勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
───私は誰なのだろうか。
私には両親が居て、弟がいた。
『───本日付けで入社致しました、"
まだ右も左も分かりませんが、業務をしっかり覚えて戦力になれるよう"ベストを尽くします"ので宜しくお願いします!』
空回りしているような声で、頭を下げて...。
何処かの会社で、私は初々しい新入社員のように挨拶していた。
『───お姉ちゃんはどうしてマッチを買ってくれたの?』
『えーっと...困ってる人を見過ごせないから、かな?』
理由を訊かれ、柄にも無い事を言う私。
私の言葉を聞いた少女は、可笑しかったように笑っていた。
『先輩、愚痴に付き合ってくれるのは嬉しいですが飲み過ぎですよ...』
『ごめんごめん"
...ひっく』
今の私とは違う型の量産型ニケに介抱されながら、どこかの飲食店から帰路につく光景。
私に肩を貸している子は私を
『フミさん、また貴女に会えて本当に良かった。
私も
私に微笑みを見せた後、扉を閉めて大量のラプチャーに立ち向かうニケの姿。
彼女の炎に、何処か
あの時見た夢とは違い、何処か
───私は一体、何を見せられているのだろうか?
私は何を忘れてしまったのだろうか?
そして私は...誰なのだろうか───?
───私が目覚めると、そこはベッドの上。
周りの景色を見て、ここがリペアセンターだと認識した。
少し身体を起こす。
向かい側では死んでいるかのように眠る08の姿が見える。
彼女以外にもイーグルやフラワー、サンも同室で眠っていて...地上での戦闘が嘘のように汚れや傷、それに欠損が無かった。
残りのメンバーがどうなったかは分からない。
別室にいるかもしれないし、もう退院したのかもしれないと思う事にして...私は再び眠りについた。
それから次の日となり───私達はリペアセンターから退院した。
ニケだからか、身体への損傷が酷くても退院するまでにそれ程の時間は要さない。
...その代わり、人間では無い事を再認識しそうにもなった。
宿舎に帰ると、先に退院していた他の仲間が嬉しそうに出迎えてくれた。
一緒に退院したフラワーが冗談で「久しぶり」と指揮官達に言う。
私はまだ覚束無い感覚だが、イーグルの言う通り慣らすしかないようだ。
ニュースでは、病院跡を根城にしてニケばかりを襲っていた殺人鬼が射殺されたという報道がされる。
どうやらその殺人鬼は私達
オウルの話だと射殺したのはA.C.P.U.では無く、12であると聞く。
だが、重要なのはそこじゃない...私はオーシャンが何故その病院に行ったのかだった。
「オーシャンはどうしてその病院に?」
「えっと...私、人間だった頃はそこに入院しててね。
私のお父さんとお母さんもそこに居たのだけど...」
オーシャンは言葉を詰まらせる。
そして詰まりが取れたのか、再び口を開いた。
「...私の記憶、何処か
「食い違う...?」
オーシャンは自分の経緯を話す。
人間時代の記憶は薄っすらと有り、ニケになったのは最近の話だと
「私...変な話だけど、事件の遭った病院で
「頭痛...? それに古いカレンダーって...?」
オーシャンはそのカレンダーの写真を見せる。
それは数十年前...それも
オーシャンはこのカレンダーを見た時に頭痛が起きたと話す。
私は偶然の頭痛を疑ったものの、彼女はその時に見た
「私..."プリティー"がテレビに映っているのを観てたの」
「プリティーって...初の芸能人ニケかしら?」
「うん...それ以前の記憶ではスポットライトを観ていた筈なのに、不思議よね」
私はオーシャンの話を聞き、自分の中の記憶がもし食い違っていたらと考える。
私が病院で見た夢は
オーシャンと別れ、私は自分の部屋を調べる。
私の部屋は何処か殺風景さを感じるような光景で、机の引き出しを開けても日用品や今着ているのと同じ衣類ばかり...めぼしいものは特に無かった。
私は最後の考えとして、指揮官の部屋に入ろうか考えた。
あの人について私はまだ知らない事だらけ...前に見せてもらった経歴書が殆ど黒塗りなのも不自然で、何処かに本当の経歴書を隠しているのではと指揮官の部屋に向かった。
指揮官室の前に行き、扉を開けようとする。
ドアノブに触れようとした、その時───。
「23、どうしたのですか?」
───私が咄嗟に声の方向を見ると...そこには08がいて、私は慌てて手を引っ込めた。
「あっ、いえ!
ちょっと指揮官に用があって...」
「指揮官なら不在ですよ」
「そう、なのね...」
08は普段通りの様子で私の横を通り過ぎる。
その間に私はドアノブに触れてみるが、案の定というべきか鍵が掛かっていた。
指揮官も留守...諦めた私は、僅かな記憶を頼りに
その場所の名はアウターリム───。
同じアークではあるものの、治外法権とも言うべき場所。
だが、私は真実を知りたい。
身体検査を終え、
アウターリムに着くと...目の前に見えるのは廃墟のような建造物。
ほぼスラムの地区で、異臭がする。
同じアークとは思えないようなこの場所に対し、私は
その嫌悪感が、家族を失った事を思い出させるから...という訳では無く、純粋に不潔感が嫌だった。
私は路地裏に行く。
記憶に近いような路地裏...だが、まるで見覚えが無い。
路地裏というのは一つじゃない...それに真実を確信したいからと全て見るのは骨の折れる作業だと思った私は諦めてアウターリムを後にした。
「...Vee...ee───」
───声?
私が後ろを振り返っても誰も居ない。
アウターリムは私にとって怖く...走って立ち去った。
急ぎ足で宿舎に戻ると指揮官やフラワーが急いで装備を整えていて、話を聞くとファルがテロリストに占拠されたAZXに
どうやらAZXに向かう為にサンのバイクを使ったようで、同じSUVに乗ったサンはファルの心配をしつつもバイクの心配もしていた。
だが、現場に着くとAZXは止まっていて...周りは市民と取材班、そしてA.C.P.U.の人集りが出来ていた。
AZXの中から関係者らしき女性と、ボロボロな厚着を着た男性...それにソルジャーF.A.だった。
そのソルジャーF.A.が部隊の仲間であるファルなのが判ったのは、フラワーが手を振った事に反応したからだが、
フラワーに抱き付いたファルは部隊当初の無愛想で事務的な様子からは一転し...とても
確かに彼女も感情を出す事はあるものの、それでも年相応の
私達がファルを労いながらも次の日...記憶を保持していたおかげで兄と再会出来た彼女へ
「───
「あっ、ごめんなさい!
変な意味では無いのよ...ただ、私達ニケでも記憶が残っていたり消えていたりするのってあるのかしらって...」
...上手く説明できない。
そんな私に反して、ファルは少し考えた後に口を開いた。
「...確かに私もこの記憶を疑いました、夢というのは願望だったりもするので。
でもお墓の名前を見て、そして兄と言葉を交わして...確信しました。
もしかして23も何か夢を...?」
私は入院中に見た夢を話し、それ以前の...地上に向かう前に見た夢を話した。
「───なるほど...。
多分、入院中に見た夢が
「どうしてそう思うの...?」
「根拠は無いので説明はし難いのですが...名前まで明確に聞き取れるのは、
ファルは何処か、にこやかな顔でそう言った。
...彼女は初めて会った時と比べて表情が柔らかくなった気がする。
実の兄と出会ったからなのか...。
もし、私の人間時代の記憶が明確になったら...私はどうなってしまうのだろうか?
次に向かったのは───ミシリス本社。
08と12は"ヘッドハンター"と呼ばれる男に勧誘されてニケになったと聞いた。
もし彼に会えば、何か分かるかもしれない。
そう思った私はミシリス本社に向かった。
タクシーを使ってミシリス本社に向かい...そして入る。
私は受付の人に挨拶した後、ヘッドハンターの所在について訊いた。
「ヘッドハンターという方はいますでしょうか...?」
受付の人は、その名前を聞いて不思議そうな顔をしたものの...落ち着いて私の質問に対応した。
「ヘッドハンター...ただいま人事へご確認してみますね」
恐らく受付は困惑しているのだろう...私はその名前を出して恥ずかしさを覚える。
受付は内線で人事部へ確認を取り、そして電話を切った。
「申し訳ございません、ヘッドハンターという方につきまして───」
受付の話を聞く。
その人物は既に定年退職しているそうで本名はおろか、住所まで聞く事は叶わなかった。
帰ろうとしたものの...私はある事を思い付く。
申し訳ないと思いながらも、試しにその名前を訊いてみた。
しかし、その人物は
私は受付の方に感謝し、踵を返して帰っていった。
無駄足に終わった私は、黙って宿舎に帰ろうとする。
だが、そんな帰路の途中...私はある女性が絡まれているのを見かけた。
「やめてください...!」
その若い女性は路地裏で二人組の男に絡まれていた。
...このまま見過ごす訳にもいかない。
私はどうにでもなれと接近してしまった。
「なぁ、嬢ちゃんさぁ...抵抗するのよした方が───てめぇ何だ?」
強面の男が接近する私に気付くと、こちら側を睨み付ける。
ラプチャーでの恐怖と、それ以外を相手する恐怖はまた違う...私は焦りそうになるが、何とか落ち着いて口を開いた。
「やめなさい...その人、嫌がってるじゃないですか...」
敬語と普段の口調が混ざってしまう...しかもこんな強面の人を説得するのも、話す事すら嫌だった。
「やめなさい、だぁ...?
何なんだよお前、あ゛ぁ゛!?」
...私は怒鳴り声に慣れてない。
任務をこなしていても、色んな指揮官やニケと関わっても未だに慣れてない。
正直、A.C.P.U.に連絡すれば良かったと後悔した。
「A.C.P.U.に連絡もしているのですぐここに来ると思います...だから───」
───急に視界が揺らぐ。
痛覚センサーはオフにしているものの、それでも衝撃は脳に響く程で...脳裏に何かが"映った"。
「コイツ、何で倒れない!?」
「ニケだ...こいつニケだぞ!」
───後ろを見ると、私を殴る時に使ったであろう鉄パイプが曲がっていた。
殴りたい。
嬲りたい。
...
その私の人相は血走った眼をしていて、口が裂けるような笑みを浮かべて歯を見せていた。
違う、これは私じゃない。
こんなのは違う。
これは
「───やめ、なさい...」
私は自分の中に湧き出そうなものを抑え、再び制止しようとする。
男達の表情は先程の怖いもの知らずに反して、唖然としていた。
「あ、マジかよ...」
「ひぇっ、化け物ー!」
彼らは何を思ったのか、私を押し除けて逃げていく。
私は襲われていた女性に声を掛けた。
「大丈夫ですか...?」
案の定というべきか...その人も唖然としながら自分の手で自身の口を覆うように塞いでいる。
...恐らく、この人から見ても私は"化け物"なのだろう。
ニケなんて、
「ごめんなさい...」
謝って立ち去ろうとした時、その女性は私を引き留めた。
「待って下さい!
その...助けて頂き、ありがとうございます!」
その人は私に深々と頭を下げて感謝したが、私は深々と頭を下げられるような事はしていない...寧ろこれが普通のラインなのだろうと思った。
「だ、大丈夫ですよ!
私はニケですし、当然の事をしたまでですから...」
「いえ、それでもです。
───ニケは兵器では無い...。
その言葉を聞いて、私はある時に部屋の中から聞こえた指揮官の言葉を思い出した。
『───もう止めてくれ、どうして
...もし、あの言葉が私の聞き違いで無ければ。
「───あの、大丈夫でしょうか...?」
「───あっ。
えっと、その...」
私は女性の言葉で我に返る。
私が彼女の発した言葉の意味を訊くと、予想外の答えが返ってきた。
「...私の
祖父の言葉を借りるなら
その祖父がヘッドハンターである確証は無い。
私は彼女の祖父が気になり、申し訳なさそうに訊いた。
「あの、もしかしてですが...お祖父様は"ヘッドハンター"と呼ばれていましたか?」
「はい、そうです。
ミシリスのヘッドハンター...
...死神や悪魔の扱い。
08や12は悪い印象を抱いてなさそうだが、そんな感じなのだろうか?
「あの...もし宜しければですが、お祖父様について詳しく教えて頂けないでしょうか?」
女性は少し悩むように目を逸らすが、決心したように承諾した。
「ええ、大丈夫です。
ただ...出来ればこの事は
私は秘密にする事に対してきょとんとしながらも、頷いた。
「恩人なのに申し訳ございません。
私の名前は"リジー・ローウェル"と言います」
「あっ、私は23と言います!」
「23...それで呼んでも大丈夫?」
「えっと..."ドライ"でも良いですよ!」
ドライ───これは私が
この名前も怪しかったが、23以外で名乗るといえばこれだけだった。
私はリジーさんと互いに名乗った後、彼女に付いて行き彼女の家にお邪魔した。
リジーさんはヘッドハンターと呼ばれていたお祖父様の孫娘で、今は彼と一緒に暮らしているようだ。
...そもそも、彼女の両親はお祖父様の事について良く思っていないようで彼女は一人暮らしをしながら介護をしているそうだ。
「はいっ、お茶とお菓子どうぞ」
「ふふっ、ありがとうございます」
私は椅子に座り、女性が淹れてくれたお茶とフィナンシェをご馳走になる。
好きな飲み物に我儘は言えないが、私は紅茶が飲めない...
リジーさんがこうして家にお客さんを入れるのは久しぶりであるそうで...私の事を家に入れるのを悩んだのは、お祖父様に恨みを持つ人がいるそうだった。
私はヘッドハンターについての話を聞いた。
彼等の基本業務は『エリシオンやテトラから
"第一次地上奪還戦"前から存在していたようで、今から60年ぐらい前の..."第二次地上奪還戦"でもニケの補充をする為に動いていたようだった。
当然、彼等に対する風当たりは強く...ヘッドハンターによっては手段を選ばないやり方もあったそう。
しかも...ニケフォビアはおろかニケになった子の身内から狙われて命を落としたり、精神的に追い詰められて病んでしまう程の職だった。
悪魔、そして死神───。
リジーさんのお祖父様は、その責任を一身に請け負おうとしたそうだった。
悪魔は1人で良いと心に誓いながら...。
...私は彼女からお祖父様の話を聞いて、その境遇を察した。
ミシリスは優秀な技術者が揃っている。
だが、残業も多く職場環境としても悪い噂もあった。
...ただ、本当に私が
私は彼女のお祖父様について話を聞き過ぎてしまい、申し訳なく思ってしまっていた。
「あっ、あの、ごめんなさい。
聞き過ぎてしまいましたね...」
「いえいえ!
あまりこういう話をする事は無いですし、いい機会でした」
彼女はにこやかに微笑むが、何処か陰りがあった。
「...私、思うんです。
もしかして祖父が
「わ、私が...?」
「私が男の人達に絡まれる前、ミシリス本社にドライさんが入っていくのを見ました。
有り得ないとは思いましたが...祖父に会いたがっていたと聞いて確信に変わっていきました」
...リジーさんのお祖父様が最期に会いたがっていたプロダクト23。
私がその個体かは分からないものの...何か判ればいいと思っていた。
リジーさんはある部屋に案内する。
部屋に入ると、そこには───。
「...私の祖父です」
───ベッドの上で痩せこけてた老人。
見ているこちらも心が痛くなってしまう程に衰弱しきっていて、
"エターナルライフ"は接種していないのだろう...食事も喉に通らなくなっているのがとても痛々しく感じた。
「...ただいま。
今日はおじいちゃんに会いたい人が来てるよ」
リジーさんは優しく語りかける。
彼女のお祖父様がその声で薄らと目を開き...私の方を見て口を動かした。
...声が聞き取れない。
リジーさんは耳を近付けた。
「おじいちゃん、何て...?」
リジーさんは自身のお祖父様に耳を近付け、微かな声を聞き取ろうとする。
そして、聞き終えた後はベッドの隣にある引き出しの中を開け...
「おじいちゃん、起こしちゃってごめんね。
おやすみなさい...」
リジーさんは私を連れて静かに部屋から出て行く。
私も頭を下げて部屋を後にした。
私達はリビングで封筒を開いた。
封筒から出てきたのは、三つ折りにされた紙と物の入ったような小さい封筒。
折られた紙を開くと、そこには信じられない文が記されていた。
拝啓───から始まる手紙。
それは乾様という事から、乾フミの両親に宛てる予定だったのだろうか。
だが、
そして乾フミは"失踪した訳では無く、実験中の事故に巻き込まれ...その後は量産型ニケの
乾フミが飾っていたり置いてあったであろう会社での所持品は全て処分されてしまったようだが、
真実をお伝えする事が出来ず謝る文を最後に───手紙は終わる。
そして...私の中には疑念が生まれた。
事故に巻き込まれた?
失踪した訳ではない?
会社での所持品は全て処分された?
...ミシリスは何故ここまで隠そうとするのか?
一体、私の忘れた記憶には何があったのだろうか...?
私はリジーさんと別れ、帰路につく。
そして宿舎に帰り...自室で社員証を見た。
黒く焼け焦げた社員証...そこには英語ではあるものの『フミ・イヌイ』と記されているのが解る。
だが顔写真までは...焦げているせいで分からなかった。
そして夜となり...夕食時に私はフラワーと指揮官が外出した話を聞く。
理由がどうであれ指揮官の不在はチャンスであった。
夕食を食べ終え、私は指揮官の部屋に入ろうとする。
彼は施錠し忘れていたのか、今回は容易に入る事ができた。
指揮官の部屋は執務室のようになっていて、机と椅子が扉の方に向いている。
そして、ベッドは入って左側にあり...寝室との兼用がし易い
カーテンは閉まっているようで、部屋は無難に整っている。
掃除やベッドメイキングは自分でしているようで、私達には特別な事が無い限り入れてない...信用していないのだろうか?
私は指揮官の机の引き出しを開く。
そこには『睡眠薬』や『精神安定剤』とラベリングされている錠剤があり、
他の引き出しを開けても、めぼしい物は見つからない。
ファイルはあっても私達の経歴書なんて物では無く、士官学校の
"一箇所だけ"鍵の閉まった引き出しがあったものの、ニケの力で無理矢理こじ開ければすぐにバレてしまう...私は諦めて指揮官の部屋を後にした。
私は気持ちを燻らせながらも、眠りについた。
───またあの夢だ。
大量の
この子達の状態もそれぞれ...あの時に見た夢と同じだった。
その山の上で膝を落とし、バイザーを外す。
そして、手に持っていた
───大きな銃声と共に目を覚ます。
この夢は、他の量産型の子でも見る事はあるのだろうか。
───二度目の夢なのに、私は怖かった。
一度目の夢でも汗を出したが、その時に恐怖は無かった。
私も
それとも、あれらは私?
恐怖が私を蝕みそうになる。
私は一体...誰なのだろうか?
地上での任務を終え、無事に帰還できた。
...最近は集中出来なくて困る。
指揮官とフラワーの距離が縮んでいるように感じる。
何処か恋人のような...羨ましいとは思わなかったが、少し
───ふと思う事がある。
指揮官にとって、私はどのような存在なのだろうか。
あの人の事を私はまだ知らない気がする...他のみんなは知っているのだろうか?
それともあの人にとって、私達は替えが利く捨て駒でしか無いのだろうか?
...そんな事を考えてしまうと、胸が苦しくなる。
指揮官に対するこの気持ちが何なのか...私には分からなかった。
そして明後日となり...次に私は飲食店に向かう。
その飲食店は夢に出てきた場所...まるで
そこに向かう理由...それは私を先輩と慕っていた量産型ニケの行方を知る為だ。
でも..."インちゃん"という子が今も生きているとは限らないし、そもそもニケを歓迎するような店があるのかと思った。
目的の店を探していると...紙が貼られた建物を見かける。
そこは
『"堕ちた英雄達の楽園"』
聞いた事のある名前...だが、入り口には一枚の紙が貼られていた。
『
...誰がそんな事をしたかは分からないが大人気ない。
私はその紙を剥がして丸めた後、店の中へと入った。
店内は荒れてはいないものの閑散としていて、カウンターでは"黒人の男"がグラスを拭いていた。
「...いらっしゃい、冷やかしじゃないんなら座りな」
店主らしき男はグラスを拭くと同時に私を一瞥すると、厳つさを感じる声色で言う。
気まずい雰囲気を感じながらも、私は「失礼します」と言ってカウンターに座った。
近くのゴミ箱に先程丸めた紙を捨て、メニューを見る。
正直、何を注文すれば良いのか分からなかったが、オススメを訊くのも店主の顔を見る限りやめた方が良さそうだった。
「えっと、その...オレンジジュースをお願いします」
私はソフトドリンクの欄にあったオレンジジュースを注文する。
子供のように見られるのかもしれないが、今の私は一見さん...お酒はおろかコーラを注文する度胸は無かった。
オレンジジュースを飲みながら店内を眺めていると、掲示板のような壁が目に付く。
そこには写真が貼ってあり、何年前から貼っていたのか少し色褪せていた。
気になった私がその壁に近付いて写真を見ると、それは
「その写真は俺の親父が撮ったやつだ。
...近いうちに撤去しようと思ってるが」
「どうしてですか...?」
「お前も店に入る前に見ただろ?
この店はニケフィリア御用達なんだとよ」
「そんな...」
店主の言う通り、私達ニケへの風当たりは強い。
元が人間だとしても兵士より兵器として扱われるのが普通で、人として見られていないからストレス発散の為のサンドバッグにもなれる。
侵食や思考転換した個体やワイルドメナスが街中で暴れた事件もあってか、私達への風当たりはエスカレートしてしまった。
初の芸能人ニケであるプリティーの死や200機ものニケが脱走を図ったゴッデスフォール事件を経てニケの人権が見直される形にはなったものの...まだ何処かで私達ニケと人間の隔たりはあった。
...私は店主に対して慰めの言葉すら掛けられず、気まずい雰囲気が流れる。
私が何か話題を変えようと考えていると、携帯が通知を知らせるように振動した。
私が携帯の画面を見ると、部隊のグループメッセンジャーに連絡が来ている。
発信元は08...彼女は
08の居る場所から一番近いのは私だろう。
拳銃は持っていないが、弾除けにはなれるかもしれない...そう思った私はすぐに承諾した。
私は店主にクレジットを現金で払って退店する。
そして目的地である公園に着き───08が護衛している少年を見つけた。
私はその子に声を掛けようとしたが...
私はその点滅が、スコープのレンズが出した反射光に思えた。
私は咄嗟に少年を庇おうとする。
───しかし、私は仰向けに倒れてしまった。
バランスを崩してしまったのか...ただ、
力が入らない。
視界に映る
体を動かそうにも力が入らなくて動かない...困った。
目を覆いたい。
ただ、
まるで、
───あれっ。
視界がぼやけてきた。
私は死ぬのかしら?
そんな事を考えれば考える程、怖くなってくる。
ただ、考えないようにしたくてもできない。
いやだ、私は死にたくない。
誰か助けて、お願いだから助けて───。
『先輩、助けて下さい...見捨てないで...』
───私はベッドの上で目を覚ました。
私は死んでない...それに、ここがリペアセンターだというのは一目で判る。
私は自分の身体に触れたが、何処も欠損はしてなかった。
...私が意識を失う前、声が聴こえた。
まるで誰かに助けを求める声。
その声の主を私は知っている気がする...それに私は、その子を
リペアセンターから退院した後、宿舎では私の退院パーティーが行われた。
それからしばらく経った後───ヘレティックを奪取する任務が上官様から与えられた。
そのヘレティックの名は"モダニア"───又の名を"マリアン"。
元々はアークに所属していたニケだったが、何の因果か人類の敵と化した。
地上で大規模に行われたヘレティック確保作戦では様々なニケが彼女を確保しようと従事し、私達の部隊も参加した。
私達は
その作戦からしばらく経ち───マリアンの確保は出来たものの、現在はカウンターズに所属している形となった。
...しかし、バーニンガム副司令官は何を思ったのかマリアンの確保を命令し、カウンターズの拠点である前哨基地に軍隊を送り込んだ。
最初は中央政府管轄だけかに思われたが...情報はエンターヘブン等のアウトローにまで知られ、様々な
...様々な思惑が交錯しても、私にはどうでも良い。
仲間を失いたくない...あの幻聴から強く思った。
前哨基地襲撃から数時間後...私達はエレベーターに乗って地上へ向かう。
オーシャンをはじめとした4人は前哨基地に残り、指揮官を含めた私達6人はカウンターズ追跡の為に地上へと向かった。
エレベーターに乗っている間、私は不安が抑えきれずにいた。
仲間を失う恐怖。
目の前で誰かが命を落とすのは何度も経験した筈なのに...。
...親しくなり過ぎたからなのか、それとも過去に見捨ててしまった子の幻聴からだろうか。
───失いたくない。
もう誰かを失いたくない。
失うのが怖い。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い───。
「ねぇ、大丈夫...?」
「───えっ?
あっ、大丈夫よ」
...私はフラワーに声を掛けられて我に返る。
私はどうしてしまったのか...この不安な気持ちを無理にでも抑えた。
地上に着いた私達はカウンターズ追跡を開始する。
追跡中...カウンターズが寄ったであろう電波塔のような建物に私達は入った。
電波塔に入り突入した一室には...背中合わせに縛られた2人がいて、彼女達は"シージペリラス"という部隊のニケであり"指揮官とも知り合い"であるようだった。
彼女達の拘束を解いた後は、指揮官が少し会話を始める。
...指揮官と彼女達はどういう関係なのだろうか。
私に───私達に何を隠しているのだろうか?
会話が終わりシージペリラスと別れた後、私達はカウンターズ追跡を再開する。
道中、廃墟と化した市街地に入り、ラプチャーと交戦したが...。
「危ないっ!!」
私は12を庇おうとし、爆風と崩れる道路から一緒に転がり落ちていった───。
『───ふぅ...インちゃんも済ませた?』
『はい、済ませました』
『インちゃんはどんな願い事をしたの?』
『先輩なら分かってると思いますが...』
『またインちゃんの口から聞きたいなぁ...って』
『仕方ありませんね...私は
『ふふっ、ありがとうインちゃん』
『もぅ...それなら先輩はなんて願ったんですか?』
『私?
私は...
『...先輩もいつもと変わりませんね』
『だって、私が
『先輩も変わってますね...ただ、私は好きですよ。
あっ、別に変な意味ではありませんから』
『びっくりした...好きなのは嬉しいけどね』
『はぁ...びっくりしないでください...。
ただ、その...ふふ。
ずっと、そのままで居てください───』
『───どうして、私を見捨てたのですか?』
「───さん、───3...」
「───う、うぅ...」
...私は短い夢を見ながら目を覚ます。
ぼやけた視界が焦点を合わせると、目の前には12がいた。
「あっ、12...ここは何処なのかしら?」
「私にも判りません...。
先程の自爆で脆くなった道路が崩れ、私達はその下に転がり落ちたようです」
12の言葉を聞いて、私は自分の置かれている状況を把握する。
私達は指揮官と逸れてしまった...ここから生きて帰れるかは怪しかった。
「そう、なのね...」
「...ここから離れましょう」
12も苛立っているのだろうか、私が相槌を打つと彼女は先に進む。
私も嫌な態度をとってしまったのか、申し訳なく思いながらも謝れなかった。
12と一緒に地下道のような暗い道を進む。
線路が敷いてある事から、ここには地下鉄が走っていたのだろうか?
...ただ、今の私が気にすべき事は違った。
「あの...12」
「何...」
「あっ、ごめんなさい...」
「どうして謝るんすか...」
「あっ、怒ってると思って...」
「別に怒ってる訳じゃありませんが...」
...違う。
私は貴女の機嫌を悪くしたいつもりで言った訳じゃないのに、言葉が出ない。
何処か壁を感じる...私は12が遠くへ離れていくように感じた。
私達は地下道から出て外に出る。
その道中、瓦礫の他にラプチャーの残骸を見かけた。
その残骸は状態こそ新しめだが、
私達が気絶している間に誰かが戦っていたのだろうか...しかし、そんな事を気にしている暇は無かった。
遠くの空では何らかの飛行物体がこちらの方向に向かって来る。
それがサーバント級ラプチャーであるのは確実に判り、私達は近くの建物に入った。
建物の中に入り、日の差す箇所を避けて陰へ同化するように身を潜める。
天井の穴からラプチャーが通り過ぎるのを確認した。
私は見つからなかった事に安堵し、バイザーを外すが...偶然にも
「あ、あぁ...」
...嘘だ。
あれは何処かのソルジャーO.W.の物であって、オウルのものじゃない。
オウルは前哨基地に残った筈。
そんな筈、無いのに───。
「あ、お、オウル...」
悪い方向にしか考えられない...確証なんて無いのに心が叫びそうになる。
───オウルはまだ生きてる。
オウルはまだ生きてる、こんなの嘘だ。
嘘だ、嘘だ、嘘だ、うそだ、うそだ───。
「嫌...いやぁ───っ!」
───パチンと、私の左頬に重い衝撃が来た。
頭が真っ白になる。
私が正面を見ると目の前には12がいて、彼女は呼吸を見出しながら私を睨むように見ていたが...我に返ったように気の抜けた声を出した。
...なんで?
なんで私を叩くの?
私は当然の気持ちを出しただけなのに、どうして───。
『乾さんのお子さんは、鬱病の傾向が見られます』
『私はフミに尽くしてきたのに、どうしてこの子は...』
『いい加減
───何故か涙が出てくる。
考えないようにしたくても止まらず、涙が溢れるのを止められなかった。
しかし、そんな私達をよそに天井からラプチャーが落ちてきた。
───怖い。
私は地面に尻餅をついてしまった。
「いやっ...来ないで...!」
私はどうしてここにいるの?
武器はどこ?
助けてくれる人は誰?
私はまるで、
そんな状況の中、ラプチャーが徐々に距離を詰めるが...それは急に動きを止めた。
ラプチャーのボディは縦半分に別れ、その背後からは笠帽子を被った女性が姿を現した。
「...嬢ちゃん達、大丈夫かい?」
彼女もニケだろうか。
その女性を見た瞬間、視界が揺らぐ。
安心してしまったのだろうか?
全身から気が抜け、目の前が真っ暗になった───。
『───ミさん、フミさん...』
ゆっくり目を開くと、目の前には焚き火。
そして焚き火を挟むように目の前に居るのは、金髪の大人びた女性。
その人物がニケである事、そして見憶えがあった。
『あっ、すみません眠ろうとしていたのに...』
『いえ、大丈夫よ』と私は優しく言う。
すると、彼女は安心したように笑顔を見せた。
『良かったぁ...。
あっ、ただ寝たくなったらすぐに横になってくださいね。
そのままうたた寝して焚き火に顔を突っ込んだら危ないですから』
『ふふっ、そうね』
私が笑って相槌を打つと、彼女は笑みを返して話題を変えた。
『何だかこうしてフミさんと会えるなんて思わなかったです...』
『でも、私は量産型よ?
私に記憶があったとはいえ...よく見つけられたね』
『ふふっ、
...今では
『凄いものね...アークでも話題に上がってるわ』
『アーク...』
『あっ、ごめんなさい!
そんなつもりで言った訳では無くて...』
『良いんですよ、フミさん。
地上へ残る事に決めたのは私の意思ですから』
『そうなの...?
でも、辛くない...?』
『辛くないと言えば嘘になりますが...。
...こうしてフミさんと会えた、私にはそれが一番ですから』
彼女は笑顔で私に言う。
曇りの無い笑顔...彼女の言葉と笑顔で心が詰まりそうだった。
『どうしましたか!?』
『あっ、いえ...その...ありがとう...』
私は泣いてしまった。
泣いた理由に確信がある訳ではないものの、
「───ぁ...あれ...」
長い夢から覚め、目の前には12がいた。
「...目覚めましたか?」
「ここ、は...?」
ゆっくり身体を起こし、周りを見渡す。
何処かの納屋だと言えば良いのか...下には藁で編んだ様な布団があり、毛布は何処かで簡単に調達したような布切れだった。
「お目覚めかい?」
そこには笠帽子の女性もいて、彼女は私に向かって微笑む。
その笑顔が綺麗で...私は思わず顔を逸らした。
「おや、どうしたのかい?」
「えっと、その...」
直視出来ない...恥ずかしさを隠そうと、私は近くにあったバイザーを付ける。
あの時、12が拾ってくれたのだろう...私は自分の大人気なさを感じた。
「ふふ、君の相棒は人見知りなのかい?」
その女性が12に言い、言われた彼女は呆れたように溜め息を漏らした。
12にはこんな不甲斐ないのが相棒とされて嫌だったのだろう...私は気まずかった。
気まずさを紛らわす為に私は失神してから目覚めるまでの経緯を聞く。
笠帽子の女性の名は紅蓮..."ピルグリム"と呼ばれる、地上を彷徨うニケの一体であった。
彼女は偶然にもラプチャーに襲われている私達を発見し助けてくれたが...私は意識を失ってしまったようだ。
まるで
「───考え事かい?」
私が考え事をしていると、紅蓮さんが顔を覗かせる。
───彼女の顔、それに身体が近い。
私は動揺を隠せず変な声を出してしまった。
「はは...面白い嬢ちゃんだ」
「はぁ...」
私の反応で紅蓮さんは面白がっているものの、12は片手で頭を抑えながら呆れていた。
その後、私達は自分達の名前を名乗るが、紅蓮さんは嬢ちゃん呼びをやめなかった。
...彼女にとって、私は嬢ちゃんに見えるのだろうか?
そもそも、紅蓮さんも大人びているだけで、実はお嬢ちゃんみたいなものではないかと言いそうになった。
今いる場所は紅蓮さんの拠点の一つ。
ように畑を耕している所は多いそうで、極小規模ではあるものの、美味しそうな野菜や果実が実っていた。
そして紅蓮さんは私と12を無事に送り届ける事を優先してくれて...私達の疲労を考慮してか、ここで一日休んでも良いと言われた。
12は乗り気で無かったが、私は休みたい。
少しだけでも頭の中を整理したかった。
紅蓮さんは私にリンゴを渡してくれたり、畑で育てているものを教えてくれた。
何だか私も紅蓮さんとの会話が嬉しくて楽しくて、
そして次の日───私と12は紅蓮さんの同伴付きでアークに帰る。
前夜は酔っ払っていたのか紅蓮さんの膝を枕のようにして眠っていた。
他の仲間...特にオウルがこの事を知ったら馬鹿にしそうで、墓場まで持っていく秘密にしようと思った。
アークに戻る道中はラプチャーとの遭遇も無く、円柱型の建造物を視界に入れた。
その建造物はアークに降り、地上へ上がれる"エレベーター"。
エレベーターが遠くに見えてきた時、私は紅蓮さんに感謝する。
彼女は、「また会うかも」と言ったが、私は自信の無さでもあるような返し方をしてしまった。
「...また無事に会えると良いですけどね」
12からは「笑えない」と言われて、気付いた私は紅蓮さんに謝る。
彼女は微笑みながら許してくれたが、自分のネガティブさにはうんざりした。
そしてエレベーターまではもう少し...限られた歩数の中、私は改めて感謝の言葉を伝える。
12も簡単にではあるものの感謝の言葉を告げた。
「...どうも」
「ふふ、相変わらず無愛想だね。
2人共達者で...。
───!?」
───紅蓮さんの言葉を遮る激しい爆発音が鳴り響く。
その音と同時に身体が一瞬だけ浮遊し、視界が真っ暗になった。
───機能しなくなったバイザーを外し、周りの状況を確認する。
だが、ある光景を見て絶句した。
「12っ...片脚が...」
...12の右脚は千切れたように無くなっている。
こんな事は何度も見かけた筈なのに、
嫌だ。
ここで死にたくない。
なのに、なのに動けない。
12や紅蓮さんを、助けなきゃ。
そうしないと、そうしないと私は...また───。
「くっ...!
嬢ちゃん達、しっかり私に掴まっててくれ───!」
───私は紅蓮さんに背負われ、12は彼女に抱きかかえられる。
同じニケだとしても、2体ものニケを同時に運ぶのは難しいとされている。
...だが、彼女はやり遂げた。
───紅蓮さんは華奢な体型でありながらも、私達という重りを物ともせずエレベーターまで駆ける。
ブーストパックを使っているように速く、ラプチャーの間を縫う様に走り抜けると───エレベーターの前に着いては私達を下ろした。
「手荒な真似をしてすまぬ。
エレベーターが開いたらすぐに中に入って
くれ」
「紅蓮さんは...!?」
紅蓮さんが地上を生き抜いたピルグリムの1人とはいえ、この量のラプチャーを相手にするのは難しいと思った。
それに...私はこの場面を
「一緒に行きましょう、アークに...」
嫌だ。
もう目の前で親しくなった人が死ぬのを見たくない。
私は紅蓮さんにアークへ一緒に行くよう話したが...その返答に唖然とした。
「...私は、
「えっ...?」
...私はその言葉の理由を訊きたかったが、ラプチャーとの交戦を始める紅蓮さんの耳には届かなかった。
ラプチャーへと肉薄する紅蓮さんは攻撃を軽やかに避けながら刀で斬り付けていく。
地上にいるラプチャーの脚を斬って射線をずらしては同士討ちさせ、浮遊している飛行型をも巻き添えにした。
私達のように銃を持ってなくとも刀一本でラプチャーを翻弄する
...しかし、別れの時はすでに迫っている。
この光景を最後まで見届ける事は出来なかった。
エレベーターの扉が開き、私は12を引き摺りながらも中に入る。
紅蓮さんは外で戦っている───私の目には
炎を使い、次々とラプチャーを爆発させていくニケ。
そのニケが横顔を見せるとマスクは割れていて、そこからは彼女が素顔の一部を覗かせていた。
その時も、私は何も出来なかった。
それどころか、私はあの子を見殺しにしてしまった───それを今、同じ事を繰り返そうとしている。
それなのに、無力だ。
今の私には、12を引き摺ってアークに戻る事しか出来ない。
でも、ここで扉を閉じてしまったら───私は
そんなの嫌だ。
もう見たくない。
でも今のわたしでは足手まといでしかない。
どうすれば?
どうすればいいの───?
「───"23"っ!」
私は自分の名前を叫ばれて我に返る。
私を呼んだのは紅蓮さん...彼女は呼吸を乱しながらも戦闘を続け、近くのラプチャーを斬った後に
「私の厚意を無駄にするでない...。
君が何を思って扉を閉めないか分からないが...私がした事を無駄にしないでくれ」
「で、でも紅蓮さんが...」
「大丈夫だとも...私は
この言葉が信じられないのなら、私は悲しい」
私は紅蓮さんの悲しそうな
だが、自分が抱きしめている12の事を考えると...ここで悩んでいる時間など無かった。
「...紅蓮さん、また会いましょう。
それまでは、必ず...」
「ふ...また会えるとも。
またいつか───」
紅蓮さんは私に優しく微笑み、正面にいるラプチャー達と再び対峙した。
10体もの自爆型が紅蓮さん目掛けて飛び掛かろうとする。
紅蓮さんは刀を納めた後、何処か落ち着いたように息を吐いた。
自爆型が飛び掛かると同時に彼女はある言葉を言う。
それは私というよりは、ラプチャーにだった。
「───とくとご覧あれ。
天地万物を斬るとはこういう事だ───」
───扉が完全に閉まる直前。
抜刀した紅蓮さんと、連鎖するように彼女の前で爆発するラプチャー達を最後に扉が完全に閉まった。
...私は無力だ。
結局、こうしてまた1人...生死がどうであれ目の前から消えた。
涙が流れる。
私は12を抱きしめて、エレベーターがアークに降りるのを待った───。
『───あなたは、また見捨てたよね』
違う。
『また、見捨てたよね』
違う違う。
『結局あなたは、見捨てる事しか出来ない』
違う違う違う。
『あなたには何も無い、それにみんなから馬鹿にされてる』
違う違う違う違う。
『あなたはそうやって否定しかできないんだ?
みんなあなたを
違う違う違う違う違う。
『どうせ、
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう───。
「───さん...23落ち着いて...!」
...私は激しい動悸と叫び声を上げていた。
白く朧げな視界で、私に声を掛ける姿が鮮明に見えてくる。
その姿はフラワーで、私を落ち着かせようとしていた。
「大丈夫...落ち着いて...」
私はフラワーの姿を見るや否や、気の抜けた声を出してしまい、視界が再びぼやけた。
「ぁ...あぁ───」
─── 泣きじゃくる子供のように、私は声を出して泣いた。
胸が張り裂けそうな思いだった。
もうどうすれば良いか分からない。
私が誰なのか、教えて欲しかった───。
「───申し訳ございません...23っ...」
───それからどれぐらい経ったのだろうか。
私が目蓋を開くと、窓から見える景色は暗かった。
どれぐらい眠っていたのだろう...泣いてからの記憶が無い。
だが、フラワーとは違う
その人は
それから数日後、私は12と共に退院した。
ただ...私は自分の中でも何処か変わったように感じた。
宿舎で過ごす時は以前のように何かをする気力が無く、任務中は集中が出来なかった。
オーシャンは心配してくれたが、指揮官は私の事を
あの人は最近フラワーと仲が良いそうだから、私の事はどうでもいいのだろう。
それとも...
私がニケだから?
私がニケだから、
私は自分の記憶を求め、アーク中を彷徨う。
こうして歩いていれば記憶は思い出されるだろう...そんな根拠の無い事をしていた。
路地裏に入る。
ガラの悪い人に絡まれそうだが、私は
やさぐれながらも私は路地裏を歩く。
だが、私に絡んできたのはそこら辺の人間では無かった。
───首を掴まれ、自分の身体が壁に叩き付けられる...。
痛覚こそ切っていたものの、あまりの反動に対して、口から飛沫が出てきた。
「VEEEEEeeeee...!!」
目の前で仮面越しに叫ぶ謎の人物。
身長は私よりも高く、まるでアウターリムにでもいるかのような風貌だった。
「うっ...!」
私の首を片手で絞めながら持ち上げる力は、人間とは思えない。
だが同じニケとも思えない...その異様な姿は何処か
フード付きの外套に、そのフードから覗かせる金属製のフェイスマスクは、彫刻のように無機質...無表情なのも相まって不気味だった。
そして服の上に装着しているタクティカルベストに銃剣など...私は目の前の脅威に対し狼狽えるしかなかった。
「...なぁ"ルチアちゃん"、そこん嬢ちゃん襲ってもお望みの物はないで?」
仮面の人物に語るような女性の声。
私の目の前に居るのがルチア
「VEEEEEeeeee...!」
「ヴィーヴィーヴィーヴィー言っても分からんて」
仮面の人物の隣からひょこっと顔を出す長身の女性。
片目が髪で隠れる程に長く、そしてロングコート...その女性は私を見えているもう片方の目でまじまじと見て、仮面の人物にいった。
「ほな、コイツは
あんさんなぁ...何人も
それを聞いてか、仮面の人物はどこか思い当たる節があるように私を解放し...何処かへと歩き去った。
...首絞めから解かれた私は地面に尻餅をつき、咳き込む。
恐怖で視界が潤う所だったが、何とか耐える事ができた。
「...あんさん大丈夫かいな?
うちのルチアちゃんに
片目の隠れた女性は私を心配するような言葉をしたものの、何処か笑みを浮かべている。
その笑顔が安心できるものでは無いのが容易に判った。
「あっ、私っ、失礼します。
先ほどは助けて頂き───」
「ちょっと待ちーや」
私が礼をしてその場から立ち去ろうとした
怖い...握力が強まる事から、彼女が同じニケであると確信した。
「は、離して...!」
「あんさんなぁ...やっと"グレイヴォルフ"ちゃんを見つけ出したというのに、今更逃がせるかいな」
───グレイヴォルフ?
私はその名前に何処か
「何...その名前...!?」
「まぁ、憶えとらんやろなぁ...。
"思考転換"しながらも場所も名前も記憶も
そのニケは口角を上げ、不気味に笑みを浮かべる。
その顔を見た瞬間、視界にノイズが走った───。
───穴だらけの部屋。
周りの物は散乱していて、私はその中央にいる。
手は青く腫れ、殴っていたのか拳には血が付いていた。
そしてノイズが走り───目の前には量産型ニケ...ケラケラと
嗤うな。
私を馬鹿にするな。
死ね、死ね、死ね───!
───現実に引き戻され、私は片目隠れのニケへ馬乗りになっていた。
手袋を付けた拳を見ると、真っ赤な血...。
目の前に倒れるニケが血を吐いている事から、これは当然...彼女の液体触媒でだった。
「げほっ...ひゅーっ、ひゅーっ...。
───ははっ、あははっ...おもろいのぅ...。
流石は"ヴィーちゃん"や..."
そのニケは顔を酷く殴られたにも関わらず不気味な笑みを見せながらそう言った。
怖い。
私は何も無かったのように走り出した。
───ヴィー?
もしかして、私の指揮官はそう呼ばれていたの?
それに、私は誰なの?
ただのプロダクト23?
それともグレイヴォルフ?
記憶がおかしくなる...あのニケが言っていた事で、私は指揮官への確信が生まれた。
"指揮官は何かを隠している"。
私がグレイヴォルフというコードネームなのを
私は雨の中を走り抜け、宿舎へと戻った。
雨の中から帰り、指揮官の部屋に向かう。
指揮官は寝てるかもしれない...だが、叩き起こしてでも聞きたかった。
指揮官の部屋に入り、扉を閉める。
部屋では窓から外を見ていた指揮官がいた。
「...何のようだ?」
部屋は暗く、雨の激しさは変わらない。
指揮官はこちらを振り向くが、その
「...指揮官、貴方に話がある」
「話だと?
23、お前は一体この時間まで何処に行って───」
「グレイヴォルフ、
...指揮官は驚きを示す。
だが、驚きを示したのは後者だった。
「ヴィー...?
23、お前どこでその名前を...」
「いい加減とぼけるのはやめて!
指揮官、私に一体何を隠しているのですか...それとも私以外にもですか?」
指揮官は不思議そうな表情をするものの、その表情は一瞬の驚きと共に警戒に変わった。
「23、それ以上近付くな」
「どうして?」
「その手...お前何をした?」
私の手から零れ落ちる液体触媒。
これは私であって私じゃない...そう言ったものの、指揮官は聞く耳を持ってくれなかった。
「嘘をつくな!」
───なんで?
どうして、私を
私は指揮官に憎しみが浮かんだ。
「お前の様子がおかしいのは俺も"他の
指揮官はおろか仲間も...?
みんなして私を
「どうして私を信じてくれないの!?」
指揮官はその言葉を聞いて、少し申し訳なさそうな表情となるが...我に返ったように私へ向き直した。
「みんなして私を爪弾きにしたいんですか?
理由は何ですか? 私が役立たずだから?
それとも、人間だった頃を思い出されたくないからですか?」
「そこまでは言ってない。
だが...それで
───バレていた。
恐らく、08が
そうだ、やっぱり08も
「ええ...
「訳が分からない...何の話だ?」
「どうして嘘をつくんです?
本当は私達の経歴も、人間時代の事も知ってるんですよね?」
「...
「じゃああの黒塗りの経歴書は何です?
あんなふざけた物を渡す程、上官様は
「もういい」
指揮官は我慢の限界だったのか私に言い放つ。
その顔は何処か諦めにも似た表情で、私は謝るべきだったのに抑え切れなかった。
「もういいって...何です?」
「そのままの意味だが。
もうお前にどんな言葉を掛けていいのかも分からないし、こうやって当たり気味に言われても返答に困る。
それに...今のお前は
───普通って何?
私はおかしくなったの?
それとも元からおかしいの?
「あまり言いたくないが...リペアセンターかミシリスに連れて行く」
「何故ですか?」
「今のお前では任務に支障をきたしそうだからだ。
───嘘だ。
指揮官は私を突き放そうとしている。
私が記憶を取り戻すのが怖いんだ。
それとも...私が
「仲間を脅しの材料に使わないでください」
「材料にしてない、本当の話だ」
「それなら何ですか!?
私が邪魔ならはっきり言えば良いじゃないですか!
都合の悪い事ばかり隠して、貴方は───」
「いい加減にしろ」
───拒絶。
私を拒絶するように言ったのか、言葉は私に重く刺さった。
どうして?
どうして私を拒絶するの?
『指揮官は、あなたの事なんて見てない』
黙れ。
『あなたは見放された、その事実を理解して』
うるさい、黙れ。
『どうせ、あなたの
───私は指揮官に素早く接近し、彼が銃を取る前に投げる。
床に背中から叩き付けられ、指揮官が衝撃から来る痛みに悶えている最中に...私は彼へ馬乗りになり、両手でその首を掴んだ。
指揮官は私の腕を掴んで離そうとするが、ニケの力は人間を超えている...抵抗は無駄だった。
「うっ...ぐぅっ...」
苦悶に満ちた指揮官の首を絞める。
殺してやる...私の事を
指揮官は私の腕から手を離したが、私の注意を逸らす為だろう...そう思って首を絞める事に集中したが、それは間違いだった。
───指揮官はいつの間にか拳銃を持っていて、銃口を私に向ける。
押し倒す時の振動で床に落ちてしまったのだろうが...もうどうでもよかった。
私は死ぬ───こんな事をしてしまったし当然なのだろう。
もう私が何なのか、自分でも分からなかった。
殺して、殺して欲しい。
貴方の引き金で私は解放されたい。
どうせ私には代わりはいるから。
貴方とは違う、所詮は
───だが、指揮官は愕然とした表情となり、銃を持った手を下げた。
彼は曇った表情を浮かべながら、ふと口を開いた。
「───マリア、
...指揮官の
目の前にいる私の知っている指揮官では無く、何処か疲れた少年。
嘘の記憶でしか無かった
───私は指揮官の首元から手を離し、自分のやってしまった事を悔いる。
私は、私は何でこんな事をしてしまったんだろうと...ゆっくり起き上がった指揮官の目は虚無を見ているように感じた。
「ごめんなさい指揮官...ごめんなさい...」
私は涙を溢しながら指揮官に謝る。
こんな事をしても許されないのは解っている...でも彼も何かに対してずっと負い目を感じてきたのだろうと、それを悟った。
「
「そんな事ないわ...」
「いや、いいんだ...。
マリア、身勝手に弄ばれたニケ達、それに自分の指揮下に入っていたニケを救えず見殺しにしてきた。
自分には正当性があると思って手を汚していたが...そんなのは偽りで、
指揮官は銃を持っていた手を上げると、自分の
まるで亡霊に囚われているような...取り憑かれているような危うさを感じた。
「だめっ───!」
私は銃を持っていた手を振り払い、身動きが取れないように強く抱き締めた。
「邪魔をしないでくれ...
「ごめんなさい、我儘なのは解ってる...。
でも死なないで...生きて、生きてちょうだい...。
誰も貴方の代わりにはなれないから...」
───私の視界が潤いで見えなくなる。
私は何をしてしまったのだろうと。
謝罪の言葉を呟き続けながら、私は指揮官を抱き締め続けた。
外では激しい雨が私達の喧騒を掻き消すように降り続いている。
そして、私の過ちを隠すかのように───。
───それから朝になり...私は目を覚ました。
目の前には指揮官が眠っている。
...顔が近い。
それに手を重ね合っている...私は恥ずかしさと動揺からすぐに立ち上がった。
落ち着いて周りを見る。
外は晴れていて、エターナルスカイに映し出された
そこまで部屋が荒れていないのは幸運だったが...神様は甘くなかった。
「───へぇ...指揮官
朝食となり、みんなで食事中...フラワーが指揮官にそんな事を言う。
勿論、私にも刺さってしまうが...指揮官は動揺していた。
見ていたのだろうか...いつから見ていたか分からないにせよ、その茶化し方をするという事は深夜の出来事については知らなそうだった。
「そ、そんな訳ないだろ...」
「それにしては隠し切れてないですけどね...」
イーグルは意外にもフラワーに乗っかる。
...ただ、声色が重くて低い。
逆にフラワーが引くように動揺していて、本当に冗談なのか怪しかった。
みんなで囲む食卓は何処か安心感があり、指揮官や仲間を疑った自分に愚かさを感じる。
だからこそ...私は指揮官に対して不安だった。
「指揮官...」
「どうした?」
私は、指揮官と2人だけの空間になった時に改めて謝る。
謝って済む事では無いのは理解しているが、私は怖かった。
「あの...あの時はごめんなさい...。
許して欲しい訳では無いの...ただ、償いがしたくて...」
それを聞いた指揮官は、少し考えた後に私へ答えた。
「───
指揮官の答えに重みを感じる。
指揮官は私の愚行を許さない...当然だろうと。
「本当に、ごめんなさい...」
「...でも大丈夫、
───指揮官の声が優しくなり、私は思わず顔を上げた。
「えっ───?」
「そうやって生きるのが辛いのは、
23、お前は1人じゃないし
俺は人間だが...23や部隊の仲間達を守れるよう"ベストを尽くす"よ」
───その言葉を聞いて、私は涙を流してしまう。
でもこの涙は悲しみではなく、嬉しさや安心感のような涙...私は感情を抑え切れなないまま感謝の言葉を口にした。
「あのっ...ありがとう...ございます...」
今でも揉めたり、悩む事はある。
でも初めて会った時のような寄せ集めのようなバラバラさは無くなり、仲間一人ひとりが掛け替えのない存在のようだった。
そして、サンがアンダーアリーナの敗者復活戦で優勝した後日の事───私達は宿舎の作戦室に集まる。
指揮官から重大な話があるそうだが...私達はピンと来てなかった。
「───みんなに
それに、
指揮官が部屋の出入り口に目を向けると...そこからは"杖を付いた老齢の男性"と、シージペリラスの2人が入って来た。
「えっ...?」
杖を付いた老齢の男性は、この部隊が編成される当初にも立ち会った男。
12のように彼から直接スカウトされた仲間もいた。
「改めて紹介する。
俺...私の上官であり、中央戦略情報局"現"局長である"ジョナサン・ウォルターズ"だ。
そしてこの2人はお前達と同じニケの..."シージペリラス"だ」
どういった風の吹き回しかと思ってしまい、私も他の子も様々な反応を示した。
「あの、失礼を承知でお訊きしますが...何故中央政府の高官様と
「そこのプロダクト23、私達は
「私達の本当の任務は、
───シージペリラスの本業を聞き、私達は唖然としてしまう。
確かに装備もラプチャー向きというよりは対人戦向きだが...暗殺と言われたら怖くなった。
「えっ!? 私達何もしてないに!?」
フラワーが驚きを隠せずそう言ったが、指揮官がすぐにフォローへと入った。
「違う違う、そんな話じゃない。
この2人には、
「うんっ?
2人が教官...?」
「私達にアークの
オーシャンが疑問に思う傍で、サンが怪訝な表情で疑問を示す。
サンは嫌そうな
「そこのお前さぁ...もう少し口の利き方には気を付けな?」
「このI-DOLL・サンの言っている事は間違えじゃない」
Dというニケは、Kと呼ばれるニケを宥めるものの...Kは不満そうに舌打ちした。
彼女達にとっても事実なのは解っているのだろうが...人に言われると癪に触るだろう。
指揮官は不機嫌さを感じていそうなKに対して謝った。
「K、私の部下がとんだ失言をしてしまった。
申し訳ない」
「まぁ、お前が言うならこれぐらいは許すけど〜?」
「では、上官」
指揮官は、本題に入って貰うよう上官に発言を仰いだ。
「ああ...まず先に、君達には礼をしたい。
今まで生き続けてくれた事、そして任務の対応...本当にご苦労だった。
今から私の言う事は、君達にとって
責任の重いもの...私はその言葉を聞いて、不安と疑問を同時に感じる。
私達が今後どうなるのか...そこにも繋がるからだ。
「君達には、"特殊別働隊"となってもらう。
ただ、噂に聞くカウンターズとは別の...
...上官様の私兵になれという事なのか。
それこそサンの言う通り、汚れ仕事を請け負う部隊になれという事なのかと。
少なくとも、私はそう思いながらも話を聞いた。
「...恐らく、君達は私が信用できないだろう。
黒塗りの経歴書を指揮官に渡したのは私だからな」
「あの経歴書を...?」
「なんで〜...?」
イーグルやオウルが反応する。
そもそもあんな役に立たないぐらいの黒塗りの書類を渡して何がしたかったのか分からなかったからだ。
...ただ、上官様の話はまだ続いた。
「それに、暗殺任務を役割とするシージペリラスを部下としている事や私直下の部隊というのも。
...だが、ここから先は君達が決めて欲しい。
私の話を聞いて、よく考えてから
上官様は私達を選んだ理由や、どんな理由で部隊設立しようとしたのかについて語る。
私達の選考理由
そして...私達にカウンターズと同じようになって欲しい理由を語った。
「君達には、決断して欲しい。
これからどうなっていくかは分からない...ただ、もしもだ。
もし、
...そう語る上官様は真剣な表情。
ただ、仲間は少し悩んでそうだった。
「そんな...」
「私達にそんな重大なもの、背負えるのかな...」
仲間の小声が聞こえる。
それもその筈、私達に代わりは居ないのかもしれない。
だが所詮は量産型ニケ...メティスやアブソルートのような特化型で無ければ、おとぎ話のように聞くピルグリムでもないからだ。
ただ、私は...私の心は決まっていた。
「───引き受けます」
...私は指揮官への罪悪感もある。
でも、上官様の言葉には一理ある。
だから...私は怖くても挙手した。
他の仲間が来るとは思えない。
誰も来ないだろうと思ったが...。
「...23が引き受けるなら、私も一緒に」
08も私に続いて手を挙げる。
私は隣にいた08と目が合い、彼女は穏やかに微笑んだ。
「...別に行く宛もないし物持って引っ越すのも面倒くさいし」
「私も、私に出来る事があるなら命令に従います」
「私も行きます」
「あぁっ、どうなっても知らないけど私も!」
「私も、居心地良くなっちゃったから付いて行くわ」
「私もよ♪」
...残るはサンで、同調圧力を掛けたい訳ではないものの彼女は悩んでいた。
だが、彼女も考えがまとまったようだ。
「...牙無きものを護る、か。
私のしたかった事だ...今は信じる。
ただ、もし私欲の為に私達を利用したら...その時はお前を倒す」
中央政府の高官に対しての失礼さ。
私は冷や汗が出そうだったが、上官様はサンにそう言われて、安心したように笑みを浮かべた。
「ああ、そうしてほしい。
そういう