ホビアニTCG世界でカードデザイナーやってるTS配信者   作:あずきの豆腐

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4話 かわいい子には地獄を見せろ

 好きなことを仕事にする是非は、きのこたけのこ戦争よりも歴史が長い。

 私は肯定側だけど、私が私のために作ったものをコンテンツとして消費されるのは、嫌かな……。

 

「和装束ウォーリアシリーズってなんですか?」

 

 隣でアリスちゃんが聞くので、アーカイブを開いて適当にシーケンスバーをスキップ。線画と色塗りまで終わったところで一時停止します。

 

「わーっ、かわいい……! えっ、この子たちがモンクレで使えるようになるんですか?」

 

 ぐえーっ、アリスちゃんの目がキラキラ輝いてる……っ!

 応えたい、彼女の期待に……!

 

「やりましょう、大橋さん!」

「ありがとうございます!」

 

  ◇  ◇  ◇

 

 帰宅。

 配信サイトにつなぎ、枠を取ってストリーミングソフトを起動し、配信を開始します。

 

「こんばんはー」

 

・こんズミー

・連日の配信ウレシイウレシイ……

・和装束ウォーリアシリーズすき

・またイズミネキのお手ての実写をお願いします

 

 うちのリスナーはちやほやしてくれるから好き。

 モデレーターさんが八面六臂の活躍してくれるおかげで荒らしにも遭わないし、私の理想郷。まあ、他の配信者ではなく私のところに来てもらえるように、みんなの一番であれるように努力が必要な場所でもあるけれど、その努力は結構楽しいから好き。

 

「今日は、大事なお話があります」

 

・はい

・口を閉じて静かに聞きます

・目を閉じて静かに聞きます

・耳を塞いで静かに聞きます

 

 そこまでしろとは言ってないです。というか最後の人はもはや聞いてないでしょ。

 

「昨日のお絵描き配信で描いた和装束ウォーリアシリーズなんですが、モンクレにて正式採用が決定しました。いえーい」

 

・ええぇぇぇっ!?

・大橋さん連絡取れたんですか!

・うわぁあぁぁメッチャ嬉しい

・即断即決の電撃決定

・大橋さん仕事が早いなぁ

・gj

・大橋さんgjと言わざるを得ない

 

 そう。みんなも驚いているけれど、採用が正式決定されたのです。正式ってのがミソ。

 

(こういう意思決定ってもっと時間かかるものだと思うんだけど……)

 

 いままで知らなかったんだけど、私こと夢咲イズミはモンスターズクレスト開発部においてかなりの重要人物らしい。要は最重要案件的な扱いなんだとか。真面目に仕事してきてよかったねー。

 

「普段はね、大橋さんから新弾のテーマとか、モンスターの背景を聞いて、そこからデザインを描き起こしていくんだけど、今回は逆になります」

 

・うん?

・つまりどういうことだってばよ

 

 設定ありきでキャラを作るのがいつもの。

 キャラありきで設定が生まれるのが今回。

 

「たとえば【ケイオススライム】だと、自身は水属性で、不定形の生命体で、光と闇のカードで手札増強できる、みたいな設定が先にあります」

 

 いわゆる仕様書ってやつ。

 さらさら、と【ケイオススライム】の落書きをキャンバスに描きます。

 

・出た、無詠唱作画

・しれっとうめぇ

・はえぇぇぇ

・無から生み出されたスライム

・下描き無しの一発描きでここまで整った絵になるのバグだろ

 

 君たち話聞いてた?

 イラストの感想しかないじゃないか。

 

・イラストに対してモンスター効果が決まるってことか

 

 よかった、話聞いてくれてる人もいた。

 

「モンスター効果もだけど、たとえばルーンモンスターたちにはルーンモンスターたちの背景ストーリーがあるんだよね。詳しくはペガサス・コーポレーションが出してる公式カードカタログを買って確認してね」

 

・販促できて偉いぞ

・流れるような商品宣伝。俺でなきゃ見逃しちゃうね

 

 見逃される商品宣伝に価値は無いんだよなぁ。

 

・イズミネキが描いたイラストに背景ストーリーが追加されるってこと?

 

 そこなんだよね、大事なとこは。

 

「大橋さんにはストーリーを書ける人に頼んでもいいとは言われてるけど、独力で完成させたい気持ちもあるんだよね」

 

 人からの依頼で描き起こすイラストには抱かない感情だけど、自分で作り出したイラストには不純物を混ぜたくないと思う私がいるのです。

 人に背景ストーリーを委ねた途端に、純度100パーセントの私の子どもではなくなってしまう気がするのです。

 

「とはいえ私に文才は無いのでね、世界観や相関関係あたりまでは私が決めて、ストーリーテリングの部分は専門家にゆだねる、ってのが落としどころかなーなんて考えてます」

 

・イラストに人生を捧げちゃったもんね

・その武器ひとつで天下取ってるんだよなぁ

・ペガサス・コーポレーションの株主総会で名前が挙がる女

・ストーリー製作手伝いたいです!

 

「ストーリーテラーは大橋さんが決めると思うよー。実績がある人なら大橋さんの方から声がかかるかもね」

 

 遠回しに、私に裁量権は無いよと伝えました。

 するとコメントのあちこちから阿鼻叫喚の悲鳴が。

 君たちそんなに人のイラストに背景ストーリー描くのが好きかい?

 

「いろいろとねー、考えてることはあるんだよね。和装束ウォーリアシリーズ」

 

 この子たちを描く上で取り入れた要素が3つあります。

 すなわち、「和」×「テクノロジー」×「かわいい」。

 

「ということで、この子たちはオーバーテクノロジーで戦う少女たちです。敵は和らしく『鬼』。この『鬼』の因子はコンピュータウイルスのように伝播してまわります」

 

 スーパーデフォルメした和装束ウォーリアちゃんたちが、鬼と戦うイラストをキャンバスに描く。

 

「『鬼』といっても見た目は人と同じです。頭部には、電磁波の角が刺さっているのですが、人間の目には見えません」

 

 電磁波の内、人間が視認できるのは可視光と呼ばれるごく狭い範囲の波長の光のみ。

 紫外線や赤外線、あるいはそれよりも外側の波長の電磁波を見えるように人間の目はできていません。

 

「この電磁波の角が刺さった人間は殺人衝動に駆られます」

 

・どんどん設定が重たくなっていく

・かわいい子には地獄を見せろ派閥の人だ!

・かわいい警察です! 大人しく投降しなさい!

 

 地獄だからこそかわいいが映えるし、かわいいからこそ地獄をマイルドに表現できるんじゃないか。何を言ってるんでしょうね。

 

「この電磁波の角を見るための特別な目、これがオーバーテクノロジーの一つなんです。生体電位で起動するナノマシンです。これ自体は男性も扱えるんですが、もう一つのオーバーテクノロジーは少女にしか取り扱えません」

 

 それこそが、和装束ウォーリアちゃんたちが持っているユニークな武器たち。

 

「『鬼』を狩る武器、斂牙(れんげ)です」

 

・あいたたた

・イズミネキ、遅咲きの中二病発症

・ペガサスコーポレーションから依頼があった日まで若返っちゃった

・俺は好き

 

 言いたい放題言いやがるじゃーん。

 ルーンモンスターの背景ストーリーとか見てみなさいよ、私の語った世界観なんて目じゃないレベルの中二展開が続いているから。

 

斂牙(れんげ)はこの時代では起動するだけのエネルギーが足りないのですが、一部の人間だけはそれを可能にしうるパーツを持っています」

 

 それが何か、言うまでもないね?

 

「心です」

 

 とりわけ、精神的に不安定な年頃の女の子。

 彼女たちの感情の揺れ動き、それに伴って発生するエネルギーだけが『鬼』を狩る武器を想像しうる。

 

「心の形は千差万別、故に心象世界を切り取った武器の形もみんな違う、という感じの世界観にしようと思っていて」

 

 昨日描いた和装束ウォーリアシリーズ3人のデザインをより洗練しつつ、敵となる鬼や、イメージボードを進めていこうと思います。

 

・相変わらず速さとうまさが突出してる……

・うめぇぇぇ

・※倍速ではありません

・若者の人間離れ

 

「ふと思ったんですが」

 

 少年漫画だとあるあるの展開だと思うけれど、

 

「『鬼』化した和装束ウォーリアとかも居そうじゃないですか?」

 

 黒を基調に、攻撃的な赤を差した和装束ウォーリアちゃんをキャンバスに描く。瞳は白目の部分が黒く染まり、黒目の部分が真っ赤に充血している感じ。

 背景に月光を描き、手前に影を伸ばせばデザイン案1の完成です。

 

・いそう!

・人の心とかないんですか!?

・闇堕ち……ハァハァ

・言いながらもう描いてる、うめぇぇ

・暴走モードみたいでカッコイイ……!

・容赦なく地獄に突き落としていくの怖くない?

 

「最終的に『鬼』の力を乗りこなし、さらに強化形態へと昇華させるんですよね、わかります」

 

 デザイン案1を踏襲しつつ、瞳を理性的にし、肉体の内側から外側へ向けてエネルギーが溢れるようにフォースを描く。テクノロジー味のある装束もディティールを凝らし、揺れモノを使って存在感をぐっと出してみます。

 

・!

・天才か!?

・わかる

・あるある

・王道だけど熱いよね……!

 

「まあ、これはまだ1案なんですが」

 

 思い付きで描けるイラストなんて、過去の記憶の表層をさらったものに過ぎません。

 20案とか出して、ようやく納得いくデザインの原型が見えてくるくらいでしょうか。

 

・すげぇ……どんどんデザインが洗練されてく……

・こう見ると、イズミネキって感覚だけじゃなくって理屈で良さを突き詰めてるってのがわかるな

・一筆一筆に意味があるのプロだよね

・しかも意図を聞くと答えてくれる親切さ

・この講義が無料で視聴できるってマジですか?

 

 あー、うちのリスナーは全肯定だから配信してて楽しい。

 もっとちやほやしてくれー。

 

・イズミ先生、応援してます!

 

「おっ」

 

 コメントの一つが目に入って、思わず、手が止まりました。

 より正確に言うなら、目に留まったのはコメントというより、その投稿者のアイコン。

 

・どうしたの?

・なにかあった?

 

「別にぃ」

 

 一人、顔がにやけそうになるのを我慢しながら、再び筆を走らせ始めました。

 

(アリスちゃん、配信見に来てくれたんだ)

 

 いままで以上にやる気が込み上げてきました。

 よーし、いいデザインに仕上げるぞー!

 

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