勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
僕の両親は、もうこの世にいない。
死因は、エンターヘブンが起こした爆破事件。
中央政府の役所を狙ったテロリストのメンバーが建物の中で誰彼構わず巻き込むように自爆した。
中央政府の職員だった父を出迎え、母も含めた3人で食事をとる筈だったのに、それは叶わなかった。
僕は辛うじて、助けに来てくれた量産型ニケに抱えられて逃げられたのに。
両親は燃え盛る建物の中、生きながらに苦しんだ。
2人の悲鳴を聴いていたのに、僕は何も出来ず...そのニケは無視するように走り去った。
何故見捨てた?
どうして、勝利の女神じゃないの?
僕はそのニケに対して当たり散らしたが...今考えると、それは自分への憎しみの捌け口にしたに過ぎなかった...そんな自分が嫌いだった。
孤児となった僕は、里親に引き取られた。
ごく普通の家庭...それは実の両親が生きていた頃も同じだった。
「...んんっ、んーっ!」
家にある大きなクローゼットの中から身体を縛られたニケが出てくる。
そう...僕を引き取った里親は過激なニケフォビアだった。
第一次地上奪還戦以降、世論はニケに責任があると考え始めた。
勝利の女神から、ただの兵器へ。
そんな中でも、次第にニケを嫌悪する人々が現れた。
ニケフォビア───ニケに恐怖心を抱き、排除しようとする人々。
ニケの立ち入りはおろか、ニケに物を売らないという店もあった。
里親の教育で僕もニケフォビアになった。
僕を抱えたニケはなぜ両親を救わなかったのか...無力な自分の弱さから視点を移し、勝利の女神だと偽るニケ達への憎しみに視点を移してしまった。
そのニケがどんな
里親は最初こそ優しく取り繕っていたが...厳しくも異常な人達である事は容易に分かった。
毒親...僕を強い男にする為らしいが、彼らにとって気に食わない事があれば怒鳴り散らし、殴る蹴るなど日常茶飯事。
部屋で声を殺して泣くしかなかった。
だからと言って泣くとまた怒鳴られて殴られる...そんな日々だった。
そんな毒親ではあるものの、体裁を保つ為か学校には行かせてくれた。
学校に行っても楽しいとは思えない...常に虚しく、クラスメイトは居ても友達は居ない。
喧嘩を売られる事はあっても、問題を起こせず一方的な虐めばかりだった。
ある日の事...下校中によく通る路地裏に行くと、建物の壁にもたれて座る女性がいて、彼女が
ミシリスで量産されたニケ、プロダクト23...なぜ彼女がここに居るかは分からない。
もしかすると、指揮官や同僚が嫌になって逃げ出した浮浪者同然の個体なのかもしれないと考えた。
学校での嫌がらせや家での洗礼に苛立ちが募っていた僕はこのニケを蹴り倒して踏みつけようととしたが...僕の行動に気付いていたのか声を掛けられた。
「ねぇ、私を蹴らない方が身の為だよ?
足、痛めちゃうから」
...僕はその声に動揺する。
穏やかそうなのに、何処か冷たく尖ったような雰囲気を感じる。
僕は蹴るのをやめ、ニケが何故ここにいるのか訊いた。
「...何でここに?」
「うーん...散歩しててね。
疲れちゃったからここにいるわ」
最初は僕の
だが、何を思ったのか僕は意味の分からない嫌味ばかりを言っていた。
「ニケは地上に行ってれば良いのに、勝利の女神じゃないの?」
「あわわ、お姉さんそんな風に見られて悲しいわ〜」
「じゃあなんでニケになったの?」
「
「馬鹿じゃないの」
「あわわ...
...馬鹿にされている気分。
僕は怒りを感じるものの、口下手な僕にとって上手い返しなど出来なかった。
「...だったら指揮官の元に居れば良いのに」
「私が一言ったら百返しそうな子ね...ニケが散歩するのはいけない?」
彼女は笑いながらそう言った。
不思議なニケ...少なくとも彼女は怒る事無く苛立ちも見せず、ただ飄々とした態度を崩さない。
僕はこれ以上話しても埒が明かないと思い、彼女を無視するように走り去った。
次の日...彼女は同じ場所にいた。
「どうしてまたここに...」
信じられない...僕はそれが偶然だと思い最初に会った時と同じ態度を取るが、そのプロダクト23は最初と同じように飄々としていた。
「キミに会いたくなったから、かな」
僕の問いにそう答えるが、まるでふざけた回答に僕は苛立ちを隠せなかった。
「どうすれば二度と顔を見なくて済む?」
「うーん、私の話を
僕はその提案に嫌そうな顔をする。
最後まで話を聞くなんて言われても、最後なんて話す相手が決める事だ。
「...ふざけてるの?」
「ふざけては無いよ?
でもね、お姉さんの
聞く気が無いのなら、ずっとここに来るよ?」
...そう言われたが、家に帰った所で寝るか勉強するかしか無い。
本当はこの路地裏なんて使わずに別の道を使えば良いのに、構って欲しいのは自分の方だと感じた。
本当は話し
「...分かった、聞く」
「ふふっ、そうこなくっちゃ」
───それ以降も、僕達は会った。
最初はこのニケの話に付き合うだけ...その筈だったが、彼女の話は予想外にも面白かった。
地上の話やアーク内での話...真偽はどうであれ、彼女と話す事が今の僕にとって唯一の楽しみとなっていた。
「そういえば名前はなんて言うの」
「"マリア"よ、宜しくね」
そのプロダクト23...マリアは、僕にとって姉のような存在になっていた。
ニケなのに、本当の顔かすらも分からないのに...マリアは僕が思っていた量産型ニケのイメージを覆す程に自我が有り、感情も豊か。
彼女は僕の
「───キミには、なりたいものある?」
ある日、マリアが僕にそう訊く。
僕は悩む...なりたいものなんて考えてもみなかった。
「うーん...今は思い付かないよ」
僕がそう答えると、残念そうな
「あっ、それなら...
「し、指揮官!?」
「うん、良くない?」
...マリアの言葉に驚きを隠せない。
指揮官になる為の試験は競争率が激しく、子供だった僕でも知っている。
しかも、
「いや、でも...」
マリアと出会ってからニケに対しての
「ふふ、冗談。
でもね、キミが指揮官になったら
そう話すマリアは、首に掛けていたものを服の中から取り出す。
それは派手さも装飾も無い、無難な銀の指輪だが...彼女はそれを見ながら微笑んでいた。
「その指輪は...?」
「これ?
何だと思う?」
「うーん...婚約者との指輪?」
「ぶっぶー、違うわ。
これはね...私の
「ふーん...まるでプロポーズでもされたみたいだね」
「ふふっ、そうかもね。
でも残念、ここでの大事な人というのは戦友としての意味よ」
マリアは微笑みながらも指輪について話してくれた。
「この指輪をくれた人はね、私の指揮官だったのだけど任務中に片足を負傷しちゃってね。
"今は
だからね...この指輪は、その人からの約束の印みたいなものよ。
偉くなって、
僕はそれを聞いて半信半疑だった。
ニケは兵器...それが現世論の見方で、中央政府もニケを勝利の女神扱いこそするが、実際は兵器。
単なる夢物語か丸め込む為の詭弁か...。
そう考えてはいたものの、僕はマリアを信じたかった。
マリアが信じる
「ふーん...でも、僕が指揮官になったらマリアは死んじゃうかもよ?」
だが、僕は素直になれない。
自信が無い事を隠すように僕はそう言ったが、マリアは笑った。
「死んだら責任、取ってもらうんだから!」
マリアはニコニコしながら僕にそう言うが、冗談としても心臓に悪いものだった。
「笑えないよ...」
「ふふっ、ごめ〜ん」
しかしそれは、僕が初めて持った夢。
マリアの指揮官になれるかは分からないし、そもそも試験に受かれるかも分からないが...指揮官になりたいという夢を持てた。
またこうして話したい...そう思っていたのに。
翌朝───僕がリビングに向かうと、そこには里親と談笑しているブロンド髪の、カチューシャを付けた少女がいた。
その人物はアークでも指折りの名門校に通う高校生のようで、綺麗な容姿と育ちの良さを見せるような体型をしているが...見かけに騙されてはいけない。
ラプチャーと同じぐらいかそれ以上の化け物...。
「おいガキ! 今何時だと思ってる!
"教祖様"が来ているんだぞ!」
「まぁまぁ。
私もそこまで偉い立場ではありませんから。
ね、"ヴィンセント"君?」
この
デイリーアークの新聞に載っているニケの連続失踪事件の大体はコイツと、その信者の仕業。
本来なら中央政府やA.C.P.U.に
だがコイツは見かけに依らず相当な人脈を持っていて、それに信者は中央政府にも潜んでいる...相当な危険人物だ。
「なんでここに...?」
「怖がらなくて良いんですよ。
何故なら今日は、
特別な日───それを聞いた僕の心は
僕は里親や教祖、そして他の信者と一緒に地下室へと向かう。
里親は見かけに依らず
...この地下室に入るのは初めてだが、ここで何体ものニケを殺しているのだろうというのは想像に容易い。
防音対策はしているのに、
地下室に入ると、辺りはコンクリート一面に囲まれた殺風景な部屋。
その部屋で身体を縛られて袋を被せられているニケの姿...服装からプロダクト23である事はすぐに分かったが、それと同時に
「コイツ、ここら辺を彷徨いてましたよ」
...教祖は先程の雰囲気とは打って変わり、冷酷な表情となった。
「袋を外して下さい」
同じ場にいる信者は教祖の言う通りニケが被っていた袋を外すと、プロダクト23の素顔が露わになる。
彼女は猿轡を噛ませられていて、目は殺意に溢れている...僕はこの個体をマリアだと思いたくなかった。
猿轡を外されたニケは、乱れた呼吸を整えながらも僕達を睨み付けた。
「その目は何だ!」
里親の父がニケに平手打ちしようとするが、彼女は鋭い睨みを利かせて彼を慄かせる。
まるで噛み千切りそうな雰囲気を出すニケに反して、教祖は冷静に問いかけた。
「貴女は何故こちらを彷徨いていたのですか?」
「...それを言ったら開放する?
私も、
「それは出来ませんね。
貴女方は
「そう...綺麗な顔付きで心は相当腐ってるのね」
「貴女方のような
「そう...私を殺せば、貴女達もただでは済まないと思うわ」
「そうでしょうか?
貴女を裁く前に一つ...私達"救いの聖火"は中央政府内でも許されてますし、もし貴女の指揮官が助けに来ようとも、私達を糾弾しようとも無駄です。
まぁ...貴女達は所詮使い捨てでしょうから、代わりは幾らでもいますよ」
そのプロダクト23は歯を見せるように不敵な笑みを見せる。
飄々とした態度...もしかしたらと思ったが信じたくなかった。
「"あの人"を甘く見ない方が良いわ、お嬢さん」
教祖は怒りもせずただ呆れるように溜め息を吐いた。
「...そうですか。
もし私達に襲い掛かるのなら、その方は勝利の女神に誑かされた"哀れな人"なんでしょうね」
教祖は処刑の準備をする為に、他の信者へ目配りをする。
そして里親が拳銃のスライドを引いて撃鉄を起こした後...
「お前が殺せ」
...そこに僕の拒否権など無い。
引き金を引くか引かないか...どっちにしろ、このニケを処分しない限りは僕は先に進めなかった。
───震える手で拳銃を構える。
このニケは侵食されておかしくなったニケで僕は指揮官なんだと、ずっと心に言い聞かせる。
...だが、引き金を引ける訳が無かった。
いやだ。
僕は殺したくない。
しかし、そのプロダクト23は青い瞳で僕を見つめ続けた。
侵食されていない澄んだ目───。
その目に映る僕は、彼女からすれば怪物に見えたのかもしれない...その筈なのに、マリアは一瞬だけ微笑みを見せては周りにこう言った。
「こんな子供にやらせて恥ずかしく無いの?
そこのお嬢ちゃんはやらないのかしら?」
...間違いない。
物怖じせずに堂々と言うプロダクト23は間違いなく───マリアだった。
「教祖様、あんな奴の事を聞いてはダメです」
「大丈夫ですよ、私は動じてないので」
「おい、さっさと撃て!
てめぇ、俺達から受けた恩を無駄にするつもりか!?」
僕は里親からの催促に怯え、震える手で銃口をマリアの額に当てた。
引き金を引けないまま...僕はマリアと目を合わせる。
彼女は僕を見つめる...彼女は僕をどう見ているのだろうか、表情が読み取れない。
視界が歪み始める...自分がどこに銃口を向けているのかも、マリアがどんな形をしているのかも分からない。
あぁ...もうこの歪んだ景色を見たくない、やめてくれ───。
「ねぇ」
───僕は短い声に反応して目蓋を開く。
歪みが治ったとしても、光景が変わっている訳では無い...だが、マリアはこんな状況でも僕に微笑み、左目で軽くウインクした。
「撃ちなさいよ臆病者、
...挑発をし始めるマリア。
やめろ、やめてくれ。
その挑発が何であれ、周りを苛立たせるのは当然だった。
「やれ! さっさと撃て!」
「またぶたれたいの!?
良いから撃ち殺して!」
都合よく自分達は手を汚さず、僕へ脅しを掛けながら撃つ事を促してくる。
撃ちたくないのに、撃ちたくないのに...!
「ほら、撃ってみなさいよ?
撃ちなさい...撃て! 臆病者───!!」
───バンッ。
予想よりも大きい銃声だったのか、音が耳鳴りのような高音しか聴こえなくなる。
だが、目の前の光景を見ればそんな事は些細なものに過ぎなかった。
マリアは至近距離から発砲された衝撃により後ろの床に仰け反り、倒れた。
周りの音は聞き取りづらい。
だが...微かに聞き取れた声があった。
「上出来です」
僕の肩に誰かが手を添えている。
その方向を見ると、教祖がいる。
彼女は聖女のように微笑むが...その顔を見れば、より彼女が悪魔らしく見えた。
だが、僕にはどうする事もできない。
僕は...殺してしまった。
初めて出来た"大切な
───それから月日は流れ、僕はある儀式に参加する事となった。
アウターリムの一区画...腐った人工樹木に囲まれる中、行われている儀式。
それは崇高な儀式と言われているが、言うなればニケの処刑...ロイヤルやフォーマルの
儀式の際、信者はローブを着るのが常例となっている。
そしてローブを着ている信者の中には、僕より少し歳が離れている子供もいる。
...しかし、僕よりは"やる気のある子"であった。
その区間に着くと、信者達が別車両から
捕縛されたニケ達は、動けないように身体をニケ用のロープでがっちり縛り上げられていて、恐らく様々な状況から拉致されたのだろう。
「うぅっ...ひっく...どうして私達が...」
「許してくださいぃ...私達何も悪い事してないのにぃ...」
ローブを着た
暴力を振るう事は無いが、蔑む様に冷たい目。
人としては見ていない目をしていて、そこにいた司祭が言う。
どうやら
「これより、勝利の女神と偽った悪魔達の処刑を始める。
この者達の処刑に異議のある者は───」
「このクズ共、これを解け!!」
縛られたニケの中には、怯えずに僕達を罵倒する者がいた。
勇敢に抵抗するニケ。
だが、現実は非情なもので...彼女は他の縛られているニケ同様に布の猿轡を口に噛ませられて言葉を封じられた。
信者達はニケ達に液体を掛け始める。
粘り気の強い透明な液体...一斗缶に入っているのはオイルで、缶の表面を見る前に油の匂いで気付いた。
信者の中でも筋力のある男達がワイヤーロープを引っ張って何とか彼女達を吊し上げる。
まるで旧時代の...それより昔に起きたとされる
「んんっ...んーっ!!」
「んっ...んんっ...」
信者の1人が持参してきた松明に火を付けては、それをニケ達に近付ける。
やめろ───僕がそう止められたら良かったのに、恐怖に屈する。
そんな僕の葛藤などお構い無しに...彼女達の身体は瞬く間に燃え上がった───。
───燃え上がる身体に、満足に泣き叫べない悲痛な声は区画中に響いた。
一体彼女達が何をした?
皆はどうして彼女達を見て平気な顔でいられる?
どうして僕は傍観する事しかできない...?
...拳を握りしめ、唇を噛み締めては血の味がする。
彼女達が叫べなくなるまで、僕はそれを見届けるしかなかった。
彼女達の燃え盛る炎が聞こえた後、司祭を務めた信者が他の参加者へ告げる。
皆が拍手喝采で包まれそうになる中、僕の中で
殺してやる。
こいつらみんな殺してやる。
自分が死んでも、コイツらを地獄への道連れにしてやりたい。
それがこの子らへの...マリアへの償いになるのなら。
...僕は司祭の殴ってやろうと人混みの中を掻き分けて近付こうとした。
「これで悪魔の断罪は終了です、皆様お祈りを済ませ───」
司祭の言葉が大きな炸裂音によって遮られる。
その音と同時に、司祭の頭が
近くにいた人の顔には先程まで司祭だったものの肉片が飛び散り...信者の1人が悲鳴を上げた。
だが、そんなのは序の口───風を切る音と
殴ろうとした矢先に起きた出来事に動揺していた僕含め、信者達は慌てふためくが...その正体はすぐに判明した。
「───私達が悪魔なら〜...お前らは何?」
暗闇から現れたのは棘の付いた特殊な銃を2挺持った白黒混じりの
彼女は今にでも噛み付きそうな目で僕達を睨み付けた。
「わ、我々は
お前こそ───」
その女性は信者の1人であった男が言い終わる前に頭を撃ち抜いた。
「...正解知ってる人、他にいるか?」
信者の内、武装している者はその女性に銃を構えるが...そのうちの1人の肩に抉れる程の刃が食い込んだ。
「あ゛ぁ゛っ゛...!」
吐血しながらも汚い断末魔を放ち、死んでいく。
そして男の肩に刺した手斧を持ち手に、別の人物は武装している信者を一人一人、確実に射殺した。
その光景を見て逃げ惑う信者達。
我に返った僕は信者達を掻き分け、車高の高い車の下に隠れてその状況を見た。
ある者は撃たれ、そして斬られ...相手が子供だろうが老人であろうが容赦無く、僕の
───最初の流血から数分も経たない内に、屠殺場は静かになった。
泣き叫ぶ声も、怒り喚く声も、逃げ惑う人も居なくなり...死屍累々の有様が広がっていた。
信じられない...だが1人生き残った僕はどうすれば良いのだろうと。
だが、そんな事を考えている内に片足を捕まれ...後ろへと引っ張られた。
外へ引き摺り出された僕の前には、殺戮を繰り広げていた女性達がいた。
白黒混じりの女性とは別に、"フードを被った女性"が無表情で見下ろしている。
彼女はフードから覗かせた赤い瞳は、僕を冷たく見下ろしていた───。
───意識を取り戻した僕は周りを見渡す。
どれぐらい経ったのだろうか...そんな事を考える前に、先程の2人が目に入った。
僕の両手は前に出されていて...そこには
「ようやく目が覚めたか〜ねぼすけ」
白黒混じりのの女性が僕にそう言う。
そしてフードを被った女性は、先ほどと同じように僕を冷たい眼差しで見ながら誰かに訊いた。
「まだ子供だが、それでもお前が手を下すのか?」
その問いに、ある男が歩いてくる。
その男は軍服を着ていて、足が悪いのか杖をついている。
中央政府の関係者...見た目ですぐに判ったが、問題なのはそこでは無かった。
「...私が下す。
それが、"マリア"の為になるのならな」
マリア───男はそう言った。
「...
フードの女性が男にそう言った後...男は軍服の懐からリボルバーを出す。
そして僕に近付いて撃鉄を起こすと、銃口を僕の額に向けた。
「マリ、ア...?」
「その名を口に出すな、小僧」
男は激昂こそしないが、その声には僕に対する憎悪や殺意が滲み出ている。
もしかしたらこの人は...そう思いながらも彼の話を聞いた。
「ニケを殺した気分はどうだ?
それともお前は殺されている所を鑑賞していただけか?
お前のような奴が
...男の言葉が僕の心に深く突き刺さる。
そうだ、マリアは僕が殺した。
マリアはもう戻ってこない。
僕の好きなマリアは、死んだんだ。
僕と出会い。
僕に関わり。
僕に殺されて死んだんだ。
...視界が潤い、涙が頬を伝わる。
自分の情けなさで、自分の弱さで...大事な人を失った。
悲しい気持ちが溢れ出る。
苦しい、また会いたい...なのに僕のせいで死んだんだ。
「うぅっ...マリアぁ...」
僕は頭を床に付けながら嗚咽してしまった。
「...泣いてるとビリビリさせるよ〜?」
「黙れ、K」
「はいはい...」
多分、他人から見た僕は嘘吐きなのだろう。
泣いて後悔を口にすれば赦されると思っている子供。
...だが、それでも僕は激しい後悔と悲しみに苛まれていた。
「殺してよ...頼むから...僕の事を殺してくれよぉぉぉっ!!」
僕の叫びを聞いて痺れを切らしたのか、男は声を掛けた。
「小僧、顔を上げろ」
男の言う通り顔を上げると...それと同時に右頬へ重い一発が入った───。
───殴れた衝撃で、僕は横になるような倒れ方をした。
口の中や鼻からは鉄の香りや味がする。
そして、殴られた頬はアラームのように激しい痛みを響かせ...その痛みによって改めて涙が出てきた。
「かはっ...うぅっ...」
だが、そんなので済むほど甘くは無い...。
男は苦しみながら仰向けになった僕の心臓辺りを杖で強く突くと...杖の先端をそのまま突き刺すかのように押し込んだ。
「かっ...あ゛あ゛っ゛...」
僕の苦しみには無関心に、男は冷酷な視線で僕を見下ろしながら告げた。
「───お前は生きろ。
生きて、