友人
「亦、死ぬ心算なのか?君は。」
ハリの無い声がおのれの鼓膜を揺らす。おのれは首を縦に振る。
おのれが死んだ処で、ダレも困ら無いのは事実ダ。とはいえ、今迄3度もシッパイ為て居る。彼が心配為るのも無理は無い。
然し今度コソは大丈夫ダ。
以前迄は、自殺に計画など、為る必要が無い。有る訳が無いと一切計画を為無かった。故に、シッパイ為たのだ。
おのれは学ばぬそこいらの人間とは違う。おのれは学べる。
孔子も云って居ただろう?
『過ちて改めざる、これを過ちといふ』、当然手前もソウ思う。
「任して呉れ給え、私はもう、失敗等は為無いとも。次コソは成功してみせよう。」
ソウおのれが宣言すると、友人は困った様に笑って居た。おのれには其の笑いの意図が一切合切理解出来無かった。
けれども、笑って居る相手には笑いで返すのが道理、おのれは清清しい迄の笑みを見せた。其れに応じるかの様に、友人も更に笑みの困惑色を強めたのは云う迄も無い。
「然し、お前。何と云うか、ホラ、お前が死んでは、……ハア、死んでは、哀しむ者も、居るのでは無いか?」
「居るのか?私に、其の様な物が。……第一だよ、居たとて、私が生きる理由には成らんのだよ、……御前も其うは思わないか?別段、私は生きるのが苦しいわけじゃあないが、誰かに指図されて生きるのは、癪だ。……コレも、別に私は命令されて生きているわけでも無いがな。」
おのれがソウ云い切ると、友人はそうかとだけ、短く発した。
重たい空気が伸し掛る。友人を見れば、何トモ云えない表情で、おのれを見て居た。
「まア……お前さんが其う、思うのなら……其うでも、……ハア。構無いけれども、……ハア。」
「御前は、イッタイ何が云いたいのだ?躊躇って無いで、ハッキリ申して呉れ給えよ。私は生憎、学が無い。御前の云いたい事を察することは出来ないよ。」
溜息混じりに何か云いたげな友人へ、痺れを切らしたおのれは其うモジモジ為る友人とは正反対にハッキリ云ってのけた。勝ち誇った様な笑みを浮かべるおのれに相反して、友人はモット小さく成って行く様な印象を受ける。其れに比例して、私はモット威張る。
木々が揺れる。まるで、我々を嘲笑為るかの様に。
風に吹かれ、ザワザワとオトを立てる。私はジッと彼を見つめていたが、軈てフと視線を逸らした。
盛大な沈黙の後、友人は例に漏れず、小さく口を開いた。
「……マア、良いさ。お前さんの覚悟が、解ったからさ……。ジャア、左様なら。次は、成功為ると、良いね。……」
久々の開口にシテは刺々しい発言を、友人は其う、何の躊躇いも無く呟くと、呆然と為る私を置いて、友人は手を振り、其の場を去った。
――無論、以降、友人と二度と会うことは、無かった。