手だな。

先に戦いを仕掛けておいて」

 

「それぐらい、アンタの存在が憎かった。

そして()()()()()()()()()()()()()()()も...!」

 

「そうか...ならニケとしての矜持、お前に見せつけてやらないとな。

今度は同じヘマをする気はない...かかって来い」

 

 

 私達は煽り合いしつつもレフェリーの合図を聞き取り、戦闘態勢をとった。

 

「...レディ───」

 

「───エンカウンター...!」

 

 

 試合が始まり、私はムーンの左拳を屈んでは右に避ける。

 そして彼女の左側頭部に蹴りを喰らわせようとしたが...相手はその脚を手甲で防いだ。

 

 掴まれないように足をすぐにこちら側に戻し、私は後方に回転して距離を取る。

 だが相手は逆に距離を詰めて私の顔面に蹴り入れようとした。

 

 その蹴りを受け流しては避けると、すぐにムーンへと振り向き防戦する。

 私は彼女の動きをよく見ながら考える...相手は防戦に努める私を見て嘲笑っているが、すぐにその笑顔も無くなるだろう。

 

 昔からそうだ...ミスティは焦り易い。

 物事が上手くいかないと癇癪を起こすかのように余裕が無くなるからだ。

 

 攻撃を受け流し続けていると...案の定ムーンの表情は嘲笑から苛立ちに変わり、私に掴み技を掛けようとする。

 ...しかし、それが彼女にとって墓穴を掘る事となった。

 

 

 掴んだ腕を逆に掴み返すと同時に仰向けに倒れて相手に巴投げをお見舞いする。

 ムーンは宙で一回転した後に背中から倒れ、「ぐふっ」と吹き出したような声を出した。

 

 本来なら追撃のチャンスだが...ここで私は初戦の失敗を思い出して追撃をやめる。

 相手は思いがけないダメージを喰らい、舌打ちをしながら再び立ち上がった。

 

「...やるようになったね。

でも、アンタはここで負ける」

 

 ムーンは改めて身構える。

 彼女が見せた視線は殺意そのもので、試合での勝ち負けどころか"私との殺し合い"を望んでいるかのような目つきだった。

 

 ...だからと言って、その眼光に怯んでいる暇など無い。

 私はそれに応じるように改めて構え、相手を迎え撃とうとした。

 

 

 ムーンは左足を後ろに引き、跳ね飛ぶようにこちらに向かってくる。

 その動きはまっすぐにしか飛べない弾丸のようで、私は怪しみながらも対応出来ると思ったが...その動きはフェイントだった。

 

 ムーンは宙に浮いていたにも関わらず即座に行動を中断するように回し蹴りを避け、即座に背後を取る。

 そして、私の背中へ3発の重い力が打ち込まれた───。

 

 ...その威力は体内に巡る触媒の流れを悪くする程で、私は思わず倒れ込んでしまった。

 

 

 ───苦しい。

 まるで呼吸器官をやられたように息苦しく、麻痺しているのか身体が言う事を聞かない。

 コアが不具合を起こしてしまったのか...私は立ちあがろうとしても、ムーンの足が私の頭を踏み付けた。

 

「あっ、もうお終い?

なーんだ、あっけなかったねぇ。

あんなに息巻いていたのにさ」

 

 ムーンは踏み付けながら足を動かして、私を床に押し付ける。

 そして憎悪の言葉を口に出された。

 

「ニケになる前からアンタが()()()かった。

太陽のように明るい子と月のように物静かな子...私達は同じく量産型なのに、私の憎悪は消えなかった...!」

 

 ムーンは私の脳を揺らすように何度も踏み付けた。

 

「結局アンタも私その程度の鉄屑にしかなれないのよ!

勝利の女神なんて選ばれた奴にしかなれない...私がゴッデスになるべきだったのに...!」

 

 動かないといけないのに、体が言う事を聞かない。

 もうどうしようも出来ないと悟った時───ある言葉を思い出した。

 

『例えニケになっても...太陽の様に眩しく在り、そして後悔しない位の誇りを持ちなさない。

それが、私との約束だ』

 

 私がニケになる前、養父(ちち)に言われた言葉だ。

 養父はロイヤルの資産家。

 あの人のおかげで私は量産型になろうとも強く在る事ができ、そして今の部隊にも出会えた。

 

 全てはゴッデスが繋いできたもの。

 ...だからこそ、ここで負ける訳にはいかなかった。

 

 

 

 ───無理矢理にでも身体を動かそうとする。

 最初は微弱な動作でも良いから、少しずつ身体の自由を再び取り戻そうとした。

 

「まだ動くのか...!」

 

 ムーンは微弱な動きに気付いて私を強く踏み付けようとするが、それと同時に再び身体を動かせるようになった。

 

 

 仰向けになってはムーンの足を抑え、彼女を動揺させる。

 逃がさないように足を掴んだ後、自分の足を一回転させては相手の首に巻き付けるように引っ掛けた。

 

「ふっ...」

 

 私は不敵に笑みを浮かべた後、足に力を入れてムーンの頭から床へ投げ付ける。

 流石の彼女もこの動きには対応出来ず、受け身を取れないままマットに強く叩き付けられた。

 

 

「ミスティ───っ!

立ち上がれぇーっ!」

 

 ムーンの指揮官がリング外から叫び、ムーンは「()()()...」と呟きながらは起き上がる。

 私への憎悪が力となっているのか、それとも兄妹の絆なのか...おぼつかない足取りで立ち上がった。

 

「...まだ...まだ終わってない───!」

 

「やめろ。

これ以上やった所で無意味だ...」

 

「黙れ...黙れ───!!」

 

 決死の覚悟で飛んで来るムーンに、私は憐れみを抱きながらも迎撃する事にした。

 

 ムーンに拳の三連撃を叩き込むと、よろめかせながら退いていく。

 そして、距離が取れた後に彼女へ飛び付きながらその頭を両脚で挟み込み...自分の身体が旋回する勢いで投げ飛ばした。

 

 ヘッドシザースホイップ...投げ飛ばされたムーンはマットでバウンドした後に倒れ、そのまま動かなかった。

 

 ...死んではいないが、記憶が飛んでそうだ。

 

 

 レフェリーがムーンの状態を確認し、ジャッジする。 

 彼女は意識を失ったようで、勝者は私となった。

 

 周りからは歓声が上がる。

 私を讃える声、それに拍手。

 ここが野蛮な場所だと忘れてしまう程に、私はその喝采を嬉しく思った。

 

 私はリング外から拍手をした後にサムズアップする指揮官を見て、自然と笑みが溢れた。

 

 

 そしてあの戦いから数日後───私は孤児院に敗者復活戦時のトロフィーと賞金のクレジットを寄付する。

 もう立ち退きさせようとする人は居ないだろう...そして、地上を奪還するまででもこの孤児院がアウターリムの希望となるように、と。

 

 宿舎に戻り、祝杯を上げてもらう。

 08は支出を気にすると思ったが、気にしなくて良いと言われた。

 

 08も感情表現は不器用だが優しいニケなのだろうと感じられて、最初の頃よりも変わってきたのだと実感した。

 

 

 祝杯が終わり、宿舎の屋上で風に当たっていた。

 

 

 

 エターナルスカイ(偽りの空)には満月が出ていて、太陽とは違う光を放つ。

 ───ミスティは私へのコンプレックスがあった。

 

 ミスティにとって孤児院での生活は劣等感を募らせるもので、引き取られてからは知らないが...ニケになっても量産型である事に更なる劣等感を募らせてしまい、孤児院にまで迷惑を掛けたのだろう...まさかミスティの指揮官が彼女の義理兄(兄さん)だとは思わなかった。

 

 だが何故、ミスティはゴッデスをあそこまで罵倒するようになったのか。

 確かにゴッデスへの侮辱は許し難いが、()()()()()()()()()()があったのだろうか?

 

 ただ、そんな事よりも指揮官の傷...ムーンの指揮官は私達を妨害する為にアウトローまで雇ったらしく、指揮官が重傷となる事で私が来なくなり、絶望を味わせるのが目的だったのだろう。

 しかし、ファルの兄であるカーマイン刑事が参戦し、A.C.P.U.の応援によりアウトロー達は逮捕された。

 

 今思い返してみると、軽蔑したくなる程の卑劣な行為だ。

 ...ただ、もしかしたら───逆だったかもしれないのは否定できない。

 ...これも、私を養女として迎えてくれた養父(ちち)第52(今の)リプレイス部隊(部隊)の仲間、それに指揮官のおかげだろう。

 

 

 ───お父様...。

 私は、涼しい風に当たりながら屋上を後にする。

 ニケとしての矜持───それは私にとって、自分ルールでしか無いのかもしれない。

 だが私は、そんな自分を貫く...身分など関係無く牙無き者の為、窮地に陥る者の為。

 そんな者達の為に私は戦い、鍛える。

 いつか、憧れのゴッデスと肩を並べられるように。




これにてサン編は終了となります。
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