ホビアニTCG世界でカードデザイナーやってるTS配信者 作:あずきの豆腐
もう、限界だった。
「おしごとやだー、もうやめるー」
弱音を吐く17歳の少女が私。
前世、ブラック会社で過労死した私は、二度目の人生は
そのはずなのに、どうして、私はまたブラック労働に勤しんでしまっているのでしょう。
中学を卒業するまで、私はフリーのイラストレーターでした。
子どもというバズりやすい時期に配信サイトで活動を始めたことで、チャンネル登録者100万人超えのインターネット有名人になりあがったのです。
前世と違い、女の子ってのも、人気に拍車をかけてくれたと思います。
さて、お絵描き配信しながら、自分の好きなペースで金策する生活も悪くない、なんて思っていた中学二年。
私は人生の大きな転換点を迎えました。
超大手企業から依頼が舞い込んだのです。
依頼の内容は、新規開発カードゲームイラストのデザイン。
まだ
結果。
発売されたTCG【モンスターズクレスト】は大ヒット。
中でも私の担当したイラストは人気が高く、その後も新弾のたびにデザインの依頼をいただき続けています。
「そりゃあ、『大手企業からカードデザインの依頼なんて、ありがたい限りだ』なんて言いましたよ? ええ、言いましたとも」
液晶タブレットにペンを走らせながら、まくし立てるように悪態を吐き続ける。
「でも、これはさすがに量が多すぎるでしょうがー!」
今回、私の担当になったカードの枚数は20枚。
他のクリエイターさんたちがせいぜい2、3枚なことを考えれば、いかにオーバーワークであるかは明らか。
「しかもスーレア全部私が担当とか、ふざけるなー!」
よくわからないけど、私作のスーレアはめちゃくちゃ高価に取引されているらしい。
私の手元には商品サンプルがいくつもあるけど。
「はぁ、はぁ……ふ、ふふふ。でも、それも今日まで」
実を言うと、その気になれば私は依頼された量の5割増しで納品できる。
活動限界の6割程度に依頼を絞ってるともいえるわけだけど、これは主な活動先である配信業をおろそかにしないため。
企業からの依頼を配信サイトに乗せるわけにはいかないからね。必然、配信作業中は依頼された仕事に時間を割けないわけ。
で、最近、その配信作業すら削って、私はカードデザインの仕事を進めている。
「溜まりに溜まった納品依頼、私は今日、すべてに終止符を打つ!」
次弾と次々弾と次々々弾。
現在私に届けられているすべての依頼に、私は対応しきったのだ。
度重なるやり取りでテンプレート化したメール本文を再利用し、先方指定のファイルやり取りサーバーを介して納品。
「私、
追伸も忘れずに。
◇ ◇ ◇
大人気TCG【モンスターズクレスト】。
その開発元である大手企業、ペガサス・コーポレーションにメールが届いた。
差出人は
半ば専属となっている、【モンスターズクレスト】のカードデザイナーだ。
「さすがイズミさんだ。仕事が早いうえに完璧だ」
納品されたイラストをチェックして、担当者がうっとりとため息を漏らす。
(この躍動感、最先端を行くデザイン力。これで17歳なんだもんな、信じられない)
続く次々弾と次々々弾の完成も楽しみだ。
なんて思っていると、続けざまにメールが届く。
「あれ? またイズミさんから? 次々弾のラフ画かな?」
否。
「お、おお……! 素晴らしい、これ以上に無い仕上がり。ラフ画なんていらんかったんや……!」
送られて来たのは、微に入り細穿つ至高のデザインの数々。
文句のつけようもない。
こちらのイメージの二段も三段も上回る最高の出来栄えだ。
だけでは終わらない。
「!? ひょっとして、次々々弾の分まで!?」
なんということでしょう。
数か月先のはずの依頼が、匠の手で仕上げられてしまったではありませんか。
「素晴らしい……それじゃあ、稟議を回して、確認でき次第、次々々々弾の予定を連絡して――」
さらに、メールが届く。
はて。これ以上何か連絡事項があっただろうか。
件名に記された、【重要なお知らせ】の文字に、漠然とした不安を覚えながら、担当者が恐る恐るメールを開く。
そこに記されていたのは、彼らにとっての絶望。
――夢咲イズミは諸事情で新規依頼を受け入れられません。なにとぞご了承ください。
「な、なんだってぇぇぇぇぇ!?」
激震、走る――ッ!
◇ ◇ ◇
液タブの前で伸びをする17歳少女は誰でしょう。
そう、私こと
「んー、いいコト(納品)した後は気持ちがいい」
開いていたメールを閉じる。
「しちゃうかー? しちゃうか! ゲリラ配信!」
ここしばらく、溜まりに溜まったカードイラスト作業を片付けるためにあまり時間を取れなかったからね。
久々に長時間のお絵描き配信をして、リスナーのみんなにちやほやされたい。
「開始ー」
配信サイトを開き、ストリーミングソフトを起動し、開始ボタンを押下。
告知も何もない突発的な配信にもかかわらず、視聴者がわらわら集まってくる。
・わーい、ひさびさのお絵描き配信だー
・こんズミー
・新弾買いました!
・超克龍ディメンションドラゴンが当たらないです(泣
さすが、いま市場を揺るがす大人気カードゲームなだけあるというか、私のチャンネル登録者数は近年で数倍に伸びました。
なんなら国内でもトップレベルのチャンネル登録者数なんじゃないかな。
・イズミちゃんが有名になってくれて嬉しいけど構ってくれなくて寂しい
・わかる
こういう古参もいます。
ありがたい限りです。
「嬉しいこと言ってくれるね。そんなみんなに朗報。今日は久々に時間が取れたから、耐久配信するよー」
ワッと盛り上がるコメント欄。
イラストのリクエストしていいですか、なんてコメントがあるけど断固拒否。
ずっと依頼用の絵ばかり描いていたから、私が描きたいイラストを描く時間を全く確保できていないのです。
今日は私の描きたい絵を描く。
・既にうめぇぇぇぇ
・ラフスケッチの消失
・なんで一発描きでこんなにばっちり線が決まるの
・さすがモンクレのトップデザイナー
・かわいい
そう、かわいいだ。
モンスターズクレストにはかわいいが足りていない。
「そういえばなんだけどさー」
数か月先の分まで依頼を終わらせたいまの私は最強でした。
気分がいいから鼻歌も交えちゃう。
「モンクレの依頼、いまある分でしばらく休止します」
ふんふふんふーん。……あれ?
・ええぇぇえぇぇええぇぇ!?
・うそでしょイズミネキ
・そんな、どうして……!
・イズミネキ担当のイラストが無くなったら、俺はいったいどうすれば……!
「落ち着け君たち」
コメントがものすごい勢いで流れていく。
中には、配信時間が増えることを喜んでいるコメントもあったけど、大多数はやめないで。
無茶言わないでよ……。
・ペガサス・コーポレーションと仲こじれたの?
おっと、それは否定しておかないと。
「先方とのやりとりで交渉が決裂したわけじゃないよ。いやまあ作業量が多いのは不満だったけど、配信の時間は最低限確保できてたしね」
・普通は足りないんですがそれは……
「私、天才なので」
・ヒュー、さすがイズミネキ
・俺たちにはできないことを平然とやってのける
・ハァハァ……そこに痺れる憧れる……っ
・でも、だったらなおさらどうして?
「だって、モンクレって基本的にモンスターのイラストしか描けないじゃん」
・?
・?
・えっ、どういうこと?
・彼女の言葉を理解するのに、人類はあまりに若すぎた
・進化論の三歩先を行くイズミネキ
いや、そういう難しい話じゃなくて。
「私は、かわいい女の子が描きたいんです!」
なのにモンクレで描かされるのはドラゴンとかゾンビとか!
そのあたりはまだいい。
でも昆虫とか、ゼリー状の生物とか、そういうイラストばかりなのにもう耐えられない。
「かわいい成分が足りないよー! もっとほんわかしたイラストが描きたいよー!」
・あ、うん、そうなんだ
・わかる
・わかったようなわからんような
・わからん
・かわいいは正義ってこと
そうこうしているうちに、一枚目のイラストが完成。
テクノロジー味のある和装束が特徴的な緋色の女の子。
「よし、この子の名前は【和装束ウォーリア・紅】ちゃんだ! よろしくね!」
しばらく和装束ウォーリアでシリーズものを描くのもいいかもしれない。
溜まりに溜まった製作欲求、満たしていくぞー。
・夢咲イズミ先生、こちらペガサス・コーポレーション製品開発部モンスターズクレストイラスト課の大橋です
「やばっ、モデレーター、大橋さんのチャットを制限で!」
・えっ
・いいの!?
・(このコメントは削除されました)
・本当に書き込み制限されてて草
・徹底した排除っぷりに感服するわ
・どんだけかわいいに飢えてたの
「かわいいは正義。それじゃあ、次いくよー」
私は思いのままに筆を走らせた。
昔は筆が乗ってくるとコメントの回収率が落ちたけど、いまは意識的にコメントを拾うようにできてる。
・イズミネキはモンスターズクレストやってますか?
「私? 全然。カードゲームうまくないし……あ、でも試供品として何パックか貰ってるし、開封でもしてみる?」
・おお!
・イズミネキによるモンクレ開封配信!
・見たい見たい!
「オッケー」
昔、まだ液タブも買えていなかった頃はスマホと紙とペンだけで配信していた。
絵がうまい幼女がいるってバズって液タブに切り替えてからはあんまり実写を投稿してないけれど、勝手は覚えている。
手元の映像を配信に共有させる。
・お手てキレイ
「ありがと」
見えてるみたいで何より。
ということで、ながらく剥かれることの無かった試供品の山から適当に持ってきて開封する。
「新しい方から剥いていこうかな。詳しくないから、あたりカードだったら教えて」
まず、現状発売されている最新弾から。
「おー、さっそく来ましたね、スーレア。私が描いた子です。みんな見えるー?」
・最強カード来たぁぁぁ!
・描けば出る……噂は真実だったんだ!
・さっそく神引きで草
・イズミネキ持ってるなー
「お、当たりなんだ。ハズレアとか言われなくて嬉しい。みんなにわかりますか? 必死に、魂こめて描いたイラストが外れ枠って言われる悲しみが!」
・イズミネキのカードでハズレ枠あるっけ
・初期の方に何枚か
・最近は優遇されてるカードばっかだよね
「へー、ありがたい限りだね」
その後もいくつかパックを剥いていくが、リスナーのみんなからは神引きってコメントばかり寄せられる。
「みんな適当に言ってない? 私は実用性で有用かどうか知りたいんだけど」
みんなが言うには、どうやら私の描いた子たちは、実戦でも強い子ばかりらしい。
・最新の大会の優勝構築で40枚中36枚がイズミネキのカードだったことがあった
・準優勝が全部イズミネキのカードだった大会か
・優勝者「試合には勝ったけど勝負には負けた」
・至言
うん?
私のカードってそんなに強いの?
「じゃあちょっとやってみよっかなぁ……」
新規の依頼も断ってるし、それくらいの時間はあるはず。