勝利の女神:NIKKE 〜Nobody can take your place〜   作:乾エルト

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第9話:同じ過ちを繰り返さないように

『A.C.P.U.は、武装グループの一派をエンターヘブンだと推測しており───』

 

 同じくその場にいた指揮官やフラワーがニュースの内容に驚愕している中...私はすぐ食卓から出て行った。

 

「おい、どうした!?」

 

「ファル! どこ行くの!?」

 

 2人の声を振り切るように私は部屋に行って装備を整えた後...ガレージへ向かい、バイクに乗る。

 このバイクはサンの物だが一刻を争う...申し訳ない気持ちを胸に借りていった。

 

 ...サンに怒られるのは確実でも、そんな事を気にしてる余裕は無かった。

 

 

 バイクを走らせ、アークの駅に向かう。

 駅前には警察や報道者、見物しに来た部外者等が集まっていた。

 

「おい! 列車が出発したぞ!!」

 

 警官の1人がそう叫び、他の警官は列車を追おうとする。

 それは報道者も同じだった。

 

 

 私は列車の向かう先を推測してバイクを走らせる。

 読み通り走らせた先にはトンネルから列車が出て来て、私のバイクと並走し始めた。

 

 

 横から列車を見る。

 ...まさかこんな形でAZXと並走するとは思わなかった。

 

 窓越しには武器を肩に置いた人物が見える。      

 あれが武装グループの"アウトロー"だろう...エンターヘブンだろうか?

 

 ただ、何人居るか把握出来ないのがもどかしい...私は何とか列車内へ入れないかと模索しているが、入れる場所が見つからない...。

 どうすればいいか悩んでいる時...私はある賭けに出ようと並走するのをやめ、ある場所へショートカットした。

 

 

 ───その場所はトンネル上の橋で、予想が正しければあと1分ぐらいで列車がこのトンネルから出てくる筈...そう信じたかった。

 

 柵を越えてあと10秒───飛び降りに失敗すればどうなるか想像できる。

 ...そんな不安と恐怖がある中、私は深呼吸して列車を待った。

 

 

 3、2、1───列車は予想通りトンネルから出てきて、私は柵から手を離して飛び降りる。

 そして───。

 

 

 ───バンという衝撃音と共に、私は列車の最後尾に飛び降りる事が出来た。

...その代わり、武装グループの1人と目が合ってしまったのが運の尽きだと思った。

 

 ここで終わりだと思ったが...その人物は私に向かって覆面を外し、正体を明かす。

 その男はカーマイン刑事...私の兄だった。

 

 私は一応安心し、彼はドアを開いて私を中へと入れる。

 しかし、彼は私をあの時会ったソルジャーF.A.だと思ってなかった。

 

「君も任務なのか? 

悪いがこれはA.C.P.U.の仕事だ。こちらに任せて───」

 

()()()の過ちを繰り返すつもりですか!?」

 

 私は自分があの時話したソルジャーF.A.だと気づかせる為に声を荒げ、案の定彼は気付いた。

 

「もしかして君は...」

 

「あの時、私は何も出来なかった...。

でも───ニケになった今なら、同じ過ちを繰り返さずに済ませられるかもしれない...!」

 

「しーっ、声を荒げるな、奴らにバレる...」

 

 ...現状を思い出して私は冷静になる。

 部隊内でもあまり声を出す事は無いのに、カーマイン刑事...兄と話をしていると何故か感情が出てしまう。

 血が繋がっていたからであろうか?

 

「...それで? 他の仲間は?」

 

「...私だけ、です」

 

「嘘だろ...?」

 

「指揮官からは後で処分されるの承知で来...ました」

 

「それは凄いな。

...プランは?」

 

「な...ありません、そちらは?」

 

「とりあえず変装して主犯を...って思ったけど、僕1人じゃどうにもならないし、僕の仲間も手出し出来ずにいる」

 

 そう言われて私達は悩む。

 もう血が繋がってないとはいえ、兄妹揃ってノープランなのは正直どうかと思ってしまった。

 

 

 これからどうするか悩んでいると───客車側の扉が開き、そこから武装グループの1人が現れた。

 

「おい、いつまでそこに居座るつもりだ───って、なんでニケが───!」

 

 戦闘員は言葉を言いかける前に兄の放った銃弾で倒れた。

 

「...落ち着け、ゴム弾だ」

 

「その代わり、私達の存在が気付かれ...ました。

だから、私が盾にな...ります」

 

「おい、正気か!?」

 

「珍しい事を言うんですね、ニケを()()()しないだなんて」

 

「うるさい。

ニケになっても...妹は妹だ」

 

 私はその言葉に大きく目を見開いたが、すぐ我に返って盾を構える。

 クラッチファルコン(ショットガン)は対ラプチャー用では無い物を持ってきたから、それを兄に渡した。

 

「死なない様に、お兄───刑事殿」

 

「なんかぎこちない話し方だな...」

 

 

 私は盾を持って先行し、兄は後ろで拳銃を構えて武装グループの戦闘員達に発砲していく。

 私は指揮官の許可を得てないせいか、相手が武装グループであっても危害を加えられない...だから弾除けになるしかなかった。

 

 

 1人、2人、3人───と兄は的確に命中させていく。

 乗客に流れ弾が当たるかもしれないプレッシャーに襲われながらも、彼は驚異の射撃力で無力化していった。

 

 人質のいる場所では拳銃を、逆にいない場所ではクラッチファルコンと切り替える兄の様子はまるでアクション映画の主人公みたいだった。

 

 ───こうして私達は武装グループのメンバーを無力化させていき、他の車両を率いる制御車を目指した。

 

 

 制御車前に辿り着くが───油断してしまった。

 巨漢の戦闘員に背後から不意を突かれ、私は男の両腕で身体を拘束されてしまった。

 

「離せっ...!」

 

「おい、どうした───」

 

「あらあら、まさかここまで辿り着くとはね」

 

 兄は盾の落ちた音で後ろを振り返ってしまう。

 その隙を突かれてしまった兄は後頭部に銃口を当てられてしまい、身動きが取れなくなる...武装グループのリーダーは、胸元を開けた妖艶そうな女性で、彼女は不敵に笑っていた。

 

「もう少しで列車を奪還できそうだったのに惜しかったわねー。

まぁ...貴方とそこのニケだけでここまで来たのは褒めてあげる」

 

「...何が目的だ?」

 

「私達の大義の為...なんて馬鹿な話じゃなくて、私達は大金が欲しいだけよ」

 

「お前達はエンターヘブンじゃないのか?」

 

「エンターヘブン? はははっ!!

あんな革命ごっこすらまともに出来ず、ただアウター(掃き|リム《溜め)で夢見てる連中と一緒にしないで欲しいわ!」

 

「なら、あの経歴は...」

 

「エンターヘブンの一派なのは正解。

でも私達もうそんなくだらない組織にいないから」

 

「チッ...そういう事か...」

 

「なら...人質だけでも解放して」

 

「ニケが何を偉そうに言ってるのかしら?

人質はエンターヘブンの大義の為に死んでもらうわ」

 

「...どういう事だ?」

 

「私達がまだエンターヘブンだと思われているなら都合が良い。

「私達はエンターヘブン(アイツら)に雇われていたアウトローです」と素直に言えば、更正館での刑期も減るでしょ」

 

「お前達に人としての心はあるのか...!?

ふざけるな!! 私達がどれほどお前達に苦しめられてきたか分かってるのか!!」

 

「あーうるさいうるさい...所詮兵器でしかない()が調子に乗ってるんじゃないわよ」

 

 リーダーは操縦室にいた戦闘員を呼んだ後、兄へ代わりに銃口を向けるよう指示し、彼女は私の方へと歩いてきた。

 

 

 私の方へ来たリーダーは、私のヘルメットを外し顔を見た。

 

「へぇ...よく作られているわね...。

エンターヘブンにいた時も同じような奴がいたけど、ソイツはソイツで役に立ってたのよね」

 

 彼女は手に持っている拳銃の銃身を掴み、マガジン部分で私の頭部を殴り付けた。

 

 ガンッと重い衝撃が頭に来るものの、痛覚センサーはオフにしているから痛みは無い...問題はその後だった。

 

「へぇ...痛みはない、か。

まぁ所詮はニケだもの───なら、こっちの刑事さんを殴ってみましょうか」

 

 彼女がそういうと、戦闘員は両手を兄の両脇の下に通して羽交い締めにした。

 

 彼女は身動きの取れない兄に何度も強く平手打ちをし始める。

 途中で兄の口からは血が出てきて、私は取り乱すように止めるよう叫んだ。

 

「止めろ、って? ふふ、止める訳ないでしょ」

 

 笑いながらそう言われ、私は雄叫びのような声を上げてしまった。

 何も出来ない無力さは何度も体験した筈なのに...兄がただ傷付いていくのを見る事しか出来ない事には私自身も今までで特に嫌だった。

 

 

 巨漢の男は五月蝿くする私を列車の外に落とそうと持ち上げるが、それは彼にとって大きな間違いだった。

 

 ニケは人より重い───非戦闘用のボディならともかく、今の私を持ち上げるというのは想像に難しくなかった。

 

 巨漢の男はバランスを崩して、真後ろに倒れていく。

 運悪く最初に後頭部が床に着き、強い衝撃が頭に入り...男は意識を失った。

 

 

 先ほどの光景に武装グループのリーダーと戦闘員は唖然とする...だがそれは私達に逆転の機会を与えてしまった。

 

 その隙を突いた兄は羽交い締めしている戦闘員の拘束を振り解くとすぐに肘打ちを喰らわせる。

 そして私に拳銃を向ける武装グループのリーダーは兄から首に手刀を喰らわせられ...気絶した。

 

「───ありがとう、ございます...大丈夫...ですか?」

 

「...君の方こそ」

 

 お互いこれで終わったかのような雰囲気になってしまうが...すぐにそれぞれの装備を拾って操縦室に入った。

 

 

 操縦室には1人の女性が猿轡で口を塞がれ、ロープで身体を縛り上げられていた。

 

「んんっ...」

 

 私達は女性の拘束を解き、彼女は猿轡を外した。

 

「...ありがとうございます。

私は"ブリッド"、機関士をしています」

 

「機関士...という事は貴女がこの列車の運転を?」

 

「はい。

しかし武装グループに乗り込まれてしまい、この状況に」

 

「ブリッドさんのせいではありませんよ」

 

「すみません、ありがとうございます。

...私は次の駅でAZXを止めるので、お礼になるか分かりませんが2人はそこのシートに座っててください」

 

「あっ、その前に...」

 

 兄はそう言った後、先ほどまでブリッドさんを縛っていたロープを持って操縦室から出る。     

 私も出て行くと、兄は先程の女リーダーと戦闘員、そして巨漢の男をひとまとめに縛り上げた。

 

 

 そして...私達はブリッドさんから言われた通りシートに座る。

 ...正直、この経験は一度きりだろうと感じた。

 

 操縦室から見る景色は客室の窓から見える景色とはまた違い、疾走感と迫力を覚えた。

 

 ニケになる前は体験出来なかったと思うと、今の人生も悪くないかもしれなかった。

 

 隣にいる兄の手が近くにあるのに握れない...。

 恥ずかしさもあるが、今の私は彼の妹ではないという意識があったからだ。

 でも───。

 

 兄は手を裏返して掌を見せる。

 私が手を繋ぎたいのは分かっていたのか、それとも彼も同じ気持ちなのか...どっちにしろ、私は喜んでその手を掴んだ。

 

 温かみを感じる懐かしい感触───私は目を閉じるが、目から滴る一筋の涙は抑えられなかった。

 

 

 列車は無事に駅に止まり───A.C.P.U.が列車内に突入して人質を解放、そして武装グループの一派を確保していった。

 

 駅の外へ出ると、私の部隊がそこにいた。

 

「あっ、ファル!」

 

 フラワーが笑顔で私に手を振る。

 私は彼女をを見ると、衝動的に走ってフラワーに抱き付いた。

 

「もうっファル、どうしたの?」

 

「あっ、私...わ、わたしっ...」

 

「───お疲れ様、頑張ったのね」

 

 私は優しく頭を撫でられ、フラワーの胸で泣いてしまった。

 

 他の仲間が見ている中で恥ずかしい事をしてしまったが、そんなのを気にしている余裕は無かった。

 

「あっ、貴方ね! 

ファルに対して酷い事を言ったのは!!」

 

 私が泣くのをやめて振り向くと...そこには兄がいて、彼はフラワーに怒られていた。

 

「酷い事...?」

 

「あっ、フラワー...もう、良いんです」

 

「あっ、そうなの? それなら良いけど...」

 

 兄は私に敬礼する。

 兄妹であるが、刑事としての感謝をした。

 

「ソルジャーF.A.、貴女の協力に感謝する」

 

「いえ...私も協力させて頂き光栄です、カーマイン刑事」

 

 彼の感謝に対し、私も敬礼を返した。

 

 

 その後、私はサンにバイクの場所を教えて一緒に向かう。

 彼女は焦燥気味になっていたが、バイクと無事に再会できて機嫌を直してくれた。

 

 

 そして次の日───私は共同墓地に向かい、改めて墓石の前に立つ。

 

 幼くして命を失った少女。

 彼女はニケとして生まれ変わり...今ここにいる。

 ファルネリア・カーマイン───ソルジャーF.A.として。

 

 

 墓石を後にし、私は慰霊碑前に向かった。

 

 慰霊碑前には兄がいて、彼は私の為に有給を取ってくれたようだ。

 

「すみません...」

 

「妹の為だ...って、敬語じゃなくていいんだぞ?」

 

「えっ、あっ...そう、だね...」

 

「よし、それじゃあ何処に行く?」

 

「ええと、列車味のパーフェクトが食べたいな...」

 

「よし、最初はそれだな───」

 

 私は兄───お兄ちゃんの腕に抱き付き、彼を驚かせた。

 

「うぉっ!?」

 

「あっ...駄目、かな?」

 

 お兄ちゃんは驚きこそしたが、改めて笑みを浮かべた。

 

「...いや、大丈夫だ。

さぁ、行こうか」

 

「うん───お兄ちゃん」

 

 私は照れながらも嬉しそうな気持ちになっていた。

 

 例え姿は変わっても、家族である事には変わりないのだから───。




ファル編終了です。
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