ホビアニTCG世界でカードデザイナーやってるTS配信者 作:あずきの豆腐
イラストレーターあるあるだと思うけど、客観性は絵を描いているうちにどんどん失われていきます。
夜、「たはーっ、なんかいま最高傑作描けてる気がするーっ」ってなってたのに朝起きると「えっ、なんでこの絵でテンション上がってたんだ?」って冷静になる現象です。
この解消法はいくつかあります。
たとえば、鍵のついた捨てアカウントで投稿してみたり、スマホで写真を撮ってみたりです。
ですが、私はやっぱり寝かせるのが一番効果的です。
そこで、作品Aをある程度進めて、作品Bへ、Cへ、Dへとローテを回すことで客観性を確保しているのですが、それでも長時間描いているとやはり崩壊します。
そういうときには外出が一番です。
「よし」
今日はもう一度、大型書店へ行ってみようと思います。
前回は遠巻きに対戦スペースを眺めるだけで帰ってきましたが、アリスちゃんとバトったいまなら対戦を挑める気がします。
何事も初めては難易度が高く、二回目以降は易いものです。
――何事も一回やってみてください。次やるときは二回目になりますから。
ってやつであります。
「おー、やってるやってる」
対戦コーナーには子どもから大人まで、幅広いモンクレプレイヤーたちが集まっていました。他のカードゲームは一切プレイされていないようです。ちょっと意外です。
「なぁなぁ」
「ん?」
「お姉さんもモンクレやるのか?」
袖を引かれて振り返ると、ほっぺに絆創膏を貼った少年が目をキラキラと輝かせていました。
「うん、最近始めたばかりだけどね」
「じゃあさ、オレが教えてあげるからバトルしようよ!」
おお、こっちから誘うのやっぱり気が引けるなーと思ってたところに救世主。渡りに舟。
「よろしくね」
「うん!」
適当なスペースに対面で腰かけ、デッキをセット。
しかし、面と向かうと改めて思うことがあります。
このご時世、見た目を弄るのはタブーと認識してはいるけれど……、
(すごい髪型だなぁ)
え?
何その髪型。どうなってるの?
ワックスと仮定しても再現の仕方がわからないです。
「お姉さん初心者なんだろ? 先手はあげるよ!」
「あ、うん。ありがとう」
ぼけーっと見ていたら、段取りがわからずに困っていると思われてしまったみたいで先手を譲られました。
「先行は1ターン目のドローができないけど、深度の加速はできるぜ!」
「うん。じゃあ、深度を加速して、ターン終了」
「オレのターン、ドロー! 深度を加速し、【スモールステップ】を召喚!」
「おお」
少年が繰り出したのは、毎ターンの攻撃宣言が必須の火属性ウィニー。
(わかる、わかるよ。その年頃は主人公カラーの火属性を使いたくなるんだよね)
私にも前世、そんな時代があったとしみじみと振り返りました。グッバイ青春、二度とは帰らぬ思い出の日々。
余ったカードで組んだデッキが意外と強くて「あれ? 火属性ってアニメで取り上げられるほど強くない……?」と気付いてしまうところまでがテンプレ。
賢い私は気づきました。
少年は何かしらのホビアニに影響されて奇抜なヘアスタイルをしているに違いありません。
それがなんのホビー販促アニメかはしらないですが、憧れと同化は人として自然の態度です。
(そういえばモンクレは販促アニメとかしないんですね)
これだけ爆発的大ヒットしてるんですから、そういう展開があってもいいと思うんですが。
などと。
思案に耽っているうちに、なぜかギャラリーが押し寄せてきました。
勝手に観戦お断りだと思ってましたが違うんですね。
――おいおいおい、あの姉ちゃん死んだわ。
――ハハ、初心者がボウズと張り合うなんて10年早いな。
ん? この子、ひょっとして強いの?
「お姉さんのターンだぜ」
「うん、私のターンだね。深度を加速して、【ルーントレーサー:
――ほう、魔法深度軽減モンスターですか。
――やりますね。
――どうやらただの初心者ではない様子。
2ターン目までに来てくれる【ルーントレーサー:
うわ、まぶし……光り輝くな。
◇ ◇ ◇
「え!? ボウズが負けたって!?」
「あのボウズが!?」
「一方的にボコボコにされた!?」
私は静かに耳を塞ぎました。
それでも貫通してくる声量で、周りの観戦客たちがやいのやいのと騒いでおります。
「た、たまたまやい! くっそー、初心者相手だと思って油断したぜ! やいお姉さん! もっかいだ! 勝ち逃げは許さねえからな!」
「あ、うん」
「さっきは先行を譲ったんだ! 今度はオレが先行だからな!」
「いいよー」
◇ ◇ ◇
「おおお!?」
「また初心者の姉ちゃんが勝ったぞ!」
「ガハハ、ボウズもきれいなねーちゃんにはめっぽう弱いってか!」
敗北のショックで机に手をついていた少年が、両手をガバっと上げるとカードが綺麗に飛び散りました。
「だぁぁぁ! くそぉぉ! なんで勝てねえんだよぉ!」
「お姉さんの方がレアカード揃えてるから」
「そういう話じゃないんだよ。オレ、ここにいる常連と戦って負けなしだったんだぜ? なのに、お姉さんと戦うと、なんかイマイチ調子が上がり切らないって言うか」
「勝負は時の運って言うからね」
「だぁ! もっかいだもっかい!」
こういうの、場を占領するのってどうなんだろうと思い周囲を確認してみますが、むしろ周りの皆さん全員、私たちの勝負を楽しみにしている様子に見えます。
「じゃあ、これで最後ね?」
子ども相手に本気で勝ちにいってばっかりだと大人げないかな?
ここはそう。それと気づかれないように、さりげなく勝ちを譲りましょうか。いわゆるプロレスってやつです。
◇ ◇ ◇
「あ、えー……と……」
おかしいです。どうしてこうなったのでしょう。
(あっれぇ? いい感じに均衡した感じに盤面を調整しようとしてきたはずなのに……)
少年、手札0枚、場のモンスター0。
私、手札5枚、場のモンスター4体。
(うーんと、足りてるよね。どう考えても打点足りちゃってるよね)
反撃札も伏せられてないし、勝ち確定の場面。
ここでとどめを刺さなかったら手を抜いたのはバレてしまいます。
「あーと、じゃあ、【ルーントレーサー:
「ぐわぁぁぁっ! また負けたーっ!?」
なんでだよーと叫ぶ少年と、よくやったと私を褒めたたえる周りの観戦客たち。
寄ってたかって子どもの運の無さを喜んではずかしくないの?
(あー。なんかイジメに加担してるみたいで白けてきちゃったなぁ)
そういうのよくないと思います。
ワイトもそう思います。
「もっかい――」
とせがもうとする少年の言葉を遮るように席を立ちます。
「ごめんね、私このあと用事あるからさ」
「えっ。あ、うーん。そっかぁ、じゃあ仕方ないか……」
目に見えてしゅんと落ち込む少年。
でも落ち込んだのは本当に短い間のことだけで、すぐに顔を上げたかと思うとパッと顔を輝かせて――、
「じゃあさ、じゃあさ! 次はいつこれる!? オレ、土日と、平日は学校終わりならいつでも来れるぜ!」
「えっ。うーん、ちょっと不規則な生活してるから正確なことは言えないけど……そうだね、近いうちに平日の午後にでも顔を出すよ」
その時間なら大きいお友達のみなさんも居合わせることが少ないだろうし、集団リンチみたいな感想を抱かずに済む気がします。
「わかった! 足を洗って待ってろ!」
「足じゃなくて首ね」
「足首を洗って待ってろ!」
もはやどちらの意味でも通じなくなってしまった。
「次はオレが勝つからな! えーと……」
そういえば、名前も言ってなかったっけ。
いや、こういう対戦スペースで名乗りが一般的なのかどうかも私は知らないんだけど、うん。
私のことを呼びたそうにしてるのに、隠すのはイジワルだもんね。
(このくらいの年の子はイラストレーターが誰かなんて気にしないだろうし、言っても問題ないでしょ)
ということで、周囲の大きなお友達の皆さんには聞こえないように、少年にだけ耳打ちします。
「夢咲イズミだよ」
「え、えぇぇぇぇぇっ!? あの、夢咲イズミ大先生!?」
「!?」
子どもにも認知されている!?
「は!?」
少年が大声で叫んでくれたおかげで、大きなお友達の皆さんにも私が誰か判明してしまいました。
「ええぇぇ!?」
「マジですか!?」
「うっそ! 配信で聞いた声そのまんまじゃん!」
「どうして今まで気づかなかったんだろ!?」
「ばっ、そりゃこんなところで会えるなんて誰が想像するかってんだ!」
「ファンです! サインください!」
「オレも、オレも……!」
えぇい! いい年した大人どもが群がるんじゃありません!
「わかった、わかったから、ここじゃ邪魔になるし、サインが欲しい人は店の外で――」
言いかけた言葉を遮るように店員さんがさっそうと出現。
「夢咲イズミ大先生でいらっしゃいますか? 特設スペースをご用意させていただきます。少々お待ちください」
本当に少々でした。
瞬く間にテーブルと椅子が用意されて、気付けば席に座らされていました。
敏腕執事か何か?
1流ホテルで働いていらっしゃいますか?
(ごめん少年。平日午後に顔出すって言ったけど、今後しばらく顔出せないかも)
私反省しました。
今度からは軽々に名乗らないようにします。
この書店にはほとぼり冷めるまで近寄らないようにしておこ。
少年「今日も先生こないなー」
カクヨムの異世界ファンタジーで日間13位でした↓感謝感激
チート転生者の亡霊「育成した表人格(メスガキさん)が【ランダムエンカウントする魔王】って呼ばれてる」
https://kakuyomu.jp/works/822139839704869763
もしまだご覧でない方いらっしゃいましたらどうぞよしなに