ホビアニTCG世界でカードデザイナーやってるTS配信者   作:あずきの豆腐

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3話 かわいいは正義。エクストラターンは極悪。

「ぐわーっ、先生つよすぎますーっ」

 

 ストリートダンスの終了後。

 近くのカフェで、私とアリスちゃんはモンスターズクレストの対戦をしていました。

 

「本当に今日初めてなんですか? めちゃくちゃセンスありますよ!」

「えへへ、そうかな」

「そうです! イズミ先生は最高です!」

 

 かわいい子から手放しの称賛を受ける。

 これが存外気持ちいい。

 

(普通のカフェでカードバトルなんて、と思いましたが、意外と一般的なんですね)

 

 モンスターズクレスト効果がすさまじい。

 

「ん? ねえアリスちゃん」

「先生? どうなさいました?」

「あれは?」

 

 私がカフェの奥に視線を遣ると、その先をアリスちゃんが追いかけました。それから「ああ」とため息交じりにつぶやいて、

 

「カードディーラー、最近どこ行っても見かけますよね」

「なにそれ?」

「え」

 

 カジノディーラーなら知ってるけど。

 アリスちゃんが「見てたらわかると思いますよ」というので、できるだけ気取られないよう意識しながら様子をうかがいました。

 

 ――これなんてどうだ?

 ――ぜひ、お願いします!

 

 そんな言葉を交わしたのち、現金とカードの取引が行われているのを見ました。

 

「格付けがどれだけカード揃えてるかで決まる世の中ですからねー」

 

 つまり、転売ヤー!?

 私が命を削りながら描いたイラストの複製を売り払って金儲けしているってこと? ゆ、許せない……!

 いやいや、落ち着いて私。取引されているのが私の描いたカードとは限らな――

 

「先生のカードは高値で取引されるらしいですよ」

 

 チクショウッ!!

 

 ……ん? 逆に、私の持ってるカードって結構な交渉材料になったりする?

 

「アリスちゃんはほしいカードとかないの? 私がデザインしたカードならサンプル貰ってるしあげるよ? あ、家にあるから渡すのは今度会った時になるけど」

 

 遠回しに、また今度会えないー? ってお誘い。

 

「い、いえ! そんな申し訳ないです!」

「すごい食い気味に否定してくるじゃーん」

 

 ちょっとショック。

 

「い、いえ! 大変うれしいお誘いですよ!? でも、先生の貴重な時間を、わたしが浪費しちゃうのは忍びないと申しますか」

 

 ひどく狼狽した様子で身振り手振り、矢継ぎ早に弁明を繰り広げるアリスちゃん。かわいいかよ。

 

「じゃあ今度ダンスするとき教えてよ。鑑賞のついでって形なら気兼ねなくできるでしょ?」

「そ、それは……」

「すごいダンス、期待してるよ」

「っ! はい! 先生の期待に応えられるよう、一生懸命練習してきます!」

「で、なんのカードがほしいのー?」

「えーとですね……」

 

 ひゅー。アリスちゃんの連絡先ゲットだぜ。

 凄いですね夢咲イズミのネームバリュー。

 こんな強力な手札が私の手の内に眠っていたなんて、露知らずでした。

 

 と、その時でした。

 カフェのドアが勢いよく開け放たれて、スーツを着こなした黒服さんが入ってきました。

 私のよく知る人物でした。

 

「イズミさん! 見つけましたよ!」

「げっ、大橋さん……」

 

 大橋さん。

 TCG【モンスターズクレスト】の製造元であるペガサス・コーポレーションの開発部の偉い人。

 私に無茶なスケジュールを押し付けてくるザ・トラウマとも言えます。

 

「待った」

 

 大橋さんが何か言いだす前に、私から主導権を奪いにかかります。

 

「見ての通りデート中ですので、込み入った話はまた次の機会に」

「デッ!?」

 

 ぼふんと音を立てる勢いでアリスちゃんが耳まで真っ赤に染まりました。ちくしょう、いちいち反応がかわいいなぁおい。

 

「そこをなんとか……!」

 

 むー。大橋さんが目立つ格好しているせいで私たちまで衆目に晒されてしまっています。

 

(いや、顔が良い大橋さんとアリスちゃんに囲まれてるふつー顔の私に「そこ代われ」って思念ぶつけられてるのでは!?)

 

 あるいは邪魔だからどっか行けって思われてるとか……。

 

「大橋さん、私はお邪魔みたいなのでこれで……」

「尋ね人はイズミさんなのですが!?」

 

 そういえばそうでした。

 

「待ってください!」

 

 忘我の彼方から帰ってきたアリスちゃんが私たちの間に割って入ります。

 

「あなたもモンクレ関係者なら、要求はバトルを通して行うのが筋だと思います!」

 

 無いよ、そんな筋。

 

「ふむ、一理ありますね」

 

 正気か?

 

「さあ、デッキを構えてください、イズミさん!」

 

 えぇ……。

 

  ◇  ◇  ◇

 

 どうして、この世界の人はこう、何もかもカードバトルで解決したがるのでしょう。

 

「さあ、イズミさんのターンです」

「私のターン。【ルーントレーサー:(ソウェイル)】召喚。ターン終了です」

「魔法の深度を軽減する効果モンスターですか」

 

 深度ってのは、まあコスト制限みたいなもの。

 メタ的に言うと序盤から強力なカードの応酬になるのを防ぐ措置なんだと思う。

 

「イズミさんのデッキは速攻と見受けます。が、その弱点を狙わせていただきます! 【無頼漢ザ・ブライ】召喚! イズミさんの手札を1枚、ランダムに捨てさせていただきます!」

「どうぞ」

 

 TCG【モンスターズクレスト】の現在の環境トップは手札破壊(ハンデス)デッキ。相手のリソースを枯らして攻め手を失わせ、ボードアドバンテージを稼いでいく戦略。

 対する速攻は、相手の盤面が万全になる前に勝利を目指すデッキ。リソースの消費が激しく、手札破壊(ハンデス)環境では戦いづらいとされています。

 

 純粋な速攻デッキだったらね。

 

「なっ、水属性……三色混合デッキ!?」

 

 墓地送りにした私の手札を見て驚愕する大橋さん。

 一般に、火属性は攻め、木属性は深度を加速させることに長け、速攻はこの2色で組まれることが多いです。

 他方、水属性はリソースの管理に長けた属性。

 それを組み込むことは、本来の持ち味である速度を殺すことを意味します。

 

「私のターン、ドロー。もう一枚【ルーントレーサー:(ソウェイル)】を召喚し、魔法【月の雫(ムーン・ドリップ)】を深度Iで発動。山札からカードを2枚ドローします」

「そうか……! いわば、従来の速攻に手札増強カードを組み込んだ環境適応型デッキ!」

 

 速度の面では純粋な速攻に劣るものの、継戦能力と安定感の面で優位性を持つ進化系。

 

「ふふん、先生は扱うのが難しいとされる三色デッキをなんなく扱えるのです」

 

 我がことのようにドヤ顔するアリスちゃん

 あぁー、かわいいなぁおい。

 

  ◇  ◇  ◇

 

 私の息切れを待って必死に耐え続ける大橋さんと、それを上回る速度で手札を増強し続ける私の戦いが進んでいきます。

 

「私のターン、ドロー。深度Vで【ルーンファイター:(ライド)】を召喚。深度を加速し、魔法【カチドキタイム(エイ)(エイ)(オー)】を発動」

 

 魔法【カチドキタイム(エイ)(エイ)(オー)】は、自分の場のモンスター1体を破壊し、代わりに手札から最大深度+1のモンスターを特殊召喚できるカード。

 これで最強カードを召喚して――、

 

「させません! 反撃札【ヨモツヘグイ】! 相手モンスターが場から墓地に送られた時、相手の手札を確認し、1枚捨てさせていただきます」

「む」

 

 反撃札は、発動に条件がある代わりに相手のターンでも発動できるカード。

 

「やはりありましたか、【ルーンマスター: (ウィルド)】」

 

 私の切り札で、出せばどちらかの勝利が決定するルール改変札。当然、大橋さんもその脅威は知っているからノータイムで選択されてしまいます。

 仕方が無いので追加ドローできる別モンスターを代わりに召喚。

 

「ターン終了です」

 

 大橋さんが一息ついて、すぐに険しい表情をしました。

 いったんはしのいだものの、盤面はいまだ私有利であることに変わりはないからです。

 

「まだです……! あのカードさえ来てくれれば……!」

 

 大橋さんが目を瞑り、山札の一番上を勢いよく引きました。

 

「くっ! このカードではダメだ……!」

 

 よく、この場面を見る気がします。

 追い詰められた相手が、トップ解決を祈って、失敗する場面。アリスちゃんしかり。

 まあ、山札から目当ての1枚を引き当てるのは確率的に低いので、祈りが届かない場面をよく見るのは当然と言えば当然なのですが、

 

「カードを伏せ、ターン終了」

「私のターン、ドロー」

 

 翻って、私の場合は、

 

「【ルーンマスター: (ウィルド)】を召喚」

「なっ! 引き直したというのですか!? このワンドローで、切り札を!?」

 

 狙ってもいないのに、欲しいカードが自然と手札に集まってくる気がします。

 

「【ルーンマスター: (ウィルド)】でアタック」

「くっ、まだです! 反撃札【沈黙の砂霧】! 相手の攻撃宣言をトリガーに、このターンのバトルステップを強制終了します!」

「無駄です。このモンスターの効果はあなたもよくご存じでしょう?」

 

 だってこの子は、彼の依頼で私が描き起こしたモンスターなんですから。

 

追加(エクストラ)ターン、ドロー」

 

 この子の特性は即時決戦。

 召喚された次のターンまでに勝利できなければ強制敗北。

 ただし、次の手番を自分に改変できるため、そのデメリットを補ってなお余りある突破力を有しています。

 

「【ルーンマスター: (ウィルド)】でアタック」

「くっ」

 

 大橋さんの場に伏せ札は残されていません。

 反撃のリスクはもうありません。

 

「【ルーントレーサー:(ソウェイル)】でアタック」

「ぐぬぅぅぅぅっ」

「【ルーンヒーラー:(ラグズ)】でとどめ」

「ぐわぁぁあぁぁぁぁっ!」

 

 大橋さんが悲鳴を上げてその場に崩れ落ちました。

 え、肉体的なダメージでも負ってるんですか?

 こわっ。

 

「さすがです、イズミ先生!」

 

 アリスちゃんが私以上に喜んでくれる。

 あー、笑顔が心にしみるぅ。

 

  ◇  ◇  ◇

 

「くっ、不覚……! 絶対に負けられない戦いに負けてしまうとは……!」

「あの、大橋さん?」

「敗者は去るのみ……! 失礼いたします」

「大橋さん!」

 

 なんでそんなに聞き分けがいいの!?

 たかがカードゲームで勝った負けたしただけでしょ!?

 

「私もムキになっていたところがあるので、お話はお伺いします」

 

 すっと席を立ち、代わりにアリスちゃんサイドに座る。

 これは大橋さんを席に着かせるためであり、決して私がアリスちゃんの横で空気を吸いたいとかそういう邪な欲望からの行動ではないです。

 

「お、おお……ありがとうございます……!」

 

 まあ、話を聞くだけで、仕事の依頼だったら断るのは変わらないと思うけど。

 

「先日の配信、拝見させていただきました」

 

 直近で行った配信は一つだけ。

 

「モンスターズクレストにはモンスターしかいない。もっとかわいい子が必要。その言葉、大変感銘を受けました」

 

 ん?

 

「つきましてはイズミさん。先日の配信でお描きになっていらっしゃった和装束ウォーリアシリーズを新弾に採用させていただけないでしょうか?」

 

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