勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
ロード級ラプチャーと交戦し、私達は壊滅状態となった。
偶然にも通りかかった部隊により窮地を救われたが...もしその偶然が無かったら今頃は全滅だった。
「そっちのニケの容体は!?」
「脳のバイタルに異常あり!! このままでは...」
「私達でこちらの方達を、"ペッパー"はそちらの方をお願いします」
リペアセンターでは、急患として入ってきた私達に医師や看護師が対応している。
その中では"メアリー"先生やペッパー
私はともかく...右腕を骨折した指揮官は痛みに悶えており、損傷や身体の部位を欠損している仲間達の中には、機能を停止してしまったかの様に動かなかった者もいた。
「まだ諦めないでください...!」
服を破かれたフラワーの胸部にAEDのパッドが貼られ、ペッパー先輩がチャージする。
電気ショックによりフラワーの身体がビクッと動き、"コア"のバイタルは復活した。
私は衛生兵である筈なのに、ベンチに座ってただその光景を見ている事しか出来なかった。
そこから数時間後───私はベッドに寝ている仲間達を見た。
仲間達の損傷や欠損は直してもらったが、意識が戻ったのはオウルとファルコン、そして12ぐらいだった。
私達を救ったのは"アブソルート"部隊───エリシオンが抱える最強の部隊で、彼女達は訓練中に現れたロード級の調査任務を終えて帰還している途中、私達が別のロード級に襲われている所を偶然目撃し、助けてくれたようだ。
部隊のリーダーでもある"ウンファ"教官は不機嫌そうに小言を言ってたが、何故か仲間である"ベスティー"さんについても小言を言っていた。
私は化粧室に入り、両手いっぱいに入った水を顔にかけ、その行為を何度も繰り返す。
───自分の不甲斐無さを洗い流したくて。
溢れ出そうな涙を誤魔化したくて。
濡らした顔をペーパータオルで拭き取っていると誰かが入って来る。
入って来たそのニケは、私が尊敬できる先輩だった。
「あっ...」
「あっ、ここに居たんですね。あなたは───えっ、どうしましたか!?」
化粧室にはペッパー先輩が入って来て、私は誤魔化していた筈の涙を溢れ流した。
「ご、ごめんなさい...わたしはぁ...」
泣きながら私はその場に座り込む。
まるで迷子になった子供がやっと親に会えたように泣きじゃくってしまった。
その後、ペッパー先輩は泣いている私を連れてリペアセンターの屋上へと連れていき、そこで慰めてくれた。
「...すみません、お恥ずかしい所を見せました、
「全然大丈夫ですよ。
...それより、あなたはどうして私を先輩と呼ぶんですか?」
「それは───」
私がペッパーさんを先輩と呼ぶ理由は、かつて私がニケになりたてだった時の事───応急手当の訓練が行われていた。
その中でも私...というより、I-DOLL・オーシャンになった子達は他のニケ達と違って、しっかり医療技術や知識を学ばないといけなかった。
その時に教鞭を振るったのはメアリー先生とその助手として担当していたペッパー先輩だった。
本当は助手だとしても先生と呼ぶべきなのだろうが、ペッパーさんは私達に「先生と呼ばなくていい」と言い、そこで親しみと敬意を込めて
「という事は...あなたは、あの時のオーシャン?」
「はい...そうです」
「あぁ久しぶり!! ここで会えるなんて...」
「私もです。
出来ればこんな形で再会したくはなかったのですが...」
「ですね...仲間の事は申し訳ありません」
申し訳なさそうにするペッパー先輩に対し、私は気にしないよう返すものの、余計な一言を言ってしまった。
「良いんですよ...私のせいなので」
「でも、あれは...!」
「せっかくセラフィムの下で指導を受けたのに、これでは私がニケとなった意味がありません。
あの時、私は仲間達を救えなかった...」
「指揮官は守ったんじゃ...」
「それでは駄目なんです...私の中では...」
「オーシャン...」
再び私の目から涙が出る...今の仲間まで失うのを私は怖がっていた。
それは、私が現部隊に組み込まれる前───衛生兵として最初に所属した部隊では、まともに処置を受けさせてくれなかった。
その時の指揮官はニケに対する不信感が強く...彼自身の怪我はおろか、同じく配属しているニケが損傷しても手当をさせてもらえなかった事が多く...結局その部隊は全滅してしまった。
別の部隊に転属しても、仲間から手当ての仕方について難癖を付けられて嫌がらせを受けた事もある。
その部隊が壊滅しても、私はありもしない罪を着せられ処分されそうになっていた。
そんな時に、私はある部隊への配属を提案される。
その隊こそが、今の第52リプレイス部隊だ。
───それからどれぐらい経ったのか...私は知らない内に自室で寝ていた。
服も着替えられていて、多分仲間の誰かが私をここまで運んでくれたのかもしれない。
この隊は今まで入った所と違って特殊だった。
今まで入った隊と違って物扱いではなく、他のニケ達もこの宿舎をシェアハウスのように使っている。
指揮官も何か裏があるのかと探ってしまう程、今までと比べて優しく感じた。
だからこそ怖かった。
いつか見限られるのでは無いのかと。
医療を学んでいる筈なのに私はあの時誰かを救えず、ただ指揮官と一緒に隠れるしかできなかった。
それから朝になり───食卓に向かうと、そこには指揮官と仲間達がこちらを見る。
しかし、みんなすぐにいつも通りの挨拶をしてくれた。
「おはよう、オーシャン」
指揮官が右腕に包帯を巻いているのを見て、あの時の失敗を思い出した私は怖くなってその場から逃げてしまう。
背後から聞こえる声から逃れるように...。
それからというもの、宿舎から逃げてきた私は、アークにある病院跡に着く。
そこは私がニケになる前にいた病院で、両親も医療従事者として勤めていた。
「お父さん、お母さん───また来たよ」
私は廃墟となった建物に足を踏み入れる。
ここは私にとって家のような場所だった。
ニケになる前、私は
しかもそれは難病で、下手をすればこのまま命を落としかねない程だった。
この時の私にとって嬉しい話なのは、父も母もこの病院で勤めていた事だろう。
だからこの病院の何処にいても家族とはよく会えるし、孤独感も感じなかった。
テレビではアークのアイドルグループ、"スポットライト"の特集が流れていて、私はそれを見るのが好きだった。
将来は両親と同じ様に医療系で人々を救いながら、スポットライトのように皆んなへ笑顔と元気を送り届けるアイドルの様な存在になりたいと、そう思っていた───。
「エンターヘブンは光へ───!!」
それは突然の出来事だった。
病室の中に量産型のニケが現れ、彼女の腹部が青白く光出したと思いきや、爆発した。
事件の詳細を知ったのはニケになってからで、あの自爆テロにより私は両親を失った。
昔の記憶を思い出している内に、自分が寝ていた病室へと辿り着く。
部屋の内装は綺麗に撤去されているが、その時の亀裂はまだ残っていた。
私が感傷に浸っていると、何処からか物音が聞こえる。
この廃病院には私だけではなく誰かいるようだった。
気になった私は部屋から出て、物音の聞こえる方向へ向かう。
外から明るい光が差しているが、それでも不気味さを感じていた。
音源に近付くにつれ、物音が大きくなる。
今の私には武器が無い為、素手で対抗するしかなかった。
護身術は覚えているものの、それでも心許ない...それでも私はあまりにも気になってその場所に来た。
中に入るが、そこには誰もいない。
確かにガサガサとした物音を聞いた筈なのに、誰もいないのは釈然としなかった。
疲れているのだろうか...私が戻ろうと後ろを振り向くと───
「うわぁ───っ!!」
「きゃっ───って、オウル!?」
私は背後にいたオウルと同時に尻餅を付いた。
「貴女どうしてここに!?」
「だって、指揮官からの指示で...みんな心配してるよ?」
心配かけたんだと改めて認識した私は、素直にオウルの言う通り帰って行く。
...しかし、この建物には何か違和感がある。
確かに誰かがいると、私はそう感じていた。