勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜 作:乾エルト
朦朧とした意識から目覚めると、私はロープで縛られていた。
「んんっ...」
猿轡まで噛ませられていて言葉を出す事ができない...私はあの人物に捕まってしまったんだとすぐに分かった。
ただ、何故か隣には見覚えのある子も縛られている...それはどう見てもソルジャー
まさか、私と同じ所属のオウルの可能性が───。
「ん───んんっ!?」
...案の定、私の知ってるオウルだった。
意識を取り戻した彼女が私を見て何かを訴えようとしていた。
私達が塞がれた口でコミュニケーションを図ろうとしている中、あの人物がこちらに現れた。
「───嗚呼、目覚めたのね。
可愛い勝利の女神達...」
...こうして間近で見ると、不気味さと恐怖感がひしひしと私に伝わる。
人間ともニケともとれないその姿は、あまりにも歪で...異常だった。
四肢や胴体は恐らくニケのパーツを使用しているのか、ただ身体が一つ一つ微妙に違うように感じ、顔はなんとも無さそうに見えるが、オッドアイなのも、私と同じ...I-DOLL・オーシャンような髪型なのも全てにおいて本当の部位なのか怪しかった。
「まぁまぁ、そんなに睨まないで。
アナタもそっちの子も
このままだと殺される───しかし、殺人鬼はやる事でもあったのか私達に笑顔を見せた後、部屋から出て行った。
私はオウルと顔を合わせた後、拘束が解けるようにもがく。
しかし逆に身体にロープが食い込んでいき、そのキツさで私の視界は潤う。
一方で隣にいたオウルのはすぐに解かれた。
「ふぅ...大丈夫?」
オウルは自分に噛ませられた猿轡を外した後、私の口に噛ませられている方も外してくれた。
「ありがとう...あなたは私の仲間のオウルなの?」
「そうだよ」
「何で捕まってるの...?」
オウルは手を止めて少し考えるような表情を浮かべた後、すぐにムスッとした表情になった。
「オーシャンのせいだよ!」
「ならどうして付いてきたの?」
「それは...指揮官の命令だよ命令っ」
「だからって...ごめんなさい」
「うっ...とにかくここから出て、指揮官達と合流しなきゃ。
もう〜心配掛けないでね」
「そうね...」
私はオウルから拘束を解いてもらった後、彼女と共にこの場所からの脱出を目指す事にした。
私達が監禁されていた部屋はダンボールや棚といった物置部屋のような場所で、壁の一箇所には
...それは
「───うっ...あっ...」
頭が痛い...どうして私はあのカレンダーに見覚えがあるのか、思い出そうとすると吐きそうだった。
「大丈夫...?」
「あっ...うん、大丈夫よ」
オウルに余計な心配を掛けられない...私はあのカレンダーについて考えないようにした。
監禁されていた部屋から出て、私達は殺人鬼に見つからないように出口を探す。
途中でニケの部品らしきものをちらほら見かけるが、何とか正気を保っていた。
装備もなければ携帯もない...私が頼れるのは目の前で先導してくれているオウルだけだった。
彼女は偵察兵として隠密に先導する。
動きにくそうな私服を着ているのにも関わらず、慣れた身のこなしでクリアリングしながら私を導いてくれた。
暗い通路の中を歩く...ここがどういった場所なのかは分からないが、何処か病院に似ていた。
私達はある部屋の前に来る。
その部屋は他と違って両開きの扉で、上には部屋名が記された表示灯があるもののしっかり読み取れない...ここが出口だと思ったが、部屋に来た事は大きな間違いだった。
部屋にはニケのパーツがそこら中にぶら下がっていて、棚には様々な量産型ニケの頭部が置かれていた。
中央にあるガラスに囲まれたベッドの上にはベルトで拘束されたニケがいて、それは私が病院で見た子に似ていた。
「ひっ...!」
───目はくり抜かれ、胴体には綺麗な一本線...そこからはコアや部品が露出していた。
「酷い...」
私達が凄惨な光景に呆然している中、聞き覚えのある不気味な声が耳に入る───あの殺人鬼だ。
「アハハっ、何処へ逃げようとしているの?
ニ ガ サ ナ イ ヨ ?」
その言葉に恐怖を覚えた私達は殺人鬼の魔の手を振り切ってその部屋から抜け出した。
私達は迫り来る殺人鬼に振り向く事なく走り続け───ある場所に入る。
部屋の天井には、何体もの量産型ニケが縛り上げられ吊るされていた。
異様な光景がロープの軋む音と重なり、私達の身体は強張ってしまう。
見たくない、聞きたくない...私は耳を塞ぎ目を閉じる。
感覚センサーどころか全機能をオフにしようとまでする程に怖かった。
目の前では誰かが私の手首を掴みながら何かを訴える。
多分オウルなのかもしれないが、私にはもう何も出来ない───でも、目を開いて前を見ると、そこにはオウルがいたが...彼女は
あまりにも気になって耳に当てた手を少し外し、彼女の声を聴いた。
「───お願いだからあっ...諦めないでよぅ...」
───私はオウルの言葉を聞いて、自分が生きる事を諦めようとしているのだと気付く。
この子は嫌味や皮肉こそ言うが、これが本心なのだろう...そう思った私は再び立ち上がった。
「───ありがとう、オウル。
貴女のおかげで大事な事に気付いたわ。
私、諦めないから...一緒にここから逃げて、指揮官達の所へ帰ろう?」
そう言った私はオウルに手を差し伸べる。
恐怖が消えた訳じゃない...でも生きる事を諦めてしまえば、ニケになった意味を無にしてしまう。
オウルは泣くのを止め、私が差し伸べた手を掴み、顔を合わせる。
戦う事が無理なら、逃げる...それも立派な手段。
私達は今いる建物から逃げ出す為に再び走り続けた。
やっとの思いで出口らしき道を見つけ、私達はスロープを上がる。
...しかし、扉の先は私にとって見覚えのある場所だった。
「ここ...嘘───」
そう───私達がいた所は病院跡で、その地下で囚われていたという事だった。
スロープの先は地下駐車場で、駐車場のシャッターが閉まっているせいでここからは脱出できなかった。
脱出手段を一つ断たれた私達は、一階の出入り口を目指すが...そこには殺人鬼が先回りしていて、私達は殺人鬼の掌で踊らされるように屋上へと逃げてしまった。
屋上まで追い詰められ、私達は袋の鼠になってしまう...殺人鬼はチェシャ猫の様に不気味な笑みを浮かべてこちらへと近づいてきた。
身体が震える...それでも私は、相手が僅かにも意思疎通出来る相手だという一握りに賭けて問いかけた。
「───何であなたは
私の問いに殺人鬼はニタニタと笑みを浮かべながら答えた。
「"ニケは人の上である筈"の存在───でもワタシは
───私は驚きを隠せなかった。
私達よりも上の存在になる為に、私達の部品を奪って今の自分を作り上げていたのかと。
「その為に、私達を...!?」
「ええ、そう!
特にアナタ達は
狂ってる───私は理解の出来ない相手に対して心の中でそう呟く程だった。
オウルはラプチャーとまた違った等身大の怪物に対して怯えていて、私の手を握っていた。
私達の後ろは絶壁...このまま退がれば落ちるのに、得体の知れない存在に私達はただ退く事しか出来なかった。
「さぁ、落ちるか私の元に来るか答え───」
「大人しくそこのニケ達から離れて下さい」
絶体絶命の中、聞き覚えのある無気力そうな声を聞こえる。
...私達が声の方向を見ると、屋上の出入り口からプロダクト12が現れた。
「12...?」
12は
私達は殺人鬼が12に釘付けになっている内にすぐさま別の位置に映った。
「...このワタシを撃てるとでも?」
「撃てるけど?」
物怖じしない12の言葉に、殺人鬼はニタニタと笑った。
「そんな戯言を───!」
殺人鬼は位置を変えた私達に走って近付こうとするが───それが致命傷となる。
マシンガンの銃口から火が吹き...殺人鬼は一瞬でボロ雑巾のように撃ち崩されて倒れた。
その後、指揮官がソルジャーF.A.に先導されながら私達と合流した。
「間に合ったようだな...」
「どうしてここが...?」
「これのおかげだ」
指揮官は私に携帯を見せる。
それは私のもので、襲われた時に落としてしまったものだろう。
「これ...どうして...?」
「アイツ...まぁオペレーターに頼んだ。
プライバシーの侵害だとは言うなよ?
俺だってこんな事はしたくないんだ」
「そこまでして...私達は───」
「オウルを連れて帰るぞ」
「えっ?」
指揮官が顎で指した方向を辿ると、オウルが座り込んで泣いていた。
ごめんなさいオウル...そう思った私も彼女に釣られて泣きそうになるが、微かな声に反応して涙が引いた。
微かな呼吸音を鳴らしているのは殺人鬼で、彼女は虚ろな目で空を見ていた。
「───あ、あ...なり、たい...。
なり、た、かった、ワタシ、も、ニケに...」
殺人鬼の目からは涙が滴る...泣いていた所でこの人物の凶行が許せる訳ではない。
でも...もしかしたらこの人は私と同じ様な境遇だったのかもしれない...そう思うとやるせなかった。
その後、私達は宿舎へ戻り...後日、私とオウル、助けてくれた12はメンタル検査の為にセラフィムの診察を受けた。
あの事件の後、ニケばかりを狙っていた殺人鬼がどうなったのか分からない。
ニュースで判明した事は...彼女も私と同じ病院に入院していたようで、エンターヘブンによる爆破テロにより死んだと思われていた───が、奇跡的に生存した。
しかし、それは奇跡なのかそれとも運命の悪戯なのか...彼女はそれを気に狂ってしまい、あの凶行に走った───今でも真意は分からなかった。
───メンタルについての異常は無く、メアリー先生とペッパー先輩に気遣いから声を掛けられたが、もう大丈夫と言って安心させた。
それから数日経った後───指揮官の左腕は治り、入院していた仲間達も戻って来た。
「指揮官、それにみんな久しぶり!」
「まだおぼつかない感覚がするわ...」
「徐々に感覚を取り戻すしかないですね...」
「私がいなくて寂しかったか?」
「すみません、遅くなりました」
数日ながら久しぶりにも感じるこの感覚は、何かと温かく思えた。
私には仲間がいて、帰る所がある...まだ生きる事を諦めない。
───そして、誰かを救う事も。
オーシャン編終わりです。