ホビアニTCG世界でカードデザイナーやってるTS配信者   作:あずきの豆腐

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6話 カードで悪事を企む組織があるらしい

「【ケイオススライム】でとどめ!」

「ぐわぁぁぁっ!」

 

 結局、アリスちゃんと人相の悪い青年は人の話も聞かずにカードバトルで決着をつけることにしました。

 結果は私からプレゼントを受け取ったアリスちゃんの圧勝。

 対戦相手さんは手札事故を起こしてたみたい。

 

 というか君たちカードで戦ってるだけだよね?

 どうやったら、実際に体を切られたり火球に身を焼かれたりみたいなリアクションになるの?

 表現力がオーバー過ぎない?

 

「くそっ、どうしてだ……! 俺は超絶的な力を手にしたはず、どうして勝てない……!」

「いくらカードが強くても、心の通わないカードでは意味がないわ」

「……っ! そうだ、そうだよな。俺は、なんて勘違いをしていたんだ」

 

 膝から崩れ落ちた青年のもとに歩み寄ったアリスちゃんが、手を差し伸べます。

 その手を取る青年は、まるでつきものが落ちたように爽やかな顔をしていました。

 この短い期間にどんな心境の変化があったの?

 

 というかカードと心がうんぬんの精神論語ってくれてましたけど、アリスちゃん、私からカード受け取ったばっかじゃん?

 心を通わせる時間なんてあったの?

 

(主人公みたいな子だなぁ)

 

  ◇  ◇  ◇

 

 その光景を、隣接するビルの屋上から観測している黒ずくめの集団がいた。

 

「あれが精霊たちの生みの親、夢咲イズミか」

 

 目元に刀傷のある、フードを目深に被った大男が感心するように声を漏らす。

 

「たっはー。すっげー精霊の数。デッキのカード全部に宿ってるんじゃね? なぁ? そうおもうよな? なぁ?」

 

 小柄の、軽薄そうな少年が、隣の女性にウザ絡みする。

 

「うっさい」

 

 女性は少年にまともに取り合おうとはしない。

 代わりに、大男と今後の方針について相談する。

 

「それより、どうするの? あれが敵に回ったら厄介なんじゃない?」

「うむ。どうやら、彼女が生み出したカードたちは、彼女に弓引くことをひどく忌避しているように見える」

「青年くんも手札事故酷かったわね」

「うむ。もう少し善戦してくれることを期待してあのカードを託したのだが、試金石にもならなかったな」

 

 いひ、と不気味に笑った小柄な少年が二人の会話に割って入る。

 

「まあまあ。そのときはそのときでいいんじゃね? 現状オレたちの邪魔をしようって動きは無いんだろ? そう思わね? 思うよな! 思うって言え!」

「うっさい」

「だが、一理ある」

「『だが』ってひどくね? うるさいって悪口を否定はしてくれないのかよ? お前らそんなにオレのことが嫌いなの? どうにか言えよ、なあおい」

「うっさい」

「うむ」

「ちぇーっ、つまんねえの」

 

 少年が口をとがらせて機嫌を悪くする。

 大男と女性は少年のことは気にも留めず、踵を返す。

 

「夢咲イズミ、いまはその精霊たちを託しておこう。我ら【ナイトメアエデン】が世界を牛耳るその時まで、一時の平和を楽しむがいい。フゥーハハハ!」

「うっさ」

 

  ◇  ◇  ◇

 

 アリスちゃんのダンスを鑑賞し終えた後、またアリスちゃんとカフェでも行けないかなーって邪な心で片付けを手伝っていると、人相の悪かった青年がバツの悪そうな顔で「すまなかった」と片付けを手伝ってくれた。

 

 帰れよ。私とアリスちゃんの時間を邪魔するなよ。

 とは言えないので適当に会話のキャッチボールをしていると、アリスちゃんが「畏れ多いですよ! このお方はあの夢咲イズミ先生なのです!」と割って入る。

 

 アリスちゃん。

 尊敬してくれるのはありがたいけど、普通のカードゲーマーはイラストレーターの名前まで把握していな――

 

「えっ!? 夢咲イズミ先生なんですか!? あのモンクレのイラストを描いていらっしゃる!?」

 

 してるんだ。

 すごいなこの世界の人たち。

 私なんて前世のカードイラストレーター数えるくらいしか知らないぞ*1

 

「そだよー」

「すっげぇ! 俺、先生のファンです! そうだ……! これ、俺の切り札っす! サイン貰ってもいいっすか!?」

「サイン書いたら公式大会で使えないかもしれないけど、いいの?」

「構わないっす!」

 

 急に舎弟みたいなしゃべり方になってしまった。

 

 そういえば聞いたことがあります。ファンを偽ってサインをねだり、高額で転売する不届き者がいるって。

 

 さてはそういうパターンですね?

 させませんよ。

 私は転売ヤーに厳しいクリエイターなのです。

 絶許なのです。

 

「名前は?」

「タカシっす!」

「タカシくんね。ほい、『タカシくんへ』と」

 

 宛名を書いておけば転売される恐れは無いでしょう。

 

「うおぉぉぉっ! マジで感無量っす! 一生宝物にするっす!」

 

 あれ……?

 喜ぶんだ……あれ? ひょっとして転売とか考えてなくて、本当に純粋に、私のファン?

 

 ちくしょう。

 そういう、こっちの良心を責め立てるムーブやめろよぉ。

 急にいたたまれなくなるじゃんよぉ。

 

「うん、なんかごめんね……このカードを託すから、許して」

「ええぇぇっ!? これ、つい先日発売された新弾の超レアカードじゃないっすか! 受け取れないっすよこんなレアもの!」

「いいから。あれだよ、あれ。『ラッキーカードだ。このカードがキミのところへ行きたがっている』だよ」

 

 ほら、カードのホロ加工がめちゃくちゃキラキラ輝いています。

 

「そ、そこまでおっしゃるなら、ありがたく受け取っておきます」

 

 青年がカードを受け取ると、ホロが急に輝きを収めました。君、カードを輝かせる才能がないね。

 

 なんですか、カードを輝かせる才能って。

 

「そういえばイズミ先生、知ってますか?」

「なにが?」

「なんか最近【ナイトメアエデン】ってやつらが、悪さをして回ってるらしいっすよ」

「いたたた」

 

 ナイトメアエデン……。

 うぅ、共感性羞恥で胸が痛いです。

 中学生が立ち上げた不良グループですか?

 

「治安が悪い世の中になったねぇ」

「っす。なんでも、レアカードを賭けた辻カードバトルを挑まれるらしいっす」

「待っていろいろ待って」

 

 辻カードバトルってなんだよぉ。

 変な単語作るなーっ。

 

「えっ、なに? その【ナイトメアエデン】ってのがしてる悪事ってカードの巻き上げってこと?」

「だけじゃないっす。大企業にカードで勝負を挑んで株式を強奪したり――」

「待って待って。なんで株をかけてカードバトルしてるの?」

「えっ」

「えっ」

 

 だから! どうして私の感性がおかしいみたいなリアクションになるんだよ!

 

「いや、だって、カードバトルっすよ?」

「うん」

「挑まれたら受けるっすよね?」

「うん?」

「あれ? もう認識の齟齬が生まれてるっすか?」

「断ってもよくない?」

「その発想は無かったっすね……」

 

 なんでだよぉ。

 人質でも取られてるの?

 カードバトルを受けなきゃ大事な人の命が危ないの?

 

 百歩譲ってその前提を是としましょう。

 人質を取った上でカードバトル挑んでくるやつってなんだよ。

 発想が狂人過ぎてこわいです。

 

「とにかく、そういう恐ろしい集団がいるらしいんで、イズミ先生も気を付けてください」

「うん? あ、そうか」

 

 私はレアカードをたくさん持ってるから、レアカードハンターたちからは金属スライムみたいに見えるわけですね。

 

*1
※その数少ない有名イラストレーターの自覚がない人




※なお、ナイトメアエデン(下っ端)のみなさん

「初めて見たぜ、あの量の精霊を従える傑物。まるで魔王だ」
「相手にしたらヤバいって、細胞が警告してるのがわかるぜ……」
「金を積まれたって戦うのはお断りだ」
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