ホビアニTCG世界でカードデザイナーやってるTS配信者   作:あずきの豆腐

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11話 浮気者ーっ!

 仕事は在宅食事はウーバー。

 これだけで出不精は完結できます。

 外に出ないといけないのはゴミ捨てのときだけ。

 それでも、1階にゴミ捨て場があるアパートなので外に出るのはごく短時間で済みます。

 人とのかかわりなんて断とうと思えばどうとでも――

 

「あー! イズミ大先生!」

「!?」

「オレ! オレです! 覚えてるでしょ!? ほら、まえにモンクレでバトルした」

 

 びっくりした。

 一瞬オレオレ詐欺かと思いましたが、振り返ってみると登校途中と思われる少年でした。というか見知った少年でした。

 

「あー、あのときの少年か。久しぶりだね」

 

 大型書店でバトルした少年です。

 

「久しぶりだねじゃないよ! オレ、毎日対戦スペースに足を運んで先生のこと待ってるのに、いつまで経っても来てくれないんだもん!」

「ごめんねー、ちょっと最近仕事が多くて」

 

 嘘だけど。

 

(ここ最近人と話す機会が多くて疲れてたから家で休んでただけ)

 

 カードイラスト以外にも依頼来いよぉ。

 

「今日は!?」

「あー、うん……」

 

 どうしましょう。こんな無邪気な少年の期待を裏切り続けていると自覚すると急激に良心が痛み始めてきました。

 

(でももうあの書店近寄りたくないんだよねー)

 

 ちょっと前にSNSで私のゲリラサイン会がバズってるところ見ちゃったし。

 

(あ、そうだ。別に少年とバトルするだけなら対戦スペースじゃなくってもいいじゃん)

 

 これは名案。

 

「じゃあさ、甘夏(あまなつ)駅前のカフェ分かる? そこでなら行けると思うよ?」

「本当!? わかった! 放課後速攻で行くから待っててな!」

 

 行っちゃった。

 

(私、君の放課後が何時からなのか知らないんだけどなぁ)

 

  ◇  ◇  ◇

 

 イラストは、描き始める前にも様々な工程があります。

 例えば取引相手から受け取った仕様書を元に、必要な知識を集めたり、あるいはさまざまなポージングや構図を描き起こして良し悪しを比較したりなどです。

 そしてそういう作業は、別に仕事場でなくてもできます。

 

 ということで、少年の学校が終わる時間を考えれば早めに、しかし昼食には遅めの時間に、カフェへ向かい黙々と作業を始めます。

 今日の議題は日本神話。

 

(日本神話、ウンチにまつわる話多くない?)

 

 火の神を生んで死んだことで有名なイザナミのうんちから生まれた神とか、アマテラスの神殿でウンチをまき散らしたスサノオとか、ウンチを我慢し続けたオオクニヌシとか。

 

 こんなエピソード知ったところで使えないよ……。

 私のブランドイメージ下がるだけだよ……。

 

「大先生! 来たぜー!」

「おっ。来たね少年」

「さあ! さっそくバトルだ!」

「うん、その前になにか飲み物選びなよ。お姉さんのおごりだよ」

「オレ、オレンジジュース!」

 

 おお。おごってもらうことを当たり前に生きている。いいよなぁ、こういう人懐っこさ。年を取るにつれて私は失っていったから、眩しいや。

 

 オレンジジュースを追加で注文し、電子パッドをしまいスペースを確保。

 

「何調べてたの?」

「んー? 日本神話」

「難しそう……なんか面白い話とかないの?」

「面白い話かー」

 

 どっちだろう。ウンチの話をして引かれないかな?

 いや引かれたら引かれたでいいのか。

 どうしても繋ぎ止めておきたい縁じゃないし。

 

「むかしむかし。オクニヌシという神様とスクナビコナという神様が我慢比べをしました。粘土を背負って歩くのと、ウンチを我慢して歩くのでは、どちらが遠くまで歩けるかの勝負です」

「ギャハハ! うんちー!」

 

 ちゃんと笑いのツボ小学生じゃーん。

 

「我慢比べは数日にわたり、オオクニヌシが脱糞して負けましたとさ」

「ギャハハ! うんち! うんちー!」

「うん。面白かったようで何よりだよ。でも、周りのお客さんに迷惑だから、静かにしようね?」

「はーい……ふはっ、うんち……っ、あはは!」

 

 ツボ浅ぁ。

 

(うーん、これ以上周りのお客さんに迷惑かける前に退店するべきかな)

 

 小学生男子のツボの浅さを見誤っていました。いやこの少年が特別うんちが大好きなだけかもしれませんが、ここまで騒ぐのは想定外です。

 

「カードで」

 

 クレジットカードを提示して支払いを済ませようとすると、店員さんが一瞬身構えた気がしますが、たぶん気のせいだと思います。

 

「ありがとうございましたぁ!」

 

 見送られながら、退店RTAを決めます。

 ふぅ。出禁になるところでした。

 

「なあ大先生、バトルはー?」

「もとはと言えば君が――」

 

 子どものせいにしても仕方がありません。

 私の場所選びが良くありませんでしたね。反省。

 

「いえ。このあたりで落ち着いてカードバトルが出来そうな場所と言えば……」

 

 ぐるりと周囲を見回して、ある一点で視点が固定されました。

 

(んー?)

 

 見覚えのある人物がいるような……。

 

「おっ、アリスちゃんじゃーん。どうしてのこんなところで」

「イズミ先生の浮気者ーっ! わたしがいながら男子小学生に手を出すなんて……っ!」

「えぇ……?」

 

 アリスちゃんの中で私ってどういうポジションなの?

 

「あ? なんだよお前。大先生のなんなんだよ!」

「わたしはイズミ先生の……イズミ先生の? デ、デート経験者です!」

「ぐっ、ま、負けた……!」

 

 少年が膝をついて倒れ伏し、アリスちゃんがドヤ顔を決めました。うわぁ、大人げない。

 

「え? あれ? ってことは、お二人はデート中ではないんですか?」

「未成年に手を出すほど落ちぶれちゃいないよ」

「わたしとは遊びだったんですか!?」

「めんどくせ~」

 

 最近、アリスちゃんの暴走が激しい気がする。

 

(やっぱり、イマジナリーフレンドができるくらい精神に傷を負う出来事が……)

 

 そうだね、ここで見捨てるのは大人としてよくないよね。きちんと寄り添ってあげないとね。

 

「よしよし」

「~~♪ って! 子ども扱いしないでください」

「よしよし~」

「~~♪」

 

 かわいいなぁ。小動物かよ。

 

「そうだ。先生、わたしあれからダンスの練習をもっと積んだんです! よかったら見てくださいませんか?」

「はぁ!? 追い待てよオバさん! 大先生と遊ぶ約束は、オレの方が先にしてたんだぞ!?」

「失礼な! わたしがオバさんならイズミ先生はどうなるのよ」

「あっ」

 

 二人して失礼過ぎない?

 私はまだ17だ。少なくとも、今生は。

 

「どうしてもっていうなら、オレとバトルしろ! あんたが勝ったら大先生の一日はくれてやる!」

「えっ」

「望むところよ!」

「えっ」

 

 勝手に賭けの対象に乗せられたんだけど。

 こんな横暴が許されていいんですか?

 

(法律相談事務所に相談案件では?)

 

 前世でちょっと話題になった決闘罪とか、この世界には無いのかな……?

 

  ◇  ◇  ◇

 

 正直、どちらが勝っても私にメリットがありません。

 のでどちらも応援せずに静観しています。

 

(実力は伯仲ってところかな)

 

 ここ一番の引きの強さは少年に軍配が上がるけど、全体的なカードパワーの差でアリスちゃんが巻き返してる感じ。

 カードさばきは五分五分なんじゃないかな。

 

「【ケイオススライム】を召喚!」

「そうはさせないぜ! 反撃札【強襲タレット】発動! パワー2000以下のモンスターの召喚を無効にし、墓地に送る!」

「くっ、やるわね」

「そっちこそ。オレをここまで追い詰めたのは大先生以来だぜ」

 

 気が付くと二人とも爽やかな表情をしています。

 旧知の友、あるいは戦場を共にした仲間みたいな友情が芽生えてますね、これは。

 あれ? 私だけハブられてる?

 

  ◇  ◇  ◇

 

 結局、バトルは少年が勝ちました。

 

「あー、負けちゃったー」

「へへ、いいバトルだったぜ」

「そっちこそ」

 

 握手を交わし、ノーサイド。

 うーん、若いってのはいいね。

 

「【ポップスライム】も、ごめんね。イズミ先生の前でかっこいいところ見せたかったよね」

 

 そう言ってアリスちゃんが1枚のカードを優しく撫でました。

 あの精神科、ヤブじゃないですかぁ。

 アリスちゃん、まだ、イマジナリーフレンドの幻影が……。

 

(くそー、【ポップスライム】め! その位置代われ!)

 

 私もアリスちゃんにいっぱい甘やかされたいのにー。

 許せねえ……!

 




ポップスライム「ぽよ!?」
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