勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
───私は夢を見た。
懐かしい様にも感じるその記憶は、思い出すべきでは無いのかもしれなかった。
平穏であったあの日。
お金持ちで無くとも、幸せだったあの頃。
そして───家族との温かい思い出。
しかし、その平穏はある時を境に終わる。
次に目を覚ました時には我が家では無く、ボロボロの小屋にいた。
私達の...私の平穏は終わりを迎えたのだ。
外では誰かの怒号や銃声、悲鳴が聴こえてくる。
その恐怖から、泣きそうになる弟の耳を塞ぎながら親が帰ってくるのを待っていた。
最初こそ私達はこの環境でも生きていこうとしたが...その場で起こった諍いにより、両親は消え家は被害を受けて住めなくなった。
私は弟と一緒に路地裏で暮らす。
屋根は無く、2人ぐらいなら覆える毛布で耐え凌いでいた。
ただ、そんな物だけ生きられるほど神様は甘くない...弟は私の腕の中で息絶えた。
頬がこけ始め、衰弱していく弟をただ見ている事...それが私に出来た事だった。
ベッドの上で静かに目を覚まし、私は枕を涙で濡らす。
声を出して泣き叫びたかった、許して欲しかった。
あの時、私だけ生き残ってごめんなさい。
ただ、見ている事しか出来なくてごめんなさい。
役に立てなくて、ごめんなさい。
それから夜が明け、私達は食卓を囲む。
指揮官もいれば、12とサンもいた。
2人が喧嘩するのではという不安もあったが...お互い話す訳でも無く、ただ食事を済ませていた。
朝食を食べ終えた後、私達は指揮官から作戦室に呼ばれる。
今回の任務場所は"地上"───行ったのはこの部隊の最終試験以来で、久々だった。
「今回の任務...久々ね」
「緊張しますね。
でも、同じニケを撃つよりなら...」
イーグルの言う通りである。
言い方は悪くなってしまうが、
地上に向かう時は対ラプチャー用の装備を持つ。
銃の外見も同じだが、銃自体の重さや弾は違う...武器一つで切り替えさせて欲しいと思う程だった。
私達はニケ用のバスに乗って最寄りのエレベーターまで向かう。
武器を持ったままエレベーターまで歩行するのは物騒...それに、車を使った所で地上から戻って来れる確証など無かった。
地上へと向かうエレベーターの中で...私達はそれぞれ話し合っていたが、話題の中心になったキーワードは『地上』だった。
それもその筈、この部隊が地上へ上がった事は最終試験以外に無く...部隊では初めて正式な地上任務となる。
確かに地上での経験は指揮官含めて最低一回はあるだろうが、それもだいぶ前の話だった。
「地上怖いなぁ...」
「怖気付く必要は無いぞ、オウル」
「べっ、別に怖気付いて無いよ!
そういうサンこそ怖いんじゃないの...?」
訝しむオウルに対し、サンは顔を赤くしながら声を荒げた。
「ばっ、馬鹿っ!!
私がラプチャー相手に怖がる訳が無いだろ!」
「またまたぁ〜」
オウルとサンのやり取りを見て、私達は笑ってしまう。
ほっこりするやりとりは地上に向かう緊張感を解す。
12はアーマーで口元が見えないものの、彼女の笑い声を私は"微かに"聴き取った。
エレベーターから地上へと降り立つ私達。
再びこの地に足を踏み入れるのは、何とも言えない気持ちになった。
荒廃した世界、本物の空...これが現実。
ラプチャーのおかげで環境が回復された話を聞く事がある。
だが、私達は地上を奪還しなくてはならない...たとえそれが、環境を壊す結末を迎えようとも。
上官様からの任務内容...それは
特定の座標に向かい、そこで何があったのか確認するというものだった。
発信源に向かうものの、今回はチームを2つに分けてその地点へ向かう事になる。
これには理由があり、発信源は2つある事だった。
通信機器に影響を与える"エブラ粒子"の"浄化シーケンス"をし終えた事から、機器の不具合では無さそうだった。
部隊を二分割し、名前は指揮官が即興で決める。
レッドチームとブルーチーム...色を名称とした。
レッドチームには指揮官を始め、ファルコン、08、12、フラワーが組まれる。
一方でブルーチームにはイーグル、オウル、サン、オーシャン、そして私が組まれた。
ブルーチームには指揮官がいない事から隊長枠に考えあぐねていたが、私はこのまま先に進めないのもマズいと思って志願する。
今回の隊長は私が担当する事になったが...私には自信が無かった。
私は"オペレーター"と交信を始める。
オペレーター...彼女はこの部隊の専属であり、編成時にも上官様と共に顔を見せていた。
彼女は落ち着きこそあるが、私達に対して
「こちら23、目的の地点へもう少しで着くわ。
『───
こちら"レインマイヤース"、特定の座標までに
「浄化シーケンスは?」
『やってますがそれでも通信感度が悪いようで... 分解装置でも故障しているの...?」
エブラ粒子が通信妨害するなら、"エブラ粒子分解装置"というもので濃度を下げる。
しかし、それは一時的なもので且つ装置の無い所では当然だが下げられない。
独り言のように呟くオペレーターの言葉を聴けば、まるでその場にあった
「あっ、通信の件は指揮官と相談してみるわ」
『
えっと、気を付けてくださいね』
私が通信を切ると同時に、気になっていたオウルが私に話しかけた。
「オペレーターさんは何て?」
私はオペレーターからの話を他の仲間に聞かせた。
「分解装置の故障か...ラプチャーが偶然見つけて破壊したのか...」
サンの言う通り、ラプチャーが偶然にも破壊した可能性がある。
私は指揮官に通信する。
繋がりはしたものの、雑音が混じっている。
交信状況が徐々に悪くなっていくのは明確に判った。
「こちらブルーチーム。
指揮官、先程オペレーターから聞いた話ですが───」
『───こちらレッドチーム。
ああ、こちらでもその話は聞いた。
だが任務続行に変わりは無い、ブルーチームはもう1つの箇所を頼む』
「
ブルーチーム、アウト」
私は通信を切った後、他の仲間を連れてもう一つの座標へと向かった。
目的の座標に向かった時にはもう日など暮れている。
私達が辺り一帯を捜索するとそこは荒野の中に若干の草木が生えていた。
捜索するものの特にめぼしいものは見つからず...続行するには精神的負担が大きい。
捜索を一度中断しようとレッドチームと通信した。
「こちらブルーチーム。
もう一つの座標には着いたものの、
『───
『やりました...!』
通信が回復し、指揮官の後ろでは12の声が聴こえる。
その声は普段の気怠げさなど無く、素直に喜んでいるような声で思考転換を疑ってしまった。
『ありがとう12。
お前達も休息してから捜索を開始してくれ。
レッドチーム、
私達はオウルが居るから何とかなってるものの...レッドチームは通信状況が悪い。
それを12が直すのは...聴いただけではあるものの、私は彼女の意外な才能を垣間見た。
私達はその場で野営する。
デコイを撒き、最低限の安全性を確保した。
屋根も無く、ベッドも無く、あるのは"パーフェクトバー"...オーシャンの手料理が恋しくなった。
パーフェクトは無味無臭の食料...様々な形に加工してこそ
持ってきた電気ランタンを囲う様に座る。
軽い食事を摂り終えた後...イーグルとオウルが辺りを警戒し、私達は休息をとっていた。
しかし、地上はラプチャーにいつ出会うか分からなくて眠れない...私達3人はランタンを囲みながらその光を見ていた。
「...オーシャン」
サンがランタンを見ながらオーシャンの名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「私の頬を叩いた後...どうしてその手を抑えていたんだ?」
「あっ、それは...」
オーシャンは自分の手を掴む。
偶然か、掴んだその手はサンを叩いた時の手だった。
「別に私は頬を叩かれた事に怒ってる訳じゃない。
ただ...
サンからの疑問に彼女は無言で頷く。
感覚センサーは私達にとって特権の一つ...視覚と聴覚までは遮断出来ないものの、嗅覚や味覚...それに痛覚の遮断出来る。
そんな特権がある筈なのにと思いながら、私もその事について訊いた。
「一体どうしてセンサーを...」
「───忘れたくないの、誰かの痛みを。
自分が振るった暴力、そして返ってくる感覚。
因果応報を体現するかのような言葉に、私は疑問を呈すように返した。
「返ってくる感覚...それはやっぱり、衛生兵としての
「そうなるわ。
でも、痛みを忘れてしまったら...その人を治したり癒したりする事もできないから」
「オーシャン、お前は凄いな」
「サンや23、他のみんな程じゃないわ」
「謙遜のし過ぎは駄目だって、フラワーが言ってたわ」
「そう?」
私達は笑いながら話を続ける。
部隊が編成されてから...私は初めてオーシャンの考え方を知った。
それから私はイーグルと交代し、辺りの警戒をする。
サンはオウルと交代し、別方向の警戒をしていた。
真っ暗な景色が辺り一面に広がる。
ラプチャーが何処から出てくるのか判断が付かない...バイザーをサーモグラフィーに切り替え、周りにラプチャーがいないか確認していた。
───辺りにラプチャーの存在は確認出来ず。
私はバイザーを額に上げて空を見た。
綺麗な星が暗闇の中で光放つ。
...だが私が空を眺めている中、遠くから大きな爆発音が聴こえてきた。
私は指揮官に連絡を入れた。
「こちらブルーチーム、今の爆発音は!?」
『───こちらレッドチーム、ラプチャーと交戦中!
俺達だけでは凌ぎ切れるか怪しい、至急合流を───』
───通信が遮断される。
他の仲間が私の方へと集まり、事情を聞こうととした。
「23、先程の爆発は!?」
「レッドチームの方ヤバくない...?」
イーグルやオウルからの不安を聞きながら、私は他の4人にレッドチームの加勢に行くよう言った。
私達は走って現場へと向かう。
そこは中東を思わせるような町で、指揮官からの通信通り戦場となっていた。
ラプチャーとの戦闘で数々の建物は崩落し、レッドチームの面々は遮蔽物に隠れながら戦いを繰り広げていた。
「行くよ...ブルーチーム、エンカウンター!」
私はチームのメンバーに号令を出してラプチャーとの交戦を始めた。
敵は"セルフレス級"から"サーバント級"...ラプチャーとしては下の等級だが、侮れる相手では無かった。
フラワーの
自爆型のラプチャーがレッドチームの方向へ特攻していくが、イーグルとサンのアサルトライフルが阻止した。
私達はレッドチームと合流し、近くにいた12に話しかけた。
「遅れてごめんなさい、指揮官は?」
「指揮官は後ろにいてファルが護ってる」
「それは安心───」
「指揮官は
私達は指揮官が負傷した事に驚愕するものの...オーシャンが即座に12から2人の所在を訊き、そこへ向かった。
私達が合流した事により、第52リプレイス部隊としてラプチャーと戦う。
数は多い...こんな事、最終試験での"エクシード級"と"マスター級"が現れた戦闘に比べればまだ優しい方だと思ったが...それでも物量には負けそうだった。
銃声や爆発、そして地面に様々な薬莢や熱くなった銃身が落ちる。
襲ってくるラプチャー達に対して、残弾の数など考える暇なく引き金を引き続けた。
───戦闘からどれぐらい経ったのだろうか...私達は遮蔽物越しにいる残骸達を見た。
「...私達、勝ったんだよね?」
「どうなのかしら...」
先程の戦闘で疲労を感じながらも残弾を確認しようとする。
私の
「早くそこから離れてください───!!」
08が建物の上から私達に大声で警告したが...私達が気付いた頃には遅かった。
───爆風と共に身体が浮かび上がり、地面に落ちる頃には激しく揺らされるように転がった。
立ち上がり、自分の状態を手探りで確認する。
思考転換のリスクはあるものの、一瞬だけなら視界に映しても問題無い...それにイーグルやファル、08に至っては私や他のメンバーのような頭の装備品では無いから彼女達は日々そんなリスクと戦っているようなものだ。
損傷率───12.8%...。
意外にも軽傷で済んでいて、内部で何か壊れた訳でも無さそうだった。
私は視界から計測数値を消し、周りが無事か確認しようとする。
そんな時、悲鳴が聴こえてきた。
悲鳴が聴こえた方向に向かう。
そこにはフラワーやイーグルがいて、彼女達は損傷していた。
フラワーは左脚を破損し、私達の身体を構成する素材..."ガッデシアム"の肌がプラスチックのように割れている。
一方でイーグルは右腕が"綺麗に"無くなっていた。
「ううっ...!」
「大丈夫よ、イーグル...落ち着いて...」
悲鳴を上げそうになるイーグルをフラワーは抱きしめる。
ニケとはいえ、気が動転しそうになる事はある。
だからこそ、指揮官の呟いた通り...私達が兵器な理由が分からなかった。
サンと12は"何か"に向かって射撃をしている。
その方向は煙に覆われているが、その中には不思議な影が見えた。
それが何なのか...砂煙が晴れてやっと理解できた。
ラプチャー...それも先程まで戦っていたセルフレス級やサーバント級とは比べ物にならない。
だからといってエクシード級やマスター級でもないのは大きさからして明確だった。
"ロード級"───サーバント級からマスター級よりも上の存在。
更に上の存在である"タイラント級"もいるが、ロード級でも私達を蹂躙するには十分だった。
ガチャガチャと動く四脚。
虫というよりはヤドカリや蠍のような甲殻類を思わせる
そして...暗闇を照らす紫色の稲妻は、そのラプチャーが自身を充電しているように思えた。
そのロード級ラプチャーは12やサンの弾こそ効いていそうだが、それでも倒れる様子も退く様子も無い...まるで豆鉄砲のように耐えていた。
「何なんだコイツは...!」
「とにかく倒す事には変わりないでしょうが...!」
サンと12がそう言いながら射撃を続けるものの...ラプチャーの左右に付いていた丸い窪みから何かが発射される。
それはビームのようで...それが命中する事は無かったが、命中した建物の二次災害にサンと12が巻き込まれた。
建物の屋上で狙撃していた08だが、そのロード級が放ったレーザーにより建物を倒壊させられてしまう。
落ちてしまった彼女は悶えていて、オウルに引っ張られた。
12とサンは瓦礫に埋もれていて、死んでしまったのか動かず倒れている。
フラワーは照準の定まっていないような震える手でイーグルの拳銃をロード級に構え、発砲していた。
無駄だと解っている...それでも私達は死を受け入れるよりも生きる為に抗おうとした。
だが...私達の残弾は尽きている。
フラワーが使った拳銃はラプチャーには効かないのは当然、すぐに弾切れを起こす。
私は弾の無いMISG-09からイーグルの
もう私達に勝ち目など無い...目の前の
「23、逃げて!!」
フラワーが声を荒げ、私は現実を再認識する。
そう...私は近付き過ぎた。
このロード級の何処に目があるか分からないが、
私が死を覚悟し、ラプチャーからレーザーが放たれた───。
───体の感覚はまだある。
瞼を開くと、そこには見覚えのある幼い後ろ姿があった。
「───ファル...?」
「はぁ、はぁ...遅れてすみません」
「指揮官とオーシャンは...?」
「2人は建物の中に隠れています」
「なら、どうしてファルは...。
ファル、貴女は指揮官とオーシャンを連れて逃げなさい。
私だけでも囮になって───」
「ここで皆さんを置いて、私やオーシャンに
ファルが怒りを露わにする。
だが、私からするとファル達だけでも逃げて欲しかった。
「そんな事言っても私
嗚呼...自分に苛立ちを感じる。
自分だけの気持ちなのに、他の人の気持ちも同じかのように代弁者面をしている自分の口下手さに腹が立った。
ラプチャーは攻撃を止めない...私は自分のしている事が屑そのものだと思いながら、盾を構えているファルを遮蔽物として彼女の
彼女のポーチから弾丸を取りながら撃ち続けて何とか左右の武装ユニットを破壊した。
だが喜ぶのも束の間...もう1体のラプチャーが現れる。
同じ
クラッチファルコンの弾はもう無い...私が絶望していると、破損しかけたバイザーの耳当てからノイズ混じりの声が聴こえる。
それは、聞き覚えのある
『───下がれ、"三流"共』
交信相手からそう言われた直後...ロード級の1体に弾が命中して体のバランスを崩す。
何者かの加勢により安堵しつつも、その油断が命取りとなった。
私達を押しつぶそうとしているのか、もう1体のロード級が私とファルの方へ飛び跳ねる。
逃げられない...何とか後退しないといけなかったのだが、間に合わない。
そんな中、何処からか放たれたロケット弾がそのラプチャーに命中し...爆発は私達の目と鼻の先で起こった。
明るく光る爆炎、それに激しい爆風。
私達は吹き飛ばされ、私はファルの
彼女のヘルメット越しの後頭部が私の額を強打し...地面に受け身を取れなかった衝撃を後頭部に喰らい、意識を失った───。
23編は終了です。