ホビアニTCG世界でカードデザイナーやってるTS配信者   作:あずきの豆腐

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2話 ママにいいところを見せたいカードと、歯向かうなんて畏れ多いカード

 転生した当時、もっとうまく立ち回れると思っていました。

 だって私は人生二周目。他の人たちより圧倒的にアドバンテージがあって、神童の名をほしいままにできるのですから。

 だけど。

 

 ――イズミは女の子なんだから。

 

 その言葉がすべての歯車を狂わせました。

 自認する性別と、周囲から期待される性差がじわじわと心を蝕んで、人の輪を避けるようになった、と思う。

 昔遊んだ音楽系のソシャゲに「画家は、孤独だ」ってセリフがあって、都合がいいと、イラストレーターを目指しました。

 

 つまり。

 

「いやー、せっかくデッキを作っても、対戦しましょうなんて声かけらんないよねー」

 

 私は知っています。大型の本屋さんやホビーショップに行けば対戦スペースがあることを。でも、勇気を振り絞ってまで対戦したいかというとまた別の話。

 近くまで寄ってみて、「お、やってるねー」と確認して、すごすごと退散してきたのが私です。

 

 そして、帰り道。

 

(お、めっちゃ可愛い子がダンスしてるー)

 

 ジャカジャカ再生される音楽に合わせて、ヒップホップダンスを踊っている子どもたちがいます。

 そのストリートダンスチームのセンターの子が、すっごくかわいい。目の保養になる。

 

 だけど、私が観衆にまぎれて楽しみ始めてすぐ。

 突然、音楽が鳴りやみました。

 

「え?」

 

 ダンスチームの人たちが驚いてスピーカーの方を向く。つられて私もそちらを向くと、人相の悪い青年たちがニヤニヤと薄汚い笑みを浮かべています。

 

「いまからこのダンスステージは俺たちのモンだ」

「ふざけないでよ!」

 

 私の推し、センターの女の子が立ち向かいます。

 かわいいとかっこいい両方の性質を持つ、最高かな?

 

「なら勝負するか?」

「望むところよ!」

 

 そう言って、彼らは【モンスターズクレスト】のデッキを取り出しました。

 

 この状況でデッキを――!?

 

  ◇  ◇  ◇

 

 そういう問題ではないでしょ。

 

 と突っ込みたくなる私ですが、周りを見ると、集まった観衆はおろか対立するダンスチームのメンバーたちも当たり前として受け入れています。

 

(なんでカードゲームの勝敗にゆだねたの?)

 

 みんなが勝敗の行方に熱中している中で、ただ一人、私だけがビッグウェーブに乗り遅れたみたいになっています。

 

(うーん、推しの子ちゃんは状況不利っぽいかなー)

 

 さっきから、私作のカードを何枚か引き当てているのですが、そのたびに相手のランダム手札破壊(ハンデス)で打ち抜かれています。

 

「どうしたぁ? さっきまでの威勢の良さは」

「っ、まだまだこれからよ!」

 

 なんとなく、いまひとつ流れを引き寄せ切れていない雰囲気が肌で感じ取れます。

 

(んー? あっ、イカサマされてる!)

 

 周囲より冷めた目で勝負を追っていたからこそ、私だけが気付きました。

 推しのセンターちゃんの手札を覗き見て、それをサインにして送ってる人がいる。

 ランダム手札破壊(ハンデス)でことごとくキーカードが選ばれていたのは、常時手札開示(ピーピング)状態同然だったからです。

 

(ど、どうしよう……)

 

 こうして悩んでいる間にも勝負は進み、じりじりと推しの子ちゃんが追い詰められていっています。

 いますぐにでもイカサマを指摘して――いやでも、私以外に気付いている人がいない状況、言い逃れされてしまうし、なんなら「負けそうになったからいちゃもんを付けた」なんて返されて迷惑を掛けちゃうかも。

 そもそもイカサマを指摘するなんて大胆な行動私には無理――。

 

「ギャハハ! いいカードを引いたぜ。魔法【闇への誘い】。さらに追加で手札を捨てさせてもらうぜ」

「くっ!」

「どうした、成すすべもないってかァ?」

「みんな、ごめん……わたし、わたし……っ」

 

 ――どうしてかは、わかりません。

 ただ、無性に胸が苦しくなって、熱い衝動が込み上げてきて。

 

「だいじょうぶ。勝負は最後までわかりませんよ」

「え?」

 

 気が付けば、私は飛び出していました。

 後ろから覗いてサインを送っていた青年に「お前のイカサマはお見通しだからな」と視線で牽制し、推しセンターちゃんに寄り添います。

 

「あなたが魂を込めて作ったデッキはここにあります。まだ命脈は尽きていません」

「っ!」

「あきらめないで。カードはきっと、あなたの思いに応えてくれます」

 

 推しセンターちゃんの右手に手を添え、山札に導く。

 

 ひゃぁぁぁっ!

 どさくさに紛れて推しセンターちゃんの手に触れちゃった!

 うわやっば、肌すべすべ。はぁ、たまりません。

 

「はい! わたしのターン、ドロー!」

 

 意気揚々とカードを引くセンターちゃん。

 息を吹き返したかのように、デッキがいきいきと輝いて見えます。

 

「わたしが引いたカードは、【ケイオススライム】!」

 

 私が描いたモンスター。

 いいタイミングで手札増強カードが舞い込んでくれました。

 

「召喚時効果発動、山札から5枚を確認し、光属性と闇属性のカードを手札に加え、残りを墓地に捨てるわ」

 

 山札の上から現れた5枚はすべて光属性のカード。

 

「なにぃっ!? 俺の手札破壊(ハンデス)を上回る手札増強だと!?」

「さらに魔法【千剣万華(フラワリング・ナイフ)】!」

 

 なおもコンボは、続きます。

 一枚のモンスターカードを起点に、盤面が五分まで巻き戻っていく様子は痛快でした。

 

「勝負はまだまだこれからよ」

「くっ、そんなトップ解決頼みの綱渡りがいつまでも続くかよ! 俺のターン! ……チィッ」

 

 わかりやすく苦虫をかみ潰したような顔をする人相の悪い青年。

 

「カードを伏せ、ターン終了だ!」

「わたしのターン! ドロー!」

 

 そこから、徐々に形勢がセンターちゃん側に傾いていきます。

 先ほどまでとは一転、人相の悪い青年くんが苦しい状況に立たされ続けているように見えます。

 

「【ケイオススライム】でアタック!」

「くっ」

 

 センターちゃんの猛攻に、会場は大熱狂。

 集まった人たちがセンターちゃんの勝利を願い、人相の悪い青年の敗北を願っているようでした。

 

「なにやってるんすかリーダー! ちゃっちゃと倒してやってくださいよ!」

「わかってる! けど、さっきから除去札が一枚も引けねえんだよ!」

「えっ!?」

 

 クソでかい舌打ちをして、人相の悪い青年が私を睨みました。

 

「そうだ、そこの女が来てからだ! 女ァ、てめぇ何かイカサマしてるだろ!」

 

 え、私?

 私がここにいると、相手の引き運が悪くなるの?

 

「イカサマ? たとえば、仲間に相手の手札を覗き見してサインを送らせるとかですかね?」

「なっ、てめ、気付いて――っ」

「あれれー、認めましたね? 相手の手札を覗きながら勝負してましたって認めちゃいましたね?」

 

 推しのセンターちゃんが憤慨する。

 

「ちょっと、どういうことよ!」

「センターちゃんの後ろに彼らの仲間がいるでしょ? その子がずっと、センターちゃんの手札を教えてたの」

「なによそれ! じゃあ、ランダム手札破壊(ハンデス)でキーカードばかり当てられてたのって」

「そ。筒抜けだったからだねぃ」

「サイテー」

 

 センターちゃんの蔑視が人相悪い青年くんに突き刺さる。

 はー、かわいい子は怒った顔してもかわいいですなぁ。

 こんな間近で観察出来て私は幸せです。

 

「証拠も無いのに言いがかりはやめろ!」

「自白はありましたが……」

「る、るせぇ! 俺のターン!」

 

 人相悪い青年くんの眉がぴくぴくと強張る。

 

「カードを伏せ、ターン終了だ」

「わたしのターン! ドロー!」

「おっと、先に忠告しておくぜ。俺が伏せたカードは、形勢を逆転する切り札だ。迂闊に飛び込むと危ないぜ?」

 

 とか言っていますが、その駆け引き、無意味なんですよね。

 

「装備魔法【進化の翼】を【ケイオススライム】に装備! そのままリリースすることで相手の場の伏せ札を破壊!」

「なにぃっ!?」

 

 先ほどのターン青年の伏せたカードが墓地に送られました。墓地はお互いにいつでも確認できる公開ゾーンなので、伏せられていたのが何のカードなのかは確認できます。

 

「【不発弾】、カード効果の無いハッタリカードじゃない。何が『形勢を逆転する切り札だ。迂闊に飛び込むと危ないぜ?』よ。はっずかしー」

「くっ!」

 

 とにかく、これで詰み。逆転の恐れはなくなりました。

 

「とどめよ!」

「ぐわーっ! お、覚えてろー!」

 

  ◇  ◇  ◇

 

「アリス! すげーじゃん!」

「いつのまにあんなに強くなってたんだよ」

「見たかあいつらの顔。すっげー爽快だったぜ!」

 

 推しセンターちゃんの名前はアリスちゃんって言うらしい。

 覚えておこう。この近辺で活動しているダンスサークルなら、また会う機会もあるかもしれないし。

 

「あ、あの! ありがとうございました!」

 

 と。

 アリスちゃんから直接声を掛けられるとは思っていなかったのでびっくりしてしまいました。

 

「お礼を言われるようなことしたつもりはないのですがね……」

「そんなことありません! 『あきらめないで』の一言で、どれだけ励まされたか……デッキも思いに応えてくれるみたいに引きが良くなりましたし、あなたはわたしの勝利の女神様です! 本当にありがとうございます!」

 

 あー、純粋にいい子だー。推せる。推してるけど。

 こんなかわいい子の感謝の思いを踏みにじってよいだろうか? 否、受け取らねばなりません。

 

「そう? じゃあ、感謝の言葉を受け取っておくよ」

「はい! あ、お名前お伺いしてもいいですか? わたしは舞園(まいぞの)アリスって言います」

「アリスちゃんね。私は夢咲(ゆめさき)イズミ。夢の花が咲くって書いて夢咲、名前はカタカナだよ」

「夢咲イズミさんですか。ステキな名前ですね……え?」

 

 私まで微笑ましくなるような笑顔を見せてくれていたアリスちゃんが、不意に真顔になる。

 

「ひょ、ひょっとして――モンクレのイラストレーターやってる夢咲イズミ先生ですか!?」

 

 あー、知られてるんですね……。

 

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