短編集.   作:修.

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今日のご飯は、美味しくなさそうでした。




「は……、え、か、かあさま……?」

シと、食卓に並ぶ其れ等を視る。一瞬で気付く。母は、怒っているのだと。

母の範囲に並ぶ物は、決して美味しそうとは云えぬ物々。然し、おのが机上に並ぶ其れ等は、美味しそうと云えぬどころか、抑、食ですら無かった。

4人机の、対角線上に2人で座り、普段は食事を摂る。母が戌亥、そして其れ等が並べられているのが辰巳。タダ、塵芥(ゴミ)を置いただけとは異なるのはそれとなく、雰囲気からも理解出来る。

さすがにおのれも其のくらいは解る。

 

母がどんな心境かは理解出来ぬ。然し、おのれの身体は全身を以て、コレを喰うなと命令していた。

又もや然し、おのれには解って仕舞ったのだ。母は、コレを喰わねば機嫌を損ねる、と。

昔から、勘は鵶も頭を抱える位に悪かった。良い言い方を為れば、純粋無垢、誰が云ったことも、総て根っから信用し、其の裏に隠される感情やら希望やら果てには悪意すらも一切考えることは無かった。そんなおのれでもハッキリと解った。

母は、怒っている。

 

何がいけなかったんだろうか。

おのれは昨晩、何を為た。

否、何も思い出せぬ。

何も、感じることのないような素振りで、母の対角線上に着いた。流れるように椅子を引き、僅かに空いた其の隙間に身を滑り込ませる。

昨晩はたしか、母は家で寝ていて、おのれは其れを起こさぬように幽霊のように帰還したハズであった。

そう、思い出した。昨晩は一切母と話しては居ない。

では何故。滑り込ませた身を存分の使い、椅子を机に寄せる。

そして、改めて机上に並べられた其れ等を眺めた。

あ、玉子のカラだ。タンパク質。其れは喰える。

納豆の、カラ。…これは発砲スチロール、だったろうか。其れも……喰べられそう。

チラと母を見遣る。疲れたような仮面を着け、怠慢そうに納豆を食べている。

何も普段と、何一つとして変わらない。然し何故だ、何故か、膨大な圧力を感じる。全身が警告する。辞めろ、否、喰え。死にたいのか?喰え、喰うな。辞めろ。

相反する感情(ゴミ)が、おのれの行動を止める。

アァ、五月蝿い。五月蝿い、五月蝿い五月蝿い

五月蝿い。

脳が危険信号を出す。徐に、適当に掴んだ其れを、適当に口に入れる。判断力なぞ、最終的にはヒトから消え失せる物であると、この瞬間ハッキリと理解為乍。

「ウ、……ァ」

到底喰えたモノでは無い。そのような事明瞭であった。喰わずとも、解る。何を喰ったのか定かでは無い。然し、机上から消えた物から推測するに、おのれが喰べたのは……。

チクチクと傷む口内を勞る事無く、小さく上手く上手く折り畳む。一度喰って仕舞ったのだ、モウ、飲み込みしか無い。

ツルツルと為た食感の其れは、噛み切れることは無い。本来食と為て提供されるハズないものなのだから、当然と云えば、当然だ。

刺さる。口のさまざまに。

其れはまるで、其れ自身もおのれに警告しているようだった。すまない、おのれはコレを喰わねばならない。

或程度小さく折り込めたなら、おのれは意を決し、其れを呑み込んだ。

口内がヒリヒリと傷む。助けてくれと節々が発す。

食道が傷付くのを感じる。

何処かで詰まらないかと少々心配の念を過ぎらすが、どうも其の心配の必要はなかったらしい。傷みを伴う其れ等は、いつの間にか食道を抜けたのか新たな傷みを齎すことは無くなった。

思ワズ、涙目に成り乍も、母親のほうをチラリと視線だけ動かして、見た。

してやったり、そんな気持ちだった。

然し、母と云うモノは、おのれに目も呉れることなく、只々納豆を混ぜ続けて居た。

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