ホビアニTCG世界でカードデザイナーやってるTS配信者   作:あずきの豆腐

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8話 イマジナリーフレンドが見えているらしい

舞園(まいぞの)アリスだな?」

 

 それはわたしが、夢咲イズミ先生とお別れした直後のことでした。路地から現れた黒いフードの男性に名前を呼ばれて驚きました。

 

「貴殿の持つレアカードを賭けて、いざ勝負!」

「っ! 望むところよ!」

 

 脊髄で反射してしまってから、しまったと思いました。

 

「あなた、さては噂の【ナイトメアエデン】ね!」

「ほう。よく勉強しているな」

 

 アンティルールで辻カードバトルを挑んでくる怪しい集団。

 

(あああぁぁぁ! 先生に『カードを身代わりにして逃げなさい』って言われたんでした!)

 

 せっかくのご厚意を、無碍にはできません。

 

「やめた。このカードをあげるから勝負は降り――」

『ダメぽよ!』

「っ!?」

 

 また別の声がして、周囲を見回しました。

 逃げられないように、囲まれている?

 

『やった、声が届いたぽよね? ここぽよ!』

「へ?」

 

 しりもちをついたわたしは、随分間抜けな声をあげたと思います。でも、それくらいびっくりしたんです。だって。

 

「か、カードがしゃべったぁ!?」

 

 いままさにわたしが差し出そうとしたカードから、実体化したモンスターが飛び出してきたのです。

 

『【ポップスライム】ぽよ! アリス、力を貸してほしいぽよ』

「ち、力?」

『そうぽよ! お母さんは気づいてないけど、あいつらはボクたち精霊の力を悪いコトに使おうとしているぽよ! 逃げずに、一緒に戦ってほしいぽよ!』

「――っ! それ、本当なの!?」

『ボクを信じてほしいぽよ!』

 

 このモンスターが本当のことを言っている証拠を挙げようとして、けれどたどり着くのは確証に足る根拠は一つもないということ。

 

「ほう。どうやら、お前にも精霊が見えているらしいな。どうする? そいつをこっちに渡すなら、見逃してやってもいいぞ?」

『いやぽよー! お母さんに会えなくなるのはいやぽよー!』

「っ!」

 

 その時、わたしはハッとしました。

 

(何が本当で、何が嘘かなんて関係ない。この子は、イズミ先生が生み出した子どもたち。だったら――)

 

 それを守るのは、わたしの恩返しだ!

 

「お断りよ!」

『アリスっ! ボクといっしょに戦ってくれるぽよ?」

「ええ!」

 

 デッキの束を確認し、吟味し、その中の一枚と【ポップスライム】を入れ替えてデッキを組み直します。

 

「あなたは、わたしがここで倒します!」

「おもしろい、やってみろ!」

「「バトル!!」」

 

  ◇  ◇  ◇

 

 どうも。夢咲イズミです。

 引き返したら愛しのアリスちゃんが怪しい黒ずくめとカードバトルしていました。これが略奪愛ってやつですか?

 

「ちょっとちょっと!? なんでバトルしてるの!?」

「イズミ先生!? 大変なんです! 先生から預かった【ポップスライム】には実は精霊が宿っていて、この人たちは精霊を悪いコトに使うつもりらしいんです!」

「何を言ってるの!?」

 

 ダメだ、アリスちゃんがおかしくなってしまいました。

 あまりの恐怖に気が動転して幻覚を見ているに違いありません。

 

 対戦相手の黒ずくめさんが、苦い顔して恨み節を唱えます。

 

「くそ――っ、夢咲イズミ……! どうしてまだここにいるんだよ……! 帰ったんじゃなかったのかよ……! 話が違うじゃねえかよ……!」

「私あなたになにか恨まれることしましたか?」

 

 えっ、初対面ですよね?

 どうして私は、こんなにも敵意剥き出しにされているんでしょうか。

 

「ひょっとして、【超克龍(ちょうこくりゅう)ディメンションドラゴン】が当たらなかった人ですか?」

「う、うるさい! あんなカードなくったって勝てるんだからな!?」

「目当てのカードが当たらない苦しさはわかりますが、それを私のせいにして当たるのは……少々理解しかねる筋違いと存じるのですが……」

「違う! そんな理由じゃねえ! 勝手に俺を理解した気になるな!」

 

 あら。違うんですか?

 だったらいよいよ本気で、何故嫌われているのかがわからないんですが……。

 

「チィッ、構うものか! 俺の先行! 深度を加速し、ターン終了!」

「わたしのターン!」

 

 ああ……試合が始まっちゃったよ。

 こうなったら、せめて私にできることをしましょう。

 

「アリスちゃーん! がんばってー!」

「っ、はい! ドローカード! いいカードです! わたしは深度を加速し、手札から深度Iで魔法【神託】を発動! デッキの上からカードを4枚確認し、任意の順番で元に戻します!」

 

 おお! 深度を加速するだけで終了しがちな1ターン目から今後のゲームプランニングができたのは結構有利な展開なんじゃないかな?

 

「ほら……! すぐ……! そういうことするぅ! こっちは絶賛手札事故してるっていうのに……!」

 

 あと、対戦相手の黒ずくめさんが鬼の形相で呪詛を呟いています。こっわ。なんでこんな人のバトルに応じようと思っちゃったのアリスちゃん。アリスちゃんの精神性が私には理解できないよ……。

 

「俺のターン、ドロー! 深度を加速し、ターン終了!」

「また深度を加速しただけでターンエンド宣言……? 不気味な戦術ね、いったい何を企んでいるの?」

 

 アリスちゃん煽るぅ。

 察してあげなよ、手札事故してるんだよ。

 多分、コストの重たいカードしか手札に無いんだよ。

 

「私のターン、ドロー! いま引いた【ポップスライム】を深度IIで召喚!」

 

 それ私が「これを差し出してその隙に逃げてね」って渡したカードじゃん。

 確か効果は、スライムと名前の付くモンスターが場に出るたびに、手札を1枚捨ててから山札からカードを1枚補充できるだったかな。

 今後墓地利用が加速することを期待しての仕入れだったけど、展開を加速できるぶん現環境でも戦えるとは思う。

 

「うん! よろしくね、【ポップスライム】!」

 

 え。うわぁ。

 アリスちゃんが空想上のモンスターと会話してます。

 

(あわわ。脳内にイマジナリーフレンドを作ってしまうほどに追い詰められてしまって――)

 

 このバトルが終わったら病院に連れて行きましょう。

 

  ◇  ◇  ◇

 

 ゲームは黒ずくめさんがなかなか行動できないまま、アリスちゃんだけが理想に近い展開を続けて4ターン目に突入。

 

「俺のターン! ドロー! くく、ようやく俺も行動できるぜ……深度を加速し、魔法【道連れ】を発動! 手札を一枚墓地に捨て、相手の場のモンスターカードを1体破壊する! 選択するのは当然、【ポップスライム】だ!」

「ああっ! 【ポップスライム】――!」

 

 アリスちゃんの悲痛の叫びが響きました。

 いや、もうそれ戦友を失ったレベルの断末魔なのよ。

 ただ低級のモンスターが破壊されただけよ?

 

「おおっと。悲しみに浸るのはまだ早いぜ。俺はこの瞬間、コストとして支払った【エクスキューショナー】の効果発動!」

「えっ!? 手札から墓地へ送られたこのタイミングで【エクスキューショナー】を!? まさか、エラッタ前テキスト!?」

 

 うわっ。クズじゃん。

 

「卑怯者ーっ!」

 

 ヤジを飛ばします。

 

「る、るせぇ! 黙っててくれ……! いや、本当に、お願いします」

 

 草。さっきまでの威勢どこいったし。

 

「こほん。俺はこのターン、【エクスキューショナー】の効果で反撃札をコスト無しで即時使用が可能となる! まず1枚目、【ドレイン・タッチ】! 山札からカードを3枚ドローする! 来い――!」

 

 ドレインタッチ。

 本来なら深度IVの水属性魔法です。

 効果は驚異の3枚ドロー。カードゲームの種類によっては反則レベルの強さですし、実際モンクレにおいてもかなりの強カードです。

 

 さて。

 ここまでに相手が引いたカードの枚数は3枚。

 4ターン目ですが、先攻1ターン目はドローできないから3枚。

 そして最初にプレイヤーは手札5枚から始まるので、逆算するに残りの山札の枚数は32枚。

 

(32枚の内、目当てのカードを4積しているとしたら、この3ドローで引く確率はおよそ33パーセント。【ドレインタッチ】も4積してるなら、たぶん5割くらいの確率でキーカードを引いてくる)

 

 どんなコンボを狙ってるかはわからないけど――お願い、途切れて……っ!

 

「どうしてだよぉぉぉぉ! ありえねえだろ、なんで1枚も反撃札が引けねえんだよ!」

 

 おおっ!?

 本当に途切れた!?

 祈ってみるもんだねぇ。

 

「ターン終了だ!」

「えっと……わたしのターン? ドローです」

 

 アリスちゃん困惑中の模様。

 エラッタ前【エクスキューショナー】を見て1キル警戒していたのに、ふたを開けてみればカードを3枚引いただけ。

 それは肩透かしを食うし、困惑もするというものです。

 

  ◇  ◇  ◇

 

「えっと……【ケイオススライム】でとどめです」

「ぐわぁぁぁぁっ!」

 

 結局、終始アリスちゃんが流れを掴んだままバトルは決着を迎えました。

 

「なんか弱っちかったね」

「で、ですね。あまりにも引きが悪いと言いますか」

 

 黒ずくめさんが「くそっ、こんなはずじゃなかったのに……!」と繰り返しています。

 

「さて。お待ちかねの追い剥ぎタイムと行きましょうか」

「っ!?」

「人にレアカードを賭けさせて勝負を挑んだんでしょ? 当然、負けたら自分も差し出す覚悟があったんだよね?」

「ま、待ってくれ……! 頼む……!」

 

 問答無用!

 

「うわ……ガッチガチのガチデッキじゃん。遊び心が一切ない……このデッキ使って負けたの? はっずかし~」

「うっ、うっ」

「まあせっかくだから貰っておくよ。本望だよね? ね?」

「は、はい……誠に、申し訳ございませんでした」

 

 っと、そうだ。

 

「帰ってお仲間に伝えておいてね。アリスちゃんには手を出すなって」

「は、はいぃぃ。失礼いたしますぅ」

 

 うーん。成敗。

 

  ◇  ◇  ◇

 

「ですから! いま、カードの精霊たちがピンチなんです!」

 

 アリスちゃんがひどく昂奮した様子で熱弁している。

 

「あー、うん。わかったから。とりあえず病院行こう? ね?」

「ですから、私はいたって正常です! ほら【ポップスライム】もこう言ってるじゃないですか!」

「これは、重症だ……」

 

 おのれナイトメアエデン、許すまじ……!

 




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